「新築建物への再生可能エネルギー導入について」東京都環境建築フォーラム・講演要旨(後編)

社会課題

2024年9月12日(木)に行われた「東京都環境建築フォーラム」の講演レポート。後編では、再生可能エネルギー(以下、再エネ)を導入した施設の先進事例として、民間企業2社の取り組みに関する講演要旨を紹介します。

1つは住宅分野の事例として、東京建物株式会社が東京都世田谷区に建設中の分譲マンション「Brillia深沢八丁目」。集合住宅におけるZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の認証でいずれも最高ランクとなる住棟『ZEH-M』・全住戸『ZEH』を都心の分譲マンションで初めて取得した物件です。

もう1つは非住宅分野から、清水建設株式会社の「温故創新の森NOVARE」。研究施設など複数棟で構成される同社の人財育成とイノベーションの拠点施設です。建物単体ではなく、複数建物のネットワーク全体でゼロエネルギーを目指すZES(ネット・ゼロ・エネルギー・ソサエティ)という概念を取り入れている点などが特長です。

【事例紹介(住宅)・要旨】

Brillia深沢八丁目における住棟『ZEH-M』・全住戸『ZEH』の実現に向けた再エネの取組について
西池拓人氏(東京建物株式会社)


Brillia深沢八丁目の取り組みを紹介する東京建物の西池拓人氏

施設概要

名称:Brillia深沢八丁目(分譲マンション)
所在地:東京都世田谷区深沢8-70-18(地番)
敷地面積:2,938.11㎡
延べ床面積:3,412.37㎡
規模:地上3階建、総戸数38戸

太陽光パネルは計336枚!屋根中に目いっぱい搭載

Brillia深沢八丁目は、都心の分譲マンションで初めて、住棟『ZEH-M』と全住戸『ZEH』を達成したことが評価され、国土交通省「サステナブル建築物等先導事業(省CO2先導型)」に採択されている。

この物件では「省エネ」「再エネ・創エネ」「貯蓄・固定」に加えて、「柔軟な運用」を取り入れることによって、より効率的なエネルギーマネジメントを行っている。また、安全・安心の観点から、災害時の自立につながる仕組みを取り入れ、さらなる付加価値の向上を目指した。

導入している主な設備機器はこちら。


講演資料より

これら機器の採用によって、『ZEH-M』の要件である断熱等性能等級5よりも高い等級6を全住戸で取得、一部住戸では等級7を取得している。

再エネ設備は、計336枚(137.76kw)の太陽光パネルを設置。屋根の載せられるところに目いっぱい載せている。内訳としては、共用部のパネルが24枚、専有部が合計で312枚。専有部のパネルについては、「これは101号室のパネル、これは102号室のパネル…」というように、各住戸に一対一で対応している。

また、日中の発電電力を最大限に活用するために蓄電池を設置。その他、創エネ設備として全住戸にエネファームを標準設置している。

パネルの角度を寝かせることで絶対高さ制限に対応


講演資料より

今回の物件は、第一種低層住居専用地域に位置しているため、建物の絶対高さ制限10mが設定されている。また、太陽光パネルの頂部を最高高さとする必要があった。そのため、本来は太陽光パネルを理想角度の30度に近づける形で設置したかったが、実際にはパネル角度を6.2度まで寝かせることによって、絶対高さ制限に対応した。

また、パネル角度が寝ていることから、通常よりも方位の影響が小さく、方位よりもパネル枚数を増やすことを優先した。


講演資料より

再エネ・創エネ機器の導入は、災害時のレジリエンス性の向上にも寄与している。

専有部については、停電時専用のコンセントを各住戸のLDKに設置。エネファームのコンセントをダイニングとキッチンに、太陽光パネルのものをリビングに設置している。

共用部は、通常時にも活用できる蓄電池をはじめ、非常時においては電気自動車から共用部電力への供給を可能とするV2H施設を駐車場の近くに設置した。

再エネ導入マンション普及に向けた課題の共有


講演資料より

今回、Brillia深沢八丁目で再エネを実際に導入した経験を踏まえ、今後の再エネ導入マンション普及に向けた課題等について共有したい。

この物件においては、10mの絶対高さ制限が設計上の大きなポイントの1つだった。もちろん、居住快適性を損なうわけにはいかないので、太陽光パネルを寝かせるという対応をしたが、高さ制限がある地域で再エネ導入マンションをつくる際、この問題は確実にネックになってくると思う。

