現場ノウハウ

建築士がこっそり教える!「後悔する間取り」とおすすめしないポイント

【Written by 独学一級建築士 nandskさん】

家づくりにおいて、もっとも悩むのがプランニング、間取りを決めることだと思います。

何度も何度も生活をイメージして間取りを考えても、いざ住み始めると後悔することも少なくなく、家づくりのプランニングはプロの設計士であっても本当に悩ましいものです。

間取りに正解はありませんが、一方で「これだけはやめておいたほうがいい」というおすすめしない間取りは存在します。

今回は、そんなおすすめしない“後悔する間取り”について、数々の建物を設計してきた建築士がご紹介します。

間取りに正解はない

例えばですが、「子ども2人の4人家族に最適な間取りは?」と聞かれたらなんと答えますか?

一般的には、3LDKか4LDKと言われていますね。しかし、これはあくまでもベターであり、実際には家族構成、性別、仕事、趣味など様々な要因で最適な間取りは変わります。

例えば、両親のどちらかに夜勤があるとしたら、寝室は夫婦で分けられた方が良いでしょうし、両親がともに在宅勤務をするなら書斎スペースは2カ所ほしいですよね。

また、時間軸で見ても最適な間取りは大きく変わります。先ほどの4人家族を例に取ると、数年後に1人目の子どもが家を出て下宿してしまうとしたらどうでしょうか。さらに翌年にはもう1人の子も家を出たら、それでも4LDKが正解でしょうか。

将来のことを予測しながら間取りを考えるのは当然ですが、予想外のことが起こるのも人生。今、正解と思う間取りであったとしてもそれが続くとは限らず、そういう意味でもやはり「間取りに正解はない」と言えるでしょう。

間取りにも流行りがある

もう1つお伝えしておきたいのが、間取りにも流行があるということ。

建築史を見ていくとわかるのですが、今のリビングとダイニングとキッチンが同一空間にある『LDK』が生活の主役になるのは平成に入ってから。それまではダイニングキッチンとリビングが別々で、食事を食べる空間とくつろぐリビングの空間は分けるのが主流でした。

また昭和後半だと、家長制度の名残により家長の部屋である座敷と寝室が庭に面してつくられていました。アニメ「サザエさん」の波平の部屋ですね。サザエさんの家は平屋ですが、この時代の家は、家長以外の家人の部屋は2階というのが一般的でした。

さらに前の昭和前半は江戸時代から続く間取りが主流で、玄関を入ると土間があり、かまどや流しがある台所は土間にありました。生活空間である座敷や仏間、茶の間は、廊下ではなくそれぞれの部屋同士でくっついていて、いわゆる「田の字型」の間取りでした。

このように、間取りにも時代によって流行り廃りがあるんです。

後悔する間取り7選

ここからはいよいよ“後悔する間取り”を紹介します。

もちろん、先ほどお伝えしたように間取りに正解はなく、これから紹介するものもすべてを否定するわけではありません。検討する際は、まずそれぞれのメリット・デメリットをしっかりと把握することが重要です。

後悔する間取り①「吹き抜け」

最初に紹介するのは吹き抜けです。

吹き抜けには、空間を広く明るく、開放的にしてくれるというメリットがあります。そのため、広く見せたい住宅展示場や開放的に見せたいホテル・店舗などで取り入れられるケースが多いです。

ただし、吹き抜けは冷暖房効率が低下するという大きなデメリットがあります。また、清掃が大変で、吹き抜け部分にある照明やシーリングファンなどは掃除ができずにホコリが溜まっているのを見かけます。

実際に住宅展示場などで一目ぼれして採用する人も多い吹き抜けですが、デメリットも大きいのでしっかりと考える必要があります。

後悔する間取り②「天窓」

吹き抜けと似た理由で、天窓も注意が必要です。

まず、掃除がすごく大変です。掃除ができても、防水のシーリング材などは10年で劣化するのでメンテナンスが必要になりますが、そのためには屋上に登って作業しなければなりません。場合によっては足場の設置などで多額の改修費用がかかることもあるでしょう。

また屋根に設ける天窓は太陽光や積雪により劣化しやすく、雨漏りの原因になることも多いです。

どうしても太陽光を確保したいなら、天窓よりはハイサイドライト(高窓)の方がおすすめです。

後悔する間取り③「収納のない玄関」

最近は、玄関内に収納(シューズインクローク、土間収納)を設けるケースが増えてきています。家の中には上げたくないけど、外にも出しておきたくないもの、例えばベビーカーやゴルフバック、キャンプや釣りなどのアウトドア用品といったものを収納しておくのに最適です。

下が土間なのでレインウェアやゴミの一時保管などにも使えるため、収納がない玄関は後悔する可能性が高いです。

もし玄関部分に収納を確保できないのであれば、玄関から入ってすぐのスペースに収納を計画するか、広めのカーポートなどを設置して、屋外部分に作業スペースを確保するといいでしょう。レインウェアなどはカーポートに吊るして干すことができます。

