「みなと緑地PPP」普及へ国交省が港湾エリアの可能性を考える意見交換会開催【レポート】

建設トピックス

「みなと緑地PPPは“ブルーオーシャン”。まだまだ可能性を秘めている」

2024年12月26日、東京都内で開かれた国土交通省主催の『港湾緑地の使い方をみんなで考える意見交換会』。開催に協力した寺田倉庫株式会社(東京都品川区)の閑野高広氏は、港湾環境整備計画制度、通称・みなと緑地PPPについてこのように表現しました。

みなと緑地PPPは、官民の連携により港湾エリアににぎわい空間を創出する手法の1つで、2022年12月に港湾法を改正して創設された比較的新しい制度です。この制度の普及と理解促進を図るため、国土交通省は2023年から港湾管理者など行政職員や民間事業者らが集まる意見交換会を開催しています。


2024年12月に開かれた意見交換会の様子

港湾環境整備計画制度(みなと緑地PPP)とは?

制度の概要


国土交通省ポータルサイトより

「港湾環境整備計画制度(通称・みなと緑地PPP)」とは、行政財産である港湾緑地を最長約30年、民間事業者に貸し付け、事業者はそこでカフェやレストランなどの収益施設を整備・運営。その収益の一部を還元し、休憩所・案内施設・植栽といった施設整備や緑地の維持管理など、公共部分の整備・管理費として活用するというものです。

地方自治体をはじめとする港湾管理者の財政難などから、港湾における緑地や施設の老朽化・陳腐化に十分な対応が行われていないといった状況があり、民間活力の導入によってそうした課題の解消を図るため創設されました。

メリットと特徴


意見交換会であいさつする国交省港湾局・林雄介室長

この制度を活用することで、港湾管理者にとっては緑地管理における財政負担の軽減につながるほか、緑地のサービスレベル向上も期待でき、港湾の利用者にもサービスの充実、利便性・快適性・安全性が高まるなどの利点が想定されます。

また民間事業者には、

  • 港湾緑地内で収益施設を長期間安定的に設置できる
  • 公共部分と収益施設を一体的に整備した質の高い空間形成により、さらなる収益の向上が見込める

といったメリットがあります。

現在、同制度を活用した全国初の事業が神戸港で、そして2例目となる事業が大阪港でそれぞれ進められているほか、導入に向けて事業者の選定やサウンディング調査などを行っている事例も複数あり、注目度が高まりつつあります。

みなと緑地PPPは都市公園におけるPark-PFI(※)と似た制度ですが、両制度には下図のような違いがあり、国交省港湾局産業港湾課の林雄介室長はみなと緑地PPPの特徴として「先例として学ばせていただいたPark-PFI制度に比べて自由度が高く、さまざまな取り組みができる」と話します。


国土交通省ポータルサイトより

※Park-PFI(公募設置管理制度):都市公園において民間事業者が収益施設を運営し、その収益の一部を広場など公共部分の公園施設整備に還元する制度

寺田倉庫のまちづくりを参考に水辺の利活用を考える

このみなと緑地PPPの活用に向け、港湾緑地が持つ多様な可能性を探り、みなとのにぎわい創出に取り組むきっかけをつくるため国交省が2023年から開催しているのが『港湾緑地の使い方をみんなで考える意見交換会』です。

その第5回が2024年12月26日、東京都品川区・天王洲で寺田倉庫による協力のもと開催されました。寺田倉庫は以前から同所で水辺を生かしたまちづくりに取り組んでおり、そうした事例や知見をみなと緑地PPPの取り組みの参考にしようと、当日はまず、同社がこれまでに整備してきた天王洲運河周辺地区の現地視察を実施。その後の意見交換会では、同社支援のスタートアップ企業から港湾緑地の活用アイデアに関する提案などが行われました。

寺田倉庫は1950年創業の倉庫会社ですが、倉庫をコンバージョンし、天王洲運河沿いでレストランや店舗、スタジオ、オフィス、イベントスペースなどを次々オープン。それらを活用したアートイベントを催すなど、まちのにぎわいづくりに尽力してきました。

