現場ノウハウ

【事故事例から学ぶ】建設現場における労働災害の傾向と安全対策

【Written by 独学一級建築士 nandskさん】

今回は建設現場で起こる労働災害について、実際の事故事例を参考に見ていきたいと思います。

私が監理した建設現場でも事故が起きてしまったこともあり、残念ながら建設業界ではよく聞く話です。事故の事例や傾向を見て、しっかりと安全対策を考えていきましょう。

建設業における労働災害の推移

建設業労働災害防止協会(建災防)のホームページによると、建設業における労働災害の発生状況は昭和30年代をピークに年々減少傾向にあります。

2023年の死亡事故の件数は、過去最多だった1961年(昭和36年)の10分の1程度まで減っています。とてもいいことですね。実際には建設工事の需要変化などもあるのですが、働く環境が良くなっているのは間違いないでしょう。

ちなみに、製造業や交通運輸事業、林業など全9種類の産業のうち、建設業の死傷者数は上から4番目。ただし、死亡者数に限ると建設業が最も多く、重大事故につながりやすい業界であることがわかります。

熱中症についても、全産業の中で発生件数が最も多いので注意が必要です。

建設現場で多い事故の種類

【建設業における2023年の労働災害発生状況(事故の型別・上位5種)】

事故の型別 死傷者数(人)
墜落・転落 4,554
はさまれ・巻き込まれ 1,704
転倒 1,598
飛来・落下 1,234
切れ・こすれ 1,234

厚生労働省発表資料より

厚生労働省の統計から事故の型別で見ると、建設業で死傷者数が最も多いのは、やはりですが「墜落・転落」です。2位の「はさまれ・巻き込まれ」の倍以上なので、墜落・転落を予防するのが効果的です。

3位が「転倒」、次に「飛来・落下」、「切れ・こすれ」と続きます。その他では、「激突」や「交通事故」、「崩壊・倒壊」や「感電」といった建設現場ならではの事故もあります。

死亡事故に限れば、全9産業でも墜落・転落が最多で建設業と同様ですが、死傷者数で見ると全9産業では転倒が最も多い事故になっており、建設業は少し事故の種類が違うことがわかります。

建設現場における事故事例

それではここから、建設現場における実際の事故事例と、事故を防止するための注意点などを紹介していきます。

事故事例①「墜落・転落」

最初に紹介するのは、ビルの新築工事中に作業台を使って作業していた作業員がバランスを崩して倒れた、という事例。作業台というのは脚立などの場合もありますが、「立ち馬」といわれる、脚立の一番高い部分が少し幅広になっているものです。

こういった事故は非常に多く、2019年の法改正で高さ2m以上の高所で作業をする場合は原則、安全帯着用が必要になりました。また、「安全帯」も「墜落制止用器具」と名称が変更され、従来のベルト式から原則としてフルハーネス式に変わりました。

今回の事例でいうと、作業台の高さは脚立5段、1.75m程度でしたが、自分の身長ほどの場所から落下すると考えると非常に危いですよね。作業中は身を乗り出すこともあり、工具を持って両手もふさがっていると大変危険です。

簡単に持ち運べる作業台は便利ですが、目視点検などのような簡易な作業以外ではしっかりと足場などを設置し、作業環境を整えることが事故防止になります。「ちょっとなら…」「面倒くさいから…」という気持ちが重大事故につながるのです。

事故事例②「墜落・転落」

もう1つ、「墜落・転落」の事例を紹介します。

解体工事中の現場で、2階床の開口部を鉄板で養生していたところ、作業員が鉄板に乗り、鉄板が外れて下階に転落したという事故がありました。

建設現場では、各種設備を設置する開口部などの穴があちこちに開いていますし、窓や建具が入る部分も工事中は開きっぱなしです。そういった開口部から落下する事故は大変多いです。

当然、開口部から落下しないようにする対策も大切ですが、『開口部を周知すること』も必要です。

今回のケースでは、鉄板で落下防止措置を取っていましたが、鉄板が落下しないように二重、三重に開口部養生をしておくべきだったでしょう。また、墜落防止措置が取られているとはいえ、鉄板に乗るのは非常に危険な行為です。手すり枠やカラーコーンなどで開口部に人が近づかないようにすることが事故防止に効果的です。