また、「子どもと並んで靴の脱ぎ履きができるようにしたい」と、玄関を広めにつくる方もいますが、子どもが小さい期間はあっという間。家の出入りでしか使わない玄関を過剰に広くする必要はないでしょう。子どもと並んで座るのであれば、框(かまち:玄関や床の間、建具の部分に「横」に入れる化粧材)を斜めにしたりクランクさせたりすることも有効です。

ただし、車いす利用などを想定する場合は、玄関のつくり方に対する考えも変わってくるので注意が必要です。

後悔する間取り④「ベランダ」

ベランダに関して、最近は設けない人が増えています。

私が暮らす東京で言えば、春は花粉や黄砂があり、夏も梅雨やゲリラ豪雨があるため、洗濯物は室内干しが多いです。秋は秋雨前線が活発な時期でなければ外に干せるかもしれませんが、冬は加湿のためにまた部屋干しが増えてきます。

こうやって考えると、外に洗濯物を干す機会は意外と少なく、むしろ室内に干すスペースを確保した方が良いということに気づくでしょう。

また、ベランダは外壁との取り合い部分で漏水が発生しやすく、10年から15年で防水改修が必要とされています。ベランダの改修は足場の設置が必要で、改修費用がかかることを考えると「ベランダをつくらない」というのもありではないでしょうか。

もしベランダをつくるのであれば、奥行きを広く確保してまとまった空間にし、インナーバルコニーにして雨が吹き込まないようにすることで、屋外リビングのように使える空間にするといいでしょう。

ベランダなら周囲の目線もあまり気にならないので、天気が良い日は屋外のベランダでモーニングを、なんて洒落た嗜みをするのもいいと思います。ただ、日本の気候を考えると「1年間で何日使うのか」というのは冷静に考えたいですね。

後悔する間取り⑤「アイランドキッチン」

料理教室のスタジオのような、おしゃれなアイランドキッチンに憧れる気持ちはわかりますが、自宅で料理をするつもりならアイランドキッチンはおすすめしません。

まず、4周すべてが解放されているアイランド型のキッチンは収納スペースが少なくなり、キッチンが散らかる原因になります。

さらに、換気や油跳ねの処理が難しくなるため、設備投資にお金がかかるのもおすすめできない理由の1つです。

後悔する間取り⑥「広い子ども部屋」

子ども部屋を6畳程度確保した間取りは結構多いですが、かつて都心における大学生の一人暮らしの定番が4畳半などとされていたことを考えると、子ども部屋に6畳もの空間が果たして必要でしょうか。

それに子どもは将来、家を出ることを前提とすると、小学生から大学卒業までの15年くらいが子ども部屋の稼働期間です。その後の用途がはっきり決まっていないのであれば、子ども部屋の広さは3畳から4畳半くらいで十分。

子ども部屋を小さくする代わりに、家族共有の遊びスペースやちょっとゆっくりできるスペースなどを別で設けるといいでしょう。

後悔する間取り⑦「非パッシブデザイン or 過剰なパッシブデザイン」

最後に、パッシブデザインについてです。

パッシブデザインとは、太陽光や風など自然の力を利用したデザイン設計のこと。例えば、軒を長めに取ることで、太陽高度が高くなる夏は日影になり、太陽高度が低くなる冬は日差しが奥まで届くようになる、というような設計を言います。

偏西風が抜けやすいように東西に窓を設けたり、夏に木陰ができ冬は葉が落ちる落葉樹を植えたりするだけでもパッシブと言えます。

こういった設計は自然の力を利用するのでエコですし、費用も安いことが多いので大いに取り入れるべきではありますが、これだけに頼ったり、逆にまったく無視したりするのは避けたほうが良いでしょう。

先ほどの話でいうと、いくら軒を長くして夏の日差しを遮ったところで、エアコンがないと昨今の猛暑は乗り切れません。風が抜けるように窓を大きく取ったところで、風が気持ちいい時期は限られていますし、大きな窓は断熱性が低下して夏や冬は最悪です。

やりすぎることなく、かつ、できる範囲で、自然の力を利用した設計にすることがおすすめです。

まとめ

後悔する間取りとして7つ紹介させていただきました。

繰り返しですが、間取りに正解はありません。ここで紹介したものについても、ある人にとってはもちろん正解になることもあり、検討することやそれ自体を決して否定するものではありません。

ただし、デメリットがあり、正解になりにくいケースが多い間取りでもあります。

これから家づくりをされる方は参考にしてみてくださいね。

著者:独学一級建築士 nandsk

独学により一級建築士に合格。住宅やアパートの設計・工事監理、特殊建築物の維持管理、公共施設の工事設計・監督の経験あり。二級、一級建築士試験受験者へのアドバイスも行っている。『建築の楽しさを多くの人に知ってもらいたい』と話す。

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