経営/マネジメント

海外出身者を施工管理職で新卒採用|ワールドコーポレーションが見据える建設業の人材の未来

建設業界の技術者派遣を手掛ける株式会社ワールドコーポレーション(東京都千代田区)は、プラント施工管理の技術者として、20代のネパール出身者10名を新卒採用しました。海外出身者を新卒社員として受け入れるのは、同社で初めての取り組みです。

ネパール出身の10名は2025年4月に入社、1カ月間の新人研修を経て、現在は各所の現場で活躍しているといいます。

担い手不足が深刻化する建設業界において、新たな試みとして注目されるこの取り組み。今回、“発案者”だという同社プラント事業部の和田裕司・事業部長に、外国人材の採用に着手した経緯や目的、今後の展望などを伺いました。

ますます難しくなる人材採用の“次の一手”として

――まず御社の事業概要を簡単に教えてください。

和田 当社は、施工管理・設計・CADオペレーターなど建設業界に特化した人材専門の派遣会社です。

大きく3つの事業領域に分かれていて、1つは土木・建築などいわゆるゼネコンさんが担うような現場を対象とする「コンストラクション事業」。それから、エネルギー施設や化学工場などが対象の「プラント事業」。もう1つが「DX事業」で、ITを駆使して建設現場における業務効率の改善支援などに取り組んでいます。

プラント事業とDX事業は3年前に立ち上げたばかりの新しい領域で、私はプラント事業部に所属しています。

プラントというと、たとえば海岸沿いにあるような大きな工場、発電所や製鉄所、石油精製工場、化学工場などが我々の領域です。そういった工場の建設工事、あるいは既設の工場のメンテナンス工事に施工管理などの人材を派遣しています。

――2025年度からプラント施工管理を行う技術者として、ネパール出身の方を10名、新卒で採用されたと伺いました。御社で外国人材の新卒採用は初めてとのことですが、経緯や背景を教えてください。

和田 これは私自身が言い出しっぺなんです。

今後、日本の人口は減っていくというのがわかり切っている中、建設業も人手不足が加速していきます。先々を見据えたとき、その対策にいま取り組むのか、5年後・10年後に取り組むのかでは大きな差があると思っています。

かつて、施工管理職の派遣においては、即戦力の人材、すなわち経験者を採用するというのが主流でした。しかし、リーマンショックを契機に、建設業から多くの人材が他産業へ流出してしまい、即戦力の採用が難しくなっていったため、当社は未経験の若手人材を採用して育てる「育成型派遣」を始めたんです。

当初は、お客様に未経験の若手を紹介すると怒られてしまうようなこともありましたが、いまやこの形は業界でも当たり前になっています。

ただ、そうした若手人材もこれからは採用が難しくなっていく。そこで、また次の一手として、「今度は海外に視野を広げていこう」という考えに至ったのが今回、ネパールの方を初めて採用したきっかけです。

また、会社の成長という点においても、「後発の取り組みになってしまっては遅い、先発でやっていきたい」という思いもあり、まずはスモールスタートで10名の採用というところから始めました。


ワールドコーポレーションの和田裕司プラント事業部長

――建設業界で外国人労働者は増加傾向にありますが、“技能者”の割合が多く、“技術者”というとまだそれほど多くはない印象です。

和田 そうですね。技能実習生や特定技能など職人さんのほうは増えていますが、技術者はそこまで多くないですよね。でも職人さんに外国の方がいるなら、たとえばですが、その人たちをまとめる現場監督・施工管理という立ち位置で外国人の方に活躍してもらう、というのも1つの形かなと思います。

現状では外国人労働者の入場が制限されている現場もありますが、まずはいまできるところから徐々に広げていきたいと考えています。

手続き、家探し、言語…。外国人材の採用で大変だったこと

――今回採用した10名はどのような方々ですか?

