建築基準法第48条のただし書き許可とは?|一級建築士による建設アラカルト

現場ノウハウ

【Written by 独学一級建築士 nandskさん】

建築基準法には、原則に対して例外を定める許可条文が複数あります。

例えば、接道義務(建築物を建てる敷地は原則、幅員4m以上の道路に2m以上接していないといけないという規定)を満たさない敷地においても建築を認める建築基準法第43条の“許可”は、一般的な戸建て住宅でも適用されることが多く、建築関係者にはなじみが深いものだと思います。

今回は、そんな例外を認める“許可”の中でも、実務で経験する人は少なく、あまり一般的な手続きではない建築基準法第48条の『ただし書き許可』について見ていきましょう。

建築基準法第48条とは

「建築基準法第48条」と聞くととっつきにくいかもしれませんが、この第48条に書かれているのは、いわゆる用途地域です。

用途地域とは、都市計画法に基づいて定められる地域で、第一種低層住居専用地域や第二種中高層住居専用地域、商業地域、工業地域など全部で13種類あります。

それぞれの用途地域には、建築可能な建物の『用途』がこの第48条によって定められており、行政がその地域のまちづくりを見据えて、13種類の中から選択して指定しています。

(※場合によっては指定しないなどの選択肢もあり、また都市計画区域外や市街化調整区域など用途地域よりも大枠で決まるものもありますが、ここでは割愛します)

用途地域と建築可能用途の例

実際の街中において、用途地域と建築基準法第48条がどのように作用しているか見てみましょう。

用途地域は「都市計画図」というもので確認することができ、今では多くの行政がインターネットでも公開しているので「○○(調べたい自治体名) 都市計画図」などと検索するとすぐに調べることができます。

今回は東京都新宿区の都市計画図を見てみます。


新宿区HPより

用途地域別で色分けされ、高層ビル群が有名な新宿西口エリアはピンク色になっています。これは商業地域を表しています。48条の第10項では、商業地域に建築してはいけない建築物が定められており、玩具煙火(おもちゃ花火)の製造やガラスの製造などをする工場で一定規模以上のものなどは建築できないことになっています。

今度は新宿駅から少し離れ、西武線の駅がある落合の辺りを見てみましょう。西落合や下落合など多くが緑色になっており、これは第一種低層住居専用地域を指します。48条の第1項では、第一種低層住居専用地域に建築可能な建築物が書かれており、それを見ると、建築可能なのは住宅、共同住宅、学校、図書館、神社、公衆浴場、診療所などとなっています。

ここで気付いたかもしれませんが、建築基準法第48条では、低層住宅系の用途地域には『建築可能なもの』が定められており、それ以外の用途地域には『建築してはならないもの』が定められています。

建築基準法第48条許可とは

建築基準法第48条許可(以下、48条許可)とは、先ほど説明した用途地域ごとに建築可能な建築物【以外のもの】を建てる際の許可制度になります。

48条の法文には原則に対する『ただし書き』があり、一定の条件をクリアすれば用途地域の規制を超える建築物も建てることが許可される場合がある、とされているのです。いわゆる『ただし書き許可』です。

例えば、第一種低層住居専用地域において店舗を建てるには、住宅に付属する店舗しか認められていません。これは2階が住宅で1階が店舗のようなものですが、住宅が併設されていない独立した店舗は原則、建築できないということです。そのため、第一種低層住居専用地域でコンビニを建てようとすれば48条許可が必要になります。

48条許可は気軽にはもらえない

用途地域は、先ほど説明したように地域のまちづくりを考えながら行政が指定しています。そのため、その用途地域の規制を超える用途の建築物を建てようとするのは、地域のまちづくりに反する可能性があり、48条許可は簡単にはもらえないんです。

2階建て住宅が立ち並ぶ第一種低層住居専用地域に、いきなり工場やショッピングモールなどができたら住民は困ってしまいますし、工場が立ち並ぶ工業専用地域に老人ホームや図書館などがあったら嫌ですよね。

