建築好きにおすすめ!年末年始の旅行で行きたい新建築2024|一級建築士による建設アラカルト
【Written by 独学一級建築士 nandskさん】
建築士として仕事をしていると建築が好きな人に出会うことが多いです。建築、建設業界には「建築が好きでこの業界に飛び込んだ」という人も多いですし、業界以外の方でも、建築の仕事をしていると話すと「私も好きなんです」とおっしゃっていただけることがあります。
私自身、学生時代などは新しいものや有名建築家の建築物を見に行ったりもしましたが、最近は建築熱も下降気味…。とはいえ、仕事柄アンテナは常に張っているので、旅行がてら何か見に行ってみようかなと思案しているところです。
今回は、私と同じように建築を見たり体験したりすることが好きな人向けに、旅行と合わせて行きたい“最新の注目建築物”を紹介します!
長崎スタジアムシティ(長崎市)
まずは、つい先日の10月14日に開業した「長崎スタジアムシティ」。長崎県といえば佐世保やハウステンボスが有名ですが、そんな観光名所に割って入るのが、総事業費1000億円をかけたこのスタジアムシティです。
プロバスケのBリーグに所属する長崎ヴェルカ、サッカーJリーグのV・ファーレン長崎、この両チームの本拠地としてつくられた長崎スタジアムシティ。バスケは体育館、サッカーはピッチで試合を行うので、スタジアムシティ内にはバスケ用の「ハピネスアリーナ」、サッカー用の「ピーススタジアム」が併設されています。
これだけでもかなり大規模な施設ですが、スポーツブランドを中心に様々なテナントが入るショッピングモール、スタジアムシティの核となるホテルやオフィスなど、複数の建物が合わさったまさに“シティ”なんです。
長崎駅から徒歩10分という好立地で、アリーナやスタジアムではスポーツ以外にも音楽ライブやコンサートなどのイベントも行われ、ショッピングモールは日常的に使えるので、長崎観光のルートに盛り込むのもおすすめです。このスタジアムシティによって街の人の流れがどう変わるのか、今後も注目の施設でしょう。
恥ずかしながら私自身、仕事で縁があったB3リーグのチーム「八王子ビートレインズ」の試合を見に行き、その時の相手が今回のスタジアムシティを本拠地とする長崎ヴェルカでした。当時はB3所属でしたが圧倒的なスピードとパワーに圧倒された記憶があり、ぜひ新アリーナで試合を見てみたいと思っています。
センテニアル・パーク京都競馬場(京都市)
次は、国内の旅行先として不動の人気を誇る京都にある競馬場から。センテニアル(centennial)とは英語で100年間という意味。京都競馬場が2025年で開設100周年を迎えるそうで、その記念事業として総工事費880億円の大規模改修工事が行われ、「センテニアル・パーク」と名づけられました。
施工は大林組。最近の競馬場は家族連れなどが遊べる空間となっており、旧パドック跡は芝生の広場にテーブルとイスが並び憩いの空間になっていたり、人気のローカル店からチェーン店まで入っているフードコートがあったり、滑り台やアスレチックなどの遊具がある広場もあります。
これだけでも行く価値は十分ですが、なんといっても圧巻なのは25mの大屋根を携えたメインスタンドでしょう。競馬場や競輪場にはこういった大屋根があるメインスタンドは多くありますが、近くで見ると圧巻のスケール。オシャレな現代建築とはまた違った建築の魅力を楽しめます。
特にパドック側はなんと片持ちで16m以上あり、大きな屋根を支える鉄骨とそれをつくり上げた建設の技術力はさすがです。どうやって施工したのか、考えるだけでも楽しめます。
中野駅と区役所新庁舎(東京都中野区)
渋谷や新宿、大手町などの都心部でどんどん再開発を進める東京都心ですが、実は100年に一度といわれる大規模な再開発をしているのが中野駅前。
駅の南北に跨り11のプロジェクトが進んでいて、大きな変化が起こっている街です。中野サンプラザの建て替えなどはメディアでも取り上げられていたので覚えている方もいるかもしれませんが、サンプラザだけでなく駅周辺が大きく変わります。
