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【2025年最新版】監理技術者の金額要件見直し・専任現場の兼務が可能に!改正の背景は工事費高騰と人手不足

【この記事の監修者は…】

宮城彩奈さん(行政書士)
あやなみ行政書士事務所代表|株式会社colore代表取締役|建設業者の経営全般をサポート|YouTubeチャンネル登録者1.7万人

監理技術者や主任技術者は、建設現場において工事の工程管理や品質管理を担う重要な役割です。しかし、近年の工事費高騰や人手不足を背景に、監理技術者等に関する法制度は大きく変化しました。

本記事では技術者制度に関する以下の2つの改正について解説します。

改正ポイント 法令 施行日
主任技術者・監理技術者の配置・専任に関する金額要件の下限引き上げ 建設業法施行令 2025年2月1日
監理技術者等の複数現場の兼務が可能に 建設業法 2024年12月13日

この記事を読めば、法改正によって建設現場がどのように変化するのか、最新の動向を把握できるでしょう。建設現場の人員配置に悩んでいる建設業の方は、ぜひ参考にしてください。

目次

【改正ポイント1】主任技術者・監理技術者の配置・専任に関する金額要件の下限引き上げ

2025年2月1日に施行された建設業法施行令の改正により、主任技術者・監理技術者の配置・専任に関する金額要件が変更になりました。

建設業許可業者が建設工事を請け負う場合、請負代金額の大小や元請・下請の立場に関わらず、各工事現場に主任技術者を配置する義務があります。ただし、元請として工事を受注し、下請に出す金額が一定の額を超える場合には、主任技術者に代えて監理技術者を配置しなければなりません。

また、元請・下請いずれの立場であっても、請負代金額が一定の額を超えると、工事現場ごとに主任技術者または監理技術者の専任配置が求められます。

こうした監理技術者の配置や、主任技術者・監理技術者の専任配置に関わる金額要件が、法改正により変更されました。

監理技術者・主任技術者とは

監理技術者・主任技術者は技術的な視点から工事を管理する重要な立場です。

また、元請の監理技術者・主任技術者は、請け負った建設工事全体の総括的な技術指導監督を行うことが求められます。より総合的な視点から管理する立場であるため、自社の担当分野のみを管理する下請の主任技術者よりも、厳しい資格基準を満たさなければなりません。

主任技術者・監理技術者の専任配置が必要となる請負代金額の下限

主任技術者または監理技術者の専任配置を要する請負代金額の下限は、以下のとおり改正されました。カッコ書きの金額は建築一式工事の場合の要件です。

改正前 改正後
4,000万円
(8,000万円)
4,500万円
(9,000万円)

監理技術者の配置が必要となる下請代金額の下限

また、監理技術者の配置が必要となる下請代金額の下限も、以下のとおり改正されています(カッコ内は建築一式の場合)。

改正前 改正後
4,500万円
(7,000万円)
5,000万円
(8,000万円)

上記の金額を上回る場合、監理技術者の配置が必須となり、主任技術者に代えることは認められません。

【改正ポイント2】監理技術者等の複数現場の兼務が可能に

【改正ポイント1】で解説したとおり、請負代金額が一定額を超える建設工事では、現場ごとに主任技術者または監理技術者を専任配置しなければなりません。

しかし2024年12月13日に施行された建設業法の改正により、条件を満たせば1人で複数の工事現場を監督できる特例制度(専任特例)が新設されました。これにより人員配置の問題が解消し、生産性の向上が期待されます。

本特例には8つの条件があり、以下の全てを満たす必要があります。

  1. 請負代金額
  2. 兼務現場の数
  3. 現場間の距離
  4. 下請次数
  5. 連絡員の配置
  6. 施工体制を確認できる情報通信技術の措置
  7. 人員の配置を示す計画書の作成、保存等
  8. 現場状況を確認するための情報通信機器の設置

