現場ノウハウ

大黒柱はもう古い!? 建物を支える「耐力壁」とは?《大空間を確保する高倍率の壁》

【Written by 独学一級建築士 nandskさん】

「大黒柱」という言葉を聞いたことはあるでしょうか?「一家の大黒柱」「チームの大黒柱」などと使われることが多いですが、実は建築用語の一つです。

当然、大きくて黒い柱という意味ではなく、とても大切な、重要な柱という意味です。かつての日本の住宅は「田の字型」の間取りが一般的で、その“田の字”の中心に建つ柱が構造的にも重要であり、それを大黒柱と呼びました。間取りが変わっても、建物を支える最も重要な柱、という意味で使われます。

そんな大黒柱ですが、今は見かけないことも多く、かくいう私の家にも大黒柱はありません。なぜかというと、柱ではなく壁で建物を支えているからです。

大黒柱のない枠組壁工法

大黒柱を設けるのは、日本に古くからある「木造軸組工法(在来工法)」と呼ばれる工法によるもので、柱と梁で家を組み立てていきます。ジャングルジムのような骨組みがまずつくられ、それに壁などを張り付けていくイメージです。

一方最近は、工期が短くコストも抑えられる「枠組壁工法」という工法も盛んです。

こちらは段ボール箱をイメージしてもらえるとわかりやすいと思いますが、壁を組み立ててその壁で建物を支えます。使う部材の種類によって「2×4(ツーバイフォー)工法」や「2×6(ツーバイシックス)工法」などと呼ばれることもあります。

枠組壁工法では、壁を組み合わせて建物を支えるため、大黒柱は出てきません。

大黒柱に変わる耐力壁

枠組壁工法では、建物を支えるための“壁”がとても重要になります。

特に、建物の荷重を支える構造的に重要な壁が大事で、「耐力壁」と呼ばれます。建築基準法第2条第5号では、壁は“主要構造部”に定められていますが、「構造上重要でない間仕切壁は除く」とされており、耐力壁と間仕切壁は区別されています。

木造軸組工法では大黒柱を中心とした柱が建物を支えているのに対し、枠組壁工法では耐力壁が建物を支えるんですね。

また、柱で建物を支える軸組工法であっても、壁で支える構造を併用する事例も増えています。

自宅のリフォームなどを考えている人は注意してほしいのですが、家の壁を壊して取り払ったり、壁に穴をあけたりする場合は、この「耐力壁」なのか「間仕切壁」なのかに注目するといいでしょう。仮に耐力壁だった場合、小さな穴であってもあけない方がいいですし、あける場合は耐力の低下を考慮しないと危険です。

間仕切壁であれば基本的には取り壊しても大丈夫ですが、不安であれば専門家に見てもらうといいでしょう。

必要な耐力壁の量が定められている

耐力壁が重要というのはわかっていただけたと思いますが、法律では工法に関わらず「耐力壁を最低これくらい設けなさい」という量が定められています(必要壁量)。

計算方法の詳細は割愛しますが、地震に対して必要な壁量と風圧に対して必要な壁量を求め、厳しいほうの壁量を設ける設計にします。建物の大きさや形状、重さ、地域ごとに決められた係数によって計算する必要があり、屋根材が瓦などで重い場合や、沿岸部で強風が予想される地域などは、その分、必要壁量も多くなります。

こうして求められた壁量をクリアすることはもちろん、量に加えてX方向・Y方向それぞれのバランスが取れていることや偏りがないことも求められます。

耐力壁の種類

片筋交い たすき掛け 構造用合板

計算で求めた必要壁量分の耐力壁を設置しなければならないということですが、どのような壁が耐力壁といえるのでしょうか。

先ほど説明したとおり、耐力壁の役割は水平力(地震や風などにより横から加わる力)を負担することです。そのため、軸組工法における耐力壁は、いわゆる「筋交い」がある壁となります。柱と柱の間に斜めに筋交いを入れることで、横から力を加えても簡単には歪まず耐えることができるようになります。

