実はエレベーターやエスカレーターも建築基準法で規制されている|一級建築士による建設アラカルト

【Written by 独学一級建築士 nandskさん】
みなさんはエレベーター(昇降機)やエスカレーターを利用したことはありますか?
おそらく利用したことがない人はいないであろうエレベーターやエスカレーターですが、これらは建築設備として建築基準法で定められており、法的な規制を受けています。
エレベーターやエスカレーターは人命にかかわるような事故もたびたび発生していて、2025年2月にも神戸市の商業ビルでエレベーターの不具合に起因するとみられる死亡事故がありました。
安全に運転されないと大変なことになる、そんなエレベーターやエスカレーターの法的な位置づけを確認してみましょう。
エレベーター・エスカレーターの建築基準法における取り扱い
エレベーターやエスカレーターが建築基準法で最初に出てくるのは建築基準法第87条の4になります。
こちらの表題は「建築設備への準用」で、確認申請などの手続きを準用する建築設備について示されています。ここには「政令で指定する昇降機その他の建築設備」と記載があり、詳しい内容は建築基準法施行令146条に書かれています。
施行令146条を見てみると、ここで初めてエレベーターやエスカレーターというなじみのある単語が出てきますね。
また、エレベーターなどと並んで「小荷物専用昇降機」という単語も出てきます。小荷物専用昇降機は通称・ダムウェーターと呼ばれるもので、法律での定義は「昇降路の出し入れ口の下端が床面より高いこと」とされています。
例えばですが、レストランなどで食器や料理だけを移動させる厨房内にあるエレベーター、病院やホテルなどでリネン類などを上下階に運搬するエレベーターなどが想像しやすいでしょうか。
エレベーターの法規制
エレベーターに関する具体的な法規制は建築基準法施行令第129条の3以降に書かれています。こちらは施行令「第5章の4 建築設備等」の章にある「第2節 昇降機」という項目です。それぞれ具体的な法規制内容を見てみましょう。
構造上主要な部分
まずは施行令129条の4に“構造上主要な部分”についての記載があります。構造上主要な部分とは「エレベーターのかご、かごを支えたり吊ったりする部分」とされています。
こちらは以下のようなことなどが定められています。
- 衝撃や安全装置が作動した場合でも損傷しないこと
- 強度検証法や許容応力度計算により基準に適合させること
- 腐食や腐朽しにくい材料を使用すること
- 地震などの振動で接合部が外れないこと
また、施行令129条の5では、計算で用いるエレベーターの荷重について定められています。
かごと昇降路の構造
次の施行令129条の6では“かごの構造”、129条の7では“昇降路の構造”が定められています。
例えば、
【129条の6】
- かごは難燃材料で造るか覆うこと
- かご内の人が昇降路の壁などに触れるおそれがないこと
- 非常の場合にかご内の人を安全にかご外に救出できる開口部をかごの天井に設けること
【129条の7】
- 昇降路の出入り口の戸には籠が停止していない場合に昇降路内への落下を防止する施錠装置を設けること
- 出入り口の床先と籠の床先との距離は4㎝以下とすること
などが定められています。
かご内の人が昇降路に触れないことなどは当たり前のように感じるかもしれませんが、屋外などで籠がなく手すりだけしかないエレベーターなどもあるので規制されています。
非常の場合にかご内の人を安全にかご外に救出できる天井開口部は、スパイ映画などでよく見られるアレですね。
駆動装置・機械室・安全装置
そして施行令129条の8は駆動装置や制御器などエレベーターを動かすための装置について規制されており、施行令129条の9には機械室について換気設備を設けることや施錠装置などについて書かれています。
最後となる施行令129条の10は安全装置に関しての項目で、衝突の恐れがある場合の制止装置や点検者が挟まれないようにする自動制止装置、地震時の停止装置や停電時の非常連絡装置などが義務化されています。
エスカレーターの法規制
続く施行令129条の12にはエスカレーターのことが書かれており、勾配は30度以下、階段の幅は1.1m以下、エスカレーターの速度、地震時の脱落防止策などが定められています。
やけに速い(あるいは遅い)エスカレーターや角度が急に感じるものなどもありますが、しっかりと法律での制限を守ってつくられているんですね。
法規制と告示
ここまでエレベーター、エスカレーターの法規制をざっと解説してきましたが、実は法律で書かれていることはかなり大雑把で、細かい基準や制限の内容は「告示」で定められています。
法律の場合、改正する際には国会の承認が必要で、法改正はとても時間がかかります。
エレベーターやエスカレーターは毎年のように技術が進歩しており、事故の事例も多いことから、いちいち法改正を待っていたのでは追いつけないので、細かい部分は告示で定めているのです。
エレベーターとエスカレーターのあれこれ
エレベーターによる事故
エレベーターに関する事故は時折ニュースになりますが、2025年2月にも神戸市の商業ビルで、扉が開いて乗ろうとしたらかごがなく4階から転落死したとみられる痛ましい事故が報道されました。
みなさんはエレベーターの事故というと何を思い浮かべますか?
