建設トピックス

地域インフラ群再生戦略マネジメントとは?群マネによる建設業界のメリットを解説

2025年10月、地域インフラ群再生戦略マネジメント(通称:群マネ)の全国展開に向けて、国土交通省が「群マネの手引き Ver.1(群マネ入門超百科)」を公表しました。地域インフラ群再生戦略マネジメントとは、広域・複数・多分野のインフラをグループ(群)にまとめ、戦略的に維持管理していく手法です。

手引きでは、群マネの基本的な概念や効果、類型の整理に加え、先行事例や実施のプロセス、さらに計画策定のポイントまでを解説しています。導入の検討段階から実際の運用に至るまで、群マネを包括的に理解し、活用できるよう支援する実践的なガイドです。

本記事では、群マネの基本的な仕組みから、建設業界にとってのメリット、実務課題までをわかりやすく解説します。


「群マネ入門超百科」の表紙(国土交通省「群マネ特設HP」より

【参考記事】「群マネ入門超百科」を公開 手引きVer.1、イラスト多用しわかりやすく:2025年10月14日(火)配信

地域インフラ群再生戦略マネジメントとは

地域インフラ群再生戦略マネジメントとは、別々の都道府県・市区町村が管轄しているインフラや、異なる分野のインフラを一つのグループとしてまとめて捉えることで、より効率的かつ効果的な維持管理を実現する手法のことです。

従来は、都道府県・市区町村ごとに管内の施設を管理し、分野ごとに担当部署が分かれている縦割りの体制が一般的でした。

しかし近年、インフラの老朽化が進行し社会問題となる中、多くの自治体では技術系職員や財源の不足に直面しています。群マネが導入された背景には、「従来の体制では限界を迎えてしまう」という強い危機感があるのです。

群マネを構成する3つの束

広域かつ多分野のインフラをまとめて管理するためには、スケールメリットを最大限に生かし、業務を効率化していくことが不可欠です。そのために重要な考え方が、「自治体」「事業者」「技術者」の3つの束です。

1.自治体の束

計画策定や発注手続きに伴い、複数の都道府県・市区町村や、複数の部署が連携することです。連携にあたっては、組織間で協議し、発注体制や役割分担を明確にする必要があります。

2.事業者の束

複数の建設業者や関連企業がタッグを組み、維持管理業務を効率的に担います。代表的な連携パターンは、JV(共同企業体)や事業協同組合です。

JVの場合、地元業者だけで組まれるケースもあれば、地域外の業者が加わって協力するケースもあります。

3.技術者の束

限られた人数しかいない技術者を効率的・効果的に活用する仕組みです。ここでいう「技術者」とは、自治体の技術系職員をはじめとした専門人材を指します。

技術者の人材育成や情報交換の場をつくることで、地域や組織の垣根を超えた技術者ネットワークを構築します。

群マネにおける自治体の連携方法

いくつかの自治体が協働する場合、「広域連携」と「多分野連携」という2つの連携手段があります。

  • 広域連携:都道府県や市区町村の枠を越えて一体的な範囲を管理
  • 多分野連携:道路や河川など異なる分野をまとめて管理

次の項目からは、それぞれの連携手段について、詳しく見ていきましょう。

群マネの広域連携

異なる自治体が協力し合う広域連携は、さらに「水平連携」と「垂直連携」の2つに分類できます。両者の違いは、連携組織の中に都道府県が含まれるかどうかです。

水平連携は、都道府県が入らない体制です。一つの市区町村が中心となり、複数の市区町村と協力して管理します。既存の広域連携組織がベースになる場合もあります。

一方で垂直連携は、都道府県が含まれる体制です。都道府県が主導し、管内の複数の市区町村が力を合わせて管理を進めます。

群マネの多分野連携

多分野連携は、道路や河川など異なる分野をまとめて管理する方法です。別々の部署が協力し合い、複数分野のインフラの管理を一体的に民間委託することで、業務の効率化やコスト削減を図ります。

