土木施工管理技士講座 第9回「第一次検定 工学の基礎」
Webライターの佐藤拓真です。
令和6年度の土木施工管理技術検定が終了し、結果に一喜一憂されている方も、来年度に向けて既に学習を開始されている方もいらっしゃるかと思います。
来年度の試験に向けて、今回から4回にわたり土木施工管理技士の技術検定受検に役立つ基礎知識をお伝えします。
初回となる今回は、令和6年度から新たに追加された「工学の基礎」について、1級で出題された問題を中心に解説していきます。
令和6年度より必須問題として5問出題されるようになったこの分野、しっかりと理解を深め合格を目指しましょう。
なお、令和6年度第二次検定については、過去の記事(第7回、第8回)で詳しく解説しています。第二次検定のみ受検予定の方は、そちらも併せてご確認ください。
元準大手ゼネコン勤務|土木の現場監督7年|ブロガー兼Webライター|SNS総フォロワー2.3万名|出版書籍「仕組み図解 土木工事が一番わかる」
「工学の基礎」が出題されることになった経緯
まず、工学の基礎がなぜ必須問題(5問)として出題されるようになったのか、その背景を説明します。既にご存じの方は読み飛ばしてください。
結論から言うと、令和6年度の受検資格緩和に伴い、試験内容が見直されたことが理由です。
従来の学歴・職歴重視から、試験内容によって土木施工管理技士としての能力を評価する形式へと変更されました。
令和6年度とそれ以前における受検資格や試験の方針について、その違いを見ていきます。
令和5年度以前の試験
令和5年度以前の受検資格は以下のとおりです。
令和5年度以前は、土木工学の学習経験や土木工事の実務経験が受検資格として問われていました。つまり、受検前の段階で一定の知識・経験を持たない人をふるいにかけていたのです。
しかし、令和6年度以降は次のように変わっています。
令和6年度以降の試験
令和6年度に受検資格が緩和され、学歴規定がなくなったほか、求められる実務経験の規定も変わりました。
これに伴い、土木工学の基礎問題が追加されています。
つまり、「受検資格を緩和する代わりに、試験内容で能力を評価する」という方針への転換です。
先日、令和7年度の試験日程などが発表されました。受検の手引きは2月下旬公表とのことですが、受検資格は令和6年度と同じ内容になるようです。
試験内容についても、今後も同じ形式での出題が続くと予想されます。
令和6年度第一次検定(1級)における必須問題の解説
以上の背景を踏まえ、令和6年度の試験問題を解説していきます。
必須問題 1問目
1問目は土質力学の問題で、土の3層構造でした。
☆問題
【出典】令和6年度1級土木施工管理技術検定 第一次検定 試験問題A
☆解答 [ 4 ]
【湿潤密度】
土は、土粒子(固体)、水(液体) および空気(気体)で構成されています。
土の乾燥密度(ρd)は、土の体積(V)に対する土粒子の重さ(Ms)の割合になるので、
ρd=Ms/V となります。
一方、湿潤密度(ρt)は、土の体積(V)に対する土粒子の重さ(Ms)と水の重さ(Mw)の割合で表します。
ρt=(Mw+Ms)/V となり、
ρt=M/V となります。
【飽和度】
飽和度(Sr)は、土の空隙(Vv)の何%が水(Vw)で占められているのかを示すものです。
Sr=Vw/Vv×100(%)
つまり、土粒子(固体)以外の水と空気の部分に、どれだけ水が満たされているのかを表します。
空隙がすべて水で満たされた[Sr=100%]の土は飽和土といいます。
土の中に含まれる気体の有無によって、土の特性に与える影響が大きいため、土質力学において重要な指標です。
例えば、土の内部に空隙が多い状態は、土粒子が互いに緩く結合しているということを意味します。このような状態では、土は外部からの圧力に対して容易に変形する「圧縮性」が高く、土がずれ動こうとする力(せん断力)に抵抗する「せん断強度」が低いという特徴があります。
正直、土の3要素については知っているか知らないかです。言葉の意味を理解すれば、どのような式で表すのか理解できます。
令和7年度以降にはどんな問題が出題されるかわかりませんが、おそらく土の3要素については別の項目(間隙比、間隙率など)が出題される可能性が高いです。
土質力学の基礎なので、しっかりと理解して得点につなげていきましょう。
必須問題 2問目
2問目は土質力学の問題で、土の粒径加積曲線と三角座標に関する問題でした。
☆問題
【出典】令和6年度1級土木施工管理技術検定 第一次検定 試験問題A
☆解答 [ 2 ]
【粒径加積曲線】
粒径加積曲線とは簡単に言うと、どんな粒径の土粒子が、どんな割合で混じっているかを視覚的に表したグラフです。
土粒子の粒径を横軸に対数目盛で表示し、縦軸には、ある粒径より細かい粒子の含有割合を土粒子全体の質量割合に対する百分率で表示しています。
ある土の粒径加積曲線を見ると、その曲線から対象の土に含まれる粒子の大きさにおける相互関係を知ることができます。
例えば、
- 曲線が左に寄っている→細かい粒子が多い土
- 曲線が右に寄っている→粒径の大きい粒子が多い土
- 曲線の傾きが立っている→ある大きさの粒子がそろった土
