建築基準法に基づく4種類の定期報告制度を解説!建築物を適切に維持管理するために…

【この記事を執筆したのは…】
独学一級建築士 nandskさん
今回は、建築基準法第12条第1項などに規定されている特定建築物等の定期報告制度についてお話ししたいと思います。法文は意外と難解で、建築士資格を持っている人でも普段から業務で携わっている人でないとあまり詳しくない分野かと思います。
有資格者はもちろん、ビルの管理者などもぜひ制度を理解して、法令に則った運用をしていきましょう。
定期報告制度とは
定期報告制度とは、不特定多数の人が利用する建築物において、老朽化や設備不良などにより事故や災害が発生するのを未然に防ぐため、法律に基づいて建物そのものや設備を定期的に調査・検査して、その結果の報告を求める制度です。
この定期報告制度には以下の4つの種類があります。
- 特定建築物の定期調査報告
- 防火設備の定期検査報告
- 建築設備の定期検査報告
- 昇降機等の定期検査報告
特定建築物の定期調査報告
「特定建築物の定期調査報告」は建築基準法第12条第1項で定められているもので、特定建築物(不特定多数の者が利用する建築物)について、敷地、一般構造、構造強度、防火・避難関係について、検査資格者が毎年または3年ごとに検査し、特定行政庁に報告します。
特定建築物は、映画館やホテル、病院などの大規模な施設はもちろん、事務所や共同住宅、飲食店なども含まれており、対象かどうかはその建築物の用途と規模(階数)により法律に基づいて決定されます。ただし、地域の実情等に合わせて、各特定行政庁が対象となる建築物を追加している場合もあります。
防火設備・建築設備の定期検査報告
「防火設備の定期検査報告」と「建築設備の定期検査報告」は建築基準法第12条第3項で定められており、特定建築物にある防火設備(防火シャッターなど)、建築設備(換気設備、排煙設備、非常用照明、給排水施設)について、検査資格者が毎年検査し、特定行政庁に報告するものです。
防火設備については、2013年に福岡市で死者10名を出した診療所の大規模火災などを受けて、2016年に新たに検査対象として追加されました。この火災では、煙感知器に連動して動く防火戸に改修すべき箇所が旧式の温度ヒューズ式感知器のままだったり、本来は防火戸を設置すべき竪穴(吹き抜け)に防火戸が未設置であったりしたことなどが被害を拡大させた一因とされています。
法改正からまだ10年程度であり認知度は低いですが、重要な検査項目です。
昇降機等の定期検査報告
「昇降機等の定期検査報告」は建築基準法第12条第3項で定められているもので、すべての建築物のエレベーター、エスカレーター、小荷物専用昇降機、遊戯施設等について、昇降機等は毎年、遊戯施設等は半年ごとに検査資格者が検査し、特定行政庁に報告します。
建築設備の定期検査などは、不特定多数の者が利用する“特定建築物のみ”を対象としていたのに対し、昇降機等は“すべての建築物”が対象(ホームエレベーターは対象外)になります。
また、ウォータースライダーや観覧車、観光用エレベーターなどの遊戯施設も対象となっており、より安全性の確認が重要視されています。
報告対象は民間施設のみ
ここまで、4種類の定期報告制度を説明してきましたが、対象は原則民間施設のみで、国等の建築物(法文上は「国、都道府県及び建築主事を置く市町村が所有し、又は管理する建築物」)については対象外となっています。
「じゃあ公共施設は検査しなくていいの?」と思うかもしれませんが、そうではありません。建築基準法第12条第2項と第4項では、民間施設と同じく公共施設も一定の期間内に検査資格者に点検させなければならないとされています。
あくまでも「報告の義務がない」というだけで、調査・検査については民間施設と同じようにやる必要があります。
検査資格者とは?検査ができる人は建築士だけではない
法律では、定期報告のための調査・検査ができるのは“有資格者”とされており、一級建築士、二級建築士などがこれに当たります。
また、建築士以外に国土交通大臣から資格者証の交付を受けた者も検査資格者になれます。それぞれ、「特定建築物調査員」「防火設備検査員」「建築設備検査員」「昇降機等検査員」と呼ばれ、調査・検査および報告を行うことができます。