事故事例③「転倒」

次に紹介するのは「転倒」の事例です。

つまずいて転ぶ事例も多いのですが、建設現場で特に気を付けたいのが“重機の転倒”。外構工事を行う際にドラグショベル(ユンボ)で作業をしていたところ、傾斜地でバランスを崩し転倒した、という事例があげられます。

ドラグショベルなどの重機で作業を行う際には、必ず作業計画を作成し、運転手以外に外部から指示するオペレーターなどを配置することが大切です。

工事現場では地面が平たんであることの方が少なく、大きな荷物をショベルで扱うと重心がブレてバランスを崩すことが多いです。自走式のクレーンの場合は、モード切替などを適切に行い、安全装置を使用することが事故防止には不可欠。

もちろん、適切な免許を所持している人が作業するのが前提です。

事故事例④「はさまれ」

次は「はさまれ」ですが、これも意外と多く、危険な事故です。アースドリル掘削機で場所打ち杭を施工中、掘削機を旋回させたところ、背後にいた作業員に気づかず、作業員が現場の手すりと掘削機の間にはさまれた事例です。

アースドリル掘削機は固い岩盤を地下深くまで掘り進める重機であり、かなり大きなものです。運転手はドリルで掘削する作業場所は注視していますが、背後までは気が回らないことも多く、重機が旋回したときに、はさまれてしまったりぶつかったりする事例は少なくありません。

また、作業中は大きな音が出るので安全確認の指示や合図が聞こえないこともあります。

作業について朝礼時などに周知すること、作業ヤードをしっかりと隔離して該当作業に従事する関係者以外が入れないようにすること、運転者以外の第三者が重機の死角についてしっかりと安全確認をすることが事故の予防になります。センサーやバックカメラのついた重機を使用することも有効です。

事故事例⑤「飛来・落下」

次は「飛来・落下」。トラックで鉄骨が搬入され、荷降ろしをしているとき、積んであった鉄骨が崩れ落ち作業員が鉄骨に激突した事例です。

重たい鉄骨などは「玉掛け」といって、クレーンに結び付けてクレーンで持ち上げます。玉掛けは講習を受けた人しかできない作業になるので、まずは作業者がしっかりと必要な資格を持っているかどうか確認することが大切です。無免許での作業は当然危険が伴います。

また、積み荷の下や近くなど危険な場所には近寄らないようにするとともに、立ち入り禁止措置を取ることも大切です。

クレーンからの落下は、工事現場外の通行人などに被害が及ぶこともあり、絶対に防がなくてはいけない事故です。

建設現場での事故を防ぐために

こういった事故はあってはいけないことですが、毎年数多くの現場で起きています。

有名な【ハインリッヒの法則】では、1件の重大事故の背景には軽微な事故が29件、さらにその背後には事故寸前の“ヒヤリハット”の事例が300件あるといわれています。

作業に慣れてくると、「ちょっとだけなら」「すぐ終わるから」と安全帯の使用や安全対策を怠ってしまうことがありますが、これが事故のもとです。工事現場では、朝礼などで安全への注意喚起を行っていますが、“本人の意識”も大切です。

また、『万が一のときに事故が起きない』『事故が起きても被害を出さない』ことも重要。

【フェイルセーフ】という考えがありますが、これは“装置はいつか必ず壊れる”という前提で、壊れたときでも被害がでないように設計するという考え方です。例としては、地震で転倒すると自動で運転を停止するストーブなどがイメージしやすいでしょう。

誤った操作をしても被害がでないようにする【フールプルーフ】という考えもあります。こちらは、ドアを閉めないとスイッチが点かない電子レンジなどがイメージしやすいですね。

どちらも建築の世界ではよく取り入れられる考え方ですが、こういった考えをもとに現場の管理をすることも有効です。

まとめ

『危険・きつい・汚い』の3Kといわれていた建設業ですが、最近はIT化なども進み、昔よりは職場環境が大きく改善されました。実際、女性作業員の割合なども高くなってきています。

とはいえ、工事現場には危険がつきもので、人間がやる以上、事故の事例もなくなりません。実際の事故事例を知り、安全対策や事故予防に努めることが大切です。

著者:独学一級建築士 nandsk

独学により一級建築士に合格。住宅やアパートの設計・工事監理、特殊建築物の維持管理、公共施設の工事設計・監督の経験あり。二級、一級建築士試験受験者へのアドバイスも行っている。『建築の楽しさを多くの人に知ってもらいたい』と話す。

関連するBLOG

TOP