建築確認申請を早く通すためには?審査経験もある一級建築士が解説します!
【Written by 独学一級建築士 nandskさん】
今回は建築物をつくる際に必要となる「建築確認申請」についてのお話です。
建築確認申請(確認、申請)は設計者にとって、ここを越えればゴールともいうべきハードルで、「なかなか下りない…」と申請を通すために苦慮している人も多いと思います。そんな建築確認申請について、どうしたら早く通る(確認済証が発行される)のか、申請を出す側も、審査する側も経験した一級建築士が解説していきます。
建築確認申請とは
まずはベテラン設計者でも意外と知らない建築確認申請の定義などについて説明します。
法的な位置づけ
建築確認申請とは建築基準法(以下「法」)第6条に定められている手続きです。
法第6条では「建築物を建築・増築・大規模の修繕・大規模の模様替をする場合、工事に着手する前に、建築基準関係規定に適合するものであることについて、建築主事の確認を受け確認済証の交付を受けなければならない」と書かれています。
法文のとおり、建築物の工事に着手する前にはその計画が法律等に適合しているかの確認を受け、“確認済証”を取得することが必要となるのです。
また法文には、対象となる建物の規模や、確認を受けた後に計画を変更する場合の手続きについても書かれていますが、ここでは割愛します。
こちらの条文は2025年4月1日に法改正される予定です。詳細は以前の記事をご確認ください。
建築主事とは
法文では「建築主事」の確認を受けることとなっていますが、この建築主事とは誰なんでしょうか。
建築主事とは建築基準適合判定資格者という資格を持ち、知事または市町村長から任命を受けた人になります。わかりやすくいうと、地方公共団体で建築確認申請の審査を行う公務員になります。
法第4条では
- 人口25万以上の市は建築主事を置かなければならない
- 市町村は建築主事を置くことができる
- 都道府県は建築主事を置いた市町村の区域外における確認等事務のために建築主事を置かなければならない
となっています。
神奈川県を例に説明すると、人口25万人以上の市である横浜市や平塚市は建築主事を置く必要があります。鎌倉市や小田原市は人口25万人以下ですが建築主事を置いています。その他の市町村である逗子市、海老名市、箱根町、清川村などは建築主事を置いていませんが、神奈川県が建築主事を置いています。
ですので、横浜市で建物を建てる際は横浜市の建築主事に、箱根町で建物を建てる際は神奈川県の建築主事に建築基準関係規定に適合するかどうかの確認を受け、確認済証を発行してもらう必要があるということです。
建物を建てたい敷地の場所によって市役所に相談にいったり、都道府県(土木事務所などの出張所)に相談にいったりするのはそういった理由があったんですね。ちなみに、建築基準法第2条第35号により、建築主事を置く行政の長を「特定行政庁」といいます。
特定行政庁と指定確認検査機関
さて、ここでもう1つ疑問が出てきます。実際に皆さんが建築確認申請を出すのは市役所や都道府県でしょうか?おそらくほとんどの人は、日本ERI株式会社やハウスプラス住宅保証株式会社、ユーディーアイ確認検査株式会社といった民間企業に申請を出していると思います。
これらは、1998年の法改正による“建築確認申請の民間開放”で生まれた会社です。詳細が法第77条の18以降に書かれており、営業エリアによって国土交通大臣または都道府県知事から指定されるため、「指定確認検査機関」と呼ばれています。建築確認申請や完了検査を建築主事と同様に行えますが、認定や許可といった業務は一部しか取り扱いができません。
また、特定行政庁における建築主事に対して、指定確認検査機関で建築基準関係規定に適合するかどうかの確認を行う人を「確認検査員」といいます。
建築基準適合判定資格者
建築主事も確認検査員も「建築基準適合判定資格者」という資格が必要です。この資格は、受験資格に一級建築士試験合格が含まれており、一級建築士のさらに上の資格と言えます。また、建築確認は行政の長である市長や知事であっても覆すことができず、それだけの権限と能力がある人が審査しているということなんです。
ただし、建築主事も確認検査員もそれぞれの組織に原則1人しかいないので、すべての申請図書を細かく見るのは実際には不可能です。そのため、部下がいて審査は分担しながらチェックしているのが実態です。