和田 ネパールの大学を卒業し、現地で主に土木の施工管理をしていた20代の若手です。日本と現地をオンラインでつなぎ、50人くらい面接した中から選考しました。

じつはネパールには“プラント”というものがほとんどないそうなのですが、分野は違っても同じ施工管理という仕事の経験があり、「プラント分野について学びたい」と興味を示してくれた方を中心に採用しています。

みんなネパールのトップクラスの大学を卒業している非常に優秀な方々なんです。

――新卒に限らず、御社で海外出身の方を雇用された経験はこれまでおありだったのでしょうか?

和田 日本で何年か働いた経験のある海外出身者を中途採用した例はありますが、ごく少数です。決して「いままで外国の方をたくさん雇用してきた」というようなことではありません。

――今回、ネパール出身の皆さんの新卒採用にあたり、大変だったこと、難しかったことはありますか?

和田 社内の受け入れ準備がまず大変でした。外国の方の場合、日本人の採用時と違ってさまざまな手続きが必要でしたので、「あれもいる」「これもいる」「この手続きもまだだ…」といろいろ手探り状態でやっていました。

彼らの住環境も当社で整えたのですが、10人分の家を探して契約するのも大変でしたね。できる限り会社の近くにしないと本人たちも慣れない環境で大変でしょうから、いろいろ紹介を受けながら探しました。

――言語の面ではいかがですか?

和田 面接時は日本語をまったくしゃべれない状態だったので、通訳の方を介してやりとりしましたが、やはり時間がかかって大変でしたね。

その後、採用を決めた10名にはまず1年間、ネパール国内に当社で教室を用意して日本語の勉強をしてもらいました。その間、定期的にオンラインで日本とつないで社内交流もしながら、今年の春に来日・入社した、という流れです。約1年で日本語はN4~N3(※)くらいを修得しています。

当社で行う入社後の新人研修でも、日本人には安全面や心構えの部分を中心に教えていますが、今回のネパールの方に対しては内容を変え、日本語を中心とした研修を行いました。

日常会話と現場で求められるコミュニケーションはまた違ってくるので、たとえば「これがスパナだよ」「レンチだよ」と専門用語の言い方を教えたり。あとは漢字ですね。工事計画書などの書類も日本語でやってもらわなければいけないので、そういった部分を主に研修しました。

※「日本語能力試験」の認定レベル。N1~N5の5段階に分けられ、N1が最も難易度が高い

世界中にワールドコーポレーションの“ファン” が増えたら


株式会社タクマと連携し、ネパール出身者3名をプラント施工管理として派遣したことを伝えるプレスリリース(ワールドコーポレーションHPより

――研修を経て、皆さんはもうすでに現場で活躍されているのでしょうか?

和田 はい、プラント大手の株式会社タクマ様(兵庫県尼崎市)をはじめ、お客様の各現場に配属しています。

本人たちも言葉の面で意味をとらえ違えるなど、やはり苦労しているところはあるようですが、それに対してどこが間違っていたのかを積極的に聞いて、課題の改善に取り組んでいるので、そうした力をお客様には非常に評価していただいています。

技術的な面でいうと、彼らはもともと土木系の技術者なので、分野が違っても“施工管理”として何をしなければいけないかというところを理解しています。日本と現地でやり方や基準が異なる面もありますが、そこは日本のルールを覚えてもらって、トライアンドエラーを繰り返しながら成長していってほしいですね。


社内イベントに参加して交流するネパール出身の皆さん。写真は夏に開催した同社の納涼祭での1枚(ワールドコーポレーション提供)

――外国人材を採用して特に良かった点はどういうところに感じますか?

