建設トピックス

制度改正で住宅着工戸数の推移に異変?建築基準法・建築物省エネ法改正が与えた影響とは

国土交通省の建築着工統計調査報告によると、新設住宅着工戸数は2025年3月に前年同月比プラス39.6%の8万9,802戸と急激に増加した一方、翌月4月には一転して前年同月比マイナス26.6%の5万6,188戸と大幅に減少。5月はさらに5万戸を割り、4万3,237戸まで落ち込みました。

この急変動は2025年4月の建築基準法・建築物省エネ法改正による駆け込み需要が影響していると考えられます。

この記事では建築着工統計調査報告をもとに、2025年3月・4月における住宅着工戸数の推移について解説します。さらに、今回の急変動の原因と考えられる建築基準法・建築物省エネ法の改正ポイントについても解説するので、法改正による建設業界の影響を知りたい方は必見です。

建築着工統計2025年3月~4月新設住宅着工戸数

2025年3月は新設住宅着工戸数が前年同月比プラス39.6%と大幅に増加しました。しかし翌月4月には一転、前年同月比マイナス26.6%と大きく落ち込みました。

3月から4月にかけての急激な変動の一因は、4月に施行された建築基準法・建築物省エネ法の改正です。改正直前の3月に、法改正を見越した駆け込み需要が発生したと考えられます。

次の項目からは、新設住宅の着工戸数と着工床面積について、さらに詳しく解説します。

新設住宅着工戸数の推移

2025年3月と4月の新設住宅着工戸数は、以下のとおりです。

2025年3月 2025年4月
新設住宅着工戸数
(前年同月比)
8万9,802戸
(39.6%増)
5万6,188戸
(26.6%減)

3月は2カ月連続での増加となりましたが、4月は3カ月ぶりに減少に転じました。4月は3月に比べてマイナス37.4%と3分の1以上の落ち込みです。

季節調整済年率換算値も見てみましょう。

2025年3月 2025年4月
季節調整済年率換算値
(前月比)
108万4,368戸
(34.6%増)
62万6,268戸
(42.2%減)

季節要因を取り除いても、3月と4月で急激なアップダウンが見られます。

新設住宅着工床面積の推移

2025年3月と4月の新設住宅着工床面積は、以下のとおりです。

2025年3月 2025年4月
新設住宅着工床面積
(前年同月比)
685万3,000㎡
(41.2%増)
417万7,000㎡
(27.6%減)

3月と4月の床面積の差は267万6,000㎡で、1カ月で39.0%も減少しました。

2025年3月~4月の住宅種別着工戸数

持家・貸家・分譲住宅ともに、3月から4月にかけて急激な変動が見られます。

着工戸数
(前年同月比)
2025年3月 2025年4月
持家 2万2,955戸
(37.9%増)
1万3,635戸
(23.7%減)
貸家 4万2,706戸
(51.2%増)
2万4,939戸
(27.9%減)
分譲住宅 2万3,672戸
(23.4%増)
1万6,148戸
(29.7%減)

持家の着工戸数の推移

持家の着工戸数の推移は、以下のとおりです。

着工戸数
(前年同月比)
2025年3月 2025年4月
持家 2万2,955戸
(37.9%増)
1万3,635戸
(23.7%減)

3月は3カ月ぶりの増加を記録しましたが、4月に再び減少へ転じました。3月から4月にかけての減少幅は、マイナス40.6%と大幅な落ち込みです。

民間資金による持家と公的資金による持家の内訳を見てみましょう。

着工戸数
(前年同月比)
2025年3月 2025年4月
民間資金による持家 2万951戸
(36.9%増)
1万2,362戸
(24.4%減)
公的資金による持家 2,004戸
(49.8%増)
1,273戸
(16.5%減)

公的資金による持家は4月の前年同月比がマイナス16.5%で、駆け込み需要の反動による冷え込みが比較的軽微だったと考えられます。

貸家の着工戸数の推移

貸家の着工戸数の推移は、以下のとおりです。

着工戸数
(前年同月比)
2025年3月 2025年4月
貸家 4万2,706戸
(51.2%増)
2万4,939戸
(27.9%減)