①請負代金額

請負代金額は1億円未満(建築一式工事の場合は2億円未満)の工事に限られます。

もし請負契約締結時は条件を満たしていても、後に請負代金額が1億円(建築一式工事の場合は2億円)以上に増加した場合、その時点から専任特例の適用を受けられません。

②兼務現場数

兼務可能な現場の数は、2つまでです。

請負代金額が4,500万円未満の監理技術者等の専任が不要な現場と兼務することも可能です。ただし、専任が不要な現場についても、専任特例の条件(請負金額を除く)をクリアしなければなりません。

③現場間の距離

2つの現場を移動する際の距離についても、詳細な条件が定められています。移動時間は、片道おおむね2時間以内であることが条件です。

この2時間以内という条件は、1日の勤務時間内に巡回でき、なおかつ現場で災害や事故など重大な事象が発生した場合に駆けつけられることが前提になっています。また、移動時間を算出する際は、自動車など確実に実施できる交通手段でなければなりません。

④下請次数

下請次数は、監理技術者等が所属する建設業者が注文者となった下請契約から数えて3までです。

途中で3を超えると、それ以降は特例の適用対象外となります。

⑤連絡員の配置

監理技術者等からの指示を工事現場に伝え、施工管理を補助する連絡員を置くことも条件になります。

連絡員には、土木一式工事・建築一式工事の場合、1年以上の実務経験が求められます。人員配置については比較的柔軟で、1人の連絡員が2つ以上の現場を担当したり、1つの現場に2人以上置いたりすることも可能です。

請負会社と雇用契約を結んでいなくても構いません。ただし、連絡員の業務に関する責任は請負会社が負う点に留意が必要です。

⑥施工体制を確認できる情報通信技術の措置

現場作業員の入退場を遠隔で把握できるシステムの設置が必要です。

具体的には、CCUSまたはCCUSとAPI連携したシステムの導入が望ましいですが、その他のシステムでも条件を満たせば認められます。

CCUSとは「建設キャリアアップシステム」の略称で、現場での就業履歴等のデータを登録・蓄積できるシステムです。他の民間システムとAPI連携することで、蓄積した就業履歴等のデータを送受信することができます。

⑦人員の配置を示す計画書の作成、保存等

所定の項目が記載された計画書を作り、現場ごとに備え置くことが求められます。記載すべき項目は、以下のとおりです。

  • 当該建設業者の名称および所在地
  • 主任技術者または監理技術者の氏名
  • 主任技術者または監理技術者の1日あたりの労働時間のうち、法定労働時間を超えるものの見込みおよび労働時間の実績
  • 当該建設工事の名称および工事現場の所在地
  • 当該建設工事の内容
  • 当該建設工事の請負代金額
  • 工事現場間の移動時間
  • 下請次数
  • 連絡員の氏名、所属会社(土木一式工事または建築一式工事の場合は実務経験も記載)
  • 施工体制を把握するための情報通信技術
  • 現場状況を把握するための情報通信機器

保存期間は、目的物の引き渡しから5年間(住宅の新築工事の場合は10年間)です。

⑧現場状況を確認するための情報通信機器の設置

映像と音声の送受信ができる情報通信機器を用意し、安定して利用できる環境を確保しなければなりません。

機器の種類はパソコンのほか、スマートフォンやタブレット端末、WEB会議システムでも差し支えありません。

ただし、山間部など電波が悪い場所でスマートフォンなどを使うと、通信に支障をきたす場合があります。その場所の通信状況に応じて、確実に情報のやりとりができる機器の選定が必要です。