和田 自分自身がずっと日本にいて、日本人としか話さないと、入ってくる情報も限られます。そういう意味では、他国の方とコミュニケーションを取ることで学ぶこと、勉強させてもらうこと、文化の違いなど、いろんな気づきがありました。

先ほど「ネパールにはプラントがほとんどない」っていうお話をしましたが、同じ地球上でもこんなに違う、日本で当たり前のことが向こうでは当たり前じゃないんだなっていうふうに感じましたね。

ネパールってもちろん聞いたことはありましたけど、実際に現地がどういうところかというのは把握していなかったので、彼らと出会わなければそういう認識を持たなかったかもしれません。

和田 それから、彼らの就労意欲はすごく高いです。自分が日本を出て異国で働くと考えると、絶対に真似できないなって思いますけど、本人たちは“背に腹は代えられない”くらいの気持ちで来ている。その意欲が当社への定着にもつながっていく、というところもプラスポイントになるんじゃないかなと考えています。

――異国で働くって本当にすごいですよね。一方で、7月の参院選で外国人政策が争点の1つにもなったように、外国人との共生にはさまざまな見方もあります。そのあたりはどのように受け止めていらっしゃいますか?

和田 全員が全員、「外国人の方を受け入れますよ」というのは、やっぱりまだまだ時間がかかると思います。でも、結局5年後、10年後には、いまよりも外国人の労働力に頼る社会になっているんだろうなというイメージがありますし、先々を見据えて、逆にいまから着手していかないと、というふうに考えています。

そのうえで、もっと外国人材を受け入れやすくなるような制度、建設業でいうと加点や補助金などができたり、大手企業がもっと力を入れたりすると、風向きも変わっていくんじゃないかなと思います。

――いま和田部長が外国人材の採用に取り組んでいらっしゃる、そのモチベーションは何ですか?

和田 シンプルに「新しいことを始めないと面白くないな」っていうところですかね。日本の人口が減っていく中、ただ指をくわえて待っているわけにもいかないので、そうではなくて、新しいことを始めていくしかないと思っています。

あとは、社名が『ワールド』なので(笑)。

彼らに聞くと、ネパールではゴミ処理場なんかも浸透していないそうですが、「将来、そうした施設ができるときには日本で学んだ技術を生かして母国に貢献したいんだ」というような話もしてくれました。

そうやって、当社で働いたみんなが母国で活躍して、世界に発信してくれて、最終的にそれが会社のブランディングになっていったらいいんじゃないかなと。全世界でワールドコーポレーションの“ファン”が増えたらいいな、と思っています。

建設業は『当たり前の生活』を支える魅力的な仕事

――和田部長にとって建設業の魅力はどのようなところにあると感じますか?

和田 私自身、もともと別の会社で土木の施工管理をやっていて、その後、当社で人材派遣の営業職に就き、いまに至るのですが、土木の仕事をしているときは工事によって風景が変わっていく姿がすごくおもしろいなと感じていました。

初めは草むらで、何もないところから始まって、道路ができていって、気が付いたらみんなが便利に使っている。そういうところを見られるのはすごく魅力だなと思いました。

いま担当しているプラントについては、設備を初めて見たとき「なんだこれは!?」と思うほどの大きな機械に圧倒されたんですが(笑)

ふつうに電気がつくのも、水が飲めるのも、当たり前の生活が送れるのはこうしたプラントというものがあるからこそ。電車だって電力プラントがないと動かないわけですし。そう考えるとすごく社会に貢献できる、魅力ある仕事に携わっているんだなと感じます。

そんな話を当社の若手やネパール出身のみんなにも伝えています。

――最後に今後の抱負をお聞かせください。

和田 プラント事業部は立ち上げから3年の新しい部署ですので、まずは日本全国のプラント企業様、それからまだこの業界を知らない若い人たちにも、当社のことを知ってもらいたい、認知度を高めていきたいと思っています。

また、外国人材については活用を推進しつつ、その次は海外派遣。海外の現場へ技術者を派遣する、海外市場の開拓も狙っていきたいと考えています。日本で働く外国人材は英語も日本語もしゃべれて、技術も身に付けている、海外派遣には最適な人材です。そうしたところにも視野を広げていきたいと思います。

もちろんいろんな課題や問題もあるとは思いますが、そこは日々の挑戦です。新しいことをどんどん取り入れてやっていきたいですね。

――日々の挑戦。いい言葉ですね。ありがとうございました。

取材協力:株式会社ワールドコーポレーション

(建設データ編集部)

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