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長期優良住宅とは?制度概要や認定基準、2022年2月の法改正についても解説

【Written by 独学一級建築士 nandskさん】

日本の建築技術は高いため、戸建て住宅でもしっかりとつくれば、本来なら70年程度は十分使用できるのですが、築20年程度で解体してしまうことも多く、非常にもったいないんです。

「住宅のような環境不可の大きなものは、すぐに壊すのではなく、良いものをつくって長く使いましょう」という理念のもと、2009年からスタートしたのが『長期優良住宅認定制度』です。

この記事では長期優良住宅の概要や認定基準、認定を受けるメリットなどについてわかりやすく解説します。

長期優良住宅とは

長期優良住宅とは、その言葉のとおり「長期にわたり優良な状態を保てる」と認定された住宅のことです。長期優良住宅に認定されることで、税制優遇を受けられるなどのメリットがあります。

もともと日本は新築至上主義で、海外に比べて戸建て住宅のスクラップ&ビルドが盛んな傾向がありました。しかし、それでは環境によくないということから、「高性能の住宅を建てて長く使うこと」を促すために2009年に始まったのが長期優良住宅認定制度です。

長期優良住宅の認定基準

長期優良住宅の認定を受けるためには、建物の構造や省エネ・耐震性能など、大きく分けて9つの項目で基準を満たす必要があります。中には建物を適切にメンテナンスするための維持保全計画や、将来の家族構成の変化に対応できる可変性なども評価項目となっています。

認定基準① 耐震性

日本は地震が多い国ですから、ある程度の地震でも建物が使用不能にならないように一定の耐震性が求められます。耐震等級による基準、または免震構造の建物であることなどが定められています。

構造計算が必要になる場合がありますが、壁量計算といわれる「耐力壁がどれくらいあるか」などを計算するだけで済む場合もあるほか、ハウスメーカーなどでは商品化された建物を型式認定していて、構造計算自体が不要になることもあります。

また、耐風性など地震以外に対する耐久性もチェック項目になっています。

認定基準② 省エネルギー性能

建物の“ガワ”を形成する壁や屋根、床の断熱性能などから算出する外皮性能基準と、冷暖房器具や照明器具といった実際に建物内で使用する家電などの消費エネルギーである一次エネルギー消費量が、それぞれ基準を満たす必要があります。

耐震性と一緒で、こちらも型式認定などを使用するハウスメーカーが多いです。

認定基準③ 維持保全計画

建物を長く使うには適切な点検や修繕が必要です。そのため、長期優良住宅の申請時には30年以上の維持保全計画書の提出が求められます。

計画書には点検項目や点検時期のほか、地震・台風時の緊急対応や、計画の見直しについても記載します。

認定基準④ 維持管理・更新の容易性

適切な維持保全計画を立てても、実施することが難しければ意味がありません。

床下や屋根裏への点検口の設置、トイレ・お風呂など水回りの配管や電気の配線など設備の点検・更新のしやすさがチェック項目です。

「配管がコンクリートに埋め込まれていて交換できなかった」などということがないようにしましょう。

認定基準⑤ 劣化対策

数世代にわたり住宅の構造躯体を使用できることが求められ、劣化対策等級という指標で基準が定められています。建物のシロアリ対策や耐久性の高い樹種の使用、お風呂や脱衣所の防水性などがチェック項目です。

認定基準⑥ バリアフリー

これは共同住宅における基準ですが、現時点でのことのみではなく、将来バリアフリー化できるようになっているかが重要です。“長く建物を使う”という理念なので、住人が高齢になったときのことも考えているわけです。

共用部の階段や廊下の寸法などがチェック項目となります。

認定基準⑦ 可変性

こちらも共同住宅に適用される基準で、前項のバリアフリーに近いですが、将来の家族構成やライフスタイルの変化に対応できるかがチェック項目です。

認定基準⑧ 居住環境

周辺の街並みと調和し、良好な景観や居住環境を保つことも基準の1つです。地区計画や景観計画などが定められた区域内であれば、それらに適合した建物でなければなりません。

認定基準⑨ 住戸面積

建物全体の面積は、戸建て住宅であれば75㎡以上と決められているほか、各フロアごとに階段部分を除いた最低面積が設定されています。

長期優良住宅による税制優遇

上記のような基準を満たして審査に合格すれば、長期優良住宅として認定を受けることができます。住宅の購入者は“質の高い住宅”の目安として、家選びの判断材料にしてもいいでしょう。

そして何より、認定を受けると税制優遇があります。住宅ローン減税の控除額が拡大するほか、不動産取得税や固定資産税なども優遇されます。

認定を受けるためには指定検査機関で審査を受け、さらに行政に申請を行う必要がありますが、よりよい住宅をお得に、しかも公的なお墨付きをもらって建てることができる制度ですので、住宅購入を考えているならぜひ長期優良住宅の認定を考慮してみてください。

長期優良住宅の法改正

高性能の住宅を建てて、税制優遇も受けられることから、かなり普及してきた長期優良住宅。さらなる普及を図るため、2022年2月には法改正が行われました。

今回の法改正では、今までは部屋ごとに認定していた分譲マンションを建物単位で認定できるようになったほか、認定手続きの合理化、豪雨災害への対応などが行われています。また、2022年10月予定の次回改正では、既存建物の認定が制度化され、省エネ基準の見直しも行われるようです。

この中で特筆すべきは「豪雨災害への対応」と「認定手続きの合理化」でしょうか。

法改正のポイント① 豪雨災害への対応

豪雨災害への対応は、昨今頻発している豪雨による河川の氾濫や土砂崩れなどに対応して、これらのリスクが高い地域(土砂災害特別警戒区域など)では長期優良住宅の認定が受けられなくなりました。

こういった地域では建物を建てること自体に制限が多いので、あまり対象になる人は多くないかもしれませんが、該当するエリアで長期優良住宅の認定を受けようとしていた人は要注意です。

法改正のポイント② 認定手続きの合理化

認定手続きの合理化については、以前は認定のために添付が必要だった書類が不要になりました。

もともと、民間の検査機関で審査を受け、合格証である「適合証」を添付して行政に認定申請をしていたのですが、「適合証」が「確認書」に代わったことで行政への申請書類が半分以下になり、申請が簡単になりました。

まとめ

長期優良住宅認定制度について簡単に説明しましたが、今回の法改正により、基本的には申請が簡単になっています。国としては普及していきたい制度なので、合理化されたんですね。

手続きの煩雑さなどで申請を迷っていた人は、これを機に申請して税制優遇などを受けると、お得に高性能な住宅に住めるかもしれません。

著者:独学一級建築士 nandsk

独学により一級建築士に合格。住宅やアパートの設計・工事監理、特殊建築物の維持管理、公共施設の工事設計・監督の経験あり。二級、一級建築士試験受験者へのアドバイスも行っている。『建築の楽しさを多くの人に知ってもらいたい』と話す。

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