コンクリートのスランプ試験とは?試験方法や目的、生産性向上にまつわる最近の話題も紹介

【この記事を執筆したのは…】
飴田ちさとさん
一級土木施工管理技士|Webライター|SEO対策など建設業界向けマーケティング支援|建設会社で9年間勤務した後に起業|学術論文執筆経験あり
さまざまな土木構造物に使用されるコンクリート。
コンクリートには「圧縮強度が大きい」「耐久性・耐火性・耐水性が高い」「自由な形状を作れる」「材料を組み合わせて複合構造を構築できる」などの特長があります。
生コン工場で製造され現場に搬入されるコンクリートを生コンクリートと呼びます。
生コンクリートは土木構造物にあわせて適切な軟らかさにしておく必要があり、生コンクリートの変形や流動に対する抵抗の程度(コンシステンシー:変形量)を測定するために行うのが「スランプ試験」です。
建設現場でコンクリートの品質管理を行う現場技術者が知っておきたいスランプ試験。しかし、はじめてコンクリートの品質管理に携わる場合、スランプ試験についてわからないこともあるでしょう。
今回の記事では、コンクリートのスランプ試験とは何かを詳しく解説します。スランプ試験の方法や実施目的、生産性向上にまつわる最近の話題についても紹介します。
新入社員など若手技術者がスランプ試験を正しく理解できるように解説するので、本記事を参考にコンクリートの品質管理をマスターしましょう。
コンクリートの「スランプ試験」とは

コンクリートのスランプ試験とは何かを詳しく解説します。
スランプ試験についての理解を深めてみてください。
そもそもコンクリートのスランプ(スランプ値)とは?
コンクリートのスランプ(スランプ値)とは、コンクリートの中央部の下がりを指します。
生コンクリートをコーン型の容器に詰め、その容器を引き上げると生コンクリートは流れていきますが、その際に「生コンクリートの中央部が何cm下がったか」を表すのがスランプ値です。
生コンクリートが軟らかいほど変形量は大きくなるので、中央部の下がり(スランプ値)も大きくなり、逆に硬ければ変形しにくくなるので下がりは小さくなります。
専用の検尺を用いて、この生コンクリートの中央部の下がりを測定するのが「スランプ試験」です。
スランプ試験の概要と目的
コンクリートのスランプ試験は、現場で実施するコンクリートの品質管理試験の1つです。スランプ試験は、日本産業規格(JIS A 1101 コンクリートのスランプ試験方法)に規定されています。
スランプ試験の概要と目的は、以下のとおりです。
【スランプ試験の概要と目的】
概要 | 生コン工場で製造後に現場に搬入されたレディーミクストコンクリートのスランプ値を算出する試験 |
目的 | レディーミクストコンクリートの変形や流動に対する抵抗を測定する |
生コン工場で製造され、現場に搬入された生コンクリートを「レディーミクストコンクリート」と呼びます。レディーミクストコンクリートは、日本産業規格(JIS)で制定されている生コンクリートです。
スランプ試験は、レディーミクストコンクリートの変形や流動に対する抵抗の程度(コンシステンシー)を測定する際に実施します。
ちなみに、レディーミクストコンクリートには、以下の種類があります。
【レディーミクストコンクリートの種類】
- 普通コンクリート
- 軽量コンクリート
- 舗装コンクリート
- 高強度コンクリート
上記のレディーミクストコンクリートは「粗骨材の最大寸法(mm)」「スランプまたはスランプフロー(cm)」「呼び強度」によって、呼び方が変わるので覚えておきましょう。
たとえば「普通 21 18 20 N」と呼ばれるレディーミクストコンクリートは、それぞれ以下を示しています。
【(例)「普通 21 18 20 N」のレディーミクストコンクリート】
- 普通:コンクリートの種類による記号
- 21:呼び強度
- 18:スランプまたはスランプフロー(cm)
- 20:粗骨材の最大寸法(mm)
- N:セメントの種類による記号
ここまでをまとめると、コンクリートのスランプ試験とは、生コン工場で製造後に現場に搬入されたレディーミクストコンクリートの変形や流動に対する抵抗を測定するために実施する試験です。
スランプ試験の方法
スランプ試験を実施する際は、以下の手順で進めましょう。
品質管理試験で悩まないために、ぜひチェックしてみてください。
試験用器具を準備する
スランプ試験で使用する試験用器具は、以下のとおりです。
【スランプ試験で使用する試験用器具】
- スランプコーン
- 平板
- 水準器
- 湿布
- スコップ
- 突き棒
- コテ
- 検尺
スランプ試験を実施する前に、まずはスランプコーンを湿布で拭いておきます。スランプコーンはスランプ試験で用いる専用の器具で、円錐台(例:プリン)の形をしています。
次に、水準器を使って平板を水平になるように置き、その中心にスランプコーンを設置しましょう。
試料を詰める
スコップを使用し、スランプコーン内に試料(レディーミクストコンクリート)を詰めます。
試料を詰めるときは、均等に3層にわけて入れるのがポイントです。
締め固める
1層ごとに試料を均した後、突き棒で25回突いて締め固めます。前の層に届くように、外側から内側に向かって突くのがポイントです。
ただし、1層目を突く際は平板に当たらないようにしましょう。
3層目を突いた後、試料がスランプコーンの上端から出ないように平らに均します。
スランプコーンを引き上げる
スランプコーンの取っ手を持ち、2~3秒かけて鉛直30cm上方に静かに引き上げます。
試料の形が崩れた場合は、一度スランプコーンに詰めた試料ではなく別の試料を使い、再度試験を行います。
スランプを測定する
検尺を使い、コンクリートのスランプ(中央部の下がり)を0.5cm単位で測定します。
スランプ試験とスランプフロー試験の違い
スランプ試験とよく似た試験で、スランプフロー試験というものもあります。
スランプ試験(JIS A 1101 コンクリートのスランプ試験方法)とスランプフロー試験(JIS A 1150 コンクリートのスランプフロー試験方法)の目的は同じで、コンクリートの変形や流動に対する抵抗を測定するために実施します。どちらも同じ試験器具を使用して行います。
スランプ試験とスランプフロー試験の違いは、以下のとおりです。
【スランプ試験とスランプフロー試験の違い】
スランプ試験 (JIS A 1101 コンクリートのスランプ試験方法) |
スランプコーンを引き上げたとき、中央部の下りがどのくらいかを測定する |
スランプフロー試験 (JIS A 1150 コンクリートのスランプフロー試験方法) |
スランプコーンを引き上げたとき、縦横にどのくらい広がったかを測定する |