また、筋交いを入れなくても面材で固定する方法もあります。柱と柱の間に構造用合板を張ることで、横から力が加わっても歪むことなく耐えることができます。

こういった、筋交いや面材により強度を高めた壁のことを「耐力壁」といいます。

耐力壁の強さ

耐力壁には、さらに種類ごとに強さ(壁倍率)が建築基準法施行令第46条で定められています。

例えば、

  • 厚さ1.5cm以上で幅9cm以上の木材または径9mm以上の鉄筋の筋交いを入れた軸組=壁倍率1倍
  • 厚さ4.5cm以上で幅9cm以上の木材の筋交いを入れた軸組=壁倍率2倍

とされています。

必要壁量が10mの場合、1倍の壁なら10m分必要なのに対し、2倍の壁なら半分の5mでクリアできます。壁倍率が低い壁ばかりを用いると建物が壁だらけになってしまうので、倍率の高い壁を組み合わせて使うことが一般的です。

逆に、壁に窓などを設けると耐力壁と見なせなかったり、準耐力壁等となり倍率が1以下に低下してしまったりする場合もあります。必要な窓や空間を確保しつつ、壁量をどうやって確保するか、これが設計者の腕の見せどころです。

ちなみに、「準耐力壁」については2025年4月の建築基準法改定で新たに追加された項目です。

法律上の壁倍率を超える超頑強な高耐力壁

建築基準法施行令第46条では、耐力壁の壁倍率は『7倍』までの設定しかありません(2025年4月の建築基準法改正前の上限は『5倍』)。

しかし、近年は様々な技術開発により、法律上の上限を超える強度の耐力壁もつくられています。開発したメーカーにより呼び名は様々ではありますが、壁倍率5倍や7倍を超える耐力壁により、枠組壁工法で壁を最低限に減らした大空間の確保を実現しています。

中には壁倍率10倍というような高倍率のものもあり、開発が進んでいるんです。

高倍率の耐力壁の注意点

壁倍率7倍や10倍といった耐力壁はたしかに頑強で、実験によりそれだけの壁倍率を確保できているのですが、これらを用いる場合は注意が必要です。

仮に壁倍率10倍の壁だとすると、通常の倍率1倍の耐力壁より10倍の強度を持っていることになりますが、地震や強風時には建物全体に力がかかり、壁1枚だけで力を受けるわけではありません。

どういうことかというと、1枚だけ固い壁があると、その部分とそれ以外の部分で歪み方が変わり、接合部破断を起こしたり、床や天井が先に壊れたりといった不具合が発生してしまいます。

そのため、法律上は7倍まで(法改正前は5倍まで)しか定めがなく、構造計算上も5倍や7倍までとして計算するのが一般的です。

高倍率の耐力壁でできること

最後に、壁倍率が高い耐力壁を用いるメリットについて紹介します。

まず、最も大きなメリットは壁の量を減らせること。壁で建物を支える枠組壁工法では建物全体で壁が多くなり、広くても2間(3.64m)くらいの空間しか確保できませんでした。これが、高倍率の耐力壁を設けることで5mを超える大空間を確保したり、壁を少なくして空間が連続するような間取りを作ったりすることも可能になりました。

従来は個室が何個もあるような家が基本でしたが、大空間にしてパーティションで空間を区切ったり、段差により空間を区切るだけで壁を設けないようにしたり、空間の連続性をデザインできるようになります。

また、将来的に間取りを変えることも容易になります。建物の外周部だけを耐力壁にしておけば、内部は好きなように間仕切壁で区切ることができるので、家族構成やライフステージにより間取りを変えやすくなるでしょう。

その他にも、少ない壁量で大きな耐力が得られるので、耐震補強工事などでも利便性があるなど、高倍率の耐力壁には様々なメリットがあるんです。

まとめ

木造建築物は柱と梁でつくられていると思っている人も多いかもしれませんが、実際には壁によって支えられている家もたくさんあります。結果、大黒柱を見かける機会も減ってきているんですね。

今回はそんな壁のお話でした。

著者:独学一級建築士 nandsk

独学により一級建築士に合格。住宅やアパートの設計・工事監理、特殊建築物の維持管理、公共施設の工事設計・監督の経験あり。二級、一級建築士試験受験者へのアドバイスも行っている。『建築の楽しさを多くの人に知ってもらいたい』と話す。

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