「積算には経験と愛情が大切」 辰島建設の担当者が語る!建設会社における積算業務の役割

建設トピックス

東京都板橋区の辰島建設株式会社は、1976年の設立以来、官民問わず多くの土木工事や外構工事などを手がけてきました。

「積算は会社の顔」と話すのは、同社で積算業務を担当する穴沢和則・執行役工事部長。積算で導き出した数字を根拠に見積書や入札書を作成し、発注者へ提示する。それが会社の印象、そして売上を左右する。そういう意味で建設会社における積算業務は、まさに“顔”と言えます。

今回、そんな積算業務にかける思いや取り組む姿勢などについて、穴沢さんと同社専務取締役の崔丞鎰さんにお話を伺いました。

積算は現場をイメージすることが一番重要


穴沢和則さん。辰島建設執行役工事部長。専修大学卒業後、訪問販売営業職を経て、1996年に辰島建設入社。2012年工事部長に昇進、2023年から現職。

――穴沢さんが積算業務に携わるようになった経緯を教えてください。

穴沢:まず、うちは積算・見積もりを専門で行う部署や担当者を置いていません。主に歴代の工事部長が担当していて、現場が動き始めてから追加工事が発生した場合などは、その現場の担当者が積算して見積もりをつくります。

僕も現場監督をやっていたときに、そういう形で見積もりを出すことはありました。積算を業務として本格的にやるようになったのは、2012年に工事部長に就いてからです。

――積算業務はどのように習得されたのでしょうか。

穴沢:特別勉強したり、教えてもらったりしたわけではなく、“経験”ですね。

積算の基本的なやり方はある程度、決まっています。工種ごとに、材料費を出して、歩掛を出して、それに使う機械費を出して、それで1工種の原価が計算できます。この中で特に歩掛、「この工種は、何人いれば何メートル施工できるか」というのを考えるのが、積算で一番難しい。それをまず、事前に現場を見に行って、自分が現場監督をやっていたときの経験と知識をもとに、イメージしながら考えていきます。だから、積算は現場経験があってこそできるようになるものだと思います。

崔 :うちでは積算業務をそうやって覚える仕組みになっているんです。

現場を担当している人は毎日、工事日報を書いていて、「今日は、この工種を何人で、何メートルやった」という記録をつけます。もともと作業員の人数は番割責任者が配分しているわけですから、工事日報を毎日書くことによって、「この工種、この数量だったらこのくらいの人数が必要」ということがわかってきます。それがつまり歩掛です。

そうやって日々、自分の担当現場を振り返ることが知識になっていくので、現場経験があれば、基本的なやり方をちょっと指導するだけで、すぐにみんな積算ができるようになるんです。

――現場を見ること、そして現場での経験は積算において重要なんですね。

穴沢:現場の状況がわかっていないと積算のイメージも湧いてきません。例えば、現場を見ずにいきなり、運搬車両を大型車で検討したとしても、その現場に大型車が入らないかもしれないですよね。まず周囲の環境、施工条件をしっかり見て、工事をイメージすることが一番重要です。

建設業において、まったく同じ工事はありません。現場を見たうえで、それぞれの状況を考慮して数字を積み上げていけば、当然、計算結果にも差は出てきます。提出した金額について発注者から質問されても、現場での経験があればきちんと根拠を説明できますし、それが説得力にもなりますよね。

積み重ねてきた経験が生む数字の正確さと信用


辰島建設専務取締役の崔丞鎰さん

――案件ごとの違いでいうと、公共・民間いずれの場合でも、発注者によって積算基準なども異なりますが、どのように対応しているのでしょうか?

