なぜ、マンホールの蓋は丸い?合理的な3つの理由を徹底解説
【この記事を執筆したのは…】
佐藤拓真さん
元準大手ゼネコン勤務|土木の現場監督7年|ブロガー兼Webライター|SNS総フォロワー2.3万名|出版書籍「仕組み図解 土木工事が一番わかる」
街を歩いていると足元に必ず見かける「マンホール(人孔)の蓋」。
よく観察してみると、そのほとんどが丸い形をしています。では、なぜ四角や三角ではなく「丸」なのでしょうか。
実はその形には、安全性や構造的な合理性といった、“建設ならでは”の知恵が隠されています。
そこで本記事では、マンホールの蓋が丸い理由と、加えて理解を深めるためにマンホールの概要や種類についても紹介します。
マンホールとは?

マンホールは英語の「人(man=マン)」と「穴(hole=ホール)」を組み合わせた言葉です。
地下に張り巡らされた下水道・電気・通信・ガスといったライフラインの点検や補修を行うために、人が地下空間へ出入りできるよう設けられた穴のことを指します。
まず、ここではマンホールの「構造」と「規格」について解説します。
下水道マンホールの構造

マンホールは、いくつかの部品でできています。
上から順に見ると、蓋(ふた)、それを支える受け枠、高さを調整する調整部、斜めにした斜壁(しゃへき)、まっすぐな直壁(ちょくへき)、そして一番下の底部(ていぶ)などがあります。
これらの部品が1つにまとまって「マンホール本体」です。
下水道マンホールの規格
下水道マンホールには、“マンホール本体(人孔)”と“マンホールの蓋”の2つの規格があり、それぞれ別の団体(JSWASとJIS)によって規格が定められています。
規格①本体(人孔のサイズ)
下水道用のマンホール本体は、日本下水道協会規格(JSWAS A-10/A-11)で定義されています。
号数によって直壁部分の内径が決まり、現場では「○号人孔」と呼ばれます。
| 号数 | 内径(mm) | 主な用途 |
| 0号 | 750 | 小規模施設・支管部 |
| 1号 | 900 | 一般的な下水道人孔 |
| 2号 | 1200 | 幹線部など大型管用 |
| 3号 | 1500 | ポンプ場・分岐部など |
| 4号 | 1800 | 大型施設用 |
| 5号 | 2200 | 特殊人孔・大規模施設 |
JSWAS規格では、プレキャスト(工場製)部材として構造・寸法・継手形状なども定められています。
規格②マンホールの蓋
蓋の規格は、日本産業規格「JIS A 5506 下水道用マンホール蓋」で定められています。
ポイントは「サイズ」「強度」「形状」の3つです。
【サイズ(呼称寸法)】
マンホール蓋の標準的なサイズは枠内径600mmであり、「JIS A 5506」もこの600mmマンホールに関する規定を定めています。
※実際の現場ではこれ以外にも、大口径の900mmや小型の450mmといったサイズも使用されています。
【強度(耐荷重区分)】
道路上では、通行車両などの荷重に応じた強度が必要です。「JIS A 5506」によると、荷重区分“T-値”として以下のような記載があります。
| 区分 | 主な想定用途/設置場所 | 備考 |
| T-25 | 道路一般(車道) | 試験荷重:荷重たわみ210kN、耐荷重700kN |
| T-14 | 歩道または大型車の通行の少ない道路 | 試験荷重:荷重たわみ120kN、耐荷重400kN |
マンホールの蓋の表面には、滑り止め模様(格子・波・市章入り)などを施しますが、近年では観光用のデザインマンホールも増加しています。
なぜ、マンホールの蓋が丸いのか?

