【全国初】江東区が新築マンションに宅配ボックス設置などを義務付けた意図とは

インタビュー


新築マンションへの宅配ボックスや電気自動車充電設備の設置などを義務付けた、東京都江東区の改正「マンション等の建設に関する条例」が、2024年1月1日に施行されました。
これは、脱炭素社会の実現、新型コロナウイルスによる生活様式の変化、物流・再配達問題など、さまざまな社会課題に対応するための取り組みで、全国初施行となる事例だそうです。江東区住宅課の半田智隆課長と塚越俊也係長に、改正の意図や今後の住宅政策の展望などを伺いました。




江東区住宅課の半田智隆課長(右)と塚越俊也係長



条例改正の3つのポイント

――まず、江東区における住宅政策の概要を教えてください。

半田:江東区の住宅の一番の特徴として、マンション率の高さがあげられます。区内の住戸数はおおよそ25万戸超ありますが、そのうちの8割以上は共同住宅、いわゆるマンションです。つまり、江東区における住宅政策の中心はマンション政策ということです。

昭和40年代ごろから土地利用転換で共同住宅が増え始め、平成に入ったころにはマンションの戸数が戸建てを上回りました。
マンションが急増したことにより人口も増え続け、学校や保育所の収容対策など、様々な課題に対応してきた経緯があります。


(図表1)江東区内の住戸の内訳

江東区マンション管理適正化推進計画(2023年12月)より


そうした人口増に加え、多様なライフスタイルの普及など、様々な社会情勢の変化に対応するため、2022年3月に住宅マスタープランを改定し、「多様な暮らしを育む定住都市」というテーマを掲げました。
これを具現化するためにまず取り組んだのが、「江東区マンション建設方針」の策定です。新築マンションを対象に、どのような政策誘導を行っていくかという方針をまとめ、この中で江東区の新しいマンション像を示しました。1年間かけて内容を定め、2023年3月に発表しました。
そして、この方針の内容を条例に反映したのが、今回の「マンション等の建設に関する条例」の改正になります。

――今回の条例改正のポイントを教えてください。

半田:まず、「マンション等の建設に関する条例」は、これから新築するマンションを対象とした条例です。今回の条例改正では、大きく3つの点を柱に掲げています。

1つめは、ワンルームマンション対策です。先ほど申し上げたように、住宅マスタープランで「多様な暮らしを育む定住都市」をテーマに掲げる中、近年はワンルームマンションが急増し、多様な方々が交流するという狙いから偏りが見られます。そのため、マンション内のワンルーム住戸数に応じて、一定割合のファミリー住戸の確保を義務付けることとしました。地域コミュニティの形成という視点も含めて施策を検討してきたところです。

2つめは防災、特に浸水対策です。江東区は地盤沈下によって、地盤が海面よりも低い海抜ゼロメートル地帯と呼ばれる箇所もあります。全国各地で台風や豪雨による被害も発生しており、住民の皆さんも水害に対しては非常に心配されています。そこで、マンションを建設する中でどのような対策ができるかを検討し、今回の条例改正で、止水板や防水扉といった設備の設置により浸水対策を図ることを義務化しました。

そして3つめは、持続可能性向上策です。周囲の環境への配慮はもちろん、マンション自体を長く使っていくためにもどのようなことができるのか、という点が検討課題です。内容としては、宅配ボックスと電気自動車充電設備の設置を義務付けたほか、太陽光発電システムや高効率照明設備といった地球温暖化対策設備を住戸規模に応じて設置することも義務化しました。


(図表2)条例改正の主な内容

ワンルームマンション対策 ・ワンルームマンション住戸数に応じて、一定割合のファミリー住戸(専用面積40㎡以上)の確保を義務化。附置数は以下の計算式による

(ワンルーム住戸数-19)×1/3

※小数点以下は切り上げ
※最大附置義務戸数は29戸

浸水対策 ・止水板、防水扉、土嚢、水嚢、止水シートなどを設置し、浸水対策(床下浸水レベル)を行うことを義務化
・大規模マンションにおいては受変電設備を2階以上に設置することを義務化