崔 :発注者によってクセはあるよね。

穴沢:下請で参加する場合や民間の発注者だと、うちの会社の得意先はほぼ決まっているので、特性をある程度は把握しています。だから、それぞれの特性に応じて、歩掛なんかをちょっとずつ調整しながら対応します。

崔 :これは、いままでうちの会社がずっと積み重ねてきた経験があるからこそ、できることであって。得意先との信用にも関わりますし、競合他社との競争に勝つためにも大事なことだと思います。

穴沢:一方で、新規の相手に対しては特に気を付けるようにしています。うち以外にも複数の企業から見積もりを取っているでしょうし、その中で金額が飛び抜けて高い、低いってなってしまうと良くないので、きちんと原価を計算して、適正な価格を出すのが一番大切です。

新規か得意先かに関わらずですが、積算するときは、まず図面から手作業で数量を1個1個拾って、積み上げていきます。そのうえで、現場の状況や見積条件を踏まえて、会社の独自システムで計算します。このやり方はもちろん時間がかかりますが、そんなに数字が狂わない自信はありますよ。

崔 :公共工事の入札の場合は、1億円を超えるような工事でも、ほんの数円の差で落札者が決まることがありますよね。それで工事が取れたとしても、赤字になるような現場だったら、会社としては問題です。

だからうちで公共工事を狙うときは、まず穴沢役員に図面から拾い上げて積算してもらって、直接工事費を出す。それで社内協議をして、「この工事ならある程度収益が確保できる」っていうのを判断してから、官公庁用の積算ソフトを使って入札に臨んでいます。

工事日報の振り返りが積算の精度を高める

――積算業務を行ううえでの課題はどういうところに感じますか?

穴沢:材料費は変動がありますよね。例えば1カ月前に積算したものでも、いまはもう単価が変わっていることもある。だからそういうときは面倒くさがらずにもう1回、見直すことが必要です。

崔 :最近、物価が高騰してるでしょ。だから積算して見積もりを出して、受注した工事でも、受注したときと施工時とで物価が全然違うこともあります。それを価格転嫁だったり、いろいろ交渉したりするんですが、やっぱり国のほうで、発注者がスライド条項を適用するとか対応してくれないと、受注者は元請もそうだけど、下請は本当に大変なことになります。

穴沢:あとは、得意先をはじめ発注者の信用を失うのが一番怖いですね。

あんまり金額が高い見積もりばかりを提出すると、「もうこんな会社は使わない」って思われちゃうでしょ。だからちゃんと積み上げた数字を出さないといけない。逆に、提出期限まで短くて作業が間に合わない場合、ちゃんとしたものを出せないと判断したら、その案件には参加しません。たとえ「何でもいいから見積もりを出してくれ」って言われても出さない。下手なものを出すほうが信用を失いかねないですから。

――「ちゃんと積み上げた数字を」というお話がありましたが、積算の精度を高めるために工夫していることはありますか?

穴沢:うちは現場の担当者が工事日報を毎日つけているので、それを見れば「これでは人数が多かったな」とか、そういうのがわかって、積算の答え合わせのような感じになります。歩掛も少しずつ変わっていきますが、そうやって現場の声を聞いて次に生かすことで、精度を上げていけると思っています。

積算業務には“愛情のある人”が適任!?

――積算業務にはどういう人が向いていると思いますか?

穴沢:“愛情”がある人ですかね。相手のことをきちんと思いやれるような人のほうが向いていると思います。

例えば、提出する見積書に金額だけじゃなくて、特記事項として「これはこういうふうに考えて見積もりしましたよ」と丁寧に書くのと、何にも書かないで金額だけポンポンって入れてあるのだと、相手の受け取り方も全然違うでしょ。そういう意味では、冷たい人の見積もりは、見積書を見ても冷たく感じるんですよ。相手のことを考えて、書類を見ただけで「こういうことだな」っていう意図が伝わる書き方をする。僕はそう心がけています。

崔 :相手に対する思いやりがあると、受け取った側に“愛情”は伝わるよね。「冷たい見積もりしてるな」って思った相手には、やっぱり仕事をお願いしないですよ。「この会社と仕事がしたい」ってお互いが思える、そのための見積書なわけだから。