3月は前年同月比プラス51.2%と顕著な伸びを記録し、2カ月連続の増加でした。しかし4月は3カ月ぶりに後退、3月から4月にかけての減少幅はマイナス41.6%です。

次に、民間資金による貸家と公的資金による貸家の内訳を見てみましょう。

着工戸数
(前年同月比)
2025年3月 2025年4月
民間資金による貸家 3万9,069戸
(50.5%増)
2万2,205戸
(30.8%減)
公的資金による貸家 3,637戸
(59.1%増)
2,734戸
(8.1%増)

公的資金による貸家は3月から4月にかけて減少したものの、4月の前年同月比は8.1%増加となっており、前年よりも市場が活性化していることが伺えます。

分譲住宅の着工戸数の推移

分譲住宅の着工戸数の推移は、以下のとおりです。

着工戸数
(前年同月比)
2025年3月 2025年4月
分譲住宅 2万3,672戸
(23.4%増)
1万6,148戸
(29.7%減)

3月は2カ月連続の増加となりましたが、4月は前年同月比マイナス29.7%、前月比マイナス31.8%と後退しました。

次に、マンションと一戸建住宅の内訳を見てみましょう。

着工戸数
(前年同月比)
2025年3月 2025年4月
マンション 1万807戸
(20.4%増)
7,709戸
(36.9%減)
一戸建住宅 1万2,573戸
(24.3%増)
8,169戸
(22.8%減)

一戸建住宅は長く停滞していましたが、3月に29カ月ぶりの増加を記録しました。しかしこれは駆け込み需要による一時的なもので、翌月4月には減少傾向に戻りました。

2025年3月~4月の地域別着工戸数

地域別の着工戸数の推移を見ると、どの地域も共通して3月に増加・4月減少という動きが見られます。

着工戸数
(前年同月比)
2025年3月 2025年4月
首都圏 2万9,940戸
(32.3%増)
2万695戸
(22.6%減)
中部圏 1万48戸
(14.3%増)
5,356戸
(36.2%減)
近畿圏 1万5,315戸
(36.3%増)
1万145戸
(25.7%減)
その他地域 3万4,499戸
(59.4%増)
1万9,992戸
(28.1%減)

首都圏の着工戸数の推移

首都圏の着工戸数の推移は、以下のとおりです。

着工戸数
(前年同月比)
2025年3月 2025年4月
首都圏 2万9,940戸
(32.3%増)
2万695戸
(22.6%減)

住宅種別で見ても、同様の動きが確認できます。

着工戸数
(前年同月比)
2025年3月 2025年4月
持家 4,380戸
(29.4%増)
3,077戸
(18.6%減)
貸家 1万4,789戸
(32.5%増)
1万749戸
(10.7%減)
分譲住宅 1万699戸
(33.6%増)
6,729戸
(38.0%減)

中部圏の着工戸数の推移

中部圏の着工戸数の推移は、以下のとおりです。

着工戸数
(前年同月比)
2025年3月 2025年4月
中部圏 1万48戸
(14.3%増)
5,356戸
(36.2%減)

住宅種別に見ると、貸家が3月から4月にかけて半分以上減少しました。分譲住宅の3月は前年同月比がマイナスとなっているものの、2024年度では最多の着工戸数を記録しています。

着工戸数
(前年同月比)
2025年3月 2025年4月
持家 3,446戸
(36.3%増)
1,979戸
(27.0%減)
貸家 3,921戸
(26.2%増)
1,555戸
(53.0%減)
分譲住宅 2,621戸
(16.6%減)
1,765戸
(21.6%減)

近畿圏の着工戸数の推移

近畿圏の着工戸数は、3月から4月の1カ月で33.8%減少しました。

着工戸数
(前年同月比)
2025年3月 2025年4月
近畿圏 1万5,315戸
(36.3%増)
1万145戸
(25.7%減)

