今、建売住宅を買うのは危ない? 一級建築士が解説する建売住宅購入の4つの注意点|一級建築士による建設アラカルト
【Written by 独学一級建築士 nandskさん】
最近は地価の高騰やマンション価格の上昇が話題になることが多いですよね。これから自宅を購入しようと思っている人にとっては、いろいろと悩みも多い時代だと思います。
土地代やマンション価格が高騰すれば、「割安な建売住宅を」と考える人も多いでしょう。でも、ちょっと待ってください。今、建売住宅を買うのは少し考えないといけません。タイトルでも書いたとおり、2024年は少し危険な時期なんです。
理由はいろいろありますが、建築士の視点から4つほど紹介したいと思います。
注意点①その建売住宅、省エネ性能は大丈夫?
高温多湿で地震が多い日本は、高性能住宅というものをつくってきませんでした。江戸時代の火消しが、火災が起きたら家を壊して延焼を止めたように、壊しやすく再建しやすい、というのが日本の伝統的な住宅でした。
近年は耐震性や防火性も向上し、換気や空調といった住宅設備も性能が上がってきているので、高気密・高断熱住宅が増えつつあります。
ただ、日本の基準は遅れていて、長期優良住宅の認定を取れるレベル(断熱等級5、UA値0.6)であっても、海外では法律違反スレスレの最低限の基準だったりします。当然、建売住宅では長期優良住宅の認定さえ取得していない場合もあるので、中には海外では違法建築レベルの性能で、冬寒く、夏暑い、快適とは程遠い住宅の可能性もあるんです。
注意点②省エネ適合義務化直前
日本の住宅において、省エネ性能が低いということは国も問題視しており、徐々に基準を切り上げています。そしてとうとう、2025年度からすべての新築住宅に省エネ基準適合が義務化されます。これにより、2025年4月以降に着工するすべての住宅は省エネ基準に適合し、最低限の断熱性を確保したものになるのです。
逆に言えば、2025年度以降は法律上、建てることさえできない住宅でも、2024年度なら建てられてしまうということ。住宅価格を抑えて安く販売したい事業者が、今のうちに省エネ基準不適合の住宅をたくさん建築する、というようなこともあるかもしれません。そして、その事業者は「基準が切り上げられて市場が高性能住宅ばかりになる前に売り抜きたい!」と考えるでしょう。
断熱性が低い住宅では、ヒートショックに代表される疾患やアレルギーなどの慢性疾患のリスクが上がったり、寿命が縮んだりといった弊害があることが、国土交通省の「住宅の断熱改修をした人の健康状態の変化」の調査でも明らかになっています。
住宅は一生に一度の高い買い物。多少安いからといって、性能の低い住宅で大丈夫ですか?
注意点③注文住宅との適切な費用比較を
性能が低い建売住宅を購入するのは良くない、ということはわかってもらえたと思います。でも、「注文住宅は高くて予算が…」という人も多いでしょう。ところが、注文住宅も実は意外と安く建てることができるのです。
例えば、土地と建物をセットで販売する建売住宅では、料金には建物の費用と土地の費用がどちらも含まれています。このうち、建物の価格は日本全国ほぼ一緒で、価格差は土地代になります。3大都市圏などでは土地代が3000万円、建物が1000万円で、合計4000万円程度の販売価格といったケースもあり、実は価格のほとんどは土地代なのです。
一方、注文住宅は土地と建物を完全に別々で購入するので、好きな土地を選ぶことが可能です。特に注文住宅の場合、土地の形状や高低差に合わせて家を設計できるため、分譲地のように土地を四角く造成したり、高低差をすべて擁壁で処理したりする必要もありません。最低限の外構工事で家を建てることが可能です。
そもそも、不整形地や高低差がある土地というのは安くなっていることがあるので、土地から自分で選んだほうが、建売に比べて土地代を抑えられることも多いです。注文住宅の良さである“自由設計”により、ポテンシャルを120%活かした土地利用が可能となり、安い土地でも十分快適な家が建てられるため、意外と建売住宅と価格差がないケースも多いのです。
注意点④品質やアフターサービスに不安が残る
建売であれ注文であれ、住宅というのは人の手でつくるものです。そのため、品質にばらつきがあります。
注文住宅の場合、希望すれば施工中の現場に行くこともできますし、工事中に気密測定などの実測検査をするメーカーもあります。今ではホームインスペクション(住宅診断)などもありますし、インターネットなどで情報を得てから現地を確認することもできます。
建売住宅ではすでに建物は完成しており、過程はせいぜい写真で確認するくらい。床下や天井裏はチェックするのが難しく、コンクリートなどはもう確認することができません。もちろん、監理建築士や現場監督が品質を確保しているはずですが、メーカー側でしか検査していないというのを不安に思う方もいるでしょう。
また、最近は建設作業員が不足しています。人が作業するのでミスが出るのはしょうがないですが、どちらが品質に対してリスクが少ないか、よく考えてから購入したいですね。
まとめ
2024年の建売住宅購入について、注意点をまとめてみましたが、建売住宅でも性能が良かったり、しっかりとした品質を確保していたりするものも多いです。「建売だから」「注文だから」というのではなく、いずれの場合でもその住宅がどういったものなのか、よく確認してから購入するようにしましょう。
【独学一級建築士 nandskさん】
独学により一級建築士に合格。住宅やアパートの設計・工事監理、特殊建築物の維持管理、公共施設の工事設計・監督の経験あり。二級、一級建築士試験受験者へのアドバイスも行っている。『建築の楽しさを多くの人に知ってもらいたい』と話す。