現場ノウハウ

意外と身近なところにもある!違反建築物をなくそう《10月15~21日は違反建築防止週間》

【Written by 独学一級建築士 nandskさん】

毎年10月15~21日は『違反建築防止週間』です。

みなさんの周りには数多くの建築物がありますが、その中に「違反建築物」はどのくらいあると思いますか? 実は、令和のこの時代でも違反建築物は結構あり、建築に関わる仕事をしているといろいろな場面で違反建築物に出くわします。

今回は、そんな違反建築物について少し考えてみましょう。

違反建築物とは?


違反建築防止週間の啓発ポスター。各自治体のHPなどにも掲載されている(千葉県HPより

違反建築物は、建築基準法第9条に「違反建築物に対する措置」という項目で書かれています。これによれば、違反建築物とは「建築基準法令の規定またはこの法律の規定に基づく許可に付した条件に違反した建築物または建築物の敷地」とされています。

この第9条では、違反建築物に対して「特定行政庁は施工停止や除却、使用禁止など」を命ずることができるとされています。

国土交通省は毎年10月15~21日を『違反建築防止週間』と定め、地方自治体などと連携して、こうした違反建築物の防止に向けた啓発活動を展開。各自治体では啓発ポスターの掲示や一斉公開建築パトロールなどを行っています。

既存不適格建築物との違い

建築士などの専門家でも理解している人が少ない「既存不適格建築物」と「違反建築物」の違いですが、既存不適格建築物とは法第3条2項に規定されており、「建築時は法令に適合していたが、その後の法改正等により、新しい規定には適合しなくなってしまった状態の建築物」を指します。

当然、建築当時は適法であることが前提です。法改正のほか、都市計画の変更による用途地域や建蔽率の変更などもこれに該当します。

例えばですが、当初は建蔽率の制限が50%の地域だったので、建蔽率45%で設計して建物を建てたとします。当然、この時点で建蔽率は適法なので検査も合格となり、検査済証が発行されます。

その後、都市計画の変更により建蔽率の制限が40%に下げられてしまったら…。この建物の建蔽率は45%なので、制限の40%を超えてしまい、法適合していないことになってしまいます。この状態を既存不適格といいます。

これは、法律側(制度側)が変わってしまったことが原因なので違反とは異なります。ただし、この建築物を増改築する場合などは現行法(この例でいうと建蔽率40%)に適合させる必要が生じます。

違反建築物に対する指導

違反建築物に対する指導も法律により細かく定められています。

前述した法第9条の「特定行政庁による命令(使用禁止など)」ですが、特定行政庁はこれを出す前に、建築物の権利者らに対して意見書の提出などを求める通知書を交付しなければいけないことになっています(第9条2項)。

また建築物の権利者側は、通知書を受けてから3日以内であれば「公開による意見の聴取を行うこと」を請求することができます(第9条3項)。

このように、違反建築物の権利者も自分の意見を言ったり、証人を出席させたり、証拠を提出したりする権利が認められています。ただし、近隣住民に被害が及ぶ恐れがあるなど、緊急の必要がある場合においては、特定行政庁はこれらの規定によらず、直ちに使用禁止や使用制限の命令を出すことができます(法第9条7項、10項)。

また、これらの権限を行使することができるのは建築監視員といわれる、特定行政庁から任命された職員に限定されています(法第9条の2)。

違反建築物に対する罰則

ここからは気になる罰則です。

建築基準法の第7章に『罰則』という規定があり、例えば、先ほど紹介した違反建築物に対する命令(法第9条)に違反した場合、「3年以下の懲役または300万円以下の罰金」が科されるとされています(法第98条)。

そのほか、どの条文に違反したかにより罰金や懲役の内容は変わってきますが、建築基準法の罰則規定で最も重いのが、この「3年以下の懲役または300万円以下の罰金」です。

ただし、ほかの法律の規定にも違反している場合、民法などにも抵触していれば罰則がより重くなることもあり得ますし、内容によっては損害賠償請求などをされる可能性もあります。

設計者や施工者が罪に問われると免許停止や免許剥奪もあり得ます。

保安上危険な建築物に対する指導

建築基準法第9条の4や第10条では、違反建築物に対する措置とは別に「保安上危険な建築物」に対する措置も定められています。

法律には適合しているけれど、老朽化して倒壊の危険があるものなどですね。こういった建築物に対しても特定行政庁は、違反建築物と同様に指導や助言、除却や使用制限などの命令を出せることになっています。