こちらは1997年に倉庫をリニューアルして開業したブルワリーレストラン「T.Y.HARBOR」。手前の運河に張り出した部分はレストラン船で、東京都から水域占用許可を受けて係留しています。

 

近くには船上イベントスペース(左)や宿泊もできる多目的船(右)もあり、いずれも同じく水域占用許可を得て運河に浮かべています。ちなみに、船上イベントスペース「T-LOTUS M」は建築家の隈研吾氏によるデザイン監修とのこと。

このボードウォークの部分は「天王洲アイル第3水辺広場」という品川区の児童公園なのですが…

写真の赤線のあたりを境界に、右側が寺田倉庫の敷地(民有地)、左側が公有地となっており、公有地部分も含め、地区計画に基づいて寺田倉庫が自費で一帯を整備し、行政に寄付したものだそうです。維持管理は同社が行っているといいます。

公有地側は東京都港湾局が管理する護岸で、都による耐震護岸工事に合わせ、寺田倉庫が都との協議を経て護岸の上にボードウォークを設置。民有地側と高さをそろえ、公共空間と民間空間を一体的に活用できるよう整備しました。これにより陸域と水域の連続性を演出し、より魅力的な空間の創出につながっています。

なお、ボードウォークの下は空洞で防災備蓄機能として活用できるようになっていて、公共性にも寄与しています。

これらの事例をはじめ、倉庫という既存ストックを起点に周辺エリアを再開発し、イベント誘致などソフト面の施策も強化することで、まちの活性化に取り組んできた寺田倉庫ですが、近年はさらに、天王洲をビジネスイノベーションの拠点にする事業にも着手。2024年10月には倉庫をリノベーションして「Creation Camp TENNOZ」というインキュベーション施設を開設し、スタートアップ企業の支援を始めました。


スタートアップ企業各社の提案を聞く参加者ら

現地視察に続いて行われた意見交換会では、同施設に入居するスタートアップ企業がさまざまな港湾緑地の活用案をプレゼン。「モータースポーツや車のテーマパークをつくる」「ごみを資源としてアップサイクルする小型プラントを設置する」などユニークなアイデアがあがりました。

考え方次第でイノベーションを起こせる港湾緑地の可能性

「水辺というのはオリジナリティに富んだ場所であり、地域社会の課題解決に資する“余白地”。それがあるからこそイノベーションが起こる余地が生まれ、考え方、やり方次第で魅力あるものにできる」(寺田倉庫・閑野高広氏)

意見交換会で港湾緑地の可能性についてそう話した閑野氏は、続けて「これがみなと緑地PPPの神髄ではないかと思います」と表現。さらに、創設から2年の同制度に“ブルーオーシャン”と期待して、次のように語りました。

「レストランの『T.Y.HARBOR』はいま、毎日たくさんの人で席が埋まっていますが、改装前はこんなに人が集まるようになるなんて思ってもいなかったでしょう。考え方、やり方次第でこのような場所にできる、空間的なイノベーションを起こした例と言えるのではないでしょうか。ぜひ皆さまのみなと緑地PPPの取り組みでもこのような光景を生み出していただき、ともに水辺を盛り上げていきましょう」(閑野氏)

港湾緑地を核に地域を育てる「みなとまちづくり」を

【国交省港湾局産業港湾課・土田真也専門官の話】

みなと緑地PPPを活用するうえでは、港湾管理者が地域の課題やニーズを把握し、港湾緑地を“どういう場所”にして“どう活用”していきたいのか、というビジョンを明確にすることが大事なポイントです。また既存の緑地ユーザーにとっては、同制度を活用した整備により、これまでと同様の利用ができなくなる恐れもあるので、地元関係者や利用者との合意形成が必要と考えます。

港湾緑地の利活用は、魅力あふれる地域をつくっていくための新たな分野だと思っています。

施設整備を行う建設業者、運営やサービスの提供事業者など、そこに参画する人たちがチームをつくり、港湾緑地を核ににぎわい空間を創出して、地域を育てていただける。そんな「みなとまちづくり」を民間事業者の皆さんに担っていただけることを願っています。

(建設データ編集部)

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