建築確認申請で審査される項目
法文によれば、対象の建築物が「建築基準関係規定に適合するものであること」について確認することになっています。
関係規定とは、建築基準法やそれに関する命令・条例、関係法令といわれる建築基準法施行令(以下「令」)第9条に書かれている消防法や港湾法、駐車場法、浄化槽法などの法律の一部を含みます。ここで注意したいのは、令第9条に書かれているもの以外にも、法律側で「建築基準関係規定に該当する」と書かれている場合があり、都市緑地法第35条やバリアフリー法第14条などがこれに当たります。
逆に言うと、これらの法律以外は審査対象外であるのでチェックされない可能性があります。よくあるのが民法です。民法では隣地境界線からの外壁の距離が決められていますが、関係規定に民法は含まれませんので、審査では対象外になります(道義的に指導される可能性はあります)。
建築確認申請を早く通す方法
ここからは、建築確認申請を早く通して確認済証をもらうための具体的な方法を見ていきましょう。
指定確認検査機関に申請を出す
まず、特定行政庁と指定確認検査機関のどちらに確認申請を出すかですが、早く通したいなら指定確認検査機関に出しましょう。
特定行政庁は行政機関なので利益を追及していません。出された申請に対してどれだけ時間がかかっても入念にチェックを行います。行政ですから、万が一のチェック漏れや手続きミスがあってはいけないので、当然のことですが時間はかかります。
一方、指定確認検査機関は民間企業で、上場している企業もあります。時間をかけすぎてしまうと利益が出ないので、効率的に審査することから、確認にかかる時間が短くなる傾向にあります。
建築基準法をしっかり読む
これは意外と多くの設計者ができていないことですが、法律をしっかり読んで設計し、申請書を作成することが近道です。過去の事例や先輩からの指導をそのまま採用している人も多いですが、審査する側は法適合をチェックしています。
例えばですが、建築基準法規則第1条の3に確認申請に添付する図面およびその図面に書かないといけないことが示されています。付近見取図や配置図に方位を書くこと、平面図に通し柱の位置を書くこと、断面図には地盤面を書くことなどが定められているので、忘れずに事前チェックしておきましょう。
「書かなくてもわかるだろう」と思う方がいるかもしれませんが、法令で定められていることなので、書かないと申請は通りません。
事前相談をしっかりする
こちらはすでにやっている設計者も多いと思います。疑問点があるまま確認申請をしても疑問点がそのまま返ってくることがほとんどです。「大丈夫だろう」と思わずに、少しでも不安な部分は役所の関係部署や指定確認検査機関へ事前に相談し、明確にしておくことでスムーズに審査が進むようになります。
相談とは少し異なりますが、事前に申請時期を伝えておくのも有効です。相手も仕事ですから、他の業務が立て込んでいることもありますし、場合によっては長期休暇などを取得することもあります。事前にこの日に申請が来るとわかっていれば準備もできますし、必要なら代役を立てることも可能です。
また、申請後に催促の電話をする方もいますが、こちらは担当者の時間を奪ってしまい逆に時間がかかることになりかねません。クレーマーだと思われて、慎重に審査されてしまう可能性もあるので、電話等での催促はあまり行わないほうがいいでしょう。
根拠資料を添付する
先ほど説明したとおり、申請の添付図書は規則第1条の3に書かれていますが、それ以外の資料を添付してはいけない、ということはありません。
法令の解釈等で使用した根拠資料のコピーなどを添付することにより、審査する側が判断しやすくなるので参考資料の添付は有効です。
まとめ
建築確認申請は工事着手前に済ませなければならず、建物を建てるために必要となる大きなハードルです。
ですが、しっかりと申請の法定趣旨を理解し、適切に行えばスムーズに進むものですので、建築確認申請に臨む際はぜひこの記事を参考にしてみてください。
著者:独学一級建築士 nandsk
独学により一級建築士に合格。住宅やアパートの設計・工事監理、特殊建築物の維持管理、公共施設の工事設計・監督の経験あり。二級、一級建築士試験受験者へのアドバイスも行っている。『建築の楽しさを多くの人に知ってもらいたい』と話す。