土木と建築の違い|“土木の立場”から見る共通点と相違点、連携して進めている取り組みを紹介

【この記事を執筆したのは…】
飴田ちさとさん
一級土木施工管理技士|Webライター|SEO対策など建設業界向けマーケティング支援|建設会社で9年間勤務した後に起業|学術論文執筆経験あり
建設工事といえば、土木工事や建築工事をイメージする方が多いのではないでしょうか。
土木と建築は一見、同じ建設工事として似ているように思われがちですが、実は違う点もけっこうあるんです。
わたしはこれまで、主に技術者として日本全国の土木工事に関わってきました。しかし、建築工事の設計や施工については実務経験がなく、周りの技術者も同じように「土木と建築は別物」と、土木と建築をわけて考える方が多い印象でした。
ただ、土木も建築も同じように“建設工事”。土木と建築をわけて考えるのではなく、それぞれが取り組む課題解決策を共有することも必要だと感じています。
今回は土木と建築の違いを整理し、土木工事を経験してきた立場から見た建築工事との共通点と相違点について解説します。
土木と建築が連携して行う取り組みについても紹介するので、ぜひ最後までご覧ください。
- 「土木」と「建築」の違い
-「土木」の定義
-「建築」の定義
-「土木」と「建築」の違いをおさらい - 【建設市場の動向】土木と建築の投資額
- 土木と建築の共通点と相違点
- “土木の立場”から見る土木と建築
-土木と建築のそれぞれが縦割り組織を形成している
-建築はダイナミック、土木は地味なものもある
-建築は土木よりも現場で女性技術者を見かける - 土木と建築の連携|発展に向けて取り組みを進めている代表的な団体
-「公益社団法人土木学会」と「一般社団法人日本建築学会」の合同委員会「土木・建築タスクフォース」
-「一般社団法人建設コンサルタンツ協会」と「公益社団法人日本建築家協会」が協働 - 【最近の話題】一般社団法人 日本インフラーキテクチュア検査技術協会が設立!
- 今後も土木と建築の連携から目が離せません!
「土木」と「建築」の違い

厚生労働省「土木・建築の仕事」によると、土木も建築も設計・研究・施工という職種にわけられる点は同じです。
しかし、土木と建築の違いを明確に説明するとなると、難しいと感じる方もいるかもしれません。
ここでは「土木」と「建築」の違いについて解説します。
【参考】厚生労働省|土木・建築の仕事
「土木」の定義
「土木」の定義は、公益社団法人土木学会「宣言・提言 公益社団法人への移行にあたって」に記載があります。
それによると、土木は以下の通り定義されています。
【土木の定義】
1.土木の定義とその公益性
(土木と土木技術者の定義)
「土木」とは、「人々が暮らし、様々な活動を行う様々な条件や自然環境、人間環境を整えることを通して、我々の社会を飢餓と貧困に苦しむことなく安心して暮らせる社会へと改善していく総合的な営み」を意味するものであるといえよう。
【引用】公益社団法人 土木学会「宣言・提言 公益社団法人への移行にあたって」1.土木の定義とその公益性(土木と土木技術者の定義)
上記から、土木とは道路・橋梁・ダム・上下水道などの土木構造物そのものを指すのではなく、それらを整備することで「人々が安心して暮らせる基盤をつくること」と捉えられます。
土木は、人々の暮らしにおいて欠かせない重要な仕事です。
「建築」の定義
「建築」の定義は、建築基準法第2条の13に記載があります。
それによると、建築は以下の通り定義されています。
さらに第1条には、以下の通り建築基準法の目的が記載されています。
【建築基準法の目的】
(目的)
第一条 この法律は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする。
つまり、建築とは建築物を新しくつくること、建築物の一部または全部を取り壊すことを指し、人々の生命・健康・財産の保護、そして公共の福祉の増進に関わるものであることがわかります。
「土木」と「建築」の違いをおさらい
あらためて「土木」と「建築」について整理しましょう。
【土木と建築の違い】
- 土木:人々が安心して暮らせる社会へと改善していく総合的な営み
- 建築:建築物の新築・増築・改築・移転、人々の生命・健康・財産の保護を図り、公共の福祉の増進に関わるもの
建設工事に携わっていると「土木=社会基盤」「建築=建物」と捉えがちです。
実際に、土木工事に従事していたわたしも「土木は道路やダムやトンネル、建築は住宅やビルや商業施設」のように聞いたことがありますが、上記から土木と建築のいずれも土木構造物や建築物そのものを指すだけではないことがわかります。
土木構造物や建築物があることで、人々の生命が脅かされることなく「安心かつ快適な社会を目指す行為」であると捉えられます。
【建設市場の動向】土木と建築の投資額

