建築工事で最も重要といえる地盤の話|一級建築士による建設アラカルト

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【Written by 独学一級建築士 nandskさん】

建物を建てる場合、建物の中や建物自体の構造の話というのは誰もが注目する部分だと思いますが、実はそれ以上に重要なのが地盤です。

ただ、地盤は建物が建つ土地による影響が大きく、設計者のアイデアや施工者の技術力でなんとかなるものではないので、話題になることは少なく、一般的に軽視されがち。今回はそんな地盤の話です。

建築基準法と地盤

地盤については、建築基準法でほとんど言及されておらず、どのような地盤であっても建物を建てることは可能です。ただし、地震力に対する構造計算の際に使う係数(地盤周期Tcや地盤反力係数Khなど)が地盤によって変動します。

地盤調査で地盤を調べる

地盤によって構造計算で使用する係数が変わるので、地盤の種類などを調べる必要があります。

これを調べるのがいわゆる地盤調査で、実際に地盤を掘削し土のサンプルを採取するなどして地盤の種類を判断します。ここで間違えてしまうと構造計算の結果が大きく変わってしまうので、非常に重要な調査です。

地盤調査の種類

地盤調査には様々な方法があり、

  • ボーリング試験といわれる標準貫入試験
  • 一般的な戸建て住宅で取り扱われるSWS(スクリューウエイト貫入)試験(旧スウェーデン式サウンディング試験、SS)
  • 平板載荷試験

などがメジャーです。

実はこれだけでなく、目視による現地調査や近隣の調査結果を参考にしたり、土地の歴史を調査したりすることも、れっきとした地盤調査といえます。

標準貫入試験

標準貫入試験とはいわゆるボーリング調査で、地盤調査方法としては精度が高いため大規模建築物などを建てる際に行われる試験です。

土地にやぐらを建ててドリルを設置し、63.5kgの重りを高さ76cmから落として、ドリルが地面にどれだけめり込むかを調べます。地面に30cm貫入するのに重りを何回落としたか、というのがN値と呼ばれるもので、このN値から地盤が持つ耐力(長期許容応力度)を算定し、構造計算を行います。

細かい検討は必要ですが、関東ローム層などの粘性土であれば「N値5」程度で戸建て住宅が建てられるといわれています。

SWS(スクリューウエイト貫入)試験

次に、最も多く行われている地盤調査方法であるSWS試験です。

こちらは先ほどの標準貫入試験を簡易的にしたもので、一般的な戸建て住宅を建築する際に行うことが多いため、実施される件数が圧倒的に多いです。2020年にスウェーデン式サウンディング試験から名称が変更となりましたが、いまだに古い名称で「SS」と呼ぶ人も多いです。

やり方は標準貫入試験と概ね一緒で、ドリルの上から重りを落としたり、回転させたりして地面に刺していき、どれだけの力でどれだけ地面に刺せたかというのを調べて換算N値を算出します。

平板載荷試験

平板載荷試験は、戸建て住宅よりも小規模な公園のトイレや倉庫、仮設建築物などを建てる際に行われることが多い試験です。

やり方は非常に簡単で、直径30cmの板を地盤に設置し、そこに重りを乗せて、どれだけ地面が沈んだかを調べます。重りには工事現場で使用する重機(バックホウ)などを使うことが多いです。

非常に簡単で単純明快な試験ですが、法律でも認められた地盤調査方法です。

土質試験

土質試験とは、現地で土を採取し、そのサンプルを使って様々な調査を行う試験です。前述した標準貫入試験などと一緒に、地面の奥深くの土を採取しておいて実施します。

土の大きさなどを調べる粒度試験、どれくらい水を含んでいるかを調べる含水量試験、土の粒度同士の密度を調べる密度試験、土のサンプルに圧力をかけてどれだけ耐えられるか調べる圧縮試験などがあります。

