ガードレールの形に隠されたある秘密とは?意外な理由を土木のプロが解説
【この記事を執筆したのは…】
佐藤拓真さん
元準大手ゼネコン勤務|土木の現場監督7年|ブロガー兼Webライター|SNS総フォロワー2.3万名|出版書籍「仕組み図解 土木工事が一番わかる」
道路沿いに延々と続く白いガードレール。
多くの人にとって見慣れた存在ですが、その形状が「まっすぐではなく波打っている」理由を考えたことはあるでしょうか。
「頑丈そうだから」「デザインだと思っていた」
それくらいの感じでただ何となく見ていたという人も少なくないでしょう。
しかし、この波型には人命を守るための重要な役割が隠されています。実は、ガードレールの形は単なる強度確保ではなく、「衝突時の安全性」を最大化するために生まれたものなのです。
本記事では、道路安全に詳しい土木技術者の視点から、なぜガードレールは波型なのかを分かりやすく解説します。
ガードレールはなぜ“あのカタチ”なのか?多くの人が誤解している本当の理由

ガードレールはなぜ、あのような波型になっているかご存じですか?
「考えたこともなかった」
「頑丈だから?」
そんな風に思ったかもしれません。たしかに“波型=なんとなく頑丈そう”というイメージはありますよね。
しかし、ガードレールのあの形状は強くするためだけの形ではありません。むしろただ強度を上げるだけなら鉄板を厚くすればよく、波型にする必要はありません。
では、なぜわざわざ複雑な“波の形”にしているのでしょうか?
ガードレールの役割と形状
ガードレールに求められている役割は、「衝突されたときに車の勢いをうまく受け止め、人の命を守ること」です。
ここで重要になるのが、単なる強度ではなく、“どう壊れるかをあらかじめ決めておくこと”。
もしガードレールが鉄の塊のように硬くて全く変形しなかったら、車がぶつかった瞬間に、衝撃がそのまま車内に返ってきてしまいます。これはとても危険です。
逆に、ただの薄い板でペラペラだと、衝突時に車を止める力が足りず、路外へ飛び出してしまいます。
つまり、ガードレールは「硬すぎても危ない、軟らかすぎても危ない」という難しい条件の中で設計されているのです。
板を厚くすれば“強さ”は出るのに採用されない理由
材料力学的には、厚みのある平板のほうが曲げに対する強さ(剛性)が高いのは事実です。
しかし、強いだけでは衝撃を吸収できず、車両への跳ね返り(リバウンド)が大きくなるため、乗員の負傷リスクが高まります。
ガードレールに求められるのは、
- 適度にしなる(たわむ)
- 変形しながら衝撃を吸収する
- 車を大きく跳ね返さず、進行方向を乱しにくい
という“安全に壊れる”性能です。波型は、このバランスを実現するために最適化された形状なのです。
波型だからこそ、衝撃を吸収できる
波型の梁材(ビーム)は、車両が衝突した際に全体が大きく“たわむ”ことにより衝撃エネルギーを吸収するよう設計されています。
山と谷の連続した形状により、
- 衝撃が一点に集中しにくい
- 車に返る力が和らぐ
- 車両が大きく跳ね返されにくい
といったメリットが生まれます。
ちょうど、まっすぐな紙より、蛇腹折りの紙のほうがしなやかになるのに似ています。
ガードレールが“波型”になっているのは、単に強度のためではなく、衝突時に最も安全な「壊れ方」をするために必要な形状なのです。
そもそもガードレールとは?防護柵の一種

道路の安全施設としてのガードレールは、正式には「車両用防護柵」に分類されます。
①車両用防護柵
・剛性防護柵(ほとんど変形しないタイプ)
・たわみ性防護柵(衝突時にしなるタイプ)
②歩行者自転車用柵
・転落防止柵
・横断防止柵
まず、防護柵は大きく「車両用防護柵」と「歩行者自転車用柵」の2つに分類されます。さらに、車両用防護柵はその構造や性能の違いにより、「剛性防護柵」と「たわみ性防護柵」に分けられます。
ガードレールは“たわみ性防護柵”に分類されます。
それぞれ、詳しく解説します。
主な防護柵の種類
【剛性防護柵】
剛性防護柵はコンクリートなどでつくられ、主要な部材がほとんど変形しないよう設計されています。
そのため車が衝突しても防護柵側は大きく動かず、車両を強力に止める力があります。
【剛性防護柵の形状】
- 単スロープ型
- フロリダ型
- 直壁型

(図:著者作成)
剛性防護柵はとても強く、車が道路の外へ飛び出すのを防ぐ力が高い防護柵です。そのため、高速道路の橋の上など、もし車が逸脱すると大きな事故につながるような場所で主に使われます。
【たわみ性防護柵】
このタイプの防護柵は、主要な部分がある程度しなることや曲がることを前提につくられています。
車がぶつかったときには、車と防護柵の両方が変形することで衝撃を吸収する仕組みになっています。
衝撃を和らげる力が強く、緩衝性に優れた防護柵といえます。
【たわみ性防護柵の種類】
- ガードレール
- ガードパイプ
- ガードケーブル
- ボックスビーム
たわみ性防護柵の呼び名
たわみ性防護柵は、種類、種別、支柱間隔、設置(建込み)方法などが規格化されていて、次のような記号で表します。
(例)「Gr-C-4E」
Gr:ガードレール
C:C種類(防護柵の細別)
4E:4mスパンで土中式
| 防護柵形式記号 | 種類および設置箇所 | 支柱間隔および設置方法 | |
| 記号(例) | Gr | C | 4E |
| 詳細 | Gr:ガードレール Gc:ガードケーブル Gp:ガードパイプ Gb:ボックスビーム |
C~SSの種別記号(下図参照)と設置箇所(アルファベット小文字)※を表します | 数字は支柱の間隔をm単位で表し、アルファベットは設置方法を表します E:土中式 B:構造物用 |
※設置箇所(アルファベット小文字)の例
m:分離帯用
p:歩車道境界用
小文字なし:路側用
▼ガードレールの形状と種類
(図:著者作成)
ガードレールの端部に付いている“アイツ”

道路のガードレールの端が、くるっと丸く処理されているのを見たことがありますか?
実はあれ、ただの見た目ではなく 人や車を守るための大事な仕組みなんです。
もし端が尖っていたら、接触したときに大きなケガや事故につながる可能性があります。
そこで使われているのが「袖ビーム」と呼ばれる端部の形状。丸みをつけることで衝撃を和らげ、安全性を高めているのです。
ガードレールの“端っこ”がなぜ重要なのか、もっと詳しく知りたい方はこちらの袖ビームの解説記事をご覧ください。
ガードレールはなぜ“あのカタチ”なの?【まとめ】
ガードレールの“波型”には、私たちが日常で気づかないほど多くの工学的配慮が込められています。
単に強度を高めるのではなく、衝突時にどう安全に壊れるかを設計する。この考え方こそが、ガードレールの形状が長年にわたり採用され続けてきた理由です。
次に道路を走るとき、白いガードレールが視界に入ったら、
「壊れながら人を守るための緻密な技術が詰まった構造物なんだ」
と少しだけ思い出してもらえるとうれしいです。
著者:佐藤拓真
著者:佐藤拓真


