【日本デジタル通信】“経営理念” と “社風” を重視した経営手法が生み出す好循環

経営/マネジメント

電話工事やLAN工事などの電気通信工事業を営む株式会社日本デジタル通信(東京都大田区)。従業員数約20人という規模ながら、営業・工事の両部門を持ち、相談から施工、さらには運用サポートやメンテナンスまで、すべて自社で請け負うことができる点が同社の強みです。

この強みを発揮するうえで大きな原動力となっているのが、同社の“経営理念”、そして“社風”です。従業員1人ひとりが経営理念を理解し主体的に行動することで、社内連携や個々の成長、そしてお客様からの信頼獲得につながっているといいます。

「全従業員とその家族の物心両面の幸福を追求する」ことを経営理念に掲げる同社の有倉將人社長に、その意図や今後の目標などを伺いました。

従業員主体で行う社風向上の取り組み


(日本デジタル通信提供)

これは、同社で毎朝行っている朝礼の様子です。

経営理念の唱和、実績報告、フィロソフィ(行動指針)に対する意見交換などのほか、体操やクイズなど全員で取り組めるさまざまなレクリエーションを行います。

朝礼の内容は、社内の“朝礼プロジェクト”というチームに所属するメンバーが自由に決めていて、2カ月に1回くらいのペースでやり方を変えるのだそうです。

有倉社長
「朝礼の目的の1つは、コミュニケーションの練習です。例えば、お客様のところに訪問したとき、元気にあいさつをしたり、相手の話に耳を傾けたり、そういうことって普段からやっていないと、いきなりきちんとできるものではないと思うんですよね。毎日の朝礼を通じて、お客様はもちろん、人と接する際に大切なことをしっかりと身に付けてほしいと思っています。

それから、みんなで気分を盛り上げて、一体感をつくっていくことも目的の1つ。また、朝礼のやり方を頻繁に変えることで、変化に慣れる、変化を楽しむ、ということも体験してほしいんです」

同社には「社風向上委員会」という社内組織があり、文字通り、社内の雰囲気やお互いの関係性、仕事に取り組む姿勢などを向上させるため、4つのプロジェクトチームに分かれてさまざまな取り組みを行っています。朝礼プロジェクトはそのうちの1つで、朝礼の進め方やレクリエーションの内容などを企画・検討するチームです。

入社5年目の村岡光恵さんは、「入社したばかりのころは、レクリエーションをするようなポップな朝礼にびっくりして、ついていくのに必死、という感じでした」と振り返りますが、「朝からみんなで大笑いするくらい盛り上がることもよくあって、間違いなく“元気の出る朝礼”です」と笑顔で話します。

村岡さん自身は、社風向上委員会のプロジェクトのうち、「全従業員親睦プロジェクト」に所属。バーベキューや遠足など、従業員同士の親睦を深めるためのイベントを企画しています。

6月には同プロジェクトの企画で、横浜市にある『カップヌードルミュージアム』を訪問。カップに絵を書いたり、スープの味やトッピングの具材を自由に選んだりできるオリジナルのカップヌードル作りを体験し、「みんなで個性あふれるデザインの『マイカップヌードル』を作ってきました」(村岡さん)。休日の開催でしたが、従業員やその家族も同行し、総勢15名が参加しました。


カップヌードルミュージアムで記念撮影(日本デジタル通信提供)

「土日でも毎回多くの人が参加してくれて、都合が合わずに参加できなかった人も『行きたかったよ』って声をかけてくれたりするんです。うれしいですよね」と村岡さん。まさに従業員同士の関係性の良さが伺えます。

有倉社長は「朝礼のレクリエーションも、親睦プロジェクトのイベントも、僕がやっているわけではなくて、プロジェクトメンバーの社員が企画から考えてくれているので、みんな“自分たちでやっている”という意識がある。だからいいんでしょうね」と目を細めます。

会社を経営する目的は「全従業員とその家族の物心両面の幸福」の追求


日本デジタル通信 有倉將人社長

このような取り組みの根底には、同社が目指している以下の経営理念があります。

全従業員とその家族の物心両面の幸福を追求すると同時に、全員の力によって地域社会ならびに国家、人類の進歩発展に貢献する会社をつくる

有倉社長
「“物の幸せ”はわかりやすいですよね。生活の安定と向上のために、お給料をしっかり出すことです。

“心の幸せ”にはいろんな定義があると思いますが、その1つとして、会社を少しでも快適な場所にすること。会社は日々の大半を過ごす場所ですから、『嫌だな』『行きたくないな』と感じてしまうような雰囲気よりは、みんなであいさつしたり、笑い合ったり、お互いに会えば安心する、そんな社風のほうが幸せだろうなと思うんです。

社風というのは、従業員1人ひとりの考え方や関係性、仕事ぶりやお客様への思いなど、すべてが表れるもの。だから、従業員みんなで社風向上に取り組むことで、お互いに尊重し合う気持ちやお客様のことを第一に考える姿勢を培ってほしいと考えています」

この経営理念を追求し続けることが「会社を経営する目的」と力強く語る有倉社長。そのために、従業員全員の行動指針となる考え、すなわち「フィロソフィ」を掲げ、毎日の朝礼、週1回行う勉強会、月1回の定例会議など、さまざまな機会を設けて思いや考え方を全員で共有します。新入社員の採用時にも、経営理念やこうした方針を伝え、共感してくれた人を採用するよう徹底しているといいます。

有倉社長
「“みんなが幸せになれる場所をつくること”が会社の目的ですから、それはつまり、従業員1人ひとりにとっては自分自身の幸せのためでもあるわけです。だから、この理念に共感して集まってくれた人は、みんなが自然に自分ごとと捉えて、そのための場づくりに主体的に取り組んでくれるのだと思います。

