土木学会と日本建築学会が合同シンポジウム 「脱炭素社会の実現へシームレスに連携を」

公益社団法人土木学会と一般社団法人日本建築学会は2025年12月3日、東京都内の土木会館で合同シンポジウム『土木・建築の連携-脱炭素社会の実現に向けて』を開催しました。
両学会による合同シンポジウムは、2022年に第1回を開催して以来、今回が4回目。過去3回は、土木と建築の連携に向けた活動状況の報告や意見交換などを行ってきましたが、今回初めて“脱炭素”という特定のテーマを設けての開催となりました。
土木・建築はそれぞれ独自の文化を持ちつつも、担っている社会的使命は共通しているという認識のもと、地球温暖化やそれに伴う激甚災害の頻発化といった社会課題に対応するためには、両学会がシームレスに連携することが重要であるという見解を示しました。
【参考】
公益社団法人土木学会|土木建築タスクフォース
一般社団法人日本建築学会|土木・建築タスクフォース
土木・建築タスクフォースとは
土木学会と日本建築学会は2021年11月、協力に関する覚書(MOU)を締結し、両学会の合同委員会として「土木・建築タスクフォース(TF)」を設置。6つのテーマでワーキンググループ(WG)を立ち上げ、土木工学と建築学が連携して取り組むべき課題の整理などを行っています。
【土木・建築TFの6つのWG】
- アンケートWG
- 社会価値WG
- 構造設計基本WG
- 災害連携WG
- 脱炭素WG
- DX-WG
この連携活動をより多くの人に知ってもらおうと年に一度開催しているのが、土木学会・日本建築学会合同シンポジウムです。シンポジウムでは、6つのWGによる活動報告を軸に、それらを踏まえて土木と建築の連携のあり方などについて議論を行っています。

第4回合同シンポジウムの会場の様子
2025年12月3日に開かれた第4回では、冒頭に土木・建築TF委員長の楠浩一・日本建築学会副会長が「一般の方々で土木と建築の違いを明確に意識している方は、そう多くはいないと思う。それだけ社会から見ると、土木学会と日本建築学会が担っている社会的使命には共通事項がたくさんある」などとあいさつ。
各WGが現在の活動状況を報告した後、今回初の試みとして、“脱炭素”という特定のテーマのもと両学会の会長らが講演を行い、土木と建築の連携の可能性を探りました。
WGの活動報告:脱炭素WGの報告要旨
ではここから、第4回合同シンポジウムの内容を紹介していきます。
シンポジウム前半は6つのWGがそれぞれ活動報告を行いましたが、ここではその中から、後半のテーマにつながる脱炭素WGの報告に注目したいと思います。
「エネルギー源の脱炭素化」は連携効果が大きい分野
脱炭素WGの報告では、同WGの主査を務める松本亨・北九州市立大学教授が登壇。松本主査は土木・建築両業界の特徴を「GHG(温室効果ガス)の排出側、削減側、それぞれの立場がある」と表現し、以下を共通課題として提示しました。
- 材料の脱炭素化
- ホールライフカーボン(WLC)マネジメント
- オペレーショナルカーボンの削減
- 市民の行動変容、合意形成
WLCとは、構造物の資材調達から建設、運用、改修、解体、廃棄までライフサイクル全体で排出されるGHGの総量のこと。また、運用段階で排出されるGHGをオペレーショナルカーボン、資材製造・建設・改修・解体など運用時以外に排出されるGHGをエンボディードカーボンといいます。
オペレーショナルカーボンの削減に向けては、建物や街で使用するエネルギー源の脱炭素化が重要な要素であるとし、GHGを排出しないエネルギー源として活用が期待される地下水、河川、下水、さらに洋上風力や揚水発電などは「土木技術に依存する分野。ここでの土木と建築の連携効果は非常に大きい」と説明しました。
また、両学会の連携効果が期待される分野の1つとして、“民生熱需要”における脱炭素化の可能性に言及。たとえば、ごみ焼却施設から出る排熱を、敷設した熱導管を通して地域の熱エネルギーとして活用する技術に触れ、「海外では普及している国もあるが日本では普及していない。これを真剣に検討し、成功事例を蓄積していく必要がある」と話しました。
そのほか、建設業界と他業界の連携(セクターカップリング)によって脱炭素化を図る視点、GHG削減量の算定方法、評価手法の必要性などについても議論しているといい、「(WGにおける議論の)最終的なアウトプットの仕方も引き続き検討したい」と述べて活動報告を締めくくりました。
“脱炭素”をテーマに両学会が意見交換

