建設トピックス

「環状七号線地下広域調節池(石神井川区間)」の建設現場に潜入│土木学会が親子見学会を開催

近年、豪雨災害が頻発化・激甚化しています。2025年も九州から東海・北陸、北海道など全国各地で記録的な大雨が発生し、さまざまな被害をもたらしました。

そうした中、東京都では現在、豪雨に備える治水対策として、中野区~練馬区にかけて「環状七号線地下広域調節池(石神井川区間)」の建設工事を進めています。地下空間に巨大なトンネルをつくり、大雨により河川水位が上昇した際、一時的に川の水を貯留できるようにすることで、下流の水位を下げ、浸水被害を減らすための事業です。

この調節池の建設現場で、小学生の親子を対象とした現場見学会が2025年7月29日、公益社団法人土木学会・地下空間研究委員会の主催により開かれました。今回、弊編集部も同イベントに同行させていただき、参加した親子とともに建設中の地下トンネルの中を見学してきました。

東京都における水害対策の概要

東京都は台風や集中豪雨による水害を防ぐため、河川改修や調節池整備などの対策を強化・推進しています。

2012年に策定した「中小河川における都の整備方針~今後の治水対策~」では、水害対策の基本として、1時間に50mmまでの降雨には河道拡幅や河床掘削などの河川改修、50mmを超える降雨には調節池の整備と流域対策で対応するという方針を掲げています。

地下調節池を海までつなぐ“地下河川”構想

東京都はこれまでに、12河川29カ所、総貯留量約268万m3(2024年度末現在)の調節池を整備し、稼働させてきました。

また、強靭で持続可能な都市の実現を目指して2022年に策定、2023年にアップグレード版を発表した「TOKYO強靭化プロジェクト upgrade Ⅰ」では、複数の地下調節池を連結して東京湾までつなぐ“地下河川”の整備に向けた検討に着手する方針を掲げています。

地下空間で1本につながったトンネル状の調節池へ洪水を流し、海に放流するという構想で、数時間降り続く豪雨でも取水し続けることができるため、水害対策として高い効果を発揮することが期待されています。

“地下河川”に向け整備が進む環状七号線地下広域調節池

東京都内を東西に流れる神田川・石神井川・白子川の流域では現在、すでに稼働している「神田川・環状七号線地下調節池」と「白子川地下調節池」を連結する形で、「環状七号線地下広域調節池(石神井川区間)」の建設工事が進行中です。

完成すれば、1つにつながった総延長約13.1km、貯留量計約143万m3の巨大な地下調節池が誕生することになります。

この環状七号線地下広域調節池こそが、「TOKYO強靭化プロジェクト upgrade Ⅰ」で掲げる“地下河川”の一部となる想定で、将来的には南方向へさらに延伸し、東京湾までつなげることを目指しています。

「環状七号線地下広域調節池(石神井川区間)工事」の概要

現在、施工中の「環状七号線地下広域調節池(石神井川区間)工事」の概要は以下のとおりです。

【調節池の概要】
内 径:12.5m
土被り:32~40m
延 長:約5.4km
貯留量:約68万m3

【工事の概要】
件 名:環状七号線地下広域調節池(石神井川区間)工事
場 所:中野区野方5丁目~練馬区高松3丁目
受注者:大成・鹿島・大林・京急建設共同企業体
落札価格(※):650億円(2016年度)、192億400万円[その2](2024年度)
工 期:2017年3月~2028年2月

※落札価格はいずれも税抜(建設データ株式会社運営「入札ネット+α」より

中野区野方5丁目にある発進立坑から、都道環状七号線や目白通りの地下32~40mを泥水式シールド工法により掘り進め、練馬区高松3丁目の到達立坑まで約5.4kmにも及ぶ内径12.5mの地下トンネルを構築する計画です。地下32~40mというと、おおよそ14階建てのビルの高さに相当します。

泥水式シールド工法とは


現場事務所に展示されているシールドマシンの模型

泥水式シールド工法とは、送泥管からシールドマシンの前面に泥水を送り、圧力をかけることで切羽(掘削面)を安定させて掘進する工法。掘削された土砂は泥水とともに排泥管を通って搬出されます。

シールドマシン前面に付いているカッタービットという刃で土を削りながら地中を掘り進め、後方では同時に、鋼材とコンクリートを組み合わせた「合成セグメント」でトンネルの内壁をつくっていきます。セグメントは円弧形状で、9個のセグメントを組み合わせて1つの円が出来上がる仕様になっています。

この掘削とセグメントの組み立てを繰り返してトンネルを構築していく、というのが本工事の概要です。

現在は、発進立坑から1.4kmほど進んだところでカッタービットの交換作業を行っており、掘削作業は一時的に中断しています。


2025年10月16日時点における「環状七号線地下広域調節池(石神井川区間)工事」の進捗状況(同工事特設HPより

巨大地下トンネルの中を歩いてきました!