違反建築物の事例と注意点

ここからは実際の事例を見ていきましょう。ただし、違反建築物といえども居住者や使用者がいて、建築物は財産です。

指導記録は個人情報などの観点から情報がとても少ないので、特定の事例というよりは「こういったケースがある」「こういった話が多い」などの一例として紹介していきます。

無確認カーポートの増築

まずは最も多いといっても過言ではないカーポート。

建築基準法では、「防火地域・準防火地域以外」で「10㎡以内」の建築物の増築であれば確認申請は不要ですが、それ以外は申請が必要とされています。

カーポートの大きさは一般的に2.5m×5m程度あり10㎡を超えるため、申請が必要になるケースが多いのですが、ネット通販やホームセンターでも気軽に購入できるため申請をしないでカーポートを建築してしまう人も多くいます。

「外構業者に設置を依頼したがその業者の建築に関する知識が少なく、法律で必要な申請を出さずに工事をしてしまった」というようなケースも多々あります。最近はコンプライアンスについて厳しくなってきて、こうした事例も減少傾向ではありますが、まだまだ多いです。

申請を出さなかった“手続き違反”のみであれば、報告書などを提出して済まされるケースもありますが、最悪の場合、工事中止や撤去などの命令が下されることもあります。

建築士が付いていない場合は、法律に適合しているか確認できない場合もあり、そういったカーポートがあることで近隣から訴えを起こされるなど、ご近所トラブルになるケースもあるので、しっかりと法令順守して申請しましょう。

同じような理由で、屋外物置なども申請を出さずに設置(建築)してしまう人が多いです。

空き家問題で増える老朽家屋

違反建築物とまでは言えないかもしれませんが、老朽化して保安上危険と判断される建築物も増えています。親族が近くにおらず、管理できていない住宅や空き家となってしまった家屋で、どんどん老朽化しているケースなどは問題です。

近隣に影響がなければまだいいですが、隣近所から通報されたり、あるいは学校の通学路など生活道路に面している場合は、保安上危険な建築物と判断されて命令が下ったりといった可能性があります。

また、柱や梁など構造耐力上主要な部分が老朽化している場合は、建築基準法第20条の構造耐力の規定に違反していると判断されることもあります。

放置していると行政代執行で取り壊され、費用を請求される可能性もあるので、相続などで空き家を抱えている方は早めに手を打ったほうがいいでしょう。

違反になってしまう増改築

近年のDIYブームにより、「自分の家・建物だから」と自身で増改築を行う人がいますが、確認申請が必要になる場合もあります。カーポートの例と同じ話で、手続き違反とならないようしっかりと法律を理解して進める必要があるでしょう。

「ベランダに壁と屋根をつくった」「窓の外にサンルームをつくった」「屋根裏に部屋をつくった」などで本来は確認申請が必要だったという事例は非常に多いです。

内部の壁や床を撤去するのも知識がないと危ないです。構造的なトラブルを起こしてしまうと法令違反になってしまいますし、何より危険ですので、しっかりと建築士に相談して、適切な設計、適切な手続きを進めてもらいましょう。

また自宅以外でも、テナントの入れ替えなどで違反になってしまうケースがあります。

例えば飲食店の場合、しっかり排煙できることなどが必要になりますが、お店のデザインで窓をふさいでしまったり、避難経路をつぶしてしまったりすることもあり、駅前の雑居ビルなどで違反建築物が増える一因になっています。

違反建築物ゼロを目指して

違反建築物が話題になったのは、1995年の阪神淡路大震災の後でした。

それ以前は、高度経済成長の勢いに建築行政が追い付かず、違反であってもどんどん建ててしまうというような流れで、実際に完了検査などを受けないハウスメーカーや建設会社もあるくらいでした。

阪神淡路大震災では、犠牲者の死因の8割が建物の下敷きになった圧死・窒息死で、当初は古い住宅がつぶれたといわれていましたが、よくよく調べると違反建築物がとても多かったそうです。その後、国は『建築物安全安心推進計画について』という文書を発表し、違反建築物を撲滅すべく様々な取り組みを行っていきます。

特に、被災地である神戸市は力を入れており、『違反建築追放シンポジウム』を全国の自治体で初めて開催したほか、徹底したパトロールや通報電話の設置といった取り組みを行い、その結果、工事後の完了検査実施率は99%以上となっています。


神戸市による「違反建築追放宣言」(国土交通省「神戸市の建築行政」より

近年では大阪のビル火災など違反建築物による人的被害が目立つようになり、法令順守の考えも浸透してきたことから、違反建築物はかなり減りましたが、それでもまだまだ街中には多くの違反建築物があります。

一人ひとりが意識を高く持ち、違反建築物ゼロを目指して取り組むことがとても大切です。

著者:独学一級建築士 nandsk

独学により一級建築士に合格。住宅やアパートの設計・工事監理、特殊建築物の維持管理、公共施設の工事設計・監督の経験あり。二級、一級建築士試験受験者へのアドバイスも行っている。『建築の楽しさを多くの人に知ってもらいたい』と話す。

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