第1次国土強靭化実施中期計画が2026年度から始動!建設業にもたらす影響は?

2025年6月6日、「第1次国土強靭化実施中期計画」が閣議決定されました。
2026年度から5年間を計画期間とし、事業規模は20兆円強にのぼる見込み。これにより、インフラの整備・更新などの施策が全国で展開され、建設業界に与える影響は大きなものになるでしょう。
本記事では、国土強靭化の基本的な枠組みを整理したうえで、来年度からスタートする第1次国土強靭化実施中期計画が建設業にどのような影響をもたらすのか解説します。来年度以降の事業計画の策定や、社内の人員配置を検討される際には、ぜひ本記事の内容を参考にしてください。
国土強靭化とは

国土強靭化とは、災害に強く、被災後もしなやかに復旧できる国土・地域づくりを目指すための取り組みです。2013年12月の国土強靭化基本法成立を皮切りに、国と地方公共団体が主体となって着々と進めており、現在も全国規模で施策が展開されています。
国土強靭化の概要
国土強靭化の目指すべき姿は、自然災害が起きたときに人命を守り、被害を最小限に抑えながら、迅速に復旧することです。
取り組みの根幹となるのが、2013年に施行された「国土強靭化基本法(以下、基本法)」です。この法律には、国土強靭化の目的や基本理念が定められています。
「国土強靭化基本計画(以下、基本計画)」は、基本法に基づき、国が閣議決定する最上位の計画です。国土強靭化における目標や方針が整理されており、実施していくべき施策の方向性が示されています。
さらに、基本計画を具現化する計画として、これまで以下のような集中施策が展開されてきました。
| 実施年度 | 施策名 | 内容 | 
| 2018~2020年度 | 防災・減災、国土強靭化のための3か年緊急対策(以下、3か年緊急対策) | 激甚災害にすばやく対応するため、緊急性の高い施策を短期集中で実施 | 
| 2021~2025年度 | 防災・減災、国土強靭化のための5か年加速化対策(以下、5か年加速化対策) | 気候変動やインフラ老朽化など新たな課題に対応し、施策の深化と加速を図る | 
2026年度からは5か年加速化対策に続く計画として、「第1次国土強靭化実施中期計画(以下、実施中期計画)」がスタートする予定です。
また、「国土強靭化年次計画」は、内閣に設置された国土強靭化推進本部によって毎年新しく決定される計画です。向こう1年で取り組むべき具体的な施策をとりまとめ、施策の進捗管理や効果検証も記載されています。
地方公共団体においても、地域の特性や課題に応じて「国土強靭化地域計画」を独自に策定しています。2025年4月1日時点で、すべての都道府県と99.6%%の市区町村が地域計画を策定済みとなっており、国土強靭化の取り組みが全国的に浸透していることがわかります。
国土強靭化が推進される背景
日本では、自然災害の激甚化とインフラの老朽化という2つのリスクを抱えており、強くてしなやかな国土・地域づくりが急務です。
近年では、地震・台風・豪雨などの自然災害が頻発し、被害の規模も拡大しています。今後は巨大地震の発生も懸念され、日本は極めて高い自然災害リスクを抱えている国といえます。
特に2011年の東日本大震災は、国土強靭化の必要性を社会全体に強く認識させる契機となりました。過去の災害から得た教訓をもとに、平時から大規模災害に備える重要性が高まり、国を挙げた取り組みとして国土強靱化が本格的に推進されるようになったのです。
また、自然災害に加え、インフラの老朽化も深刻な社会課題になっています。
2025年1月に埼玉県八潮市で発生した道路陥没事故は、劣化した下水道管路の破損が原因とされ、地域住民の生活にも重大な影響を及ぼしました。この事故は、インフラ維持管理の重要性をあらためて浮き彫りにしました。
国土強靭化実施中期計画とは
国土強靭化実施中期計画は、基本法を土台とし、基本計画を具現化するための施策をまとめた計画です。これまで実施されてきた3か年緊急対策、5か年加速化対策に引き続き、施策を加速させるための計画として位置づけられています。
能登半島地震・豪雨など、近年の災害の教訓を踏まえたほか、気候変動やインフラ老朽化などの状況変化にも対応する内容となっています。
国土強靭化実施中期計画の概要
実施中期計画は2025年6月6日に閣議決定されました。計画期間は、2026年度から2030年度までの5年間です。「計画期間内に実施すべき施策」と「推進が特に必要となる施策」が定められており、「推進が特に必要となる施策」の事業規模は5年間で20兆円強を見込んでいます。
実施中期計画が策定された背景には、2023年6月の基本法の改正があります。
実は改正前の基本法には、3か年緊急対策や5か年加速化対策に関する事項が明記されておらず、これらの施策の法的根拠がありませんでした。しかし、5か年加速化対策の終了後も、国土強靭化を継続的に進める必要があることから、改正法では第11条2項に実施中期計画の内容を新たに追加し、施策を実行するための法的な位置づけを明確化しました。
施策内容の具体例
実施中期計画には、計画期間内に実施すべき326施策が示されており、そのうちの114施策を“特に推進が必要”なものと位置づけています。
施策は、以下の5つのグループに分類されます。
| グループ | 主な施策の内容 | 
| 防災インフラの整備・管理 | 
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| ライフラインの強靭化 | 
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| デジタル等新技術の活用 | 
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| 官民連携強化 | 
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| 地域防災力の強化 | 
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次の項目からは、建設業の需要に特に大きな影響を与えるであろう「ライフラインの強靭化」のグループに焦点をあてて、推進が特に必要となる施策の具体例を見ていきましょう。
上下水道施設の戦略的維持管理・更新
埼玉県八潮市の道路陥没事故などを踏まえ、実施中期計画ではインフラの予防保全型メンテナンスへの早期転換を掲げています。つまり、壊れてから直すのではなく、前もって点検・修繕を徹底することで「壊れる前に対処する」仕組みを構築するということです。
八潮市の事故を受け、国土交通省は全国の自治体に要請して下水道管路の全国特別重点調査に着手しました。調査対象は、損傷リスクが高く、万が一事故が発生すれば重大な影響を及ぼすであろう大口径の下水道管路。具体的には口径2m以上かつ設置から30年以上経過したもので、総延長は約5,000kmにおよびます。調査結果に基づき、必要な箇所にはメンテナンスを施していく予定です。
実施中期計画では、これらの管路における健全性の確保率を2030年度までに100%にすることを目標としています。
道路橋梁等の老朽化対策・耐震機能強化
日本には約73万橋の橋梁があり、2032年度には建設後50年を経過した橋梁の割合が全体の約59%までに急増する見込みです。
実施中期計画では、緊急または早期に対策を講じるべき橋梁(9万2,000橋)の修繕完了率を2023年度の55%から2030年度までに80%にする目標が掲げられています。
また、災害対応の生命線となる緊急輸送道路上の橋梁は、老朽化対策だけでなく、地震に耐えられるよう耐震化も図っていく予定です。
緊急輸送道路上の橋梁は全国に約6万5,000橋ありますが、実施中期計画では耐震化率を2023年度の82%から2030年度までに88%へ引き上げることを目指しています。
国土強靭化実施中期計画の事業規模