これらの試験によって、液状化の危険性や地耐力の算定、構造計算で使用する係数の算定などができます。

目視、歴史、近隣調査結果から調べる

専門的な試験以外に、目視というのもとても大事です。実際に土地を見て、歩いてみるとわかる情報も多いです。表面の土の色はどうか、歩いた感触はどうか、隣地との高低差はあるのか、川などの水場は近いか、水はけは悪くないか、などなど重要な情報がとても多く得られます。

さらに、その土地の歴史も大切です。私が担当した現場で、比較的地盤が良い地域だったのですが、実際に調査してみたらすこぶる悪く、多額の地盤改良費が発生したケースがありました。話を聞いてみると、実は、昔は田んぼだった、それも2m近い水深になる蓮田だったとのことで納得した記憶があります。

最近では気にする人も多くなりましたが、地名などから地盤の良し悪しを予測することもできます。

土地の歴史に近いですが、近隣の地盤調査結果も大いに参考になります。大手ハウスメーカーやゼネコンなどは自社のデータを持っているので、近隣の現場の地盤調査結果を使って予測することができます。行政などが公表しているデータもあるので参考にするといいでしょう。

ただし、歴史や近隣の地盤調査結果はあくまでも参考であり、その土地ピンポイントの地盤調査結果ではない点に注意が必要です。地盤調査はポイントが1mズレるだけで結果が変わることもあります。実際に建物を建てる場所の地盤を調べることが重要です。

その他の試験

地盤調査の方法は、これら以外にも様々なものがあり、水がどれだけ抜けるか調べる現場透水試験、杭を打つ影響を調べる孔内水平載荷試験などがあります。

地盤調査の結果を活かす

これらの地盤調査結果を活かして建物の設計を行いますが、最も影響を受けるのが基礎の設計です。地盤が強ければ選択肢が多くなり、施工性や費用などから基礎を選ぶことができますが、地盤が軟弱であるなど問題があればそうはいきません。

例えばですが、表層2mくらいは非常に緩い地盤で、建物を乗せると傾いてしまう恐れがある場合。2m以深に岩盤のような強い地盤があれば、建物の基礎を2mの深基礎にして、2m下にある岩盤層で建物を支えるという方法が取れます。これが埋立地のように、地面から20mも30mも固い地盤(支持層)がない土地では、杭を使って建物を建てることになります。

また、近年話題になることが多い液状化についても地盤調査によってリスクがわかるため、必要に応じて対策を取っていくことになります。

地盤改良で地盤を強くする

地盤調査の結果次第では地盤改良を行う可能性もあります。

先ほどの例のように表層3mくらいは非常に緩い地盤だった場合に、深基礎にするという選択肢もありますが、地盤改良を行うという方法もあります。この場合は表層地盤改良といわれる方法で、セメント系固化材を地盤に散布し、既存の土と撹拌混合した後に転圧して、緩かった地盤を固くするのが一般的です。深さ2m以上になると撹拌が難しくなるので、柱状改良といわれる、ドリルで穴を開けながら固化材を散布し撹拌混合するという、縦に深く地盤改良をする方法を採用します。

深基礎や杭基礎を採用するよりも安くなることが多いですが、改良が難しい土質があったり、地下水などがあると改良土が流れてしまう恐れがあったりするため、どこでもできるものではありません。

まとめ

建物を建てるために土地を探している人の多くは、立地や近隣の状況などは気にしますが、地盤の良し悪しについては意外と見落としがちです。せっかく気に入った土地を手に入れても、予想外の地盤改良費用が発生したり、そもそも検討していた大規模な建物は建てられなかったりすることもあり得るので、“地盤”という視点でも土地を見ていくことが大切です。

著者:独学一級建築士 nandskさん

独学により一級建築士に合格。住宅やアパートの設計・工事監理、特殊建築物の維持管理、公共施設の工事設計・監督の経験あり。二級、一級建築士試験受験者へのアドバイスも行っている。『建築の楽しさを多くの人に知ってもらいたい』と話す。

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