【引用】全国生コンクリート工業組合連合会・全国生コンクリート協同組合連合会|生コンクリートの品質 スランプ・スランプフロー
全国生コンクリート工業組合連合会・全国生コンクリート協同組合連合会の公式ホームページでは、スランプ試験とスランプフロー試験についての解説が掲載されています。
本記事とあわせてチェックしてみてください。
【参考】全国生コンクリート工業組合連合会 全国生コンクリート協同組合連合会|生コンクリートの品質
スランプ値がコンクリートに与える影響
スランプ値は、コンクリートの品質や現場での作業性に影響を与えます。
スランプ値が大きいほどコンクリートの流動性は高く、扱いやすくなるため、作業性が容易であると判断できます。コンクリートの一連の作業を容易にできる性質を「ワーカビリティー」と呼びます。
しかし、必ずしも「スランプ値が大きければ良いコンクリート」というわけではありません。スランプ値が大きいと材料分離を引き起こすこともあるので、設計や施工の条件にあわせて適切な配合設計を定めなければなりません。
また、材料分離を防ぐためにはコンクリートの打ち込み時に気をつけることもあります。
公益社団法人土木学会が発刊している「コンクリート標準示方書」では、コンクリートの打ち込み時の方法について記載があります。コンクリートを打ち込む際は自由落下高さ1.5m以下とし、1層の高さは40~50cm以下とするのが標準です。
スランプ試験を含むコンクリートに関する知識が追いつかないという方は、以下の『土木施工管理技士講座』もチェックしてみてください。
ちなみに、土木施工管理技士の試験ではコンクリートに関する問題も出題されています。わたしもコンクリート工の点数を取ることを優先して資格試験の対策をしました。
施工管理技士の資格合格を目指す方は、ぜひ本記事とあわせてご覧ください。
スランプ試験以外に建設現場で実施する試験

コンクリートの品質を管理するために行うのは「スランプ試験」だけではありません。建設現場では、スランプ試験以外にも以下のような試験を実施する必要があります。
コンクリートの品質管理についての理解を深めましょう。
空気量試験
空気量試験はコンクリート中の空気量を測定する試験で、スランプ試験と並行して実施します。