意見交換の進行をする松本亨・脱炭素WG主査
シンポジウム後半は『土木・建築の連携-脱炭素社会の実現に向けて』をテーマに意見交換を実施。
脱炭素WGの松本主査による進行のもと、土木学会・日本建築学会がそれぞれ行っている脱炭素に関する取り組み内容を紹介しながら、両学会の連携に期待を寄せました。
人材確保も視野にカーボンニュートラルの取り組みを発信(土木学会)
土木学会からは池内幸司会長が登壇し、2025年度の会長特別プロジェクトとして取り組む『カーボンニュートラルでレジリエントな社会づくりプロジェクト』の概要について講演しました。
池内会長は「特にこの10年間で雨の降り方のステージが変わってきた」とし、次世代のために地球温暖化の影響緩和に少しでも貢献したいという思いから、このプロジェクトを立ち上げたと説明。
カーボンニュートラルの取り組みについて、1年ほど前から各事業主体にヒアリングを実施し「個別の取り組みは非常に熱心」であることがわかった一方、「各々がつながっておらず、全体を俯瞰するような形になっていない」「足を引っ張っている基準、障壁がいっぱいある」といった課題が明らかになったといいます。
池内会長がいくつか事例を挙げた中から1つを紹介すると、たとえば下水処理場。
これまでは大量にエネルギーを消費する施設とされていましたが、カーボンニュートラルの観点から見ると、下水処理場はエネルギー資源となる汚泥やバイオガスの生産基地であり、太陽光パネルの設置ポテンシャルが高い広大な敷地を持つ施設ととらえることができます。
一方で、下水汚泥は廃棄物処理法の適用になっている点、バイオマスの受け入れには環境アセスメントが必要になる点、再生可能エネルギーは出力制御される場合がある点などが、推進の障壁として挙げられると説明しました。

池内幸司・土木学会長
そのほか、低炭素材料やCO2吸収型コンクリートなどの技術についても、「まだまだ普及が十分ではない。評価方法が未確立で、その結果、価格に転嫁できていない」と池内会長。
こうした現状を踏まえ、同プロジェクトについて、
- 土木分野全体におけるカーボンニュートラルの取り組み状況を俯瞰し、体系的に取りまとめて発信する
- 災害時のレジリエンス強化につながる取り組みを取りまとめて発信する
- 克服すべき障壁を明らかにし、具体的な改善方策を提言という形で取りまとめ、関係省庁に説明する
といった方針で取り組んでいることを強調しました。
そして最後にもう1点。「内心の“魂胆”は人材確保」とし、「次世代はカーボンニュートラルに非常に熱心。土木・建築の魅力を発信するうえでも、カーボンニュートラルの取り組みを押し出していくことが重要ではないかと考えている」とまとめました。
復興事業に土木・建築の区分はあまり関係ない(日本建築学会)
次に、日本建築学会の小野田泰明会長が『脱炭素に関する日本建築学会の取り組みについて』と題して講演。
日本建築学会では2021年、地球温暖化の影響による急激な気候変動に対して『非常事態宣言』を発出しており、▽地球環境全体の問題▽脱炭素▽気候災害―の大きく3つについて取り組みを行っていることを小野田会長が説明しました。
脱炭素については、この後に登壇する大岡龍三・東京大学教授が委員長を務める特別調査委員会を設置して、調査研究活動を行っていることなどを紹介しました。
そうした中で、小野田会長は建築分野の特徴について「土木の場合、クライアントは公共が中心だが、建築のクライアントは民間がほとんどで、経済合理性を中心とするステークホルダーも多い」と話し、脱炭素に向けた取り組みの周知の仕方、経済性とのバランスなどを整理していく必要があると強調しました。

