グルメ司法書士・梅先生のチョコっと舌鼓と司法相談アルアル【第4回】
グルメ司法書士・梅先生の
チョコっと舌鼓と司法相談アルアル
司法書士、梅本先生による連載第2弾。
東京都内のランチが美味しいお店を紹介しながら身近な司法書士への相談アルアルを会話形式でやさしく解説していただきます。
今日のランチの舞台は、「日本橋たまゐ 本店」。
「あなご」専門の名店。お店は、昭和28年に酒屋として建てられた日本家屋。
コンクリートに囲まれた日本橋で、木造の昭和ニッポンを楽しめます。
いつも最後は夢心地の梅先生。土曜日のランチタイム。果たしてどんなお話になるのか。お楽しみに!
・梅先生
梅先生新宿区四谷で業歴約30年の司法書士
趣味は、神輿担ぎと草野球。どちらも終われば潰れるまでの酒盛り
お酒が大好きだけど、呑むと直ぐに寝てしまう、昭和生れの頑固オジサン
・ノリスケ君
梅先生の執筆を担当して3年目の編集者
自称グルメの大食漢。守備範囲は和洋中のオールマイティー
登記簿を見たら根抵当権と書いてある。「根」で何が違うの?(後編)
②違いは1本のマッチ棒とマッチ箱
抵当権や根抵当権の目的は債権保全だという事は分かりました。どちらも計画的に返済をしないと不動産を失ってしまう事も分かりました。
でも、なんで2種類あるのですか?その違いはどこにあるのですか?
それは、お金を借りる側の便利に合わせてあるとも言えるだろうね。
こちらの便利ですか?
例えば、住宅を買うことって、人生で1・2回くらいだよね。毎月のように住宅ローンを組む人はいないでしょ?単発の借入だから、完済したら担保権が消えてくれる方がスッキリして良いよね。
確かにその通り。いつまでも抵当権があって、借金しているみたいな状況は気持ちが悪いですものね。
だから、1回お金を借りてもそれを完済したら消えてくれる関係が良いよね。でも、1回だけでも抵当権は登記をしなくてはならず、登記のためには高い登録免許税や登記手数料がかかってしまうんだ。人生で1・2回程度なら「仕方がないな」とも言えるけどね。
何度も繰り返すことはないですからね。
でも、会社の事業資金のように、毎年のように借入と返済を繰り返す必要がある場合にはどうだろうか。
その都度、抵当権の抹消登記費用と設定登記費用を繰り返して負担するのは不経済だし、手間もかかるから面倒だと思わないかい?
それ確かにそうですね。僕の会社でも、年2回のボーナス月は、会社はある程度のまとまった借入を繰り返していますからね。
だから繰り返して借入と返済ができるけど、その都度の登記を考えなくても済む抵当権が欲しくなるよね。それが、根抵当権なんだ。
つまり、借入れが単発なら抵当権を利用して、繰返しの借入れが予定されている場合には根抵当権を利用すると都合が良いという事ですね!根抵当権はどうしてそれができるのですか?
それを説明する方法が、さっきアナゴ酒をのむ時に使った、マッチ棒とマッチ箱の関係なのだよ。
まるで、ナゾナゾですね。詳しく教えて下さい。
抵当権はマッチ棒?
まず抵当権から説明しようね。例えば、住宅ローン債権を「マッチ棒」1本だと思ってくれるかい。
1本のマッチ棒(特定債権)を担保するための担保権が抵当権なんだ。ここでいう特定債権というのは、個別具体的に何月何日に借りた何円の借入金というものなんだよ。
それとは別に、1月2日に借りた200万円の借入金-② もあるとしましょう。
抵当権の設定は、①の100万円の債権だけを保全しているとしたら、①の100万円のマッチ棒だけが抵当権と密着しています。
それは、100万円-①のマッチ棒だけに抵当権が付いているので、200万円-②の不払いでは抵当権での強制競売はないという事ですね。
そのとおり。抵当権が設定されているマッチ棒は、もしも返済できなければ、「抵当権の実行」として、マッチ棒が擦られてしまうんだ。擦られてしまうと、発火して大惨事。抵当権付きの自宅は失ってしまうんだ。
なるほど、抵当権が設定されている、①のマッチ棒が発火する事が怖いわけですね。例えば、100万円の借入金を全額返済をしたら、マッチ棒はどうなるのですか?
良いところに気が付いたね。100万円の借入金を全額弁済すれば、マッチ棒に水をかけられたと思って良いよ。水浸しのマッチ棒は使い物にならないから、捨ててしまうよね。マッチ棒がなくなってしまえば、抵当権は、保全する債権がないのだから、お役目ゴメンで、当然に「消滅」するんだよ。
これを抵当権の「付従性(フジュウセイ)」というんだ。つまり、抵当権の存否はマッチ棒=債権の存否と運命を共にする関係にあるんだよ。
なるほど、抵当権はマッチ棒が発火するか、水がかかるかで大違いになるわけですね。
そうしたら、抵当権の100万円の借入金債権を、別の人に債権譲渡したらどうなるのですか?
またまた鋭い質問だね。抵当権は被担保債権と運命を共にするので、債権譲渡するとその抵当権は、当然に債権の譲受人に移転するんだよ。
これを「随伴性(ズイハンセイ)」というんだ。つまり、抵当権も一緒に移転するんだ。抵当権の存否は「付従性」、所在は「随伴性」という性質があるんだよ。
金融機関が保証協会に債権譲渡すると抵当権が移転する、と聞きますけど、これの事なんですね。
そのとおり。
なるほど、借り入れが1回程度しか想定されていない時は、確かに、早く完済して水をかけて、抵当権を消滅させてしまいたいですものね。
根抵当権はマッチ箱?