その他地域の着工戸数の推移

その他地域では、3月に前年同月比プラス59.4%と急激な伸びを見せましたが、4月は3月に比べて42.1%減少しました。

着工戸数
(前年同月比)
2025年3月 2025年4月
その他地域 3万4,499戸
(59.4%増)
1万9,992戸
(28.1%減)

2025年3月~4月の建築工法別着工戸数

建築工法別に見ても、プレハブ、ツーバイフォーともに3月は増加、4月は減少という動きが見られます。特に4月のツーバイフォーは、3月と比べて半分以下の戸数しか着工していません。

着工戸数
(前年同月比)
2025年3月 2025年4月
プレハブ 8,277戸
(10.5%増)
6,238戸
(20.5%減)
ツーバイフォー 1万1,316戸
(46.7%増)
4,839戸
(46.6%減)

プレハブの着工戸数の推移

4月のプレハブの着工戸数は、3月と比べて24.6%の減少です。

着工戸数
(前年同月比)
2025年3月 2025年4月
プレハブ 8,277戸
(10.5%増)
6,238戸
(20.5%減)

ツーバイフォーの着工戸数の推移

4月のツーバイフォーの着工戸数は、3月と比べてマイナス57.2%と大幅に減りました。プレハブよりも駆け込み需要の影響を強く受けていることがわかります。

着工戸数
(前年同月比)
2025年3月 2025年4月
ツーバイフォー 1万1,316戸
(46.7%増)
4,839戸
(46.6%減)

着工戸数減少の理由は建築基準法・建築物省エネ法改正か

3月から4月にかけての住宅着工戸数の急激な増減は、建築基準法・建築物省エネ法改正が影響していると見られます。この法改正のポイントは、以下のとおりです。

  • 4号特例の見直し
  • 構造規制の合理化
  • 省エネ基準への適合義務化

4号特例の見直し

これまで小規模な木造住宅などは4号建築物という分類に該当し、確認申請の際に構造審査などが省略される「4号特例」の対象でした。

しかし、建築基準法の改正により4号建築物の分類は廃止となり、新2号建築物と新3号建築物に再分類。構造審査などが省略される「特例」の対象は新3号建築物のみとなりました。

旧4号建築物 木造住宅の場合、階数2以下で延べ面積500㎡以下など
新2号建築物 階数2以上または延べ面積200㎡超
新3号建築物 平屋かつ延べ面積200㎡以下

これにより、構造審査などが求められる建築物の対象範囲が拡大。従来は一部審査が省略されていた旧4号建築物も、新2号建築物に該当すれば審査対象となるため、確認申請時の提出書類が増えることになります。

構造規制の合理化

木造建築物の構造における壁量基準や柱の小径基準も見直されました。改正前は「軽い屋根」「重い屋根」という2つの区分に応じて必要壁量などを計算していましたが、改正後は建築物の仕様や荷重など、個別の実態に応じた算定が必要となります。

この見直しの背景には、省エネ化などの影響で建築物の重量が増していることが挙げられます。今回の改正により、重量化した建築物も壁量や柱の小径を適切に算定できるようになりました。

省エネ基準への適合義務化

2025年4月以降に着工する建築物は、省エネ基準への適合が義務化されました。

省エネ基準に適合しているかを確認するためには、建築確認と同時進行で建築物エネルギー消費性能適合性判定(省エネ適判)を受けなければなりません。省エネ適判の審査期間は通常14日以内ですが、審査が長引くと1カ月~1カ月半程度かかる可能性もあり、工期が遅れる要因になり得ます。

まとめ

2025年4月の建築基準法・建築物省エネ法改正を受けて、3月の住宅着工戸数は急激に増加し、4月はその反動で減少に転じました。

具体的には、省エネ基準の適合義務化によって建築物が重量化することなどの影響により、構造審査をはじめ建築確認の審査が一層厳しくなることやコストの増加などが懸念されたため、改正直前の3月に駆け込み需要が発生したと考えられます。

今回のように、法制度の変更が建設業界におよぼす影響は非常に大きいです。今後も、法改正の動向を的確に把握していきましょう。

(建設データ編集部)

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