群マネ推進による建設業界のメリット

建設業界には以下のメリットが期待できます。

  • 安定的な受注が見込まれる
  • 現場作業を効率化できる
  • 事務手続きを省力化できる
  • 事業者間で人材や資機材を融通できる
  • 人材育成につながる
  • 創意工夫が促進される
  • 社会的なプレゼンスが向上する

それぞれのメリットについて、詳しく解説します。

安定的な受注が見込まれる

群マネでは、スケールメリットを生かすために、複数年契約や包括的民間委託の導入が進められており、建設業にとっては安定した受注が期待できる仕組みとなっています。

包括的民間委託とは、公共施設の管理・運営において複数の業務や施設をまとめて事業者に委託する発注方式です。さらに複数年契約であれば、事業者は長期的な視点で経営を見通すことができ、計画的な設備投資や人材雇用が可能になるでしょう。

現場作業を効率化できる

群マネの導入によって、類似する業務や近接したエリアの業務をまとめて受注できるようになれば、現場作業の効率化につながります。

たとえば現場のパトロールを一本化したり、舗装補修と清掃を同時並行で進めたりすることで、作業時間の短縮や人員配置の最適化が図れます。

事務手続きを省力化できる

群マネで複数の事業者が連携する場合は、単独での受注に比べて、事務手続きの負担を軽減できる可能性があります。

特に、JV(共同事業体)では、代表企業が契約・報告・精算などの事務作業を担うことが多いです。そのため、構成企業は書類作成や事務手続きなどを大幅に削減でき、現場業務により集中できます。

事業者間で人材や資機材を融通できる

事業者同士の連携体制が構築されると、繁忙期や緊急対応時に、人材や資機材を補完し合うことが可能です。

たとえば、ある地域で急な補修工事が必要になった場合、一社だけでは人手や機材が足りず、迅速な対応が難しいことがあります。しかし連携している他の事業者がいれば、応援人員や必要な資機材を融通してもらうことで、スムーズに対応できる体制が整います。

人材育成につながる

群マネでは、土木・水道・舗装など、異なる分野の人たちで一緒に働く機会が増えます。職種を越えた交流を通じて、現場に携わる人たちが自分の専門分野だけでなく、現場全体を俯瞰して捉える視点を培うことにもつながるでしょう。

また、設計コンサルタントがコンストラクションマネージャーとして監理し、発注者の設計意志を地元業者に伝達する役割を果たした事例もあり、工事の効率化だけでなく地元業者の育成にもつながっています。

創意工夫が促進される

群マネのマネジメント戦略では、性能規定の導入が進められています。性能規定とは、発注者が管理水準を明確に示し、その達成の手段は受注者の創意工夫に委ねる発注方式です。

性能規定の導入が進むことによって、受注者側から新技術や作業方針を提案しやすくなります。また、従来は作業のたびに建設業者から発注者への確認が必要でしたが、性能規定で判断基準を事前共有されていれば、建設業者が自ら判断して対応できるようになります。

社会的なプレゼンスが向上する

インフラメンテナンスは、事業者にとって「手間がかかる割に収益性が低い」と言われることがありますが、群マネが効果を発揮すれば、維持管理業務の効率化や収益性の向上も期待できます。また群マネの注目度が上がれば、その実行役を担う建設業の存在はより大きなものになるでしょう。

こうした流れは、インフラメンテナンスという仕事の魅力向上や、建設業者の社会的なプレゼンス向上にもつながります。

群マネを進めていく上での課題・リスク

建設業にとってメリットの多い群マネですが、実際に業務を進めていく上では課題・リスクもあります。その中でも注意しておきたい課題が、発注者である自治体間で生じるモラルハザードです。

モラルハザードとは、共同運営体制によって責任が曖昧になっている状況が、リスクのある行動につながってしまうことを指します。

群マネは、複数の組織が協働するため、管理責任の所在が曖昧になりやすいという懸念があります。管理責任が不明確なままでは「他がやってくれるだろう」という思考に陥りやすく、業務が遅延したり、品質管理が徹底できなくなったりと、さまざまな問題が生じる恐れがあります。

