日本の住宅が変わる新省エネ基準|一級建築士による建設アラカルト

ナレッジ/ノウハウ

【Written by 独学一級建築士 nandskさん】

低気密低断熱の日本の家

日本の住宅の質が低いという話は、住宅産業界隈では昔から言われていた話ですが、ここへ来て大きな転換点を迎えています。

もともと、日本は夏の高温多湿に対応することを優先して住まいづくりを進めており、冬はたくさん着込んで対応するという考えでした。また、地震などの災害も多く、質の高い家を造って長期間住むという考えがありませんでした。同時に、戦後の日本は住宅が不足しており、とにかく量を供給する必要があり、高品質の家というものをあまりつくってこなかったんです。

時代が進み、技術的にも住宅の耐震性能が当たり前になり、住宅の量も足りてきたところに、省エネやカーボンニュートラルなど環境への配慮が世界的にも注目され始め、日本の住宅産業も変わらざるを得なくなったという訳ですね。ここからは、具体的にどう変わっていくのかというのを見ていきましょう。

UA値とC値

住宅の性能を図る指標としてUA値とC値というものがあります。UA値は、以前はQ値という別の指標だったのですが、今はUA値に統一されています。

UA値は、外皮平均熱貫流率というもので、建物の外部の温度をどの程度内部へ伝えてしまうかという指標です。C値は相当隙間面積というもので、家にどれくらいの隙間があるかを表す数値です。UA値は断熱性、C値は気密性を表す指標として、ハウスメーカーなどで説明を受けた方も多いかと思います。

省エネ対応へ向けて変わる日本の住宅基準

国が示すUA値の基準は、地域にもよりますが、東京都(省エネ地域区分6地域)であればUA値0.87以下(断熱等級4)というのがかつては最高グレードでした。これは建築物省エネ法に基づく省エネ基準で、税制優遇を受けるための長期優良住宅という認定制度でもUA値0.87以下というのが基準となっていました。

ですが、海外に目を向けるとフランスは0.36、ドイツは0.4、アメリカは0.43というのがUA値の基準となっています。しかもこの数値は法律で定める最低基準であり、これよりUA値が高い建物は法的にNGということなんです。これだけでも、日本の住宅の質がいかに低いかということがわかりますね。

これではまずいということで、2022年に断熱等級5という新しい基準を設け、UA値0.6以下としました。さらに半年後には断熱等級6(UA値0.46以下)、断熱等級7(UA値0.26以下)の基準を新設。2025年からはすべての新築住宅にかつての最高グレードの断熱等級4を義務付けることが決まっています。

新たに設定された断熱等級はHAET20の基準を参考にしています。HEAT20というのは、昔から日本の住宅の高断熱化を推奨していた組織で、「2020年を見据えた住宅の高断熱化技術開発委員会」と言います。このHAET20が提唱するグレードが3段階あり、最も下のG1でUA値0.6、G2でUA値0.34、G3でUA値0.23でした。断熱等級とは若干数値が違いますが、概ね同じような基準値になっています。

UA値だとわかりにくいかもしれませんが、G1では真冬でも室内は10℃以上、G2では13℃以上、G3では15℃以上と考えるとイメージしやすいかもしれません。

C値については明確な基準は無いものの、かつては1以下であれば優れた住宅と言われていましたが、今は0.5以下が多くみられるようになり、測定値で0.1という超高気密住宅も施工され始めています。

高気密高断熱をどこまで目指すのか?

カーボンニュートラルの実現に向けて、省エネ対策を加速させている住宅業界ですが、断熱等級7などを目指すべきなのでしょうか? 断熱等級7(HEAT20・G3相当)だと真冬でも家の中は15℃以下にはなりません。さらに暖房などの熱源を使えば、すぐに建物内は20℃以上になり、快適になるでしょう。ですが、本当にここまで必要かどうかは悩むところ。

住宅の健康という意味では室内温度が10℃を下回ると結露が生じやすくなります。結露については、人がいない時でも生じさせないことが原則ですので、無暖房の間も室温が10℃を下回ることが無いようにしたいです。そうすると、断熱等級5、HEAT20・G1のUA値0.6というのが室温10℃を下回らない基準なので、一つの目安になりそうです。

また、WHO(世界保健機関)の「住宅と健康に関するガイドライン」では、ヒートショックの予防には冬季の最低室温は18℃とされています。もちろん、冬は暖房器具をまったく使わないということはあり得ないので、断熱等級5、6くらいでも暖房を入れればすぐに18℃にはなるはずです。高気密住宅であれば、一度温めた空気が外に逃げないので、断熱等級7までを目指さなくてもWHOの提唱する基準は満たせそうです。

パッシブデザインを組み入れる

日本には、従来から風や太陽光など自然の力を活用して生活の質を上げるという考えがあります。こういった考えは、エアコンなどの機械を使って快適な空間を作るアクティブデザインに対して、パッシブデザインと言います。高気密高断熱の家に全館空調機などを付けて、アクティブに制御していくのも一つの手法ですが、自然の力を活かした方が、より省エネで効率的です。パッシブデザインの考えは古くから日本で活用されてきており、日本の強みでもあります。

例えば、庭に落葉樹を植えるだけでもパッシブデザインと言えます。夏は葉が生い茂り日差しを遮り、冬は葉が落ち日差しを遮りません。これだけでも自然の力を活かしたデザインと言えます。

また、タスクアンビエントという考えもあります。人がいる空間をスポット的に快適にする手法で、例えば扇風機の活用や炬燵などがこれに当たります。こうした手法を取り入れることで、住宅性能を高めることができるでしょう。更に言えば、日差しを取り入れるハイサイドライトや畳などを利用すれば体感温度としては快適になってきます。

高気密高断熱の住宅の質の向上も大切ですが、あまり性能値に踊らされることなく、実際に体感として快適かどうかという点に注目して家づくりを進めることが重要です。

このように、日本の気候や特殊性から、低かった住宅の質が海外に負けないくらいに向上してきており、今後の日本の住宅は今までとは大きく変わることになるでしょう。UA値などの性能はもちろん重要ですし、海外に追いつけ追いこせというのも悪くはありませんが、建築家としての工夫というのも盛り込み、より省エネな住宅を目指してみるのも良いでしょう。

【独学一級建築士 nandskさん】

独学により一級建築士に合格。住宅やアパートの設計・工事監理、特殊建築物の維持管理、公共施設の工事設計・監督の経験あり。二級、一級建築士試験受験者へのアドバイスも行っている。『建築の楽しさを多くの人に知ってもらいたい』と話す。

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