建設業者が学習アプリ開発!? 「建設業の資格勉強といえば“HAYA-BEN”」を目指して《協榮工業》

協榮工業の有賀真帆さん(右)と同社の協業パートナー・三輪兼義さん(ロゴは協榮工業提供)
建設業者が手がけた施工管理技士の学習アプリが注目を集めています。
開発したのはビル用建具の製造・取り付けや建築工事業を営む協榮工業株式会社(千葉県八街市)。2級建築施工管理技士の試験対策アプリ『HAYA-BEN』を2024年7月に初めてリリースし、2026年2月には新たに1級建築施工管理技士向けの配信も始めました。
このアプリ開発事業、なんと20代の若手社員が1人で担当しているのだそうです。
そもそもなぜ建設業者である協榮工業がアプリ開発に取り組んでいるのでしょうか。同社の高橋啓介社長、開発担当の有賀真帆さん、さらに開発支援を行う社外パートナーの三輪兼義さんにお話を伺いました。
勉強する人が挫折しない、持ち歩ける学習教材
HAYA-BENのコンセプトは、アプリ1つで資格試験の合格を目指せる「持ち歩ける学習教材」。1級・2級建築施工管理技士の試験で出題される内容を教科書(テキスト教材)や動画コンテンツで学習できるほか、○×問題や実際の出題形式に沿った4択問題、過去問に挑戦することもできます。
「建設現場で働いている方は、忙しくて勉強する時間が取れなかったり、そもそも勉強が嫌いという方もいらっしゃったり、いろんな悩みがあると思います。そういう方たちが勉強を続けられる“挫折しない設計”を心がけてこのアプリを開発しました」
そう話すのは、協榮工業開発部の有賀真帆さん。同社で唯一のアプリ開発担当者です。

『HAYA-BEN』の実際の画面。左から、学習状況がわかる「ダッシュボード」、「ショート動画教材」、試験の出題形式に沿った「4択問題」(協榮工業提供)
教科書や動画コンテンツは、有識者の監修のもとイチからオリジナルで作成。1~3分程度の短い動画教材で要点をつかんでからテキスト学習に入れる効率的な構成で、学習のハードルを下げられるよう工夫しています。テキスト教材にもイラストや図解を豊富に取り入れることで、視覚的に理解しやすいコンテンツに仕上げました。
「いまはTikTokなどのショート動画コンテンツが流行っていて、『空いた時間があればとりあえずちょっとだけ見る』という人も多いですよね。HAYA-BENの動画教材もそういう感覚で『動画1本だけでも見ようかな』とか、勉強の入りとして使っていただきたいなと思っています」(有賀さん)
スマホ1台あれば通勤時間やスキマ時間でも手軽に勉強することができ、無理なく試験対策を進められるのがHAYA-BENの特長です。
アプリ開発のきっかけは建設業の人手不足
協榮工業がHAYA-BENの開発を始めたのは2023年。以前からアプリ開発事業を構想していた高橋啓介社長にとっては、念願の本格スタートでした。
「なぜこの事業を始めたかというと、もともとは建設業の人手不足。それを補うためのアプリを何かつくりたいと思ったのがきっかけです」(高橋社長)
現場作業を依頼する外注の職人がなかなか集まらず苦労することが多かったため、当初はそれを解消するツールとして求人アプリの開発を考えていたそうですが、すでに類似サービスが複数あったことなどから断念。
同社が主力事業とするサッシの取付工事、すなわち建具工事業の許可要件として2級建築施工管理技士(仕上げ)の資格が必要であることに着目し、「施工管理技士の学習アプリをつくればうちの社員の勉強にも使えるし、(一般販売すれば)商売にもなる」(高橋社長)と方針を切り替えて事業化することとしました。
その後、同事業の専任担当者として有賀さんが2022年に入社。有賀さん自身、システム関連やアプリ開発は未経験の分野でしたが、「ゼロから何かを立ち上げる仕事に挑戦してみたい」と考えていたところ、知人の紹介でこの事業のことを聞き、高橋社長と話しをする中で「ぜひやってみたい」と感じて入社したといいます。

「最初は本当に『一般的なパソコンの操作はできますよ』くらいの程度だったので、まず簡単なプログラミングの勉強から始めて…」と当時を振り返る有賀さん。会社としてもアプリ開発のノウハウを持っているわけではなく、外部の協業パートナーを探すところから始めるという、まさに文字通り“ゼロからのスタート”でした。
ユーザー目線の開発で「このアプリで合格できた」という声も