許可を受けるにはそれなりの理由が必要になるため、非常にハードルが高くなります。

48条許可の事例

では、「まったく許可がもらえないのか」といえば決してそんなことはありません。実際に法律で認められた手続きであり、許可の事例もあります。

非常に難解な48条許可について、「国土技術政策総合研究所」という国土交通省の研究機関が解説資料を出しており、許可事例も掲載されています。こちらの資料によると、2013年度から2017年9月末までの許可事例は約1,360件となっており、多いようにも感じますが、日本全国の約5年間の数字なのでとても少ないといえるでしょう。

また同資料によると、件数として多いのは第一種住居地域や第二種住居地域に建築する工場、第一種低層住居専用地域や第一種中高層住居専用地域に建築する体育館、公的施設、店舗・飲食店、事務所などが大きな割合を占めています。

住居系の地域に工場を建てると聞くと「よく許可が下りたな」と思いますが、実際には想像するような工場ではなく、建築基準法で規制がかかる一定規模以上の原動機を使用する町工場や作業場のようなケースが多いでしょう。また、低層住居専用地域の体育館や公的施設も、公共施設を住宅地に建築するケースがほとんどです。

資料巻末に事例が載っていますが、第一種住居地域にドライクリーニングの工場を建築するケース、第一種低層住居専用地域にコンビニを建築するケース、第一種中高層住居専用地域に給食センターを建築するケースなどが紹介されています。

48条許可の条件

どのような条件を満たせば48条許可を得られるのでしょうか。

法文を読むと、「それぞれの用途地域の特性を害さない場合」「公益上やむを得ないと認める場合」の2つが条件となっています。

「公益上やむを得ない場合」の方が考えやすく、先ほどの事例から紹介すると、住民が使用する集会場や市民体育館、給食センターなどを住宅地に建てることは「公益上やむを得ない」と認められるでしょう。

一方の「用途地域の特性を害さない場合」については、第一種低層住居専用地域であれば『良好な住居の環境を害さない』、商業地域だと『商業の利便を害さない』などとされています。騒音や振動、夜間照明や交通上の影響など、様々な視点からその施設ができることによる影響を説明し、「用途地域の特性を害さない」ことを証明する必要があります。

もちろん、法原則から外れる『ただし書き』の許可になるので、用途地域の特性を害さないから必ず認められるというものではなく、地域のまちづくりなどと矛盾しないことも大切です。

48条許可の手続き

許可に当たっては、越えなければならないハードルが2つ、法律で定められています。

48条第15項によれば、「許可をする場合においては、あらかじめ、その許可に利害関係を有する者の出頭を求めて公開により意見を聴取し、かつ、建築審査会の同意を得なければならない」と書かれています。

前半部分は「公聴会」と呼ばれるものです。建築基準法の中で定められている手続きで、建築予定地に看板を立て、意見を言いたい人が出てくれば公聴会で意見を言ってもらうことになります。公聴会については各行政庁で手続きが異なりますが、公の場で住民から意見をもらう会になるので、非常にデリケートで大変な手続きになります。

後半部分は「建築審査会」という専門家で組織された会があり、その会で同意をもらうことが条件となっています。審査会のメンバーは行政経験者や地元の建築家、法律の専門家である弁護士や司法書士、医師や保健師といった衛生部門の専門家など多岐にわたり、大きな行政ほど人数も多いです。こちらの審査会も公開の会議で、各分野における専門家からの鋭い指摘が予想されるため、非常に難しい手続きです。

これらのハードルを乗り越えて、やっと許可されるのが48条許可なんです。

まとめ

48条許可は事例も多くなく、建築設計に携わる人でもキャリアの中で一度あるかないかといったレベルの手続きです。行政側も事例が少なく、手続きには年単位の調整がかかることもあって非常に難しいですが、まちづくりにも関係する奥が深い手続きなので、機会があれば貴重な経験で勉強になると思い、手続きに臨むとよいかもしれません。

著者:独学一級建築士 nandsk

独学により一級建築士に合格。住宅やアパートの設計・工事監理、特殊建築物の維持管理、公共施設の工事設計・監督の経験あり。二級、一級建築士試験受験者へのアドバイスも行っている。『建築の楽しさを多くの人に知ってもらいたい』と話す。

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