東京都建設系4局・積算座談会 「公平・公正な積算を当たり前に」(前編)

建設トピックス

建設工事において、発注者が予定価格を設定するうえで正確な積算は欠かせません。

今回、東京都財務局・建設局・水道局・下水道局の建設系主要4局で積算基準を所管する技術管理課長4名と、財務局で入札・契約関係の調整を担当する契約調整技術担当課長の計5名にお集まりいただき、積算にまつわる特別座談会を開催。公共工事の発注者として向き合う積算業務のやりがいや、違算防止に向けた各局の取り組みなどについて語っていただきました。

後編では、弊社提供商品のユーザー企業である建設関連業者から集めた質問、すなわち“現場の生の声”にもお答えいただいています。

※座談会は2024年3月に開催。人事異動などにより、現在は参加者の肩書が一部変更になっていますが、便宜上、座談会開催当時の肩書で表記しています。

 

 

座談会参加者(肩書は2024年3月時点)

茂木竜一氏(東京都財務局建築保全部技術管理課長)
水道局営繕課長、教育庁営繕課長などを経て、財務局技術管理課長に。各営繕課などで積算業務に携わり、財務局では「建築工事積算基準」を所管。

米倉進氏(東京都財務局経理部契約調整技術担当課長)
工事の設計・監督や技術管理、監査などを経験し、財務局契約調整技術担当課長に。契約に関して技術的な観点から企画・調整を実施。

藤田政彦氏(東京都建設局総務部技術管理課長)
建設事務所の設計担当として積算業務を経験。建設局で主に都市基盤整備に従事。

市之宮誠司氏(東京都水道局建設部技術管理課長)
入都後、水道局、建設局、首都高速道路株式会社、公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会などを経て、水道局技術管理課長。

毛利光夫氏(東京都下水道局計画調整部技術管理担当課長)
建設局で河川設計などに従事し、その後、下水道局の事務所課長、日本下水道協会技術指針課長などを経て、下水道局技術管理担当課長。

積算は建設業界を映す鏡

――東京都における積算基準や関連する取り組みなどについて教えてください。

茂木(財・技)
東京都の積算基準は、国と同様に大きく建築工事と土木工事で分かれています。それぞれ基本的に国土交通省の基準に準じていますが、各局の事業特性などを踏まえて、局単位で策定し、運用しています。
また、都の取り組みとしては、1998年度から設計材料単価および設計労務単価の公表を始めました。

 

【参考】各局アンケート:積算基準に関連する近年の代表的な取り組みは?

財務局 国土交通省官庁営繕部の積算基準の改正に準じて、都の「建築工事積算基準」も随時改正。大規模な改正は以下のとおり。

2000:共通費に関する改正
2003:営繕積算システム「RIBC」導入に伴い専用データ書式を追加
2013:工期を反映した共通仮設費率・現場管理費率の算定式を導入
2017:一般管理費等率の改正
2024:共通仮設費率、現場管理費率の改正
建設局 「積算基準」は、主に国土交通省「土木工事標準積算基準書」に準じて策定。
”適正な予定価格の設定”にあたり実施している積算に関する近年の主な取り組みは以下のとおり。

2014:施工箇所点在の積算の試行。日当り作業量の補正(現道工事の割増)。施工パッケージ型積算方式の導入
2015:「週休2日制確保モデル工事」の試行(土木工事)
2021:「週休2日制確保工事」(交代制の適用)。常設作業帯の設置が困難な路上工事において作業時間に影響を及ぼす場合の積算基準を導入
2024:「週休2日制確保工事」(土木設備工事、建築工事への適用)
水道局 「水道局積算基準」は、主に水道施設整備(管路布設工)については厚生労働省「水道施設整備費に係る歩掛表」、その他の土木工事については国土交通省「土木工事標準積算基準書」に準じて策定。代表的な改定は以下のとおり。

