建設トピックス

「再開発」っていうけれど、具体的になに?定義や種類は?|一級建築士による建設アラカルト

【Written by 独学一級建築士 nandskさん】

「駅の近くで再開発が行われている」「この辺は再開発されてきれいになった」「都心ではいま再開発が盛ん」

こんなことを耳にすることがあるかもしれませんが、そもそも再開発とは具体的にどのようなものでしょうか?

まちづくりに関わる仕事をしていた私からすると、一言で再開発といってもいろいろな種類・手法があって、とてもひとくくりにできるものではありません。今回はそんな再開発について、ざっくりと、なるべく簡単に説明してみたいと思います。

再開発に明確な定義はない

冒頭で述べたとおり、「再開発」という言葉は近年よく聞かれるようになり、メディアでも使われることが多くなりました。私自身、日常生活で再開発という言葉を使うこともあります。

ここでいう再開発とは“古かったまちがきれいになった”という意味かと思いますが、実はけっこう感覚的なもの。

例えば、市街地ではなかった山や森を切り開いて造成し、大規模な市街地をつくった場合は「開発された」と言い、『再』という文字は付けないですよね。また、駅前の古かったビルが1棟、建て替えられた場合はどうでしょうか。「ビルがきれいになった」「建て替えられた」とは言うかもしれませんが、「再開発」とは言わないでしょう。隣り合ったビルが2棟同時に建て替えられたとしても「再開発」とは言わなそうです。

規模の大きな、例えば東京・お台場のヴィーナスフォートが閉館し、3万㎡の跡地にイマーシブ・フォート東京という体験型アトラクション施設ができましたが、これは再開発と言えるでしょうか。

実は「再開発」という言葉には明確な定義がなく、更新が著しい都市部では、何が再開発で、何が再開発ではないのか、けっこう曖昧なんです。

あくまでも私の感覚ですが、老朽化や低未利用などの課題を抱える土地・建物を複数単位でまとめて複合化したり、街区変更を行ったりするような事業を「再開発」と呼んでいる気がします。そして、再開発には必ず“いままでになかった付加価値”があるのも条件だと思います。

「再開発」とはどのようなときに言うのか、みなさんも考えてみてください。

様々な手法で行われる再開発や市街地開発

再開発に明確な定義はありませんが、「開発」や「再開発」という言葉が使われている法令はいくつかあります。

新住宅市街地開発法

新住宅市街地開発法は「新住宅市街地開発事業」について定めるもので、戦後の住宅難の時代に合わせてつくられました。都市計画事業により土地を買収し、人口集中の激しい市街地の周辺地域に住宅市街地を開発するための法律です。

実は、戦後の日本は住宅不足が課題で、国を中心に公営住宅や公団住宅などが住宅供給の主体的な役割を担いながら、1世帯1住宅を達成したのは1973年(昭和48年)と、意外と最近のことなんです。

その後の住宅政策は量から質へと方針を転換していきますが、新住宅市街地開発法が制定されたのは1963年(昭和38年)で、まだまだ住宅を増やさないといけない時期。この法律によってできたのが、有名な多摩ニュータウン(東京都)をはじめとする全国各地の団地です。

都市再開発法

都市再開発法という法律もあります。こちらは新住宅市街地開発法よりも少し新しい1969年(昭和44年)にできた法律で、老朽化した建物が多い市街地を高度利用して整備することを目的としています。

当時は高度経済成長の真っただ中、人口増加に伴って都市部に人や物が集中し、過密化による劣悪な環境が問題となっていました。こういった課題を解決するため、工場等の分散や、都心機能を移転した副都心の整備などを行うとともに、都市部では土地の有効利用をしていこうとつくられた法律です。

よく耳にする「市街地再開発事業」もこの都市再開発法で定められており、従来の区画整理(土地の持分を減らしながら換地することでまちづくりを行う手法)では交渉が難しかった密集市街地での再開発がやりやすくなりました。

新住宅市街地開発法が“郊外に市街地を広げていきましょう”というのに対し、都市再開発法は“駅前などの都市部を再整備しよう”という法律で、それぞれ「開発」「再開発」と言葉を使い分けていますね。

