建設トピックス

【東京都】2025年4月から新築建築物に太陽光発電設備など設置義務化!都担当者に聞く背景やねらい

2025年4月から、東京都で新築建築物へ太陽光発電設備など再生可能エネルギー(以下、再エネ)利用設備の設置を義務付ける制度が始まります。

これは「都民の健康と安全を確保する環境に関する条例(環境確保条例)」が2022年12月に改正されたことに伴い、約2年の準備・周知期間を経ていよいよ施行されるもの。延べ床面積2000㎡以上の大規模建築物は全棟、2000㎡未満の中小規模建築物は都内で一定量以上の建物を供給する事業者(大手ハウスメーカーなど)が建てたものを対象に義務化されます。

今回、東京都環境局気候変動対策部で大規模建築物の環境施策などを担当する宇田浩史・建築物担当課長に、この条例改正および太陽光発電設備などの設置を義務化する背景やねらい、建築物における環境対策の展望などについてお話を伺いました。

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太陽光発電設備などの設置義務化に関わる2つの制度


東京都環境局HPより

2022年12月、東京都の環境確保条例が改正されました。これにより、大規模建築物を対象とした既存制度「建築物環境計画書制度」の内容を強化・拡充し、さらに戸建て住宅など中小規模建築物が対象となる「建築物環境報告書制度」を新設、それぞれ2025年4月から施行することとなりました。

新築建築物への太陽光発電など再エネ利用設備の設置義務化は、この両制度に基づいて実施されます。

大規模建築物が対象の「建築物環境計画書制度」とは

東京都の建築物環境計画書制度とは、一定規模以上の建築物を新築(増築・改築含む)する建築主に環境配慮の取り組みなどを記載した計画書の提出を義務付け、都が3段階で評価するとともに概要をホームページで公表する制度です。

2002年にスタートし、当初は1棟当たりの延べ床面積が1万㎡以上の建築物を対象としていましたが、現在は2000㎡以上へと対象を拡大しています。

今回の環境確保条例改正に基づき、同制度に太陽光発電など再エネ利用設備の設置義務をはじめ、下図のような内容が追加されることとなりました。


東京都環境局HPより

このうち、省エネ性能基準の強化・新設における「住宅以外の用途の基準引き上げ」については2024年に先行で施行されています。

詳しくは都のホームページなどをご参照ください。

中小規模建築物が対象の「建築物環境報告書制度」とは

建築物環境報告書制度とは、今回の環境確保条例改正に伴って創設され、2025年4月に施行となる新制度。戸建て住宅など延べ床面積2000㎡未満の中小規模建築物を新たに建設または新築する“特定供給事業者”に対して、建築物における環境配慮の取り組みなどを義務化し、基準への適合状況等の報告を求める制度です。

特定供給事業者とは「1年間に都内において建設等する中小規模特定建築物の延べ床面積の合計が2万㎡以上の建物供給事業者」のこと。すなわち、大手ハウスメーカーなど一部の事業者が供給する建物のみが同制度の対象となり、都の試算では、該当する事業者は50社程度と見込んでいます。

先ほどの大規模建築物における“計画書制度”は建物1棟ごとの延べ床面積を制度対象の基準にしているのに対し、こちらの“報告書制度”は建物の供給事業者単位で義務化対象が決まる仕組みです。

同制度において義務付けられる主な内容は、太陽光発電設備などの設置をはじめ下図のとおりです。


東京都環境局HPより

こちらも詳細は都ホームページなどでご確認ください。

東京都環境局の宇田課長にお話を伺いました!

