建設トピックス

日本の非破壊検査を変える!新団体「日本インフラーキテクチュア検査技術協会」発足

2025年4月11日、東京都内で「一般社団法人日本インフラーキテクチュア検査技術協会設立発表記念 第1回技術討論会」が開催されました。

特別講演では、日本インフラーキテクチュア検査技術協会の理事が非破壊検査技術における最新の研究成果を紹介。その後、パネルディスカッションも行われました。

同協会は、株式会社計測技術サービス(東京都文京区)が中心となってこのほど設立された、非破壊検査業界における新団体で、“インフラーキテクチュア”とは土木の“インフラストラクチャー”と建築の“アーキテクチュア”を組み合わせた造語です。

土木と建築を横断的に結び付け、それぞれの知見や技術を集約・融合し、土木構造物・建築物を対象とした検査技術を発展・向上させるという思いが込められています。

日本インフラーキテクチュア検査技術協会の設立趣旨


あいさつする清良平理事長

日本の土木構造物や建築物、すなわち“インフラーキテクチュア”は高度経済成長期に集中的に整備され、近年、建設から50年以上経過したものが急増しています。これらをどのように維持管理・更新していくか、その老朽化対策がいま大きな社会課題として注目されています。

こうした状況を背景に、日本インフラーキテクチュア検査技術協会の清良平理事長(計測技術サービス社長)は技術討論会の冒頭あいさつで、

「日本のインフラーキテクチュアの安全は日本の技術で守る。この強い信念のもと、それに供する検査方法・検査装置の開発、検査技術者の育成、新たな技術の標準化、日本の技術を海外に発信することをミッションとしております」

と、同協会の設立趣旨を熱弁。

「“インフラーキテクチュア”は聞きなれない言葉かと思いますが、この言葉が日本中に広まったとき、日本のインフラーキテクチュアの安全は確立するものと私は信じています」

と力を込めました。

「とても心強い」小池都知事も活躍を期待


会場で投影された小池百合子東京都知事からのメッセージ

来賓祝辞では、小池百合子東京都知事からのビデオレターが披露され、

「“インフラーキテクチュア・インスペクション”という新しい概念の提唱をはじめ、より高度で効率的な検査、維持管理技術の発展を目指す皆様の取り組み、とても心強く思っております。建築と土木という2つの分野を横断的に結び付け、知識や技術の集約と標準化を図ることで、安全で安心な都市への歩みが加速していくことでしょう」

などと期待感を示しました。

目標は“キッザニア”にパビリオン出展


協会の展望を語る野口貴文副理事長

次に登壇した野口貴文副理事長(東京大学教授)は同協会の概要を説明。

これまで非破壊検査業界において資格制度や標準・規格などが十分に整っていなかった現状に触れ、「その溝を埋める必要があるのではないかと考えてこの協会を設立した」と紹介し、「技術の開発、標準化、規格化を国内外で図り、それらの普及に努めるため講習会を開催、資格者制度も設けていきたい」と展望を語りました。

同協会が対象とする分野については、「電磁波レーダ法や電磁誘導法などによって鉄筋コンクリートの鉄筋位置を確認するような検査技術が中心。またコンクリートに限らず、木造、鉄骨造の構造物、地盤の空洞化なども対象になってくる」と述べました。

また、将来を担う子どもたちに非破壊検査技術に触れてもらう普及活動も展開するとし、▽“キッザニア”にパビリオンを出す▽人気職業ランキングでトップ100に入る―などを目標として掲げました。

非破壊検査技術の研究最前線!3名の理事が特別講演

この後、同協会理事3名による特別講演が行われ、さまざまな非破壊検査技術の研究状況などが紹介されました。

講演者と講演タイトルは次のとおりです。

【水谷司理事(東京大学准教授)】
車載型レーダによる路面下の「四次元透視」の未来 ―陥没事故のリスク低減への挑戦―

【溝渕利明理事(法政大学教授)】
レーダを用いた塩化物量の推定

【濱崎仁理事(芝浦工業大学教授)】
竣工時のかぶり厚さの検査への電磁波レーダ法の適用―比誘電率の推定方法に関する研究―

『道路版MRI』+『時間変化』=『四次元透視』


水谷司理事は車載レーダによる路面下の“透視”技術の研究について講演

水谷司理事は、車両にレーダを搭載して走行するだけでリアルタイムに地下や橋梁内部の立体マップをつくる“三次元透視”の技術を研究中だといいます。

昨今、2025年1月に埼玉県八潮市で発生した道路陥没事故をはじめ、世界各地でインフラ事故により多くの人が命を落としています。そうした事故を未然に防ぐために、「陥没などが発生する前に何とか異常を検出できるようにしたい」と水谷理事は研究の意図を話します。

地中レーダにより、特定の埋設物のみを検出するのではなく、地下内部の多種多様な情報を可視化する汎用性のあるアルゴリズムの確立を目指しているという水谷理事。「いわば道路版のMRI、レントゲンのようなものを実現したい」と表現します。

さらに、検査車両の走行を自動運転化できれば、同じ場所を繰り返し測ることが可能になるとし、

「これにより時間変化の情報を取得することができ、三次元のマップに時間軸が加わって四次元情報になる。私はこれを“四次元透視”と呼んでいて、この技術が実現できるのではないかと考えています」

と力強く語っていました。

レーダによる測定でコンクリート内部の塩分量がわかる!?


