【建築家が語る】一生に一度は見てみたい世界の建築|一級建築士による建設アラカルト

【Written by 独学一級建築士 nandskさん】
街中を歩いていると目を引く建築物に出合うことがあり、そんなときはちょっとラッキーな、四つ葉のクローバーでも見つけたような気分になります。
また、偶然の産物ではなく「これが見たい」と建築物を目的に出かけることもあります。例えば「ランドマークである東京タワー」「歴史的建造物である清水寺」「テレビなどで話題の新施設“Ginza Sony Park”」「有名な建築家の設計した建物」などなど、建築物を目的に出かけた経験がある人も多いのではないでしょうか。
そんな街中で見られる建築物の魅力をご紹介したいのですが、今回は国内ではなく海外に目を向けてみたいと思います。私自身、コロナ禍以降は海外へ行く機会が大きく減り、世界の建築物を見る機会が少なくなりましたが、まさに“一生に一度は見たい世界の建築”といえるようなものを建築家の目線から紹介していきます。
グッゲンハイム美術館 ビルバオ(スペイン)

まずは、スペインのバスク地方・ビルバオにある『グッゲンハイム美術館』。グッゲンハイム美術館はアメリカのグッゲンハイム財団が運営する美術館で、世界各地に展開されています。
その多くが有名建築家による建築物で、建物自体が美術品と呼べるようなものになっているんです。特にビルバオのものはフランク・ゲーリーが設計を手がけ、「最も評価された現代建築」といわれています。
ゲーリーの作品は水平や垂直という概念がないような曲線ばかりですが、無規則な曲線も光を集めるように設計されており、大規模なアトリウムはガラスの局面から差し込む太陽光でとても明るいのが特徴です。
ニューヨークにあるグッゲンハイム美術館は、“近代建築の三大巨匠”といわれたフランク・ロイド・ライトの設計で、こちらも必見です。
サヴォア邸(フランス)
同じく三大巨匠としてあげられるル・コルビュジェの設計である『サヴォア邸』も欠かせません。
フランス・パリ郊外のポワシーという町にあるサヴォア邸は、世界の住宅設計を大きく変えた作品で、建築学生なら必ず学ぶ建築です。「ピロティ、屋上庭園、自由な平面、水平連続窓、自由な立面」という“近代建築の5原則”をすべて実現しており、コルビュジェの最高傑作ともいわれています。
1931年の竣工で、2016年には世界遺産にも指定されています。今見ても近代的で洗練されたデザインですね。
近代建築の三大巨匠であるル・コルビュジェ、フランク・ロイド・ライト、ミース・ファン・デル・ローエの作品はそれぞれ一度は見ておきたいですね。
ヘイダル・アリエフ・センター(アゼルバイジャン)

