一建設が壁倍率5.0の木製筋交い耐力壁を開発!普及に向け一般流通を目指す、その思いとは?

飯田グループホールディングスの中核企業として分譲戸建て住宅の建設・供給などを手掛ける一建設株式会社(東京都豊島区)はこのほど、木製筋交い単体で壁倍率5.0を実現する耐力壁「HW5.0Σ」を開発しました。
筋交いを「くの字」のような形状に取り付ける特殊な構造で、設計の自由度を向上させながら、低コストかつ高い耐震性能を実現。2025年4月の建築基準法改正により新たに認められた「K型・多段筋交い」に該当し、6月には新規定の第1号となる国土交通大臣認定を取得しました。
今後は普及に向け、同社やグループ内だけにとどまらず、広く一般流通させることも視野に検討を進める方針です。
この「HW5.0Σ」を採用した木造戸建て住宅の建設現場を初公開する内覧会が10月14日、東京都内で開催されました。本記事ではHW5.0Σの概要、開発経緯、一建設による技術開発や社会貢献への思いなどについて、内覧会の様子を交えてご紹介します。
※上の写真は左から、多田 和志・生産管理本部設計部長、上原 正和・取締役生産管理本部長、道場 信義・技術研究開発室長
耐力壁と筋交い
本題に入る前に、簡単に「耐力壁」について触れておきましょう。
耐力壁とは
| 片筋交い | たすき掛け | 構造用合板 |
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| 木材が厚さ30mm×幅90mmの場合 壁倍率1.5 |
木材が厚さ30mm×幅90mmの場合 壁倍率3.0 |
片面張りの場合 壁倍率2.5 |
耐力壁とは、建築物が地震や風など水平方向の力を受けたときに抵抗できるよう、筋交いを入れたり、構造用合板を張ったりして強度を高めた壁のこと。「柱と梁の枠組みだけでは横から力が加わると崩れてしまうので、斜め材や面材で支える」といったイメージです。
安全な建築物をつくるうえで、この耐力壁が「どれくらい必要か(必要壁量)」というのを建築基準法に基づいて簡易的に算出するのが「壁量計算」。
また、壁の種類や性能によって抵抗力は異なるため、その強さを数値化したものが「壁倍率」です。壁倍率は数字が大きいほど耐力が高くなります。たとえば必要壁量が200cmの場合、壁倍率1.0の耐力壁では200cm分が必要ですが、壁倍率2.0の耐力壁なら100cmで同じ耐力を確保できるということです。
2025年度の建築基準法改正による変更点
2025年4月1日に施行された改正建築基準法により、耐力壁に関連する規定もいくつか変更されました。
まず壁倍率の上限についてです。これまで法令上では「5.0」が壁倍率の上限とされており、本来はそれ以上の耐力を有する壁であっても、設計上は5.0として計算していました。改正後はこの上限が「7.0」まで引き上げられ、より高耐力な壁の性能を設計上に反映できるようになりました。
また、筋交いの取り付けに関する規定にも変更点があります。以前は筋交いの“両端部”を柱と横架材との仕口に接近させて緊結する必要がありましたが、改正後は国土交通大臣の認定を受けた構造や工法に限り、“片側の端部のみ”が仕口に接近して緊結する、アルファベットの「K」のような形状の筋交いも使用可能となりました。
木製筋交い耐力壁で初!壁倍率5.0の大臣認定を取得
一建設が独自開発した「HW5.0Σ」は、改正建築基準法で新たに規定されたK型筋交いを使用した耐力壁で、改正後の第1号となる大臣認定を2025年6月に取得しました。木製筋交い単体の耐力壁として初めて壁倍率5.0の認定を受けています。
名称の由来は“HW”が“HAJIME WALL”、“5.0”は壁倍率を表します。建築基準法の改正前に実験を行っているため当時の最高値である壁倍率5.0で認定を受けていますが、実力値として、許容応力度計算においては壁倍率5.84または6.38相当の短期許容せん断耐力で運用可能だといいます。
“Σ”については、筋交いを取り付けた形状を表現しているというのが1つ。加えて、数学記号として総和・集約といった意味を持つことから、「建物の耐力をこの壁に集約するという意味も込めた」と道場信義・技術研究開発室長は話します。
安全限界を超えても耐力が落ちない粘り強さ
HW5.0Σの大きな特長の1つが、一般的な筋交いと比べて靭性・剛性に優れている点。そのポイントは筋交いの特徴的な形状にあります。
上下の仕口2カ所と、反対側の柱の中央部の3点で斜材を「くの字」のように配置し、専用の金物で固定。中央接合部の柱と金物の間には添え間柱を取り付けています。