2013:一般管理費における率計算対象管材料費について、対象額を全額に改定(50%→100%)。配管工、舗装工における歩掛補正の見直し
2014:大都市補正の適用。共通仮設費および現場管理費における率計算対象管材料費について、対象額を全額に改定(50%→100%)
2015:土工事における歩掛補正の設定
2016:交通管理費の積算方法の改定(共通仮設費から直接工事費へ)
2020:週休2日に伴う補正、熱中症対策に資する現場管理費補正を導入
2023:本管工事に関する配管工歩掛補正係数の改定。土留工・土留支保工の歩掛補正係数の設定。共用日数の算出における雨天および休祭日割増し率に猛暑日を考慮した率を追加
下水道局 「下水道局積算基準」は、昭和後期から現在にかけて、国土交通省(建設省)「土木工事積算基準」「下水道用設計標準歩掛表」を主要参考資料として整備。

2005:新土木工事積算大系の導入(国土交通省の「積算の内容を発注者、受注者にとってわかりやすいものにする」という方針のもと、工種や種別の階層を明確に定義し、用語を統一。設計書はこの統一様式に則した構成に変更)

【積算システム】
1999:積算システム「SEES」導入(基本的に手作業で積算していたものをシステム化)
2014:工事総合管理システムの運用を開始(積算システム、工事台帳システム、工事管理システム、事業計画作成システムを統合したシステムの運用開始。システム間の連携を強化することで、より効率的なデータ管理を実現)

 

――発注者として入札の予定価格を決めるうえで、積算業務は重要な役割を担っています。そのやりがいや、取り組むうえでの心構えなどをお聞かせください。

藤田(建)
品確法(公共工事の品質確保の促進に関する法律)に基づき、適正な予定価格の設定に努めることで公正な競争を促進することが発注者としての責務です。積算はそのために大変重要であり、その分、やりがいもある業務です。

自分が特に積算業務で大事にしていたのは、現場をイメージすること。そうすることで、現場の実態に即した適正な予定価格の設定につながり、またその場所が施工により変わっていく様子を想像すると、やりがいも増加するはずです。

茂木(財・技)
我々、「建築工事積算基準」の所管部署としては、適切に積算し公平な競争入札に資することができるよう、積算基準を維持すると同時に、時代に合わせて適時改正していくことが重要だと考えています。

また、積算は予定価格を算出するという重要な役割上、ルールが精緻で、非常に経験と技術力を要する業務です。一方で、人事異動が宿命の地方自治体として、積算担当者が異動しても基準や運用を適切に扱えるようペア制にするなど、技術継承も含めた組織的配慮も欠かせません。

毛利(下)
積算は建設業界を映す鏡とも言えると思います。資材価格や労務単価の変動、週休2日制確保、猛暑日への対応など、積算基準はさまざまな社会的要求を取り込んで更新されてきました。そういう意味で、建設業界の動向が見えてくるとともに、社会的要求に応えるという責務を果たせることが、積算の魅力であると感じます。

また積算に携わることで、その金額がどのような資材、工事機器、人工から成り立つのかを構造的に把握できることも魅力の1つです。

市之宮(水)
積算業務で重要な視点は、まず実施可能な設計・施工計画を前提に積算することと考えます。そのうえで、適正な数量および価格を正確に反映すること、すなわち予定価格の適正な算出が重要です。

昨今の情報開示の流れから、以前は非開示としていた積算基準や設計単価についても、現在はすべて開示対象となりました。このような背景から、結果として担当者は常にガラス張りの状態で積算業務を行っている状況であり、些細なミスもすべて違算につながる恐れがあります。このため、担当者は「常に100%の積算、100%正解が当たり前」を求められており、やりがい以上に厳しいプレッシャーの中で業務を行っています。

米倉(財・契)
いま予定価格のお話が出ましたので、この点について説明させてください。予定価格については、以前は事前公表だったところ、現在は原則として事後公表、ただし低価格帯の案件は事前公表としています。

事後公表とすることで、事業者の適切な見積もりを促し、意欲と能力がある事業者が入札に参加しやすい環境をつくるとともに、見積もりをせずに応札する不良不適格事業者の排除にもつながり、競争性、透明性、品質確保などに寄与するものと考えています。一方で、低価格帯の案件については、中小企業の積算に係る事務負担にも考慮して事前公表としています。

違算対策の要は注意と確認の徹底

――先ほど市之宮課長から「違算」というワードが出ましたが、予定価格の算出を誤る、いわゆる「違算」には細心の注意を払っていることかと存じます。各局の違算対策を教えてください。