小野田泰明・日本建築学会長
また気候災害について「特に水害など、いままでは土木に守っていただいていたが、さすがに激甚化すると建築のほうでもそれを受け止めていかないといけない」。さらに、さまざまな災害などが複合して起きるマルチハザードへの対応には「そもそも土木と建築という業界を分けていること自体がおかしい」と述べ、土木・建築が連携する必要性に言及。
小野田会長自身、近年は復興事業のマネジメントなどに携わっているといい、「復興の仕事をしていると、土木・建築の区分はあまり関係がない」として、次のように続けました。
「我々(建築)も土木のことを勉強しないといけないし、土木の皆さんにも建築のことをわかっていただきたい。公共発注が中心の土木と、民業が中心の建築とで文化の違いはあるが、人口が減り、資源が少なくなる中、戦略的に連携することが重要だと認識している」
“脱炭素”に加え、市民に受け入れられるデザインも重要(日本建築学会)
小野田会長に続いて、日本建築学会の脱炭素都市・建築推進特別調査委員会、大岡龍三委員長がオンラインで登壇。同委員会の活動状況を報告しました。
同委員会では、▽建築物が設計・建設・運用・廃棄に至るまでどれだけのGHGを排出しているかというホールカーボンでのLCA評価手法の検討・提案▽それを用いた評価事例の収集▽市民を含めた脱炭素に関するステークホルダーをどのように巻き込むかという方法の整理―などを行っています。
大岡委員長は、2025年9月の日本建築学会大会で同委員会の総合研究協議会を開催したことを報告し、その際の資料から、実際の建物でWLCを調査した結果を提示。
「昨今は省エネルギー努力が見られ、建物使用時のエネルギー消費量はかなり減ってきている。そうすると目立ってくるのがエンボディードカーボン。そこをどう減らすかが課題になる」と説明し、「土木学会の池内会長のお話にもあったCO2を出さない材料など、いろんな手法がある。これは建築学会・土木学会で協働できる分野」と話しました。
またステークホルダーを巻き込む方法の一例として、建築物のエネルギー消費性能や断熱性能を多段階で評価する『省エネ性能ラベル』という仕組みを紹介。
そのうえで「先ほど建築は民需、土木は公共が中心という話があったが、公共であってもお金を払っているのは市民。いかに『脱炭素です』といっても、やはり市民の方に受け入れられるデザインでないと長続きしない。そういった側面でも、建築と土木が今後関わっていけるのではないかと思う」と述べました。
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社会課題に対応するために境目なく連携を

シンポジウムの後、合同記者会見に臨む小野田・池内両会長
シンポジウムを終え、その後に開かれた合同記者会見で、土木学会の池内会長と日本建築学会の小野田会長がともに強調したのは「さまざまな社会変化に対応するために、土木と建築が境目なく連携する」ことの重要性。
地球温暖化、激甚災害の頻発化、少子高齢化、人口減少…。
こうした社会課題が差し迫る中、「やることは非常に増えているが、人材が少ない。そういう中でわれわれ学術団体は、知恵を出し、『こうすれば持続可能で、将来に向けて価値のある社会になるのではないか』と提示をする、その責務を負っている」と日本建築学会の小野田会長は話しました。
土木学会の池内会長も「シームレスに両学会が連携してこの社会課題を解いていき、災害に強く持続可能で豊かな社会を実現する。両学会に文化的な差異はあるが、それを乗り越えて、できるだけお互い整合性をとりながら、将来の日本の国、また世界を少しでも良くするように努めてまいりたい」と力を込めました。
(建設データ編集部)









