「事業承継」をカル~イ感じで勉強してみた NO.6
「家族信託」の勉強をしてみた ②
前回は、家族信託という新しい方法を見てみました。
▼ 前回の記事
家族信託の本質は、「委託者から最終の受益者への贈与」であって、受託者とか途中の受益者とか「条件」が付いているだけ と割り切って考えてみて下さい。
とはいえ、理解しにくい最大の点は、所有権が「名義」と「受益権」に分かれる点ではないでしょうか。
これまでの生活にはなかった考え方ですからね。
本日は、3匹からタヌ川ちゃんへいろいろと質問がされます。
信託の目的
さっそく質問させてね。「信託の目的」とはどういうことかな?
「信託の目的」とは、財産の使い方に関する委託者の「希望・願い」のことだよ。
1.自分の老後の安心のため
2.年の差姻で高齢の配偶者の財産管理のため
3.親亡き後の障がいのある子供の生活費の支給のため
4.円滑な事業承継のため
5.共有土地の管理を1人に任せるため
6.収益不動産を子供に任せて隠居生活するため など、まだまだたくさんあります。
何でもできそうだね。
委託者の財産の処分だし、受益者を守るための制度だから、委託者の希望を実現できるんだ。そういう意味ではできる範囲が広いね。
そして「信託の目的」が受託者の行動指針になるんだよ。
だから、信託契約書には「信託の目的」として1条文を設けて、明確に書いておく必要があるんだよ。受託者の行為の有効性に迷う場合には、「信託の目的」が最後のよりどころになるからね。
受託者による資産の適正な管理・運用・保全・活用・処分を通じて、受益者の生活・介護・療養・教育・公租公課等に必要な資金並びに財産に見合った心身両面の最善の福祉に必要な資金の確保・給付・支払をし、
受益者の健康状態や意思能力の減退又は喪失に左右されない安心・安全かつ平穏無事な老後の生活を実現することを目的とする。」
漠然としたものじゃなくて「何を守りたいのか」をしっかり決めることが大切なんだね。
扶養家族を守れるか
受益者がお父さんの場合には、奥さんや未成年の子供は守ってもらえないのかな?
大丈夫。受益者の家族(専業主婦・未成年/障がいを持つ子)も一緒に守られるよ。
それなら安心だね!
受益者には忠実義務があるので、受益者人の利益のために信託事務を処理する義務があるんだ。だから、一見すると、家族の名前が受益者に入っていないと守られないようにも思えるよね。
しかし、これらは受益者が負担している扶養義務に基づく財産給付なので、「信託の目的」の中で、受益者の生活・介護・療養・教育等に係る支払をすることが、記載されてあれば問題ないのです。
信託契約書の中に、受益者の扶養家族への扶養義務に基づく生活費等の支給も明記しておくと安全です。
受益者の扶養義務の範囲内での支給なので、生前贈与のように扶養義務の範囲ではなかったり、使用目的の決まっていない贈与はできません。
家族も守れるのが家族信託なのだね。安心だね。
認知症と信託契約の可否
親が、すでに認知症の判断をされると信託契約はできないの?もう手遅れなのかな?
それは一概には言えないね。
お医者さんは、治療の観点から認知症のワードを使います。
でも、契約法の観点から問題にするのは「事理弁識能力」(判断力)であって、認知症は事理弁識能力が充分か不充分かの判断材料の1つにすぎないので、認知症=事理弁識能力不十分 という公式が成立するわけではないのです。
お医者さんの意見も1つの参考資料にはなりますが、ご本人に直接にお会いして健康状態や理解度合を確認して、事理弁識能力を判断することになりますね。
だから、要介護認定が2や3だからといって、ただちに信託契約をあきらめる必要はありません。
手遅れではないですが、急いだ方が良いことだけは確かですね。
信託契約の条件対発動
そうしたら、早めに契約書は作っておいて「認知症になってから信託契約を発動させる」という条件を付けておくのはどうかな?