マンホールの蓋は、なぜ四角や三角ではなく「丸い形」が多いのでしょうか。
そこには、建設の現場から生まれた合理的な理由があります。代表的なものを3つ紹介します。
マンホールの蓋が丸い理由①穴に落ちないから
マンホールの蓋が丸い最大の理由は、どの方向に置いても穴に落ちないことです。
円形の蓋は全方向で直径が同じため、開口部より小さくなることがありません。一方、四角形や三角形の蓋は、斜めにしたときに対角線が短くなるため、わずかな角度で「ストン」と中に落ちてしまう危険があります。
実際には、蓋を開けても落下しないような構造になっています。

マンホールの蓋が丸い理由②強度が均一で壊れにくい
道路上のマンホールは、常に大きな荷重を受けています。
例えば、車道部では一般的に「T-25規格(約25トン相当)」の耐荷重が求められます。
円形は構造的に力が均等に分散されるため、どの方向から力が加わっても変形しにくく、ひび割れが起こりにくいという特長があります。これはドーム型屋根やアーチ橋と同じ「円は力を逃がす形」という原理に基づいています。
一方、四角形の蓋は角の部分に応力(力の集中)が起きやすく、角から割れるリスクがあります。
マンホールの蓋が丸い理由③移動や設置が容易
マンホール蓋は鋳鉄製で、数十kgから100kg近い重さのものもあります。円形であれば、転がして運ぶことができ、作業効率が高まります。
また、四角い蓋だと方向を合わせる必要がありますが、丸い蓋はどの向きでもぴったりと収まるため、設置作業もスムーズです。
観光資源として活用されるマンホールの事例

近年、全国各地で注目を集めているのが、地域の特色を活かした「デザインマンホール蓋」です。
これらは従来の単調な鉄蓋とは異なり、市町村のシンボルや観光名所、アニメキャラクターなどをデザインに取り入れたもの。
下水道の普及啓発とともに、地域の魅力発信や観光振興のツールとして活用されています。
ご当地デザインの広がり
デザインマンホール蓋は、もともと下水道事業のイメージアップや自治体のPR目的で1970代に始まり、1980年代にかけて全国に広まったとされています。
「自分たちの街をもっと身近に感じてもらいたい」という思いから、市章・名所・特産品などを蓋の表面に描く取り組みが始まり、現在では多くの自治体に広がっています。
例えば、
【熊本県益城町】
2016年の熊本地震で大きな被害を受けた益城町では、復旧・復興を祈念し町の元気を発信する象徴としてデザインマンホールの導入が検討され、そのデザイン選定にあたり町内の復興会議による一次選考と小中学生の投票を経て、最終的に“くまモン”が採用されました。
【神奈川県横浜市】
世界的に人気なポケモンのキャラクター“ピカチュウ”をモチーフにしたデザイン。ポケモンのキャラクターをモチーフにした「ポケふた」と呼ばれる蓋は全国各地に設置されています。

筆者撮影
「ポケふた」を設置する目的としては、地域の魅力発信・観光振興・インフラの認知向上が挙げられています。
また、位置情報ゲーム「Pokémon GO」との連動もあり、スタンプラリー的な楽しみ方を通じて、散策や観光の動機づけになっています。
インフラ設備であるマンホール蓋を「キャラクター×地域×観光」という視点で利活用している好例といえるでしょう。
マンホールカードと観光効果
デザインマンホール蓋の普及を後押ししたのが、各自治体や配布拠点(観光案内所・下水処理場など)と下水道広報プラットホーム(GKP)が共同で発行する「マンホールカード」です。
カードには、各自治体のデザイン蓋の写真・解説・位置情報が記載されており、全国で累計1000種以上が配布されています。
このカードをコレクションする文化として、「マンホールを巡る旅=マンホール愛好家の観光」を生み出しました。
今では観光地の案内板に「デザインマンホール設置場所マップ」が掲示されているところもあり、地方創生の一環としても注目されています。
【まとめ】マンホールの蓋が丸い理由
【マンホールの蓋が丸い理由】
- 穴に落ちないから
- 強度が均一で壊れにくいから
- 移動や設置が容易だから
普段、街を歩いている中で、あまり気にすることがないマンホールの蓋ですが、様々な工夫を加えて私たちの生活を支えています。
たまには足元に視線を移してみてはいかがでしょうか?退屈な日常が少しだけ面白くなりますよ。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
著者:佐藤拓真
著者:佐藤拓真