茂木(財・技)
建築工事は工種が多いことから、確認事項が非常に多いです。そのため、間違いやすい箇所についての情報共有と、数量の確認などを必ず複数人で行うことで違算防止に努めています。

都の建築工事における積算には、一般財団法人建築コスト管理システム研究所が開発した公共建築工事用の営繕積算システム(RIBC2)を導入しています。こうしたシステムを利用することで、積算業務が統一化され、単価の入力ミスを防ぐとともに正確な経費率の計算が可能となり、違算対策につながっていると考えています。

市之宮(水)
私も積算システムは違算防止に効果があると考えています。必要に応じてシステムの改善に取り組むことも対策の1つです。

毛利(下)
積算システムでいうと、当局で使っているシステムでは、単価を選択する際に確認を促す注意文が画面に表示されるようになっています。

その他にも、違算防止を目的とした研修を行ったり、積算基準に注意事項の記載を充実させたり、さまざまな形で注意喚起を徹底しています。

市之宮(水)
水道局では、積算にあたり注意すべき点を整理したチェックシートや、過去の違算およびヒヤリハット事例をまとめた「事例確認シート」などを作成し、積算時のチェックに活用しています。

藤田(建)
チェックを徹底するのは当たり前ですが本当に大切です。建設局では、詳細設計を実施した業者が「赤黄チェック(各設計図書の整合性を確認する際に、誤りは赤、正しい箇所は黄色のペンでチェックする方法)」で設計図と数量計算書の整合性を確認し、監督員の都職員もそのチェック結果をさらに確認しています。

工事発注時には、設計書を職員間で相互にチェックし、加えて民間コンサルタント業者に積算照査業務を委託して、第3の目として規格や条件など積算システムに入力した内容の確認や、積算の根拠資料と設計図書との整合性チェックも行っています。

茂木(財・技)
違算防止に向けては、各局とも、それぞれの工事の特性を踏まえて工夫しながら、都庁全体として違算撲滅に取り組んでいます。

金額の乖離には「見積積算方式」も

――入札の不調・不落対策については、各局どのような取り組みを行っているのでしょうか。

茂木(財・技)
まず都では、昨今の物価変動が激しい状況を踏まえ、可能な限り最新の単価や見積もりを採用していくことで、適切な価格設定となるよう努めています。そのうえで、各局の工事特性に応じて対策に取り組んでいます。

市之宮(水)
水道局では、管路工事全体で、2011年から「配管工」、2013年から「舗装工」、2015年から「土工」を対象に、日当たり施工歩掛を補正しました。都内の配水管工事は、施工環境が厳しい現道上での工事になることが多く、実態調査を踏まえてこれらの補正を行いました。

また、配水本管工事において不調が多いことを踏まえ、2022年度に当局基準と受注者の施工価格が合わないとされている工種を対象に実態調査を実施し、2023年4月には配水本管工事における「配管工」の施工歩掛補正を見直したほか、「仮設工」の施工歩掛補正も行いました。

施工環境や時間制約などの理由で、積算基準による標準的な積算と入札参加者の見積もりの間に著しい乖離があり、入札不調が予測される工事においては、見積もりを参考に積算する「見積積算方式」も採用しています。

藤田(建)
建設局では過去の不調の原因などを踏まえて工事ごとに、例えば金額の乖離に対しては、水道局さんと同様に「見積積算方式」や、予定価格と入札時点での実勢価格の乖離を修正する「予定価格修正方式」などを活用して対応しています。このほか、工事時期の平準化の推進や技術者配置準備期間の活用なども取り入れています。

毛利(下)
下水道局では主に次の3点に配慮した取り組みを実施しています。1つは実勢価格を契約に反映させる取り組みで、時間制約割増などの「割増単価」の設定、先ほどの「見積積算方式」の導入などです。

2つめは、技術者を計画的に配置しやすくするため、フレックス工期制度の導入、詳細な発注予定の公表、それから複数工事に同一の技術者を専任するなどの対策を行っています。

3つめは、資材などの仮置き場を提供したり、提出書類を簡素化したり、入札へ参加しやすい環境の整備に取り組んでいます。

【続】

(建設データブログ編集部)

 

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