あ~、認知症になるまで待っているということね。
確かに、この条件を考える人は多くいるよね。でも契約をしたら、ただちに発動させるべきで、条件付けはしない方が良いと思うよ。
その理由は、「条件」が客観的に決まらないからなのです。
例えば「認知症になったら」とは、誰が検査に連れて行くのか?誰の判断で決定するのか?セカンドオピニオンはとらないのか?そもそも認知症が治る事はないのか?とか不明確な点が多いのです。
家族信託の場合には、単なる代理権の授与ではなく、財産の管理・処分権を委託者から受託者へ移転させる重大なことなので「認知症になったら」のような客観性のない基準は使うべきではないですね。
そうだね。良い方法だと思ったのだけど、不明確だね。
信託の預金口座
金銭信託の場合の預金口座は、どうしたら良いの?
受託者には、信託財産と個人財産との「分別管理義務」があるから、明確に分ける必要があるよ。
ぶんべつかんりぎむ?
具体的な方式は法律では決められていないから、分別さえできていればよいのだけど、少なくとも専用の通帳を作った方が良いよね。
その方法は、現時点では「信託口口座」と「信託専用口口座」の2態様が使われています。
1.信託口口座というのは金融機関のシステム的に、受託者の個人の口座と信託の口座が、別人の口座として分けられている口座のことです。
これは倒産隔離機能には合致しているのだけど、対応している金融機関が未だ多くはないのです。だから、受託者に便利な場所にある金融機関でできるとは限らないのです。
2.信託専用口口座というのは、受託者の個人口座ですが、屋号で分ける口座です。
例えば、「受益者コン田信長信託専用口受託者 コン田信忠」みたいなものです。前半が屋号ですね。
問題は、個人口座で名寄せされてしまう点ですが、信託口口座だと本当に名寄せされないのか?債権者は信託口口座なら見逃すのだろうか?は疑問点ですけどね。
年金の受入れ口座
信託口口座を作ったら、年金も信託口口座にいれられるの?
それはダメなんだ。
年金は譲渡禁止だから、本人名義以外の口座には入れられないのです。 だから、委託者名義の別通帳は持っておかないといけませんね。
カードで引き出すことはできるし、場合によっては、施設費用等の引き落とし口座にしておいても良いですからね。
それに、家族信託を直ちに発動させる時はまだ判断力がある状態なのだから、自分で自由にできる預金口座は持っていたいですよね。
追加信託
信託契約の後から、信託財産を追加することはできるのかな?
できるよ。でも金銭と不動産はちょっと違うんだ。
金銭の場合は、委託者又は受益者(受益者代理人)が、受託者名義の信託口口座に振込をして通知だけすれば、新しい信託契約書を作らなくても大丈夫です。
しかし、不動産の場合には、きちんと新しい信託契約を作成して、その都度登記申請をしなくてはならないのです。
自益信託で委託者が認知症になったら、追加信託はできなくなるのかな?
それに備えて、受益者からも追加信託ができるように設計しておくと良いよね。そして、受益者代理人を設けておくと良いよね。
受益者代理人?それは何?
受益者代理人というのは、受益者に代わって受益者のための意思表示をする人のことなんだ。
公正証書による作成
信託契約書は、公正証書で作る必要があるの?
公正証書で作ることを勧めるよ。でも法律上の決まりではないから、公正証書でなくても問題はないのだけど、せめて「宣誓認証」とか「確定日付」くらいは欲しいね。
公正証書が望ましい理由は、
1.金銭にしても、不動産にしても、高額な財産管理に関する契約である
2.もしかしたら、委託者の資産活用を長期に拘束・制限することになる
3.契約書の証拠能力がアップする
4.公証人が本人確認をするので、判断力能力の担保になる
5.正本を紛失しても、謄本の再発行ができる
ただし、公正証書の作成費用が、信託財産の価値(信託金銭額や不動産の評価額)で決まるので、費用的な問題はありえますね。
家族会議を開いて一致団結していれば、問題ないだろうけど、家族といってもいつ仲が悪くなるかも分からないから、公正証書の方が安全なのだろうね。
そうだね。だから、できるだけ公正証書で作った方が良いね。
受託者の報酬
家族信託だと、受託者は報酬をもらえないのかな?