アゼルバイジャンの首都バクーに建てられた複合施設である『ヘイダル・アリエフ・センター』は、曲線の女王といわれたザハ・ハディドの設計です。
イラク・バグダッド出身のザハはシュメール文明の遺跡の美しさに見とれ、砂、水、葦、鳥などが織りなす美しい風景を建築で再現しようと建築家を目指します。レム・コールハースに師事し、30歳で独立するも代表作はしばらくありません。
というのも、曲線を多用したデザインを好んだザハの作品は、建築のコンテストなどで賞を取ることはあったものの、技術的に実現が困難で「アンビルトの女王」といわれていたからです。しかし、建築技術の向上により、徐々にザハのデザインが実現可能になり、それまでは男性が多かった建築士の歴史を覆す一大巨匠となりました。
ヘイダル・アリエフ・センターもカスピ海から吹く海風にはためくドレスのような曲線美が特徴で、見る角度により形を変えます。明かり取りのためのガラスの大開口には様々な景色が映り込み、ガラスに映る景色までもが計算しつくされていることがわかります。
日本では、新国立競技場の国際コンペでザハの案が最優秀に選ばれたものの、工事費などの問題から白紙撤回されて話題となりましたが、彼女の作品を一度は生で見たいものです。
九龍城砦(香港)
日本では『九龍城(くーろんじょう)』と呼ばれることが多いですが、九龍城砦、または九龍寨城などとも呼ばれる香港にあったスラム街です。そうです、一度は見たい建築と言いつつ、こちらの九龍城はもうすでに撤去されており、今ではそのごく一部を残し公園となっています。
この九龍城ですが、歴史的な経緯があり誕生したスラム街で、香港独自のものといえます。
時は1898年、イギリスが清朝から香港島や九龍に隣接する新界などを99年間の期限付きで租借していました。九龍城は新界地区に所在していたので、通常であればイギリス領ですが、清側が主権を主張して租借地から除外され、イギリス領内の清の飛び地となっていました。
当初は清側の軍や官吏が出入りしていたそうですが、イギリスの圧力で軍や官吏が排除され、どの国も実質的な管理を行っていない状況となりました。清が中華民国となり、余計に九龍とのつながりが薄れ、イギリス側も中国領であるため手出しできないことから、まさに治外法権となります。
1941年からの日本軍による香港占領期間中には、空港工事の材料とするため九龍城壁が取り壊されます。その後、中華人民共和国が樹立し、香港政府の力が及ばない九龍城に中国大陸からの移民が流れ込んでスラム街を拡大、九龍城が形成されていきます。
無秩序な増築、高層化などにより迷宮と化していたかつての九龍城は一度行ってみたかったですが、専門のガイド同伴でないと内部に入り込むのは難しかったそうです。しかも、途中でガイドが案内を放棄して高額な料金を吹っかけてくることもあったとか…。
サグラダ・ファミリア(スペイン)

九龍城のように増築や改築を繰り返す建築物もありますが、長期間工事を続けている建築物といえば『サグラダ・ファミリア』です。
未だに工事中なので、法律上は新築よりも前の段階といえますが、1882年から工事が始まっているので、着工当初に造った部分はすでに築100年以上となっています。
設計は建築家のアントニ・ガウディ。ガウディの作品群はこのサグラダ・ファミリアを含め世界遺産に登録されているので、一緒に見て回りたいですね。ちなみに、まだ工事中なのに世界遺産に登録されているものはサグラダ・ファミリアだけだそうです。
全体の完成は2034年と予想されており、完成までの道筋が見えてきているので、今後の動きにも注目です。
レギスタン広場(ウズベキスタン)
最後に紹介するのは中東から『レギスタン広場』。かつて広大な砂漠だった場所に造られたイスラム建築の広場で、「レギスタン」はウズベク語で「砂の場所」という意味だそうです。
古代都市サマルカンドの中心に位置し、広場に面して数々のお店が立ち並んでいたのだとか。のちに、広場に面して3つのマドラサ(イスラム教の指導者を養成する神学校)が建設され、荘厳な雰囲気を醸し出しています。
最も古い建築物が建ってからすでに6世紀が経過している、まさに伝統的なこの場所。時代や時の指導者により扱いも変わっており、人々が紡いできた歴史を感じることができるでしょう。夜にはライトアップされるので、夜の雰囲気もとても素敵です。
イスラム建築は、青いステンドグラスに彩られ“ブルーモスク”の愛称で知られるトルコの『スルタンアフメト・モスク』、大規模な建築美に圧倒されるインドの『タージ・マハル』など、素敵な建築物が多いです。
まとめ
世界に目を向けると必見の建築物は数多くあります。
歴史的に重要なもの、建築界での評価が高いもの、新進気鋭の建築家によるデザインのもの、その国独自の文化のもの。日本からは遠くてなかなか見に行くことは難しいですが、今はインターネットで写真などを見ることもできます。
コロナ禍の一時期に比べると海外にも行きやすくなってきたので、海外建築ツアーに出かけてみるのもいいかもしれません。
著者:独学一級建築士 nandsk
独学により一級建築士に合格。住宅やアパートの設計・工事監理、特殊建築物の維持管理、公共施設の工事設計・監督の経験あり。二級、一級建築士試験受験者へのアドバイスも行っている。『建築の楽しさを多くの人に知ってもらいたい』と話す。