持続可能性向上策 ・電気自動車充電設備を駐車場附置台数の1割を基準として設置することを義務化(小数点以下は切り上げ)
・地球温暖化対策設備(※)を1種類以上、大規模マンションについては2種類以上、設置することを義務化
・宅配ボックスを住戸数の1割以上、設置することを義務化(小数点以下は切り上げ)


※地球温暖化対策設備の詳細は下記のとおり
 (技術革新等に応じ内容は随時更新予定)

太陽光発電システム、ソーラーシステム・太陽熱温水器、CO2冷媒ヒートポンプ給湯機(エコキュート等)、潜熱回収給湯器(エコジョーズ等)、ガス発電給湯器(エコウィル等)、家庭用燃料電池装置 (エネファーム等)、高効率空気調和設備、高効率照明設備(LED照明等)

取材をもとに編集部作成




区の歴史が生んだマンションと環境への関心

――3つめにあった宅配ボックスと電気自動車充電設備の設置義務は、全国初施行の事例になるそうですね。

半田:じつは我々も策定時はそれを知らなくて…、全国初を狙ってやったというわけではないんです(笑)。

宅配ボックスについては、条例の改正案を検討しているころ、新型コロナウイルスが蔓延していて、非接触をはじめとする新たな生活様式が非常に注目されていました。こうした需要は今後も続くだろうという想定と、また宅配ボックスの設置により宅配便の再配達が減少すれば、配達時のCO2排出量の削減にもつながるという考えから、項目の1つに加えることにしました。

また、その当時はいまほど「物流の2024年問題」がクローズアップされてはいませんでしたが、この施策が物流問題に資するものにもなると考えています。

――電気自動車充電設備については、東京都の条例改正で2025年4月から新築建築物への設置が義務化されることが決まっています。江東区はそれに先駆けて施行した形になりました。

半田:我々が検討していたころ、東京都のほうでもそういう動きがあると知りまして、タイミングを見ていたところでした。内容が被っていたり、東京都の条例施行のほうがあまりにも早かったりすれば、区独自で定める意味もなくなってしまいますし。ただ、東京都の条例のほうが、施行が後になりそうだったのと、条例の内容を見比べて、江東区の条例で定める附置台数が東京都の条例の台数を上回る場合があることもわかりました。

江東区では2021年7月、「ゼロカーボンシティ江東区」の実現を目指すと表明しています。これは、2050年までに区内の温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、というものです。また、庁用車に水素自動車を導入するなど、次世代エネルギーによる自動車交通にも、もともと高い関心がありました。そうした背景もあり、マンション政策の中でも脱炭素施策を強化し、電気自動車の推進も率先してやっていくべきだろうということで、今回の条例改正で義務化しました。

塚越:電気自動車充電設備と地球温暖化対策設備の設置については、これまでも努力義務という形で要綱にて定めていました。2010年に定めた項目で、それからもう10年以上たちます。それを努力義務から本条例に追加し義務化したのが今回の改正になります。



条例内容の変遷を語る塚越係長


――そのように以前から環境問題に注力されてきたのはどうしてでしょうか。

半田:江東区は明治以降、川や海が近く土地も平坦であることから工場が多く立地し、工業で栄えたまちでした。ただ、それが原因で公害問題も起きました。さらには、工場による地下水のくみ上げで地盤沈下が著しく、それが水害の懸念にもつながっています。また、「ごみ戦争」に代表されるごみ問題も大きな課題でした。このように江東区は、環境問題と常に向きあってきたまちなのです。

ちなみに江東区の地盤は、地盤沈下により支持層が深いところにあるのが特徴です。そのため、杭基礎も長さが必要になることから、例えば公共施設の建設時には柱のスパンを調整し、杭の本数を最適化するなど工夫しています。