エレベーターなどは保守員が検査を行うケースも多く、建築士資格は持っていなくても一定の講習を受けた検査員が担当することも珍しくありません。
【2025年7月制度改正】新技術を用いた調査・検査も可能に
これらの調査・検査について、従来は目視により実施することとされていましたが、2025年7月施行の制度改正により赤外線装置やドローンなどの新技術を活用することも可能となりました。
定期調査・検査は既存の建物を対象としているため、足場がない中での外壁点検、設備スペースのような人が入れない部分の点検などが重要になります。
そうした場所の点検効率を高めるファイバースコープや赤外線、ドローンなど最新の技術による検査も「目視と同等以上の情報が得られる」として、法律でも認められるようになりました。
報告先は特定行政庁…とは限らない
法文上、定期報告の報告先はすべて「特定行政庁」となっています。特定行政庁とは都道府県の知事、または建築主事(建築副主事)を置く市町村長のことで、実質的にはその実務を担う行政単位で考えることが通例です。
例えば大阪市は特定行政庁ですので、大阪市内のビルが定期報告を行う場合、提出先は大阪市になりますが、大阪府泉佐野市は特定行政庁ではないため、定期報告の提出先は大阪府になります。
ただし、東京都や大阪府など対象となる大規模な建築物が多い特定行政庁では、受け付け業務を外部団体に委託しているケースがあります。東京都内の場合は「公益財団法人東京都防災・建築まちづくりセンター」に、大阪府内の場合は「一般財団法人大阪建築防災センター」に受け付け業務を委託しているので、対象地域での定期報告はこれらの団体に提出することになります。
報告書の書き方や提出の仕方などもこれらの団体に相談することになっており、提出後はこれらの団体が一次審査を行い、問題なければ特定行政庁に送られ、最終チェックを受けて報告済証が交付される、という流れになります。
定期検査の結果について
定期検査で指摘があると報告書に記載されます。その後、報告書を提出すると特定行政庁から改善指導書などの文書が来ることが多いです。
よくある内容としては、非常用照明のバッテリー切れや、防火戸(非常ドア)付近に備品などが置いてあって閉まらない(動作不良)、などの指摘でしょうか。この辺は、提出先の特定行政庁によりまちまちですが、指摘事項に対して「改善してください」という連絡が来ることがほとんどです。
建築基準法では、建築物の所有者・管理者・占有者は建築物を「常時適法な状態にすること」が義務付けられており、指摘事項を改善していく必要があります。改善する予定が決まっていれば、報告書に改善時期を記載しておくといいですね。内容によって即時改善はしないこともあり得ますが、その場合でもリスクがあることは認識しておきましょう。
定期検査の報告を行うと『報告済証』が発行されます。エレベーターなどで、かご内にステッカーのようなものが貼られているのを見たことがある人は多いのではないかと思いますが、あれが報告済証です。しっかりと定期調査、定期検査を行っているという証であり、車でいう車検証のようなものですね。
もしも、管理しているビルや入居している建物にこれらの報告済証がなければ、定期報告がどのようになっているのか確認してみるといいでしょう。
まとめ
定期報告制度は、建物や設備を適切な状態に保つためにとても重要な制度です。
昨今、設備の劣化が原因となる悲しい事故なども増えており、そういった事故を減らすためにも、適切に定期検査を行い、建物を維持管理することが大切です。また、検査員も流れ作業的に検査を行うのではなく、いつも初めてのつもりできちんと検査を行って、報告書を作成することが重要です。
定期報告制度を活用し、危険な建築物を少しでも減らしていきましょう。
著者:独学一級建築士 nandsk
独学により一級建築士に合格。住宅やアパートの設計・工事監理、特殊建築物の維持管理、公共施設の工事設計・監督の経験あり。二級、一級建築士試験受験者へのアドバイスも行っている。『建築の楽しさを多くの人に知ってもらいたい』と話す。