報酬をもらっても大丈夫だよ。
報酬をもらったら、ただちに商事信託になるわけではありません。
商事信託は、「営業目的をもって不特定多数人から反復継続して、信託業務を引き受ける」ことなので、家族の場合なら営業目的はなく、特定人だけなので商事にはならないのです。
商事になる場合には、信託業法の免許が必要になるので、たとえ相談相手が弁護士や司法書士でも、信託業法上の免許がない限り受託者にはなれないので注意してくださいね。
家族信託設計後の贈与
家族信託契約の後、委託者から「信託した金銭から孫に旅行費を贈与してほしい」と頼まれた受託者は、贈与ができるのかな?
信託外の預金からの贈与なら、もちろん問題はないよ。
でも、信託内の金銭を、受託者名義の信託口座から直接に孫に送金することはできないと考えた方が良いです。
この場合、受託者は、受益者の生活費として一度受益者の個人口座に送金して、受益者の判断と名前で孫に贈与してもらう必要があります。
なぜなら、孫の旅行費用への支出は信託の目的に合致しないから、信託財産を減らしたと疑われかねないですからね。
帰属権利者とは
信託が終了した後の信託財産は、誰のものになるの?
それは場合を分けて説明するね。
1.信託契約書に「帰属権利者」が決められていれば、帰属権利者の物になります。
信託法に定められている終了事由が発生場合や、合意解除された場合の信託財産は「残余財産」になるのです。残余財産を取得する人を「帰属権利者」といって、あらかじめ信託契約で決めることができるのです。
2.もしも、信託契約書で「帰属権利者」が決まっていなければ(帰属権利者が死亡している場合・放棄した場合)は、委託者またはその相続人に移転します。
3.さらに、委託者やその相続人がいなければ、残余財産は清算受託者に帰属して、清算受託者の固有財産になるのです。
家族信託は長い時間をかけて利害関係人が存在するので、その間に関係者の気持ちが変わったり、死亡してしまう場合も考えられます。
そういうことも想定して、帰属権利者を決めなくてはなりません。
信託外借入と信託内借入
家族信託の後からアパートローンの借入はできるの?
できるよ。 ただし、金融機関が実際に貸してくれるのか、その場合に誰から連帯保証を要求されるのか等の条件は別の話だけどね。
家族信託の後からの借入方法には2つあります。
1つ目は、「信託外借入」です。これは、信託とは関係なく委託者が借り入れをすることです。
判断能力さえあれば、法律的には借入をする事に問題はありません。
信託外の借入金は、信託財産ではありませんから、それで建てたアパートも信託財産ではありません。追加信託の手続きを取れば、信託財産になります。
2つ目は、「信託内借入」です。これは、信託契約書の中で「受託者の権限として借り入れをすることができる」と記載されている時にだけできる借入です。
受託者は後見人のような代理人ではないので、委託者の名前で借りることはできません。
したがって、契約書で与えられた権限に基づき、受託者が債務者になって信託財産にするために借入をするのです。署名には、「委託者〇〇受託者△△」と肩書を付ける必要があります。
その借入金は当然に信託財産になり、建てたアパートも信託財産であり、アパートの管理による家賃収入も信託財産になります。そして、信託財産から借入金の返済もすることになるのです。
信託内借入をするためには、信託契約書の作成時点から金融機関との打ち合わせが必要になるから、専門家との相談が必要になります。
債務控除とは
信託内借入の借入債務は、債務控除されるのかな?
債務控除というのは、相続が発生した時に、相続財産から残債務分を差し引いて相続税の計算をすることなんだ。
信託受託者の債務は、もともと信託財産の形成のために受託者が借りたものなので、受益者の債務になるのは当たり前です 。
問題は、その債務が相続人に承継されるのか?という点です。
相続税法を第9条の2を見ると、どうやら、受益者連続型信託の場合は債務控除か可能ですが、一代限りの家族信託の場合は、債務控除ができないと考えておいた方が無難みたいです。
そこで、信託内借入を予定する場合には、信託の終了事由から受益者の死亡を除いて、一度第2受益者に連続させてから解除させるという設計を考える必要があると思います。
この話は難しいから、専門家に相談した方が良いね。
みんな、どうかな、この辺で良いかな?
そうだね。タヌ川ちゃんありがとう。
小冊子「親と子供の未来を守る家族信託物語 認知症と「お金」の話」もぜひ読んでみてくださいね。