一般財団法人建設経済研究所・一般財団法人経済調査会経済調査研究所が公表している「建設経済モデルによる建設投資の見通し(2025年4月)」では、2025年度における建設投資額を以下のように予測しています。
【建設投資額(2025年度)】
建設投資 | 74兆9,300億円(前年度比 1.3%増) |
政府分野投資 | 24兆500億円(前年度比 1.6%増) |
民間建設投資 |
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建築補修投資(改装・改修) |
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建設投資を大きくわけると、政府分野投資と民間建設投資の2つがありますが、政府分野投資は土木がメイン、民間建設投資は建築がメインであるのが一般的です。
建設投資額全体で見ると、2025年度は前年度比で増加すると予測。さらに「政府分野投資」と「民間建設投資(住宅投資・非住宅投資)」でも増加が見込まれています。
「建築補修(改装・改修)投資」では、政府建築物と民間建築物いずれも前年度比で減少するものの、高水準の投資が予測されています。
【参考】一般財団法人 建設経済研究所・一般財団法人 経済調査会 経済調査研究所|建設経済モデルによる建設投資の見通し(2025年4月)
以下の記事では、大手建設業者50社を対象とした2024年度における建設工事受注額を紹介しているので、本記事とあわせてご覧ください。
土木と建築の共通点と相違点

土木と建築の共通点の1つが使用する材料です。
たとえば、土木と建築いずれの場合も「コンクリート」を取り扱います。コンクリートは複数の種類がありますが、土木と建築のどちらの工事にも汎用的に使用するものもあれば、特定の構造や用途にしか使用しないものもあります。
【(例)特定の構造や用途にしか使用しないコンクリート】
コンクリートの種類 | 使用される土木構造物や建築物 | 使用目的 |
水中コンクリート | 防波堤や護岸など | 水中での施工の際に材料分離を防ぐ |
軽量コンクリート | 高層建築物 | コンクリートを軽量化させる |
施工時にコンクリートを使用する点は、土木も建築も共通しています。ただし、構造や用途にあわせて使用するコンクリートの種類が異なるのがポイントです。
コンクリートに求められる性能(要求性能)については、土木と建築で規準が異なります。
土木と建築におけるコンクリートの要求性能は、以下を規準としています。
【土木と建築におけるコンクリートの要求性能の規準】
- 土木:コンクリート標準示方書
- 建築:JASS 5(日本建築学会建築工事標準書)
わたしは土木工事でコンクリートを取り扱っていましたが、設計時や施工時の不明点はコンクリート標準示方書で確認していました。
JASS 5という名称は、土木工学を専攻していた大学時代に耳にした程度で、実務では一度も開いたことがありません。
“土木の立場”から見る土木と建築

土木工事に従事していた立場から、土木と建築の関係性を紹介します。
建設業界で仕事をしていると「土木と建築は仲が悪い」と言われることもありますが、わたしが実際に感じたことを3つ厳選してお伝えします。
土木と建築のそれぞれが縦割り組織を形成している
土木と建築は、それぞれが縦割り組織を形成しているのが特徴です。土木工事を進めているうちは、建築工事の従事者との関わりはありません。
わたしが土木工事に従事していたころ、土木工事と建築工事に関わる作業員が一堂に集まり朝礼をすることがありました。
しかし、建築工事に従事する方々と連携を取って仕事をしたことはありません。
土木は土木、建築は建築。
土木と建築で横割り組織を形成することは稀で、縦割り組織で業務を進める傾向があります。
建築はダイナミック、土木は地味なものもある
土木の立場から見ると、建築はダイナミックで人々の目に触れるものが多い印象です。
たとえば、マンション・高層ビル・商業施設などの建築物は街のシンボルとなります。
一方で土木は、工事が完成すると土・道路・河川などの下に埋まってしまうものもあり、人々に気づかれることなく機能するという点で、地味だと感じることもあります。
わたしも現場技術者として働いていたころは、1つのプロジェクトにつき数カ月~数年間かけて土木工事を進めてきました。完成した土木構造物を見たとき、達成感でいっぱいになり涙を流した経験もあります。
だからこそ、土木構造物が土の下に埋まってしまうことに、少し残念な気持ちを抱くこともありました。
「せっかくつくりあげたのに、土の下に埋まって見えなくなるなんて」とがっかりしたと同時に、完成後の状態をいつでも見られる建築がうらやましいと感じたこともあります。
建築は土木よりも現場で女性技術者を見かける
土木工事と建築工事に従事する作業員が一堂に集まり朝礼をしたことがありますが、建築の現場には女性技術者が多いことに驚きました。
女性の現場技術者とすれ違う機会も多く、同じ建設現場とは思えないような感覚を抱いたのを覚えています。
土木の現場といえば、100名以上の作業員が集まる場合でも、女性技術者は2~3人いるくらいです。
朝礼時、その100名以上の作業員さんがいる前で、作業内容の説明や安全注意事項の周知をしたことがあります。
マイクからわたしの声が聞こえると、作業員さんたちが一斉にわたしの方を注目するのに驚いたのが土木の現場。男性が話しているときには起こらなかった現象です。
一方で建築の現場は、土木の現場に比べて女性の現場技術者が多く配属されていました。
大学時代も土木工学科に比べて建築学科の方が女子学生が多く、「女子学生に人気があるのは土木よりも建築の方」という印象がありました。大学時代のころと同じように、現場においても土木より建築の方が女性に人気があるのかもしれないと感じた現場でした。
土木と建築の連携|発展に向けて取り組みを進めている代表的な団体