穴沢:金額だけではなくて。安ければいいってもんじゃない。

崔 :もちろん品質も大事。品質が伴っていないと、みんなのためにきれいな道をつくるとか、そもそもの目的から外れてしまう。

うちだってそれは同じで、うちから下請に発注するときも、金額が安いだけではお願いしないです。信用や愛情がある会社と付き合っていくのが大事。「安いからこの業者に依頼する」みたいなのは絶対だめなんですよ。あとからボロが出ます。結局は人のつながりですからね。

――これまでのお話をまとめると、積算業務に大切なのは“経験”と“愛情”ということでしょうか?

穴沢:だと思います。

積算担当者は会社の要、そして“顔”

――建設会社にとって積算担当者はどういう存在だと思いますか?

崔 :本当に要ですよね。工事業において積算業務というのは、すべての事業活動のスタートライン。ここで上手くいかないと受注も何もないですから。受注に結び付くように積算をして、入札や打ち合わせをして、それで工事が始まる。会社にとっては重大な役割というか、絶対に必要。ここがしっかりしていないと、会社もぶれてしまいます。

受注した後に、工期を守って高品質で施工するのは当たり前。そのすべてのスタートが積算です。

穴沢:僕は“会社の顔”だと思ってますよ。相手との交渉がこの見積もりに懸かっているわけだから。書類の誤字脱字もそうですが、何か少しでも間違えると印象も変わるし、それが売上にもつながりますよね。

だから、発注者に見積書を提出するときはやっぱり怖いですよ。違算してしまったら…。高すぎても信用を失っちゃうし、安すぎても「それでお願いします」って言われて赤字が出たら困るし。プレッシャーはありますよ。


国立競技場(新宿区)の周辺道路工事も担当した辰島建設。穴沢さんが受注時の積算に携わっており、近年でも特に思い入れのある現場だという(辰島建設提供)

――そんな中でも、積算業務のやりがいや魅力はどのように感じていますか?

穴沢:何社も競合して受注できて、工事が終わったときに先方から評価されて。それでうちの会社も利益が出たっていうのが一番。

完成した施設はもちろん見ますよ。事前に現場を見に行って、図面も見て、頭の中で「こういうふうにつくっていくんだ」っていうイメージをしながら積算しているから、それがそのまま出来上がったのを見ると、やっぱりやりがいを感じますね。

崔 :事前に現場に行って、状況・環境を確認してから積算に臨むわけでしょ。そのときの風景が自分の頭の中に入っている。それでどんどん工事が進んで、最後完成したときに以前の風景と比べるとね。工事を受注して、例えばガタガタだった道をきれいにして、みんなに利用してもらう。それで会社も利益を出せる。みんなWin-Win。これはやりがいですよね。

地域のために働く建設業のやりがい

――最後に、今後の抱負をお願いします。

崔 :うちは小さい規模の会社ですけど、勤めている社員とその家族、作業員とその家族、さらには外注の方々とその家族、たくさんの人が関わっています。だからまずは、企業として安定した成長で、みんなが不安を感じずに生活ができる、そういう環境をつくらなければいけないという使命感があります。

それから、我々は土木工事がメインですが、みんなに問題なく使ってもらえる施設をつくること。地域貢献と言いますか、高品質で環境にもやさしい工事をして、それが地域や近隣からの信頼につながる、そんな仕事を継続していきたいと思います。

穴沢:まちには老朽化している施設がけっこうありますよね。それをきれいにしていくことに一番、建設業のやりがいを感じます。

いまうちでは設計業務はやっていないんですけど、今後、会社として設計から携わることができたらもっと楽しいだろうなと思っています。自分がイメージしたものを形にしていくのは、やっぱり建設業の魅力です。それは積算業務も同じですね。

――ありがとうございました。

取材協力:辰島建設株式会社

(建設データブログ編集部)

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