最近のもので有名なのは2006年ごろから東京都、京都市、金沢市などで相次いで発生した戸開走行事故ではないでしょうか。
戸開走行事故とは扉が開いたままエレベーターが上下に動く事故です。扉が開いたまま上下にエレベーターが動くと建物の床や天井とエレベーターに挟まれる危険があり、重大な死傷事故につながってしまいます。
これらの事故を受けて、2009年には戸開走行保護装置の設置が義務化されましたが、機器の故障などで事故が起きてしまうこともあり、しっかりと点検することが大切です。
日本第一号のエスカレーターは?
突然ですが、日本で第一号のエスカレーターはどこにできたものかご存じですか?
我が国で最初にお披露目されたエスカレーターは、1914年に東京・上野公園で開催された「東京大正博覧会」で披露されたものだそうです。
さらに同年には、東京・日本橋の三越呉服店(現・日本橋三越本店)にオーチス製のエスカレーターが設置され、“常設”のものでいうとこちらが初なんだそうです。ちなみに、三越呉服店のものは勾配30度で、今の法基準にも適合しています。
エスカレーターによる事故
そんな100年以上の歴史があるエスカレーターですが、意外と事故も多く、実は死亡事故も何件か起きています。もっとも多いのは転倒で、乗り降りの際に転んでしまうものですが、転倒後に手すりと床の間に挟まれると大事故につながるので侮るなかれです。
また、衣類やサンダルなどが巻き込まれる事故も増えています。1980年には多発する事故の対策として、エスカレーターの足元(踏板の側面)にスカートガードを設けて挟まれたときに自動停止する安全装置の設置が義務化されましたが、どうしても踏板が動く部分には小さな隙間ができてしまうので、注意が必要です。
エスカレーターに関する各地の条例
そんなエスカレーターの事故を防止するために条例を定める自治体も多く、大阪府や埼玉県、名古屋市などで制定されています。
例えば名古屋市の条例では、エスカレーターに乗っている際は立ち止まらないといけないと明記されており、地下鉄駅のエスカレーターで歩いてしまうと、AIによるカメラ判定で『条例違反です。立ち止まってご利用ください』などとアナウンスされるそうです。
エスカレーターは片側を歩いてしまう人も多いですが、片側のみ歩き続けると偏荷重によって故障しやすくなったり、ぶつかって転倒するリスクもあります。また、障害などで片側でしか手すりをつかめない人もいるため、どちら側であってもエスカレーターは止まって乗るようにしましょう。
著者:独学一級建築士 nandsk
独学により一級建築士に合格。住宅やアパートの設計・工事監理、特殊建築物の維持管理、公共施設の工事設計・監督の経験あり。二級、一級建築士試験受験者へのアドバイスも行っている。『建築の楽しさを多くの人に知ってもらいたい』と話す。