建築基準法制定時に想定されていなかった“新しい用途”はどう判断する?
【Written by 独学一級建築士 nandskさん】
建物を建てるとき、その建物が何に使われるものなのか、『用途』というのは非常に重要です。
今回は建築物の用途について、時代とともに次々と登場する“新しい用途”はどのように判断するのか、少し考えてみたいと思います。
建築物の『用途』とは
建築物の用途については、そもそも都市計画で地域ごとに建築可能な用途が定められています(用途地域)。
例えば、「診療所」であれば比較的どこにでも建てることができますが、「病院」となると第一種低層住居専用地域では建築できません。
また、「一戸建て住宅」や「事務所」であれば、建築基準法における“特殊建築物”という分類には該当せず、法規制は比較的緩くなります。逆に、「共同住宅」は特殊建築物に当たるため、建物の耐火性能や避難施設の設置が求められる場合があります。
このように建築物の用途はとても重要であり、確認申請を行う際にも必ず記載するものですが、1950年(昭和25年)に制定された建築基準法では想定していない用途も多く、設計者や不動産業者の悩みの種でもあります。
ここからは、そんな“新しい用途”について見ていきましょう。
最近見かける美容やゴルフの新業態
まずは「ネイルサロン」や「まつ毛エクステ店」。
最近人気のこれらの業態は小規模な店舗であることが多く、駅前の商業施設などに入っているケースをよく見ます。これらは建築基準法では、理髪店や美容院と同じように扱うことが基本とされています。
次は「シミュレーションゴルフ施設」。こちらも最近よく見かけますね。
判断が難しく、『飲食の提供がメインか』『騒音や交通集中が発生するか』『風営法の許可を受けるか』といった要素によっても変わってきます。場合によっては運動施設と飲食店の複合施設に該当する可能性もあります。
普及が進む地域のための施設
次は「こども食堂」。地域の子どもたちを対象に、食事の提供や学習支援などを行う施設で、共働き世帯が増えた近年、話題になることも多いですね。
建築基準法には幼稚園や児童福祉施設等といった用途もありますが、こども食堂は学校、図書館等として扱うことが基本です。
「防災備蓄倉庫」はどうでしょうか。災害対策としてこちらも設置する地域が増えていますね。
建築基準法では倉庫という用途もありますが、防災備蓄倉庫については自治会・町内会が設置する場合、地方公共団体の支所等として扱うことが多いです。
時代とともに変わる銭湯の形
お次も難しい「スーパー銭湯」。建築基準法では公衆浴場という用途がありますが、これはかつて家にお風呂がなかった時代、近隣住民が入浴に使っていた施設を想定しているため、住居専用地域にも建築可能です。
時代も変わり、スーパー銭湯は飲食やマッサージコーナーなどもあるため、単純に公衆浴場と判断するのは難しいケースが多いようです。
このほかにも、「コワーキングスペース」「民泊施設」「ペットカフェ」など、時代とともに新しい用途が次々と生まれてきました。
建築基準法の用途は建物を使う建築主が決めますが、古い法律では想定されていない施設も多く、慎重に判断する必要がありそうです。
著者:独学一級建築士 nandsk
独学により一級建築士に合格。住宅やアパートの設計・工事監理、特殊建築物の維持管理、公共施設の工事設計・監督の経験あり。二級、一級建築士試験受験者へのアドバイスも行っている。『建築の楽しさを多くの人に知ってもらいたい』と話す。