これに対して根抵当権は「マッチ箱」なんだ。マッチ箱の中には、たくさんのマッチ棒が入っているよね。マッチ棒は箱から出して使い、減ってきたら別のマッチ棒を入れてまた継続して使うでしょ。マッチ棒は増減するけど、入れ物の「箱」変わらないんだ。
つまり、根抵当権という箱の中に入る債権(=マッチ棒の種類)を決めておいて、債権=マッチ棒の出し入れを自由にしておけば、借入・返済は何度もできるけど、その都度の根抵当権の設定はしなくて済むんだ。だって、箱は1つあれば減らないから。
なるほど、箱が変わらないなら登記を改めてする必要はないから、登録免許税も手数料もかからなくて助かりますね。
わかって来たね。この箱を「枠」または「基準」と言ったりする学者もいるんだよ。だから、登記の内容でも金額欄を「債権額」とは言わないで「極度額」というんだ。これは、借入合計金額の上限金額の基準だと考えて良いよ。
現在借りている債務の一部を返済すれば、借入合計金額は下がるわけだから、下がった分だけ借入の余裕ができるので余裕分を再度使えるんだ。でも、必ず貸してもらえるというわけではないよ。貸してもらえるか否かは別の金銭消費貸借契約の問題だからね。貸してもらえたら、この根抵当権で担保できると言う意味だよ。
つまり、マッチ箱というのは基準の枠みたいなものなのですね。
そのとおり。根抵当権の場合は抵当権のように債権と直結していないので、極度額の概念・債務者の概念・債権の範囲の概念も全部が基準なんだ。
例えば「債務者」と言う場合、抵当権の債務者は実際に借入をした「人」の事なんだけど、根抵当権でいう債務者は、マッチ箱を使って借入ができる人の「基準」の事なんだ。
そうすると、僕の友人は自宅ではなくて、会社の本社建物の謄本をとったので、事業資金の借入だから根抵当権が設定されていたのですね。
たぶんそうだろうね。もちろん自宅を担保にして事業資金の借り入れをするのであれば、自宅でも根抵当権が設定されている事もあると思うけど、住宅ローンでは根抵当権は使わないからね。
③消えたのに消えていない登記の謎
根抵当権の場合には、借入債務を全部返済したとしても、根抵当権は当然には消滅しないんだ。マッチ箱に入っていたマッチ棒がなくなったからといっても、マッチ箱はなくならないからね。
この場合に、根抵当権を消したければ「解除」をして根抵当権を消滅させる合意をしなくてはならないんだ。これに対して、抵当権の債務の完済の場合は、抵当権は付従性によって当然に消滅するんだ。
それなら、登記も消えるのですか?
それが違うんだ。登記は別物で、根抵当権を解除して根抵当権が消滅しても、抵当権の債務を完済して抵当権が消滅しても、その登記は当然には消えないんだよ。
それらが消滅したという登記を別に入れないと、登記簿からは消されないんだ。消えたのに登記は消えない。登記は別物なんだよ。
でも抵当権や根抵当権自体は消えているのですよね。
そのとおり。でも、後日売買をする時には抵当権や根抵当権の抹消登記をしてあることが必要になるんだ。
その時になって、消滅してから長く放置していると、抹消書類を紛失していたり、相手方がわからなくなっていると、抹消登記ができなくてとても困る事になるんだ。だから、早めに抹消登記をしておくことを勧めるよ。
わかりました。抵当権も根抵当権も消滅したら、抹消登記を後回しにしないで、さっさと登記をするんですね!
ありがとうございました。今日は、そろそろ食事にしませんか。僕は「穴子ちらし」を頂きます。いろいろな味が口いっぱいに広がるので楽しいですよ。
特上と特特があります。今回は特上にしました。量はたっぷり入っています。チラシの色合いが綺麗ですよね。
本当に色鮮やかで美味しそうだね。僕にも少しちょうだい。
ん~!絶品!美味しいね。僕は「合いのせ」に「穴子のお出汁」をもらおうかな。合いのせは、煮アナゴのふっくら柔らかい味わいと、焼き穴子の香ばしい味わいを同時に楽しめるみたい。
少し残しておいて、最後は「穴子のお出汁」で、出汁茶漬けにして食べるとさらに美味しいらしいね。
手前が香ばしい焼き穴子、奥がフワフワの煮アナゴ。2種類を楽しめます。柚子皮を少しあなごに振りかけると、香りが変わって食欲が増します。
右の鉄瓶にアツアツのアナゴの出汁が入っています。あなご飯を少し残して、山葵・ゴマ・長ネギを入れて、サクッ!と〆ます。お酒の後は最高!
僕は学生時代には割と勉強した方なんだけど、抵当権までは勉強した記憶はあるのだけど、根抵当権までは、細かく勉強した記憶がないんだよね。根抵当権は、実務につくために勉強したんだ。でも、難しかったなぁ~。勉強中には根抵当権が「基準」というのが、なかなか理解できなくて、困ったね。
…あれ?ノリスケ君はどこに行ったのかな?
お客さん!お酒で気持ち良いところをごめんなさいね。お連れ様はお帰りになりましたよ。
あらま、帰ったのか。美味しいお店を紹介してくれたから、まあ良いか(笑) ごちそうさまでした。また来ます!