【引用】全国生コンクリート工業組合連合会 全国生コンクリート協同組合連合会|生コンクリートの品質 空気量
空気量試験には、以下の3種類があります。
【空気量試験】
- 質量方法(JIS A 1116 フレッシュコンクリートの単位容積質量試験方法及び空気量の質量による試験方法)
- 容積方法(JIS A 1118 フレッシュコンクリートの空気量の容積による試験方法)
- 空気室圧力法(JIS A 1128 フレッシュコンクリートの空気量の圧力による試験方法)
上記の中でも、もっとも一般的なのが空気室圧力法です。
コンクリート中の空気量が多いほど、スランプは大きくなります。空気量はコンクリートのワーカビリティー(作業の容易さ)に影響するため、正しく管理することが重要です。
【参考】全国生コンクリート工業組合連合会 全国生コンクリート協同組合連合会|生コンクリートの品質 空気量
塩化物含有量
塩化物含有量とは、コンクリート中に含まれる塩化物イオン量(CL‾)を指します。
塩化物含有量が多いとコンクリート中の鉄筋の腐食につながるため、正しく管理しなければなりません。「JIS A 5308(レディーミクストコンクリート)」では、荷卸し地点での塩化物イオン量を0.30kg/m3以下としなければならないと定められています。
ただし、購入者の承認を受けた場合の塩化物イオン量は、0.60kg/m3以下とすることができます。“購入者の承認”とは、発注者・施工者・設計者などがコンクリートの品質や耐久性に支障がないと判断し、承認(同意)することです。

【引用】全国生コンクリート工業組合連合会 全国生コンクリート協同組合連合会|生コンクリートの品質 塩化物含有量
【参考】全国生コンクリート工業組合連合会 全国生コンクリート協同組合連合会|生コンクリートの品質 塩化物含有量
強度
強度とは、一般的にコンクリートの圧縮強度を指します。
コンクリートの圧縮強度は「JIS A 1108(コンクリートの圧縮強度試験方法 )」による圧縮強度試験で求めます。
試験の手順は、まず「JIS A 1132(コンクリートの強度試験用供試体の作り方)」によって作られた円柱供試体に対し、試験機で荷重を与えます。供試体が破壊するまで荷重を与え続け、破壊した際の荷重(これを最大荷重と呼びます)を読み取ります。
この最大荷重を円柱供試体の断面積で割ったものが圧縮強度(N/mm2)です。
【圧縮強度の算出式】
fc=P/A
fc:圧縮強度(N/mm2)
P:最大荷重(N)
A:円柱供試体の断面積(mm2)
圧縮強度試験は3つの円柱供試体で実施し、1回の試験結果は呼び強度の強度値の85%以上、3回の試験結果の平均値は呼び強度の強度値以上でなければなりません。
【参考】全国生コンクリート工業組合連合会 全国生コンクリート協同組合連合会|生コンクリートの品質 強度
その他
コンクリートには運搬時間の決まりがあるので、あわせて覚えておきましょう。
生コンクリートミキサー車(トラックアジテータ)を使用する場合は、コンクリートの練り混ぜを開始して1.5時間以内に荷卸しできるように運搬しなければなりません。
ダンプトラックを使用してコンクリートを運搬する場合は、練り混ぜを開始して1時間以内に荷卸しします。
また、今回ご紹介した生コンクリートの検査については、生産者側(生コン製造者)と購入者側(建設現場)で行われなければならない試験がそれぞれ決まっています。
全国生コンクリート工業組合連合会・全国生コンクリート協同組合連合会の公式ホームページでは、図解つきの詳しい解説があるのでチェックしてみてください。
【参考】全国生コンクリート工業組合連合会 全国生コンクリート協同組合連合会|生コンクリートの検査
「スランプ試験が廃止?」コンクリートの生産性向上にまつわる最近の話題