- 曲線の傾きが寝ている(水平に幅広い)→さまざまな粒径の粒子が混じっている土
といったことが理解できます。
今回の問題では、砂の割合はA、Bどちらの曲線が多いのかを問われています。
砂は粒径[75μm(0.075mm)~2mm]なので、A、Bの曲線から読み取ると、
75μm | 2mm | 差 | |
A | 0% | 100% | 100% |
B | 10% | 57% | 47% |
となるので、Aの土質の粒径加積曲線はBの土質の粒径加積曲線より、砂分の割合は「多い」となります。
【三角座標による粗粒子の分類】
土の力学特性は、粒度分布や締固め度、含水比などで変化するため、土質をしっかり見極めることが重要です。
土質は細粒分・砂分・礫分の含有割合によって分類し、名称を決めることができます。三角座標はその際に用いるものです
例えば、[粒度分布:細粒分 55%、砂分 20%、礫分 25%]
この場合、以下の図のように示します。
つちとき:『土木・建築の工事現場で使う用語集【初心者向け】』より
この例を踏まえて、試験問題の図から細粒分・砂分・礫分の割合を読み解くと、以下の表のとおりとなります。
細粒分(~0.075μm) | 砂分(0.075μm~2mm) | 礫分(2~75mm) | |
Ⅰ | 20% | 10% | 70% |
Ⅱ | 55% | 30% | 15% |
そのため、Ⅰの土質は細粒分が20%、Ⅱの土質は細粒分が55%となるため、ⅠはⅡに比べて細粒分が「少ない」となります。
必須問題 3問目
3問目は単純梁における集中荷重に関する問題でした。
公式の暗記でも対応できましたが、力のつり合いの式を解けば解答でき、それほど難しくない問題でした。
☆問題
【出典】令和6年度1級土木施工管理技術検定 第一次検定 試験問題A
☆解答 [ 2 ]
曲げモーメントについては、公式として覚えることもできますが、図から導き出すこともできます。
単純梁が静止しているので、集中荷重(P)とA点・B点の反力(R)は、
RA+RB=P+P
A点回りのモーメントは、
P×1/3×L+P×2/3×L-RB×L=0 となるので、
RB=P
B点回りのモーメントを考えると同様に
P×1/3×L+P×2/3×L-RA×L=0 となるので、
RA=P
最大曲げモーメント(M)は、集中荷重が作用する位置です。
今回の問題でいうところのC点とD点であるため、
M=P×1/3×L となります。
必須問題 4問目
4問目は構造力学における図心と断面の問題でした。
☆問題
【出典】令和6年度1級土木施工管理技術検定 第一次検定 試験問題A
☆解答 [ 4 ]
(1)(2)(3)は正しい記述です。
図心は図形の中心であり、図形の重さが面積に比例しているのであれば、その1点で支えられる点です。1点で支えられるということは、図心を通るあらゆる軸に対する周りのモーメントがつり合っているということです。
図心は「その点を通る任意の軸に関する図形の1次モーメントがいずれもゼロになる点」と定義されます。0以外の値になることはありません。
そのため、(4)の記述が誤りです。
必須問題 5問目
5問目は水理学について、定常流における流速と流量に関する問題でした。
☆問題
【出典】令和6年度1級土木施工管理技術検定 第一次検定 試験問題A
☆解答 [ 1 ]
【流速】
定常流の流れにおける2つの断面での流速は、連続の式で表すことができます。
A1×V1=A2×V2(断面積:A、流速:V)
この式を問題の断面①、断面②に当てはめることで、流速V2を算出します。
それぞれの断面積(A1、A2)は、[A1=(d1/2)^2×π][A2=(d2/2)^2×π]となるため、
先ほどの式に当てはめると、
(d1/2)^2×π×V1=(d2/2)^2×π×V2
V2=(d1/d2)^2×V1
となります。
【流量】
流量は断面積と流速の積で表すことができます。
Q=A×V(流量:Q、断面積:A、流速:V)
そのため、断面②の断面積[A2=(d2/2)^2×π]を当てはめると流量Q2は、
Q2=(d2/2)^2×π×V2 となります。
さらに、先ほどの[V2=(d1/d2)^2×V1]を代入すると、
Q2=π×d1^2×V1×1/4
となります。
まとめ
今回は、令和6年度における土木施工管理技士試験の第一次検定で追加された必須問題について解説しました。
【令和6年度の傾向】
- 出題分野は、土質力学2問、構造力学2問、水理学1問
- 2級も類似の問題が出題されたが、1級ではより深い工学の知識が問われた
- 令和7年度以降も出題される可能性が高いため、学習は必須
土木施工管理技士として必要な知識を問う「工学の基礎」は、来年度以降も出題される可能性が高いので、しっかりと理解を深めて学習を進めてください。
なお、令和6年度の2級で出題された問題については、[【令和6年度最新版】2級土木施工管理技士試験において第一次検定で出題された工学の基礎知識]の記事で詳しく解説しています。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
作者紹介 佐藤拓真さん
作者紹介 佐藤拓真さん