太陽光パネルを寝かせるということは、その分、発電効率が落ちるということ。せっかくコストをかけて導入した再エネ機器のポテンシャルを100%発揮できないのは非常にもったいない。再エネ機器部分における高さ制限の緩和について検討していただきたい。

また、今回のように太陽光パネルを限りなく寝かせると、屋上防水のメンテナンススペースがなかなか取れないことが課題となった。Brillia深沢八丁目では、当初計画していたアスファルト防水からシート防水に変更することで、修繕や更新の頻度を抑える工夫をした。

一方、シート防水の耐用年数は20年だが、国による長期修繕計画のガイドラインで、屋上防水の更新を伴う大規模修繕工事の頻度は一般的に12~15年程度となっている。今回、ガイドラインの修繕工事頻度に合わせて長期修繕計画を作成したため、結果として計画上は修繕積立金が高くなってしまった。

長期修繕計画関連のガイドラインのアップデートも検討いただけると、再エネ導入マンションのさらなる普及、導入した再エネ機器のより効率的な活用につながると思う。

昨今、建築費が上昇している中でサステナブルな住宅を供給していくためには、省エネ・再エネ・創エネ機器の低コスト化がポイントとなる。一方で、低コスト化にはこれら機器を採用する住宅が安定的に供給されることが重要というのも認識しており、いわば“鶏と卵”のような状態になっているかなと思う。

Brillia深沢八丁目は、国交省の補助金をいただいた。引き続き、環境性能の高い住宅においては補助金等の支援をいただきたい。

【事例紹介(建築物)・要旨】

次世代まちづくりを見据えた『温故創新の森NOVARE』におけるカーボンニュートラルに向けた再エネの活用
野崎紘平氏(清水建設株式会社)


温故創新の森NOVAREについて話す清水建設の野崎紘平氏

施設概要

名称:温故創新の森 NOVARE(全5棟:情報発信・交流施設 、研究施設、研修施設、展示施設 、旧渋沢邸)
所在地:東京都江東区塩見2-8-20
敷地面積:32,233.97㎡
延べ床面積:22,318.59㎡
規模:地下1階、地上4階建

建物間でエネルギーを融通し、街区レベルでゼロエネルギーを目指す

温故創新の森NOVAREは、「スマートイノベーションカンパニー」を掲げる弊社清水建設がイノベーションを実現する場として建設された。大きく5棟構成になっており、さまざまな用途の建物からなる。


講演資料より

▽NOVARE Hub…イノベーションを実装するうえでの基幹施設
▽NOVARE Lab…研究施設。構造実験や材料実験、ロボティクスやデジタルファブリケーションの研究も行う
▽NOVARE Academy…ものづくりの原点と、これからのデジタルなものづくりを研修する施設
▽NOVARE Archives…当社の保有する歴史資料を展示し、創業からの歩みと建設業を振り返ることができる施設
▽旧渋沢邸…二代・清水喜助が手掛けた現存する唯一の建物。青森県六戸町から同所に移築

それではNOVAREの主な環境技術を紹介していきたい。

まず「ネット・ゼロ・エネルギー・ソサエティ(ZES)」の概要について。ZESというのは建物単体ではなく、複数建物や街レベルでゼロエネルギーを実践するという考え方。さまざまな創エネ技術・蓄エネ技術を設置し、多様な建物用途の中でエネルギーを融通し合ってトータルゼロにしていくという思想だ。