受注者(建設業者)にとって、複数の自治体から共同発注を受ける場合などは、「誰が管理責任を担うのか」という責任の分担を事前に確認しておくことが欠かせません。

また、主導者が明確な場合でも注意が必要です。他の組織が、主導者となる組織に任せきりになってしまう、というリスクもあるためです。その結果、人的リソースの偏りが解消されず、インフラマネジメントが十分に機能しないということも考えられます。

受注者が円滑に業務を遂行していくためには、発注者の管理体制をしっかりと把握しておく必要があるでしょう。

群マネの具体例

ここからは、既に群マネを実践している地域の具体例を見ていきましょう。

奈良県(奈良モデル)

奈良県の事例は技術系職員が不足している市町村が多い中、県がその課題を補完する体制を構築しており、先駆的な取り組みとして注目されています。

たとえば橋梁やトンネルの点検業務については、県と市町村の間で協定書を交わし、市町村は県に対して委託費と事務費を支払います。そして、県および市町村が所管する施設の点検業務を県が事業者に一括発注することで、効率的に点検を進められる仕組みです。

補修設計や修繕工事においても、協定書を結び、県が一括発注する点は共通しています。加えて、市町村が県に職員を派遣し、その職員が自分の市町村の補修設計や修繕工事の業務に従事する点が大きな特徴です。この仕組みによって、市町村の職員の人材育成や技術力向上にもつながることが期待されています。

静岡県と下田市

静岡県と下田市では、道路の維持管理業務を共同発注しています。両者は覚書を結んだ上で、県が事業者を選定・契約し、市は県と同一の事業者と随意契約を結ぶスキームです。

この体制により、県道・市道を区別せずにパトロールや作業を一体的におこなうことが可能となります。受注者へのアンケートでは、業務時間が四半期で51%削減されたという回答があるなど、成果が現れています。

また事業者との情報伝達には「道路管理支援システム」を使っている点も特筆すべきポイントです。自治体から受注者への作業指示や、受注者による対応完了報告などをシステム上でやりとりすることで、業務の効率化を図っています。

岐阜県白川村と富山県南砺市

県を跨いだ市町村同士の群マネの事例もあります。岐阜県白川村と富山県南砺市が県境周辺の除雪業務を一括発注している事例です。

両者で委託契約を交わし、南砺市が事業者に除雪業務を発注しています。以前は、除雪車の空走距離が長く、非効率な運用が課題となっていましたが、両自治体で一体的に除雪することにより、作業が効率化されました。なお、現在は岐阜県がこの一体的な除雪業務を代行しています。

国交省が支援する群マネモデル地域

2023年12月、国土交通省は群マネの全国展開を視野に、具体的な検討を進めるための11のモデル地域を選定しています。

モデル地域では、国土交通省の支援のもと、群マネの計画策定が進められました。さらに、サウンディング調査や事業者選定など、実装に向けた具体的な取り組みもおこなわれています。

まとめ

群マネはバラバラに管理していたインフラをグループとしてまとめて捉えることで、効率的・効果的に維持管理していく手法です。まとめ方は自治体の束や事業者の束があり、複数の関係者が協力し合い、スケールメリットを生かすことで、高い効果を発揮します。

国土交通省の有識者会議では、先行事例の調査結果として、自治体・事業者ともに、作業の効率化や業務の平準化などの好影響があったことが報告されています。

今後は「群マネの手引き Ver.2」の策定に向けて、既存事例がまだ少ないスキームの具体化など、さらなる検討が進められる予定です。

こうした流れを受けて、建設業界にとっては、広域的・長期的な案件の受注機会が増加することが見込まれます。一方で、性能規定の導入が進むなど、事業者が自ら考え動く場面も増えていくことでしょう。今後は施工技術に加えて、創意工夫や提案力も求められることが今まで以上に増えていくかもしれません。

(建設データ編集部)

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