上記のような今回の環境確保条例改正や、それに伴う新築建築物への太陽光発電など再エネ利用設備の設置義務化には、どのような意図があるのでしょうか。東京都環境局で大規模建築物の環境施策を担当する気候変動対策部の宇田浩史・建築物担当課長にお話を伺いました。

【お話しいただいたのは…】

宇田 浩史 氏

宇田 浩史 氏

東京都 環境局 気候変動対策部 建築物担当課長

エネルギーの大消費地・東京の責務として再エネを促進

――まず、条例改正および新築建築物に太陽光発電などの設置を義務化する背景や理由について教えてください。

宇田 東京都は2030年までのカーボンハーフ(温室効果ガス[GHG]排出量を2000年比50%削減)達成を掲げているほか、2050年までにカーボンニュートラル(GHG排出量実質ゼロ)を目指す世界の動きに貢献することを宣言しています。これから建てる建物の多くは2050年時点でも使われているであろうと考えると、新築建物への対策はとても重要です。

また、「太陽光発電設備を載せる場所はどこにするか」や「じゃあそこにしっかり架台を入れよう」など、そういう検討を一番しやすいのって、やっぱり新築時ですよね。

エネルギー消費が大きい建物をつくってしまうとその影響はずっと続いてしまいますし、建ててからではやれることの幅も狭まってしまうので、最初から再エネを導入した、省エネ性能の良い建物をつくっていただきたい、というのがまず1つです。


東京都環境局HPより

宇田 それから、東京都には建物、特にビルが集積していますが、ここで消費する電気の多くは都外から供給していただいています。このまま、再エネについても地方に頼ってしまうばかりで良いのかというと、そうではありません。

都が“エネルギーの大消費地”である責務という意味では、我々自体が再エネを増やすために最大限の汗をかく必要があります。集積する建物が持つ太陽光発電設備の設置ポテンシャルを最大限に活用するため、建物のデザインを決める段階から太陽光発電などの導入を前提に設計する。このように大都市の特性を生かして、再エネの導入を一層促進していきます。

強靭でレジリエンスがあり地域に貢献できる建物

――自然災害への懸念もさまざまある中で、レジリエンスという観点はいかがでしょうか?

宇田 計画書制度にはレジリエンスに関する評価基準も設けています。延べ床面積2000㎡以上の大規模建築物は、基本的には強い構造を持っているので、シェルターの役割を果たす建物になり得ます。大きな災害のときには周りから人々が避難してくる、避難場所としての利用も想定しておくことを評価の1つにしています。

昨今、太陽光発電など再エネによる電気を建物の共用部で使えるようにしたり、蓄電池を導入したり、何かあったときに備える仕組みを取り入れた建物は増えています。

再エネは「発電時のCO2排出がゼロだから」というそれだけではなく、系統電力が停電した際にも自家発電できるという、災害停電時などのレジリエンスもあるわけですから、「せっかく導入するなら賢く活用してほしい」と思っているところです。


東京都環境局HPより

――この条例改正がそうした動きの後押しにつながるといいですね。

宇田 計画書制度は施行後20年以上の歴史を持ち、対象となる建築物は都内新築面積の約半分を占めています。建築業界へのインパクトも非常に大きいと認識していますので、こうした動きを加速できるように頑張りたいと思います。

我々としては、一度建てた建物は長く使ってほしいと思っています。コンクリートなどの資材は有限ですし、解体・処分時にもCO2は排出します。もちろん資材の製造時、建設時にもCO2を排出しているわけですので、しっかりメンテナンスをして大事に長く使っていただきたい。

今回、計画書制度の改正では、災害時のレジリエンスとして主に“都市水害”の観点を評価基準に追加しています。建物を長く使っていれば、その間に水害に遭う可能性もあります。もちろん地震国でもありますから、こうした状況にも耐えられる強靭な建物で、レジリエンスがあって、有事の際に地域に貢献できる。地域の方々に、この建物があって良かったと思ってもらえる。そんな良い建物を事業者の皆様にはつくっていただきたいというのが私の願いです。

この制度が“コミュニケーションツール”になれば

――ちなみに、2025年4月には建築基準法や建築物省エネ法の改正があります。東京都における各制度の施行時期はこれらに合わせた形でしょうか?

宇田 いえ、国の法改正ありきということではなく、2022年12月の条例改正から制度施行までの準備期間・周知期間をどれくらいにするかという議論がありました。

大規模建築物が対象の“計画書制度”は既存制度の拡充ですが、中小規模の“報告書制度”は新しい制度になりますし、大規模、中小規模、両制度の対象になる事業者さんもいます。建築物省エネ法の施行時期が念頭になかったわけではありませんが、準備・周知の期間として条例改正から制度施行までに2年設けることとしました。

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――今回の条例改正および各制度の拡充・新設を経て、建設業界にはどんなことを期待しますか?