2026年2月にリリースした『HAYA-BEN』の1級建築施工管理技士版では「忘却曲線アルゴリズム」という概念を採用。学習状況に基づき、各ユーザーに最適な問題を自動で判別して出題してくれる機能を搭載した(協榮工業提供)
同事業の協業パートナーとして企画立案の段階から参画している三輪兼義さんは、これまで数々のアプリ開発などに携わってきたプロフェッショナルです。HAYA-BENの開発においても、全体の設計からシステム開発、マーケティングも含めて、協榮工業のアプリ開発事業を強力にサポートしています。
「このアプリを利用する一番の目的は“試験に合格すること”なので、『試験問題に回答できるようになる』というところを意識してつくっています。特に、新しくリリースした1級向けのほうは、2級よりもさらに詳細に覚えなければいけないことが多く、『本当に大事なポイントを理解して覚えるためには、どうかみ砕いて伝えたらいいか』を考えながら、丁寧につくりました」(三輪さん)
現場の人たちにとっては、試験に合格すれば活躍の場を広げることができる。だからこそ、学習しやすい教材を提供することが、ひいては業界全体の生産性向上にもつながっていく―。
そうした思いで有賀さん・三輪さんを中心に、社内の有資格者にもレビューをもらいながら試行錯誤を重ね、ついに2024年7月、2級建築施工管理技士向け学習アプリ『HAYA-BEN』をリリース。2026年2月には1級向けの配信も始めました。
徹底的にユーザー目線にこだわってつくりあげた同アプリは徐々に評判を呼び、ダウンロード数は右肩上がりに増加、ユーザーからも「このアプリだけで合格できた」「仕事のスキマ時間に勉強ができるからすごく便利」といった声が多く寄せられているといいます。

「リリースしたばかりのころは知名度がほぼゼロだったので、ほかの企業の方に紹介してもあまり興味を持っていただけないことも多くありました。でも最近は『このアプリ知ってる』『使ってる』と言ってくださる方が増えてきたんです。本当にゼロからスタートした中で、いまこうやって知名度が上がってきて、うれしい言葉もいただくと『本当にこのアプリをつくって良かったな』と思います」(有賀さん)
サッシとアプリの“2本柱”で会社を支える

(協榮工業提供)
協榮工業は窓用サッシの製造業者として1957年に創業。その後、1979年に建具工事業を取得してサッシの取付工事も手がけるようになり、2012年には建築工事業も取得、事業規模を拡大してきました。
現在の高橋社長は4代目で、2013年にプロパー社員として初めて会社を承継しましたが、実際にはそれよりさらに10年ほど前から、経営の中心的存在として会社運営を任されてきたといいます。
高橋社長が経営に携わるようになってから約20年。その間、約15億円だった年商は、いまでは60億円に迫る規模まで成長しています。
その秘訣を高橋社長に伺うと、「基本的には楽しくやろうと思っているので。だからあんまり社内がギスギスしないように緩和するのが私の役割。あとは、ちゃんと10年、20年先を見据えて人や事業に投資して、その意図を若い社員たちにしっかり説明する、ということをやってきたつもりです」。
アプリ事業への投資もその一環。高橋社長は「これが成功すれば、主力事業のサッシのほうが多少うまくいかない時期があっても支えられるようになるから、サッシとアプリの“2本柱”でやっていけると会社としていい形になっていくんじゃないかな」と展望を語ります。
社会に欠かせない建設業に“学習体験の提供”という形で貢献
長年、協榮工業を背負ってきた高橋社長に「建設業の魅力は?」と尋ねると、次のような回答をいただきました。
「ものをつくって完成したときの喜びですかね。自分たちが携わった仕事を『このサッシはお父さんが付けたんだよ!』って家族にも自慢できると思うし。それから、マンション改修なんかをやると、住人の方にすごく喜ばれる。こっちがお金をいただく側なのに、皆さんから『ありがとうございます』って。リフォームは住んでいる人の気持ちを明るくするんだなと感じて、そういうのはやっぱりうれしいですよね」(高橋社長)
一方、アプリ開発の専任担当という立場で協榮工業に入社した有賀さんにとって、建設業という仕事はどのように映っているのでしょうか。

「失礼ではあるんですが、この会社に入る前は正直、建設業に対してマイナスなイメージも持っていました。でも、自分がこの仕事に携わって、こうやって資格もたくさん取らないといけないし、寸法をミリ単位でも間違えたらダメだとか、いろんなことを知っていったときに、すごく“リスペクト”に変わったんです。建設業がないと建物もない、電気もつかない、私たちは生きていけないんだなって」(有賀さん)
有賀さんはいま、そんな建設業界に身を置く一人として、現場で働く人たちが“理解して使える知識”を身に付けられる学習体験を提供し、人材育成をサポートする、という大きな役割を担っています。
2級建築施工管理技士向け教材から始まり、このほど1級向けもリリースして対象範囲を拡大したHAYA-BENですが、ゆくゆくはシリーズ展開して、施工管理技士の全業種の学習に対応していくことが目標だと有賀さんは話します。
「勉強が嫌いだったり、会社の指示で資格を取らないといけなかったり、そういう方がHAYA-BENを通して少しでも楽しく勉強していただけるようになったらうれしいです。次にどんなアプリを開発するか明確には決めていませんが、いつか『建設業の資格勉強といえばHAYA-BENだよね』と言われる日が来たらいいなと思って頑張っています」(有賀さん)
施工管理技士学習アプリ「HAYA-BEN」について詳しくはこちら。
取材協力:協榮工業株式会社
(建設データ編集部)