再エネの要素としては、NOVARE Labに太陽光発電と太陽集熱を搭載。太陽光発電は、パネルに角度をつけるとパネル間にどうしても距離を置かないといけなくなることから、屋根の勾配に合わせて取り付けている。また、NOVARE Hubには自然換気と地中熱を取り入れている。


講演資料より

街区熱融通システム「ネツノワ」は、複数の建物間で空調熱エネルギーを融通し合うシステム。これは、各棟に自己熱源を持ちつつ、すべての棟間に配管を接続し、各熱源でつくった熱を街区内で融通するというもの。それらをコントロールするAIスマートCEMSというエネルギーマネジメントシステムを導入し、統合制御して省エネ化を図っている。

AIスマートCEMSは、熱源の運転実績、外部情報(気象予報など)、内部情報(空調運転情報や人の位置情報など)を入力データとし、AI予測のモデルに入れて熱需要を予測する。その結果を出力して運転計画を策定し、データを中央監視システム、自動制御システムに送ることで、熱源機器の最適運転を行っている。

安心安全な水素システムで再エネを最大限活用

次に紹介するのが、水素のサプライチェーンに対応した建物付帯型水素設備「Hydro Q-Bic TriCE」。

Hydro Q-Bicは、水素の製造、貯蔵、発電(水素燃料)をワンパッケージ化した、弊社が販売している水素設備のシステム。水素をオリジナル合金に吸蔵させる特殊な方法で貯蔵することにより、法的縛りが少なく安心安全で管理しやすいという特長がある。TriCEはオフサイトからの水素融通を可能とした、水素サプライチェーン対応型の製品である。


講演資料より

このシステムの簡単な運用パターンの例を出すと、休日は施設が止まるため、太陽光発電の余剰電力をすべて水素の製造やリチウムイオンバッテリーへの電力充電に充てる。そして、平日は太陽光発電の電力をすべて敷地内で消費しつつ、休日に貯めた水素、リチウムイオンバッテリーの電気も施設に送り、再エネ電気のボトムアップを図っている。さらに、オフサイトからの水素融通により敷地内での再エネ利用率の向上を図っている。

直流配電によるロス削減効果を実証中


講演資料より

続いて、構内配電の省エネを行う直流配電システム「直流マイクログリッド」について。

太陽光発電など再エネ系は直流で発電するものが多い。そして消費する側、つまり照明やパソコンなども直流で稼働している。ただ、配電の部分はどうしても交流系統になり、直流と交流の変換が繰り返されてしまうことからロスが発生する。

この交流系統をなくして、直流の電気を直流のまま送ることで省エネ化を図れないか、という考え方でこのシステムを導入した。

今回、環境省の補助金をいただいて直流配電の実証を行っているところ。発電の効率化や機器の省力化は当然のごとく進んでいるが、配電の部分には課題が残り、せっかくつくった電気を消費へ届けるまでにロスが起きてしまい、最大限に生かせていない。そうした課題に対し、この実証で効果を検証している。

イノベーションで排出ゼロを目指す施設

今後の展望についてお話ししたい。今回、各棟でZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビルディング)の認証を取得しているが

▽NOVARE Hub…『ZEB』
▽NOVARE Lab…Nearly ZEB
▽NOVARE Academy…Nearly ZEB
▽NOVARE Archives…Nearly ZEB

となっている。

NOVAREにはまだまだ屋根が余っており、太陽光設備をもっと導入することはできたのだが、NOVAREはイノベーションを実現する施設。この部分は、弊社清水建設のイノベーションの“バッファ”だととらえていただきたい。

グリーン水素や直流配電、ネツノワなどをどんどん技術革新させたうえで、温室効果ガスの排出をゼロに近づけていくことを目指している。

また環境技術の認証取得、検証によるエネルギーの評価などを行うとともに、発信フェーズとして、各種雑誌や学会発表、講演の場、見学会などでこの取り組みを紹介している。

【了】

(建設データブログ編集部)

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