宇田 建築は、資材などの関連産業を含めると非常に裾野が広く、サプライチェーンの頂点にあると思っています。

その頂点となる建築主の皆様には、省エネな建築、再エネの導入に加え、都の計画書制度を通じて「うちはクリーンかつ低炭素な建設資材で建てたい!」という意思、メッセージを出していただきたい。その意思をゼネコンが受け止め、さらにサブコン、資材や設備のメーカーへとつながり、建築のサプライチェーン全体に広がっていってほしいと思います。

それから、ゼネコンにはぜひ、この制度を建築主との“コミュニケーションツール”として使っていただきたいです。

――コミュニケーションツールですか?

宇田 建築主と評価項目を確認しながら「この項目はどの程度の評価をねらいますか?」「ここはコストを上げずに段階3が取得できそうですが、目指しますか?」「この部分は低炭素コンクリートを使えるので採用しませんか」など、建物の環境性能についてゼネコン側から提案するきっかけにしていただければ、と考えています。

ゼネコンの方々には建築主の皆様とよくコミュニケーションをとっていただいて、建設業が持っている技術やポテンシャルを社会に役立つものとして、ぜひ積極的にアピールしていただけると良いと思います。

建物の運用面も含めて、例えば大手ゼネコンが何か新しい提案をして、何棟かに採用されたとします。そして「これからそういう設計が主流になる」と思えば、関連メーカーの開発が進むかもしれません。いろんな工夫の積み重ねが絡み合って、技術革新が起きるのではないかなと思うんです。

そうやって少し将来を見通しながら、便利でCO2が少ない優れた建物をつくっていただけたらと思います。


今後、東京都内で延べ床面積2000㎡以上の大規模建築物を新築する際は民間施設も公共施設もすべて、再エネ設備の設置が義務となる。写真は東京ビッグサイト(江東区)に設置された太陽光発電設備(東京都環境局HPより

建設・製造時のCO2抑制が重要な価値の1つに

――最後に、建築物における環境対策について、今後の展望をお聞かせください。

宇田 いままでは運用時のCO2排出量を削減するという考え、いわゆるオペレーショナルカーボンの省エネ対策が主流だったと思いますが、これからは建設段階から解体段階までも含め、建物のライフサイクル全体のステージでCO2をどれだけ抑制していくかという視点が重要になってくると思います。


原材料の調達から製造、物流、販売、廃棄に至るまでのサプライチェーン全体におけるCO2排出のイメージ(東京都 HTT実践推進ナビゲーター事業HPより

宇田 特に建設時のCO2排出は大きいので、できるだけ炭素排出の少ない製品を選択することが大切です。「太陽光発電って素晴らしい設備だよね」といっても、それもCO2を排出しながらつくられているわけです。だから同じ性能のものであればCO2が少ないほうを選んでいただきたいですし、メーカーは「当社の製品は炭素が小さいですよ」とアピールすること、ゼネコンはそれを選択する目を持っていること、これがすごく重要だと思います。

これからは性能だけでなく、モノの製造段階におけるCO2排出量が少ないことが求められ、そのことが製品の重要な価値の1つになる。それを選ぶことで建物に対する評価や、それを建てる建築主の評価も上がってくるでしょうし、「そのほうが売れる」となれば、後は市場の原理でスパイラルアップされていく。そうした市場の流れになることが大事です。

そうすれば間違いなく建築のCO2排出は少なくなると思います。

――そういう意味では東京都でも、大規模建築物を対象とした環境配慮の制度がもともとあって、それが強化・拡充され、中小規模向けの制度も一部事業者を対象に始まり、都民の方にも注目されて…、そうした流れがだんだん広がっているように感じます。

宇田 そう感じていただけるととてもうれしいですね。一足飛びには難しいですが、少しずつそういう世界になっていくためにも、これからも制度をしっかり運用していきたいと思います。

――ありがとうございました。

(建設データ編集部)

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