中野サンプラザの跡地には高さ250mの超高層ビルが建ち、コンサートやイベントが開かれるアリーナ、商業施設、オフィスやホテルなどの整備が計画されています。かつてのゴミゴミとして駅前広場も一新され、大きく変わるのは間違いないでしょう。期待を裏付けるように、2022年の地価公示価格の上昇率では、商業地の都内トップ3が中野駅前になりました。
各再開発プロジェクトは現在も進行中ですが、そのうちの1つである中野区役所新庁舎は2024年に完成しました。11階建ての新庁舎は前面をひし形上のトレリス(格子)に覆われた特徴的な景観をしていますが、このトレリスは耐震性を向上させる役割もあるそうです。アートを軸にしたパブリックスペースやキッズスペースなどもあり、誰でも入ることができるので、駅前の再開発プロジェクトを眺めながら都心から足を延ばしても良いでしょう。
複合施設かなえーる(北海道古平町)
続いては、人気の観光地・北海道の古平町にある「かなえーる」という複合施設。
古平町は北海道の西部(札幌の北西)にある積丹半島の東側にある町です。人口3000人以下の小さな町ですが、札幌や小樽からの高速バス(しゃこたん号)でもアクセスでき、ウイスキーで有名な余市町などからも近いので、観光で付近に行くことは多いでしょう。ちなみに古平町は【ふるびらちょう】と読み、アイヌ語のフレピラ(赤い・がけ)などが由来だそうです。
そんな古平町で2022年に完成したのが複合施設「かなえーる」。道内最古のRC造庁舎だった旧庁舎と地域交流センターの建て替え複合化に伴い、防災センターと図書館の機能も加えた施設です。
北海道という寒さの厳しい環境で、いかに環境負荷を低減させるか、工夫が凝らされた建物で、独特な外観は公共施設として閉鎖的になりすぎず、窓を最低限にして断熱性能を高めています。あえてランダムにしたRC壁が北海道の針葉樹林に溶け込み、木立のようなファサードを形成しています。
太陽高度が低い地域の特性から、ハイサイドライト(壁の高いところに設ける窓)を多用したり、ガラス一体型発電システムを利用したり、冬でも一定の温度に保たれている地熱を利用するアースチューブを設置するなど環境負荷を抑え、北海道の公共施設で初のZEB Ready認証を取得しています。直線的なコンクリートの外観とは対極の曲線や木を多用した建物内部も必見の建物です。
地中図書館(千葉県木更津市)
建築好きの間では有名な香川県の直島にある建築家・安藤忠雄氏が設計した「地中美術館」。もう名前からワクワクする建物ですが、なんと千葉県木更津市には「地中図書館」という建物が2023年にオープンしました。
地中図書館は「KURKKU FIELDS(クルックフィールズ)」という牧場、レストラン、宿泊施設などがある自然体験施設の中にあります。“サステナブルファーム&パーク”というそうで、音楽プロデューサーの小林武史氏が創設者です。
地中図書館はその名のとおり小さな丘の下にあり、グランドレベルで歩いていてもまったく建物に気づくことはありません。草木が生い茂る丘にひっそりと隠れている、そんなイメージの建物で、丘の傾斜を利用した中庭に面して本棚が並び、洞窟のような雰囲気になっています。建物の中央は放射状に屋根が立ち上がっており、中央には天窓から太陽光が降り注ぎます。本棚の間にはヌックのような小さなソファが隠されていて、お気に入りの本を見つけて読書するのが楽しそうです。
図書館という名前ですが、公共施設ではなく完全予約制なので行くときは注意が必要です。敷地内にある草間彌生氏のアート作品や自然に触れあえる様々な施設と合わせて、のんびり過ごすとリフレッシュできそうです。
まとめ
観光名所となっているような建築物や建築好きの間では語りつくされている有名建築は数多くありますが、新しい建物もどんどんできており、行ってみたいところばかりです。年末年始の旅行と合わせて、気になるところがあれば行ってみてくださいね。
著者:独学一級建築士 nandskさん
独学により一級建築士に合格。住宅やアパートの設計・工事監理、特殊建築物の維持管理、公共施設の工事設計・監督の経験あり。二級、一級建築士試験受験者へのアドバイスも行っている。『建築の楽しさを多くの人に知ってもらいたい』と話す。