ここまで、コンクリートのスランプ試験について解説してきましたが、実は建設現場で行うスランプ試験の廃止が検討されているのを知っていますか?
国土交通省では、コンクリート工の生産性向上を目的に「コンクリート生産性向上検討協議会」を設置してさまざまな議論を行っており、その一環として「スランプ試験の廃止」も検討が進められています(2025年2月26日現在)。
ここからは、コンクリート生産性向上検討協議会で検討されている内容を紹介していきます。
各種ガイドラインのフォローアップ・改定検討
現場打ちコンクリートとプレキャストコンクリート(詳しくは「プレキャストの活用」にて解説)において、各種ガイドラインのフォローアップ・改定検討を進めています。
対象のガイドラインは以下の6つです。
【フォローアップ・改定検討を進めているガイドライン一覧】
現場打ちコンクリート |
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プレキャストコンクリート |
|
上記6つのガイドラインのうち「流動性を高めた現場打ちコンクリートの活用に関するガイドライン」では、スランプを12cm以上にしたコンクリートを用いる場合の技術的な留意事項について記載されています。
各種ガイドライン改定については、以下のように進める方針です。
【各種ガイドラインの改定の進め方】
2024年度(令和6年度) | 過去5年間のフォローアップ調査結果により、各種ガイドラインの改定の必要性を検討する |
2025年度(令和7年度) | 各種ガイドラインに関してWGによる改定を検討する |
【参考】国土交通省|コンクリート生産性向上検討協議会(第14回・令和7年2月26日)(2) 規格の標準化・要素技術の一般化及び全体最適化の検討・各種ガイドラインのフォローアップ・改定検討について
生コン情報の電子化(スランプの画像解析)
生コンクリートの情報を電子化する取り組みの一つとして、AIによる画像解析でスランプ値を推定する技術を導入し、品質管理試験の代替えを検討しています。
今回の記事のテーマであるスランプ試験と関連性のある内容です。
生コン車のシュートから流れる生コンクリートをカメラで撮影、AIで画像解析を行ってスランプ値を推定することで、スランプ試験などコンクリートの品質管理試験を代替えするというもの。品質管理試験の代替えが進めば、大幅な省人化が実現できます。
2023年度から全国直轄工事で試行を実施しており、2025年2月26日に開催されたコンクリート生産性向上検討協議会の会議では、一般社団法人日本建設業連合会が『「生コン情報の電子化」に向けた試行の実施経過報告(案)』を公開しました。
【参考】
国土交通省|コンクリート生産性向上検討協議会(第14回・令和7年2月26日)(3)サプライチェーンマネージメント等の検討 ・生コンクリート情報の電子化について
国土交通省|「生コン情報の電子化」に向けた試行の実施経過報告(案)2025年2月26日(一社)日本建設業連合会
コンクリートの品質管理と検査手法の省力化
先ほどご紹介した画像解析によるスランプ試験の代替えも含め、出荷・運搬時や受け入れ時に新技術を導入したり運用変更したりすることで、コンクリートの品質管理と検査手法の省力化を検討しています。
詳しい内容は、以下のとおりです。
【コンクリートの品質管理と検査手法の省力化における検討内容】
出荷・運搬時 | 情報化ミキサによる生コンクリートの品質管理 |
受け入れ時 | 画像などによる生コンクリートの品質管理・簡便な手法による生コンクリートの品質管理 |
運用変更 | 性能規定型の運用(スランプの廃止) |
従来は発注者が行っているスランプの明示を将来的には廃止して、受注者がスランプを決定。出荷・運搬時は情報化ミキサによって生コンクリートの品質を管理し、建設現場での受け入れ時には画像解析などで品質管理することにより、検査項目からスランプを削除する(スランプ試験の廃止)、という流れを想定し検討しているとのことです。
【参考】国土交通省|コンクリート生産性向上検討協議会(第14回・令和7年2月26日)(3)サプライチェーンマネージメント等の検討・コンクリートの品質管理・検査の省力化に向けたあり方検討
プレキャストの活用
コンクリート工の生産性向上施策の一つとして、i-Constructionでも掲げられているプレキャスト製品の活用。
同協議会ではプレキャスト製品のさらなる活用を推進するために、VFM(Value For Money)の考え方を取り入れ、プレキャストの導入促進に向けた検討も進めています。
VFM(Value For Money)とは、価格(Money)に対して価値(Value)の高いサービスを提供するという考え方のこと。
プレキャストと現場打ちの工法比較において、コスト以外で建設現場に寄与する点も踏まえた評価手法を確立することで、プレキャストの導入を促進するねらいです。
これまでに、ボックスカルバートやL型擁壁を対象として、設計段階からVFMの考え方を取り入れた評価を行うための「VFMによるコンクリート構造物の工法比較に関する試行要領(案)」を策定。この試行要領(案)を用いてプレキャスト工の試算・検証や試行を進め、評価項目や配点の見直しを行っています。
スランプ試験を理解し、正しくコンクリートの品質管理をしましょう!

今回は、コンクリートの品質管理で覚えておきたい「スランプ試験」について解説しました。
スランプ試験は、レディーミクストコンクリートの変形や流動に対する抵抗を測定するために実施する試験です。
わたしも、大学時代の実習や新入社員研修でスランプ試験を実施しましたが、実際に現場でどのように品質管理をしているのか理解していませんでした。
コンクリートのスランプ値はワーカビリティーに影響するので、正しく品質管理を行うことが大切です。これからコンクリート工事を担当する現場技術者の方は、ぜひ本記事を参考にしてみてください。
また、建設業界で「スランプ廃止」が話題になっているように、コンクリートの品質管理における従来方法の見直しも進められています。
今後、国土交通省コンクリート生産性向上検討協議会の動きにも注目していきましょう。

著者:飴田ちさと

著者:飴田ちさと