自身のこれまでの研究成果を語る溝渕利明理事

溝渕利明理事は、25年来取り組んでいる、コンクリート構造物内部の塩分量をレーダによる測定で推定する技術の研究について講演しました。

コンクリート構造物の内部に塩分が入ると中の鉄筋を腐食させ、構造物の劣化を引き起こすことから、溝渕理事は「『塩分がどれくらい入っているか』『それにより腐食がいつごろ起こるのか』が非破壊検査でわからないかという研究をしている」と話します。

コンクリート内部に塩分が入っている場合、レーダによる測定を行うと反射して返ってくる波形に変化があることがわかったといい、これをもとに「塩分量自体はある程度、推定可能」とのこと。

さらに、構造物の部位ごとに塩分量をマッピングする技術を研究中で、「これができれば、『何年後にはどのあたりに塩分がたくさん入っているか』という推定もできるようになる」と述べました。

また、構造物内部に塩分が入り鉄筋が腐食すれば、コンクリート内部にひび割れが入ります。この内部ひび割れが拡大することで構造物の劣化を進めるため、「そうなる前に微細な内部ひび割れをレーダによる測定で検知できないか」という研究にも近年取り組んでいる溝渕理事。

機械学習を用いて、レーダによる測定で得られた波形データからひび割れの検知を試みているといい、

「コンクリート全体が傷む前に一部の欠陥を見つけ出すというのが、我々が事前にできる予防手法。まだまだ研究の余地はいっぱいありますが、微細なひび割れの検知は可能だと思います」

と今後の展望を語りました。

かぶり厚さ検査をよりスムーズにする手法の確立を目指して


濱崎仁理事は講演の中で今後の協会活動についても言及

濱崎仁理事の講演では、かぶり厚さ検査にレーダを活用する方法の研究を紹介。

かぶり厚さとは、コンクリート構造物の内部に埋められた鉄筋を覆うコンクリートの厚さのこと。耐久性や耐火性、強度などの観点から十分な厚さを確保することが重要で、建築物は建築基準法施行令、土木構造物については示方書などで、用途によってその厚さが規定されています。

日本建築学会の建築工事標準仕様書(JASS 5)では、かぶり厚さ検査の手法について『電磁誘導法または同等の精度で検査が行える方法』と定められていますが、従来の電磁誘導法という試験方法は「判定基準が細かく複雑で、現場で行うには非常に大変だという声がある」と濱崎理事は話します。

そこで「できるだけスムーズでやりやすい方法を適用できるようにしたい」という思いから、レーダを用いた試験方法を確立し、これをJASS 5に規定されるよう日本インフラーキテクチュア検査技術協会として取り組んでいくと語る濱崎理事。

レーダを照射して得られるデータは、コンクリートの含水状態や比誘電率によって変化するため、これらを補正する方法のルール化が必要とし、整備を進めているといいます。

濱崎理事は「試験方法ができたら、次は人。講習会や資格制度などを設けて、この試験方法ができる人を養成していかないといけない。このあたりも協会の1つの活動になると思っています」と話していました。

検査技術がとてつもない需要を生み出す可能性

特別講演に続いて行われたパネルディスカッションでは、清理事長が司会を務め、各理事の講演内容をもとに意見を交わしたほか、来場者との質疑応答も行われました。

来場者からの質問の1つに、

「検査業は土木・建築の一部であるが、力がなくてもできる業務のため、女性やテクノロジー分野の方の参入も期待している。ただ、採用には苦戦しており、新しい人を引き込むためにはどうしたらいいか」

という問いかけがありました。

これに対して水谷理事は「裾野を広げるためには、魅力的なキーワード、一般の人たちの感覚を引き付けるような表現が重要」と私見を述べ、自身の経験談を披露。

それは東京大学のオープンキャンパスの際、水谷理事の研究室で出展するイベントを企画したときのこと。学生からのアイデアで、空洞の中に入れた“宝物”をレーダによって見つけ出す「宝探しゲーム」を開催し、レーダ探査の体験会を行ったといいます。

この企画は大人気となり、「信じられないくらい子どもたちが来てくれた」と振り返る水谷理事。

こうした経験から「皆さんはいろんな技術をお持ちだと思いますが、切り口や表現を変えるだけで、とてつもない需要を生み出す可能性があるんじゃないかと思います」と話しました。

「今日ここから日本の非破壊検査が変わる!」

日本インフラーキテクチュア検査技術協会は今後、技術開発や人材育成に取り組み、広報事業も展開していくとのこと。

清理事長は冒頭のあいさつで、

「今日ここから日本の非破壊検査は変わっていきます。皆様はその瞬間に立ち会われた目撃者となります。一緒に日本・世界のインフラーキテクチュアの安全に貢献しようではありませんか」

と会場に語りかけていました。

土木構造物や建築物の老朽化が社会課題として注目される中、同協会の今後の活躍が期待されます。

なお、設立記念技術討論会は今後、大阪と福岡でも開催予定です。詳細は同協会HPなどでご確認ください。

(建設データ編集部)

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