中央接合部をアップで見た図。105mm角の柱と金物の間に、スギ材のLVLでできた厚さ30mmの添え間柱を取り付けているのがわかる

中央接合部金物は2種類のビスを使って止めており、左(シルバー)が60mm、右(緑)が95mmのもの
この形状により、地震などの際には中央接合部に損傷を集中させて制御することができ、「中央接合部の添え間柱には傷みが出ても、斜材が座屈したり、柱が割裂したりすることはない」(道場室長)といいます。
被災時に安全限界を超えたとしてもほとんど耐力が落ちないことが実験で確認されており、そうした粘り強さがこの構造の特長です。
なお、添え間柱と斜材はLVL(単板積層材)という合板でできており、添え間柱はB種LVL(スギ)、斜材はA種LVL(カラマツ)のプレカット材を使用しているそうです。
シンプルな部材で設計の自由度と施工性を向上

中央接合部の金物を取り付ける様子(左は解説する道場室長)
HW5.0Σのもう1つの特長は部材のシンプルさ。接合部の金物3点と斜材2本のみで壁倍率5.0の高耐力を実現しているため、施工の手間を省力化、斜材は1本約1.5mと短く、取り付けは1人で作業して1カ所あたり20分程度でできるといいます。木材の使用量も抑えられるのでコストダウンにもつながります。
また、道場室長はHW5.0Σの開発経緯について次のように話します。
「構造用面材を張った耐力壁の場合、ダクトやコンセントボックスを設ける際、面材に穴を開ける必要がありますが、穴の大きさには制約がありますし、穴を開けることで構造耐力上、不安な状態にもなってしまいます。こうした設計上の制限を解消したいという思いがあって、HW5.0Σの開発を進めてきました」(道場室長)
HW5.0Σは筋交いのみの構造でありながら耐力が高いため、穴開けが制限されず、電気配線や設備配管のルートも容易に確保でき、設計の自由度向上につながっています。
一般流通による量産化でさらなるコストダウンも

「近年、住宅には環境性能や耐震性能など、品質・性能に対する高い基準が求められています。その中でもお客様のニーズにお応えすること、また建設現場の技術者不足、働き方の変容による生産能力の低下という課題に対しても、取り組みを行っていかなければいけない状況です」
そう話すのは上原正和・取締役生産管理本部長。こうした建設業を取り巻く状況において、一建設では生産能力の向上を目的としたプロジェクトを立ち上げ、技術開発によって課題解決を図る取り組みを進めてきました。上原取締役はHW5.0Σを「その成果の1つ」と表現します。

今後は、設計の柔軟性が求められる都市部の狭小住宅などを中心に、同社の分譲住宅に順次導入していく予定ですが、将来的には“一般流通”させること、すなわち外販も検討しているといいます。
「接合部の金物は特注品で、量産できればさらなるコストダウンにつながるため、この金物を一般流通させ、広く使っていただくという取り組みに向けても準備をしているところです」(道場室長)
一般流通に当たっては、LVLの供給量や加工するプレカット会社の数も課題になってくるといいますが、道場室長は「まずは自分たちのところから使い、グループ会社や外販へと段階的に進めていきたい」と展望を話しました。
「大臣認定の“第1号”として見本になれたら」

HW5.0Σだけでなく、これまでにも自社開発した製品の一般流通に取り組んできたという一建設。
「弊社は『自分のところだけ』という発想ではなくオープンにする会社。社会貢献というところも考えている」と話す道場室長は、次のように続けます。
「耐震性などのニーズが高まる中、HW5.0Σの技術も当然、もっと世の中に広めていくべきですし、法改正により多段筋交いが認められるようになったことで、これから同様のタイプもどんどん増えると考えられます。その“第1号”として見本になっていけたらという思いもあります」(道場室長)
現在は主に3階建て戸建住宅への導入を想定していますが、中高層建築物への対応も十分可能というこの構造。
脱炭素社会に向けて建築物の木造化・木質化が推進される昨今ですが、将来的にHW5.0Σの一般流通が実現すれば、公共施設などに導入される可能性もあるかもしれません。
取材協力:一建設株式会社
(建設データ編集部)