仲が悪いとささやかれる土木と建築。
しかし、実はいま土木と建築が連携し、建設業界の発展のために取り組みを進めている団体があります。
ここでは、土木と建築が連携して取り組みを進めている2つの事例を紹介します。
「公益社団法人土木学会」と「一般社団法人日本建築学会」の合同委員会「土木・建築タスクフォース」
「公益社団法人土木学会」と「一般社団法人日本建築学会」が連携して取り組みを進めているのが「土木・建築タスクフォース」です。
両団体の公式ホームページには、土木・建築タスクフォースに関する情報が掲載されています。
2021年11月11日、土木学会と日本建築学会が協力に関する覚書(MOU)を締結し、合同委員会として土木・建築タスクフォースが設置されました。
土木・建築タスクフォースの設置目的は、土木工学と建築学が連携して取り組むべき課題を整理することです。さらに、土木工学と建築学の総合的な知見を両学会の内部、さらには外部に発信することも、土木・建築タスクフォースの設置目的としています。
最近では、2024年12月9日に第3回合同シンポジウムが開催され、各ワーキンググループの活動報告や意見交換が実施されました。
【参考】
公益社団法人土木学会|土木建築タスクフォース
一般社団法人日本建築学会|土木・建築タスクフォース
「一般社団法人建設コンサルタンツ協会」と「公益社団法人日本建築家協会」が協働
「一般社団法人建設コンサルタンツ協会」には「土木・建築連携まちづくり専門委員会」という委員会があり、「公益社団法人日本建築家協会」の「関東甲信越支部 都市・まちづくり委員会」と協働活動を行っています。
建設コンサルタンツ協会の公式ホームページには、土木・建築連携まちづくり専門委員会の活動現況が掲載されており、以下の通り活動目標を掲げています。
【土木・建築連携まちづくり専門委員会の活動目標】
1.主な活動記録
(1) 活動目標
「土木・建築連携まちづくり専門委員会」では、以下の2つの方針で活動をおこなった。
a) 土木分野と建築分野の協働について、従来の景観やデザインの領域だけでなく、企画・調査・設計・監理全般を対象に多様な社会環に応じた協働の在り方を探求する
b) 過年度より活動している「美しい国づくり」の実現に対して、我々建設コンサルタントが取り組んできた活動・成果について記録に残し、情報発信を行う。
これまでに、両団体で協働シンポジウムなどを開催しています。
【最近の話題】一般社団法人 日本インフラーキテクチュア検査技術協会が設立!
土木と建築の技術の融合や日本発の国際規格の策定を目指すことを目的とし、一般社団法人日本インフラーキテクチュア検査技術協会が設立されました。
「インフラーキテクチュア」とは「インフラストラクチャー(土木)」と「アーキテクチュア(建築)」を組み合わせた造語です。
土木構造物や建築物を日本の技術で守るために、非破壊検査技術の開発支援や技術者育成などに取り組んでいます。
2025年4月11日に開催された「設立発表記念・第一回技術討論会」の模様は、以下の記事で詳しく紹介しています。同協会の設立趣旨や非破壊検査技術について、ぜひチェックしてみてください。
今後も土木と建築の連携から目が離せません!

今回は、土木と建築の違い、共通点と相違点を解説しました。
土木と建築が連携し取り組みを進めている主な団体も紹介したので、土木と建築の融合について理解が深まったのではないでしょうか。
わたしは9年間、土木工事に関わってきましたが、土木と建築をわけて業務をしていたのが事実です。実務をする中で「土木と建築は別物」「土木と建築は仲が悪い」「建築はダイナミックで、土木は地味」など、何度も耳にしてきました。
たしかに土木も建築も同じ建設工事とはいえ、使用する材料や設計・施工の考え方が異なる点もあります。
しかし、近年多発している自然災害の観点から考えても、土木と建築が協働して人々が安心して暮らせるまちづくりを進める必要があると考えています。
実際、土木学会が公表している「土木学会・日本建築学会の協働TF 土木・建築の社会価値および連携の方向性WG」にも、人命と財産を守るために土木と建築が連携して取り組むべき課題に「震災対策」や「水害対策」などと掲載されています。
2025年4月には新団体「一般社団法人 日本インフラーキテクチュア検査技術協会」の設立も発表されました。
今後も土木と建築の連携に関する情報を追っていきましょう。
【参考】公益社団法人 土木学会|土木学会・日本建築学会の協働TF「土木・建築の社会価値および連携の方向性WG」

著者:飴田ちさと

著者:飴田ちさと