実施中期計画のうち、推進が特に必要となる施策の事業規模は、5年間でおおむね20兆円超となる見込みです。
5つの施策グループの中でも、「ライフラインの強靭化」の事業規模は約10.6兆円と、全体の半数以上を占めています。
2026年度の国土強靱化関係予算(概算要求)
2025年8月、各省庁による2026年度予算の概算要求がおこなわれ、国土強靭化関係予算の要求額は合計6.66兆円となりました。このうち公共事業関係費は4.91兆円で、全体の約74%を占めています。
また、実施中期計画における「推進が特に必要となる施策」の関係予算については、事項要求となっています。2026年度は計画の初年度であるため、今後の災害の発生状況や経済情勢等を踏まえ、弾力的に対応できるようにされています。
直近5カ年の国土強靱化関係予算の推移
直近5カ年(2021年度から2025年度)の国土強靭化関係予算は、右肩上がりで増えています。次のグラフは各年度の当初予算における国土強靭化関係予算の推移を表しています(2026年度分は概算要求額)。

内閣官房発表資料より作成(単位:兆円)
2026年度は概算要求額が6.66兆円であり、2025年度と比べて大幅な増額となる見通しです。2026年度が実施中期計画の初年度にあたることもあり、政府が国土強靭化を一層重視している姿勢の表れといえるでしょう。
国土強靭化が建設業界に与える影響

国土強靭化の推進による建設業への影響は非常に大きいと考えられます。
特に注目すべき影響は、以下の3点です。
- 建設需要の拡大
- 人材需要の高まり
- 社会貢献度の向上
建設需要の拡大
国土強靭化の推進にともない、建設需要の拡大が期待されます。特に上下水道、道路・橋梁、防災施設など、インフラ分野への投資額は増加が見込まれるでしょう。
実施中期計画では、ライフラインの強靭化に5年間で約10.6兆円を投じる方針が示されており、全国的に工事の需要が高まることが予想されます。
予防保全型メンテナンスや老朽化したインフラの修繕が推進されれば、点検や補修工事の需要が増えるでしょう。
人材需要の高まり
近年、建設業界では慢性的な人手不足が続いており、国土強靭化によって建設需要が拡大すれば、人手不足の傾向は一層深刻化する恐れがあります。
こうした状況に対応するには、限られた人員でも効率的に施工を進められる体制づくりが不可欠です。具体的には、ドローンによる測量や点検の自動化、AIを活用した現場管理システムなど、デジタル技術を活用したDXの導入が有効な手段になり得ます。
建設現場のDX化は、生産性を向上させ、人手不足の緩和につながる取り組みです。長らく人手不足に悩まされている建設業にとって、DX化はますます重要になっていくでしょう。
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社会貢献度の向上
国土強靭化を推進するうえで、建設業が果たす役割は非常に重要です。災害に強い国土・地域をつくるには、インフラの整備・更新が不可欠であり、その実務を担う建設業こそが中心的存在になるためです。
実際、2026年度の概算要求額6.66兆円のうち、公共事業関係費は4.91兆円と7割強を占めており、政府が建設業界に大きな期待を寄せている様子がうかがえます。
国土強靭化は、建設業の社会的価値があらためて評価される好機でもあります。ステークホルダーに対しても、単なる施工業ではなく、人命を守る社会貢献度の高い業種として積極的に発信できるでしょう。
まとめ

国土強靭化とは、災害が起きても被害を最小限に抑え、迅速に復旧できるようにするための取り組みです。2026年度は、これまで基本計画に基づき進められてきた5か年加速化対策が終了し、新たに第1次実施中期計画がスタートする節目の年となります。
今後は、インフラの強靭化をはじめとした多様な施策がさらに展開され、それらの実務を担う建設業の役割はますます重要性を増していきます。国土強靭化の推進によって、建設業の社会貢献度はさらに高まり、その存在価値を再定義するきっかけにもなるでしょう。
(建設データ編集部)









 
										 
										