工業地帯だった歴史は、マンションの急増にも大きく関わっています。高度成長期以降、工場が撤退したことで広大な用地が生まれ、また地下鉄東西線の開通で利便性が向上したこともあって、都営住宅や現在のUR(都市再生機構)の団地、そして民間のマンションも次々と建設されたんです。

――マンション中心の住宅政策、環境問題や水害への関心、そしてそれらを踏まえた今回の条例改正は、すべて区の歴史とつながっているのですね。




既存マンションへの新機能導入は慎重に

――条例改正に話を戻しますと、こちらの条例は公的住宅にも適用されるのでしょうか。

半田:一部除外の規定はありますが、基本的には都営住宅、区営住宅、UR住宅などの公的住宅にも適用します。今後、公的住宅の建て替え時などには、条例で義務化した項目、例えば地球温暖化対策に向けた設備の設置などが仕様に盛り込まれることになるかと思います。

――条例改正について、業者の方からの反響などはありましたか。

半田:条例の内容をどうやったら実現できるか、前向きに検討していただいている印象で、反響というより、「この内容で問題ないか」「書類にはどのように記載すればいいか」のような設計に関する具体的な問い合わせが昨年の秋ごろから増えました。

計画が条例の内容を満たしているかは、事前相談の段階で区にご提出いただく書類や図面で確認させていただきます。住戸数や駐車場の台数など必要な数字を書面でチェックし、配置図や平面図で設備をどこにどう設置するかなどを確認します。条例に適合していれば、その内容で事前協議届を出していただく、という流れです。

条例改正から間もないですが、もうすでに何件か実際に事前相談をいただいています(※取材日:2024年1月11日)。

――本条例はこれから新築するマンションが対象ですが、既存マンションへの対策はどのようにお考えでしょうか。

半田:既存マンションにいろいろな設備の設置を義務化することは、今のところ想定していません。既存マンションに新しい機能を付加するのは、そもそもそういう前提で建てられていないため、非常に難しいことだと思っています。例えば、宅配ボックスを追加で設置する場合でも、しっかり計画的に配置しなければ緊急時の避難経路を塞いでしまう可能性もあり、そうしたマイナスな効果につながってしまう懸念もぬぐえません。慎重に検討すべきことですから、それを政策で誘導することがただちに必要とは考えていません。

既存マンションについては、2023年12月に「江東区マンション管理適正化推進計画」を策定しました。この計画に基づき、マンション管理組合による管理や維持・修繕などを効果的に推進していきたいと考えています。




建設業なくして住宅政策は語れない


建設業と住宅政策の関係を熱く語る半田課長


――本条例で定められている内容や建築主の計画・意向を実際に形にするのは建設業の仕事です。建設業界に求めることや期待することをお願いします。

半田:我々行政はルールを整備し監督するのが仕事です。しかし、それを形にするのが一番難しい。その重要な部分を担っていただいているのはまさに建設業の皆さんです。

住宅は日々の暮らしを営む場であり、人生の多くを過ごす空間です。そんな大切な場所を建設業の皆さんはつくっている。これはとてもありがたいことです。崇高な仕事をしていると胸を張っていただきたいと思います。

私も現場の仕事を経験してきましたが、建設業の皆さんによる、図面では表せない細やかな工夫や気配りが、快適で安全に暮らせる場所をつくっているのだと実感しました。

ぜひ今後も良いものをつくっていただきたいというのが一番のお願いです。

――最後に、江東区における住宅政策の今後の方針や展望をお聞かせください。

半田:まず新築マンションについては、「マンション等の建設に関する条例」を改正し、走り出したばかりです。そして既存マンションは、いわゆる2つの老い、建物の老朽化と住民の高齢化が課題となっています。これら新築と既存への対応の両輪で、良好な住環境の確保に努めてまいります。

住宅は社会状況の変化でいろいろな課題が次々と出てくるので、適時的確に対応を図っていきたいと考えています。そして、それを成し得るためには建設業の皆さんの存在が欠かせません。

建設業なくして住宅政策は語れないですから。


(建設データブログ編集部)

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