2025年7月29日には、土木学会・地下空間研究委員会が小学生の親子を対象とし、この「環状七号線地下広域調節池(石神井川区間)工事」の現場見学会を開催、12組の親子(小学生13人)が参加しました。


工事概要などを説明する東京都建設局の星野さん

当日はまず中野区野方の現場事務所で、東京都建設局第三建設事務所の星野進吾さん(工事第二課長代理)が都の水害対策や工事の概要を説明。その後、発進立坑から地下空間に入り、シールドマシンが掘り進めたトンネルの中を歩いて見学しました。

では、建設現場の様子を紹介していきましょう。

発進立坑の中を上から見下ろすと…

迫力がありますね!資材を運ぶリフト、人が出入りするためのエレベーターや階段などが整備されています。

階段で中腹まで降りてきました。参加した親子も興奮気味に声を上げたり写真を撮ったりしています。

30mほど降りて発進立坑の下のほうに到着。地上を見上げるとこんな感じです。

上の写真の矢印のところが、シールドマシンで掘り進めているトンネルのスタート地点。いよいよトンネル内を歩きます。

こちらが内径12.5m、セグメントで内壁を覆ったトンネルの中です!

トンネル内にはレールがあり、資材を運ぶ自走台車が設置されています。

掘り進めたスペースは資材置き場として有効活用。ここに置いてあるのが、トンネルの内壁を構築するセグメントです。

環状七号線に沿って地下空間を進み、野方駅の真下に来たもよう。

さらに進んでいくと、自転車が止めてありました!作業員の方は長い地下トンネルの中を自転車で移動しているんだそうです。

内壁に沿って設置されているこちらの緑の管は、泥水式シールド工法でシールドマシンに泥水を送る送泥管と、掘削した土砂などを搬出する排泥管です。

この先に、カッタービットを交換中のシールドマシンが止まっているのですが…、発進地点から500mほど歩いたところで現場見学はここまで。

ここで、トンネルの内壁をスクリーンにしてこの工事の様子を記録した動画を観賞しました。なんだか粋な演出ですね。

建設業に興味を持つ“原体験”となることを願って

さて、環状七号線地下広域調節池の中を見学した後は、再び現場事務所へ戻り、ここまでに学んだことを振り返るクイズや国学院大学の大門創・准教授による“授業”で、地下空間に関する理解をさらに深めました。


地下空間に関する“授業”を行う国学院大学の大門准教授

最後に、このイベントを通して地下空間について勉強した小学生たちに『地下空間こども博士』の認定証を授与して、見学会は幕を閉じました。

閉会のあいさつで、土木学会・地下空間研究委員会の酒井喜市郎顧問は「今日参加してもらった子どもたちの中から誰か1人でも、将来、我々のあとを継いで土木の世界に入ってくれることを心から期待しています」と話していました。


閉会のあいさつをする土木学会・地下空間研究委員会の酒井顧問

少し話は飛躍しますが、建築家や建築を学ぶ学生の多くは幼少期にブロック遊びに親しんでいたという傾向があるそうで、下記の記事では、ブロック遊びでものづくりの楽しさなどを味わった経験が、建築の道を志す原点の1つになっているのではないかと考察しています。

今回の現場見学会も同様に、参加した小学生たちにとって、土木や建設に興味を持ったり身近に感じたりする“原点”になってくれたらうれしいですね。

また、現場見学の案内役を務めた東京都建設局の星野さんは、環状七号線地下広域調節池について、

「皆さんの命と財産を守るすごく重要な施設なのに、知っている人があまりいないということを私たちは課題に感じています。東京都にこういう施設があるということを今日、皆さんに知ってもらって、学校のみんなにもぜひ教えてあげてください」

と呼びかけていました。

昨今、頻発化・激甚化する自然災害や、2025年1月に埼玉県八潮市で発生した道路陥没事故などを契機に、インフラ施設の重要性や老朽化問題がこれまで以上に注目されるようになりました。

私たちの安心安全な日常は、各種インフラ施設、そしてそれらの整備・維持管理を担う建設業の活躍によって守られている――。

そうした認識・理解をさらに広めていくことが、安全で、災害に強い、持続可能なまちをつくるために必要不可欠なのではないでしょうか。

(建設データ編集部)

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