2025年度からの建築基準法改正で建築業界はどう変わるか?|一級建築士による建設アラカルト

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【Written by 独学一級建築士 nandskさん】

業界関係者、特に設計に携わる人はすでにご存じの方が多いと思いますが、2025年度より建築基準法が大きく改正されます。法改正は毎年のように行われているのですが、今回の2025年4月の改正は変更内容が大きく、仕事のやり方も変わるほど影響がありそうです。

今回は、この法改正について詳しく見ていきましょう。

建築基準法改正の概要

今回の建築基準法改正については、すでに2022年から法律の公布が始まっていて、法律の効力が発揮される施行が2025年4月1日になります。すでに業界関係者への説明会や講習会が開かれ、一部の地域ではサポート制度を先行的に実施する実証実験を行うなど、スムーズに法改正が行われるように準備されているので、内容について聞いたことがある人も多いかもしれません。

法改正の内容は大きく分けると「建築確認制度の見直し」「構造関係規定の見直し」「省エネ制度の見直し」の3つが柱です。

建築確認制度の見直し

まず、建築確認制度の見直しですが、いわゆる「4号特例」というものが廃止されます。

建築基準法では、確認申請を出す必要がある建築物として、建築基準法第6条第1項において第1号から第4号まで定めています。第1号は特殊建築物で200㎡を超えるもの、第2号が木造で3階建て以上又は延べ床面積500㎡を超えるもの、などそれぞれ条件があります。

第4号は、木造なら2階建てで延べ床面積500㎡以下かつ高さ13m以下、軒の高さ9m以下となっており、いわゆる木造の戸建て住宅の多くはこの4号建築物に該当します。

この建築基準法第6条第1項の何号に該当するかで、建築物にかかる法規制が異なるほか、確認申請時の提出書類も異なります。そして、建築基準法第6条の4により、4号建築物を建てる際に一定の条件(都市計画区域内、建築士が設計)を満たす場合は、建築確認申請において構造審査等が省略される、というのが「4号特例」です。

今回の法改正でこの4号特例が見直され廃止となります。

実は4号特例の廃止は、2005年の耐震構造計算書偽装事件(姉歯事件)が発生した際に検討されていたのですが、住宅業界に与える影響が大きいことから見送りとなっていました。それが今回の改正に合わせてやっと実施される形で、近年多発している大規模な地震災害などの影響もあったものと思われます。

また“4号特例の廃止”と言いましたが、実際には廃止ではなく、従来の4号建築物をさらに2つ(木造2階建ての新2号と木造平屋の新3号)に細分化し、新3号物件については従来の4号特例が適用されることになるので、縮小という表現が正しいです。

構造関係規定の見直し

構造関係規定の見直しについては、筋かいの対象範囲の拡大や柱の小径の基準見直し、簡易な構造計算の対象となる木造建築物の規模の見直しなどがありますが、最も影響が大きいのが壁量計算の見直しでしょう。

壁量計算とは、建築物の構造計算方法の一種で、建物の重量から必要な壁量を計算し、実際の建物に重量を支えるだけの壁量があるかどうかを判定するものです。近年の住宅建築で多い枠組壁工法(2×4工法や2×6工法など)において必要となる計算で、計算方法が見直されました。

内容としては、実態に合わせた改正となっており、例えば建物の重量を考えるうえで大きなウエイトを占める屋根について、今の法律では重い屋根と軽い屋根の2種類しかありませんでした。当然、屋根の上に太陽光パネルを乗せることも想定していない時代のものなので、実態に即した形ではなかったのを正す、というのが今回の改正内容です。

省エネ制度の見直し

最後の省エネ制度の見直しは、今後の建築業界に最も影響が大きい改正と言えます。

現在の省エネ制度(建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律、建築物省エネ法)では、省エネ基準への適合義務は大規模建築物の非住宅に限定しています。小規模な非住宅や住宅については、適合は義務ではなく、届出のみを提出することになっていて、省エネ基準に適合させる必要はありません。これが、今回の改正ではすべての建物において適合が義務となります。

従来は、分譲住宅やローコストの注文住宅、小規模な事務所ビルなどは省エネ基準に適合せずともよかったのですが、今後はすべて省エネ基準を満たす必要が出てくるので、かなり影響があるでしょう。

これは、日本の住宅性能は欧米諸国に比べて低く、スクラップ&ビルドを繰り返す日本の住宅産業が海外で批判されていること、省エネ基準に適合した高気密高断熱の質の高い住宅に住み快適な暮らしを推奨することなどが理由で、2050年までにカーボンニュートラルを目指すとした国際公約や、気候サミットでの温室効果ガス削減目標を満たすために法改正が行われたものです。

まとめ

4号特例が縮小すれば2階建ての木造住宅でも構造計算が必要となり、設計者の業務量増加や設計費用の増額が予想されます。また、省エネ適合義務化となることでサッシやドアをハイグレードのものにしたり、断熱材を厚くしないといけなくなったりする建物も多く出てきそうです。

久しぶりの建築基準法の大改正、実務や今後の住宅業界の売上などにも大きく影響してきそうです。

著者:独学一級建築士 nandskさん

独学により一級建築士に合格。住宅やアパートの設計・工事監理、特殊建築物の維持管理、公共施設の工事設計・監督の経験あり。二級、一級建築士試験受験者へのアドバイスも行っている。『建築の楽しさを多くの人に知ってもらいたい』と話す。

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