【寄稿】東京都の積算における課題と取り組み│東京都中小建設業協会・渡邊裕之会長

建設トピックス


東京都中小建設業協会の渡邊裕之会長(同協会提供)

今回、「東京都の積算」における現状と今後について、東京都中小建設業協会の渡邊裕之会長に寄稿文をいただきました。適正な価格で公共工事を推進するうえで、受発注者双方が抱える課題、そしてその解決に向けた取り組みなどをつづっていただいています。

 

積算は建設工事のスタート地点

一般社団法人東京都中小建設業協会・会長の渡邊裕之と申します。私どもは、東京都内に事業所のある元請の中小建設会社を会員に持つ団体です。地場の建設会社である我々が「地域の守り手」として存続し続けるためには、適正な価格による公共工事の推進が必要不可欠です。今回の寄稿にあたり、確かな積算に基づく工事の重要性について広める一助となりましたら幸いです。

我々建設会社にとっての「積算」とは、建設工事のスタート地点であり、ともすれば受発注者でずれてしまうこともあるその“位置”を揃えていくことが、業界団体として重要であると考えております。

現状、協会では、工事における積算に対しては次の三つを課題として捉えています。

課題①:積算単価と実勢単価の乖離

一つ目に、東京都の積算単価と実勢単価の乖離です。元々、多くの資材等で実勢単価の方が高い傾向にあり、双方の価格乖離は積算において重要な問題となっていましたが、近年の物価上昇に伴ってその差はさらに広がりました。実勢単価の上昇率に対して都の積算単価の上昇率が追い付いていない状況が依然として続き、差は広がるばかりです。

そこで、「受注者と発注者とは対等との考えのもと、片務性を解消するため、受注者のみに通常合理的な範囲を超える価格の変動を負担させない」ことを趣旨として、スライド条項という制度があるのですが、現実には、スライド条項を必要としている全ての工事に適用されているわけではありません。

理由として、手続きが煩雑なために受注者が申請をしない場合、または発注者が制度適用に積極的でない場合などがあります。どちらの場合も「片務性を解消する」という趣旨からは大きく外れるため、受発注者双方が真摯に向き合うと共に、手続きの見直しなどが必要と考えます。

課題②:現場を理解した積算

二つ目に、発注者側で現場事情に詳しくない担当者が積算を行っているとみられる案件が多く、積算単価と実際の現場との乖離があるということです。具体的には、「ガラ・残土運搬について、道路事情で小型車しか入らない工事で、大型車の単価になっている」「人力での施工に限られる歩道などの工事で、機械施工の単価になっている」といったことが起きています。

これらにより生じる価格差は、設計変更で対応をしていただけることもありますが、多くの場合、受注者負担となっています。積算と現場理解は表裏一体であり、積算をするうえで現場を知ることは欠かせない、と認識していただきたいと考えています。

課題③:適正な歩掛の設定

三つ目に、実態に沿った適正な歩掛設定の必要性です。

私どもは、働き方改革実現に向けて、時間外労働の削減を目的に、様々な角度から検討を行っております。その一つとして実施した調査の中では、「常設作業帯の設置が困難な路上工事において、日々回送による移動時間が発生する場合」や「道路使用許可時間によって施工時間が制限されている場所での工事」などでは、現在の歩掛のもととなっている「標準作業時間8時間」の作業を行うことが不可能であることが明らかになりました。一日に8時間未満しか工事が行えない状況で、8時間の代価で積算した工事を行うことは、働き方改革とは逆行することを意味します。

現在の都の歩掛は、国土交通省の設定を横引きした内容となっていますが、国の積算基準はあくまで標準であり、私どもとしては、東京都独自で代価を作っていただきたい。先にあげたような事情を抱える工事現場が全国標準ではなく、東京都に特に多くみられる課題であるため、ぜひ、全国の地方自治体の中で都が率先して独自の代価作りを進めていただきたいのです。

実情に沿った歩掛の設定によって、受発注者ともに無理のない工事の推進が可能になると考えています。

課題解決に向けた協会の取り組み

ここまであげた課題については、発注者の理解と対応を求めるとともに、協会としても解決に向けて以下のような取り組みの実施・提案を行っていく所存です。

一つ目にあげた「都の単価と実勢単価の乖離」を埋めるべく、設計価格と購入価格の差を調査し、都が適正な積算を行えるよう意見交換会の場などで実態を伝えさせていただいております。また、受注者側として、スライド条項などの都の制度を十分に活用するよう協会員へ働きかけるとともに、受発注者双方にとって、手続きが少しでも軽減される仕組みの提案も行っております。

二つ目の「現場を理解した積算」については、ぜひ発注者内で積算に関する講習会等を開催していただきたい。当然、受注者側からの講師派遣など協力は惜しまない姿勢です。

三つ目、「適正な歩掛の設定」には、根拠となる調査が不可欠であると理解しております。受注者にとって、調査内容が実務との乖離があるなど、回答が複雑である一面もありますが、協会では発注者が行う調査への協力を引き続き会員企業へ呼びかけてまいります。

都民の安全快適な暮らしを守るために

積算は工事の根幹をなす部分であるために、業界団体としては様々な要望・意見があるところですが、都民の安全快適な暮らしを守るべく、公共工事を推進していきたいという思いは、発注者と同じであると考えております。受発注者で手を取り合って、東京都の事業を進めていきたいということを添えて、結びとさせていただきます。

一般社団法人東京都中小建設業協会
会長 渡邊裕之

 

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