監理技術者等の配置に関する改正の背景

監理技術者等に関する2つの制度改正は、以下の課題を解決することが背景にあります。

  • 監理技術者等の人手不足
  • 建設工事費の高騰による影響

監理技術者等の人手不足

建設業界では人手不足が深刻化しており、監理技術者等は60歳未満の割合が減少傾向です。そのため、若手技術者の確保・育成が急務になっています。

社内の技術者が足りないため、自社施工せず下請業者等に発注して補い続けた結果、資金繰りが苦しくなってしまう事業者も少なくありません。

こうした人手不足の状況の中、限られた人員で生産性を向上させるため、技術者の配置ルールを緩和する制度改正が行われました。

建設工事費の高騰による影響

建設資材価格や労務費の上昇などが原因で、近年、建設工事費は高騰が続いています。以下は2015年度の価格を基準(100)とした建設工事費デフレーターの推移です。

建設工事費デフレーターとは、建設工事に係る名目工事費を実質額に変換したもので、費用相場の推移を示す指標として活用されています。2015年度基準の数値を見ると、2024年度には128.4となっており、右肩上がりに推移していることがわかります。

工事費が高騰したことで金額要件を超えてしまい、監理技術者等が必要になる工事が増えれば、建設業の人員配置はますます厳しくなる一方です。こうした工事費高騰による影響も、今回の制度改正の背景にあります。

その他の建設業法改正ポイント

2025年2月1日から施行された建設業法施行令の改正では、監理技術者等の配置・専任以外の金額要件も見直されました。

  • 特定建設業許可を要する下請代金額の下限
  • 施工体制台帳等の作成を要する下請代金額の下限
  • 特定専門工事の対象となる下請代金額の上限

特定建設業許可を要する下請代金額の下限

建設業許可は、一般建設業許可と特定建設業許可の2種類があり、下請契約の規模によって区分されます。

本改正で、特定建設業許可を要する下請代金額の下限が4,500万円から5,000万円(建築工事業は7,000万円から8,000万円)に引き上げられました。

特定建設業許可が必要な工事では、主任技術者ではなく監理技術者を配置しなければなりません。

施工体制台帳等の作成を要する下請代金額の下限

施工体制台帳とは、各工事の元請・下請といった関係性や、作業員の情報が詳しく記載された書類です。監理技術者や主任技術者の名前を記入する項目もあります。

この施工体制台帳の作成を要する下請代金額の下限が、4,500万円から5,000万円(建築一式工事は7,000万円から8,000万円)に引き上げられました。

特定専門工事の対象となる下請代金額の上限

特定専門工事とは、施工技術が画一的で技術管理の効率化が必要な工事のことです。具体的には、型枠工事・鉄筋工事のうち、下請代金額が一定の額を超えない工事を指します。

特定専門工事では、元請業者の主任技術者が下請業者の主任技術者の役割も果たす場合、下請業者の主任技術者は配置が不要になります。これにより主任技術者の技術管理の重複を避け、より効率的に現場を管理することができます。

今回の改正により、特定専門工事の対象となる下請代金額の上限は、4,000万円から4,500万円に引き上げられました。

つまり、下請代金額が4,500万円未満であれば、元請業者の主任技術者が下請業者の主任技術者の職務を行うことで、下請業者の主任技術者を配置する必要がなくなります。

まとめ

今回の一連の法改正により、主任技術者・監理技術者の配置・専任が必要となる金額要件の下限が引き上げられたほか、一定の要件を満たせば監理技術者等の複数現場の兼務が可能になりました。

いずれも技術者の配置基準を緩和する方向の改正であり、現場の生産性向上を目的としたものです。コスト高騰や人手不足の問題が深刻化するなか、貴重な人材をより効率的に活用する狙いがあります。

依然として監理技術者等の人材不足に悩む事業者は少なくありません。今後も中長期的な視点で、若手人材の確保や育成などの問題に対し、建設業界全体で向き合っていく必要があるでしょう。

監修者:宮城彩奈(行政書士)

監修者:宮城彩奈(行政書士)

あやなみ行政書士事務所代表、株式会社colore代表取締役。「許認可申請や経審」から「建設業法務」「補助金を活用した資金調達」まで、建設業者の経営全般をサポート。行政書士のほか、建設業経理士2級や宅地建物取引士の資格も保有する。モットーは『職人のカッコよさをもっと伝える!』。YouTubeチャンネルの登録者数は1.7万人。

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