再開発等促進区

建築基準法にも第68条の3に「再開発等促進区」という言葉が出てきます。

こちらは、都市計画法に基づく地区計画の1つで、土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の増進を図るため、市街地の再開発または開発整備を実施すべき区域として「再開発等促進区」を定め、地区内の整備や制限の緩和を行って、良好な事業を進めるための制度です。

その他、多様な制度

他にも「再開発」を行うための制度は、土地区画整理事業、特定街区、高度利用地区、都市再生特別措置法、都市再生特別地区、都市再生緊急整備地域、国際競争拠点都市整備事業、総合設計制度など、様々な種類があります。

それぞれの制度により目的や特徴、できることが異なっていて、とても奥が深いのです。

再開発の事例

ここからは再開発の事例を見ていきましょう。

六本木ヒルズ(東京都)

まず紹介したいのは東京都港区の六本木ヒルズ。実は、六本木ヒルズがある場所はもともと木造住宅密集地域となっていて、緊急車両が入れないなど火災等のリスクが高いエリアでした。

地権者も多く、課題解決は難しいと思われていましたが、権利者の1人であった森ビルとテレビ朝日が中心となり大規模な再開発事業を立案。前述の「再開発等促進区」を定め、権利者約500名に及ぶ大規模な再開発を行いました。

小規模な建物が密集していたエリアは建物を集約、高度化し、余った空間を緑地やアートがある広場状に整備してゆとりある空間に。細街路が迷路のように広がる道路網は、南北軸と東西軸(けやき坂通り)を整備し、狭かった道路が壁面後退部分を含め幅員24mの街路空間に生まれ変わりました。

従前の権利者は森タワーや六本木ヒルズレジデンスなどの高度化されたビルに権利を移行することで、再開発の合意形成をしています。高度化するにあたって、前述した空地や道路の整備、メトロハットと呼ばれる地下鉄出入口の設置、森タワーを中心とした災害時の防災拠点機能の拡充など、公共貢献を行っています。

再開発事業の事例はたくさんありますが、六本木ヒルズは都心部で数多くの権利者が存在する中、従前の課題をきれいに解消した事例としても有名です。

大阪駅周辺エリア(大阪市)

次は関西から大阪駅を中心としたエリアの事例です。

こちらは都市再生特別措置法を活用し、大阪駅から南北に広がる区域で計17地区が「都市再生特別地区」の指定を受け、それぞれ再開発を行いました。面積は合計38.1haにも渡り、先ほどの六本木ヒルズよりもかなり広範囲に及びます。

その中で最も古いのは、2003年のそごう建て替え時に指定された心斎橋筋一丁目地区で、ミナミの核となる老舗百貨店を再生させ、商業の活性化や文化施設の導入を行いました。

その後、それぞれの地区で再開発が続きます。駅の北口では、富国生命ビルの建て替えに合わせて立命館大学のサテライトキャンパスを導入するなど、学術機能やイノベーション機能を創出。駅の南北動線も充実させ、回遊性の向上を図りました。

南口の梅田一丁目地区では、大阪神ビルと新阪急ビルの建て替えに合わせ、ビジネスの情報発信の場や人材育成の場となるカンファレンスゾーンを整備。難波五丁目地区では国際的MICE拠点としてカンファレンスやホール機能を持った「なんばスカイオ」を整備しました。そして、少し離れてはいますが、阿倍野筋一丁目地区にはランドマークとして周辺の公園や歴史施設とも調和し、住宅地に近接する特性を生かした都市型施設「あべのハルカス」がオープンしています。

これらはすべて都市再生特別地区に指定し再開発を行ったもの。いまも区域内では様々な工事が進められていますが、このように都市全体で行われる大規模な再開発もあるんですね。

まとめ

成熟した日本の都市ではちょうどいま、再開発が行われていることが多く、みなさんの身近なまちで進められている事業もきっとあるのではないでしょうか。現在のまちの課題を解決する再開発。ぜひ注目してみてください。

著者:独学一級建築士 nandsk

独学により一級建築士に合格。住宅やアパートの設計・工事監理、特殊建築物の維持管理、公共施設の工事設計・監督の経験あり。二級、一級建築士試験受験者へのアドバイスも行っている。『建築の楽しさを多くの人に知ってもらいたい』と話す。

関連するBLOG

TOP