また、お客様は、我々が仕事をする動機、どういう気持ちで仕事に取り組んでいるか、というところに共感してくれるから、うちに仕事を依頼していただけるのだと思っています。

営業の受け答えや技術担当が施工する姿、うちの社員の人間性から、そうした会社としての考え方を感じ取り、信頼・信用していただけるからこそ、リピーターになっていただける。今、我々がやっている社風向上の取り組みは、自分本位やきれいごとなどでは決してなく、お客様を大切にし、信頼を獲得することで、会社としてきちんと利益を出すことにつながっていると考えています」

取引先の言葉で抱いた危機感。営業スタイルを180度変えた転機

創業時はまったく別の業態だったという同社。1998年に有倉社長がビジネスフォンなどOA機器の営業販売を始めたのが、現在の電気通信工事業の基になっています。この時は、現在のように自社施工は行っておらず、「販売代理店のような形」(有倉社長)だったといいます。

電話営業や訪問販売を中心に売上を伸ばし、新業態が徐々に軌道に乗り始めたころ、転機が訪れます。

有倉社長
「ある取引先(仕入先)で、『あなたたちのコア・コンピタンス(得意分野)は営業力だね』と言われたんです。この瞬間、とても危機感を覚えました。

お客様が使うのは納品した商品であって、自分たちの営業力などお客様には本来関係のないこと。それなのに、その営業力の部分を評価されたわけです。お客様に良い商品やサービスを提供するためではなく、『自分たちが儲かったらそれでいい』という、自分本位のビジネスをしていたんだと気づかされました」

これを機に、電話営業や訪問販売を止め、「地域やお客様に必要とされる会社」をつくろうと決意。「お客様のお困りごと解決」を目標に掲げ、事務所を構える東京都大田区大森を中心に、地域に密着した営業へと舵を切りました。

有倉社長
「ちょうどパソコンやインターネットなどが世間に浸透してきた2000年ごろです。当時はまだ使い慣れていないお客様も多かったので、商品を販売するだけではなく、パソコンの使い方をレクチャーしたり、ネットワークの設定をしてあげたり、そんなことも無償でしていました。

まだまだ軌道に乗れずうまくいかなかったとき、地元の先輩経営者に相談に行くと、『“お客様のお困りごと”を仕事にしなさい』というアドバイスをいただき、それをきっかけに、こうしたサポートもきちんと対価をいただける仕事としてサービス化していきました」

営業と技術の連携でお客様の信頼を獲得

こうして、営業や各種サポートは自社、配線工事などは主に専門工事業者に委託する形で当時の事業スタイルを確立。ここで、有倉社長に新たな思いが芽生えるようになります。工事部門の設立です。

有倉社長
「工事を担当してくれる現場の技術者は他社の人。だから、例えばお客様への接し方や服装、態度などが気になっても、僕があんまり言うわけにもいかず…。自分たちの仕事に対する考え方までは、なかなか現場の人たちと共有できないことに歯がゆさを感じていました。工事についても同じ思いを共有した仲間と一緒にできたらいいなと思うようになっていきました」

折しも、リーマン・ショック直前で景気が傾きかけていた時代。経費削減を検討していたこともきっかけとなり、2008年に初めて技術者の社員を採用、自社工事を一気に増やしていきました。

現在、従業員数は23人、うち施工担当は7人(2024年6月時点)。営業・工事の両部門を持ち、相談から施工、サポートまでワンストップで担当できるのは日本デジタル通信の大きな強みになっています。


(日本デジタル通信提供)

有倉社長
「営業の社員も、社内で技術社員の手伝いをしたり、情報共有したり、一緒に現場に入ったりすることもあるので、“技術に詳しい営業”に成長します。お客様からの技術的な問い合わせにも営業がすぐに回答できるのは、まさにうちならではの強みです。

お客様が営業に仕事を依頼し、その内容がしっかり技術担当に伝わって、きちんと施工する。もし何か問題があったとしても、必ず会社にフィードバックがあり、社内で共有できる。そんなスムーズに仕事が回る安心感も、お客様に感じていただけているのではないかと思います」

全員で経営理念を共有し、日頃から社内の良い雰囲気づくりに努めていることが、こうした社内連携や個々のステップアップ、そしてお客様からの信頼獲得につながっているのです。

社員の方に聞きました!

村岡 光恵さん(入社5年目/営業・インサイドセールス)

村岡 光恵さん
(入社5年目/営業・インサイドセールス)

――入社のきっかけは?

村岡 知人の紹介だったのですが、面接時に会社の経営理念やフィロソフィの話を聞いて、従業員とお客様のことを大切にする、この考えを持つ社長の下で働けるのはすごく幸せだろうなと感じました。

働くというのは単純にお金を稼ぐだけではなく、自分の人間力を高めることだと思えるようになり、ここで働けたらワクワクするだろうな、と自分の将来が楽しみになったことを覚えています。

――社風向上の取り組みは、どのように仕事に生きていると感じますか?

村岡 従業員同士が良い関係性でいられるからこそ、自分が仕事で不安になったときや壁にぶつかったとき、1人で抱え込まずに済むんです。「どうすればいいですか?」とすぐに周りに相談でき、先輩たちが一緒に壁を乗り越えてくれるので本当にありがたいです。

また、そのおかげでお客様の気持ちにもきちんと応えられるので、自分のためだけではなく、お客様を不安にさせない、お客様を大切にする、ということにもつながっています。

――今後の抱負を教えてください。

村岡 この会社をこれからもっと発展させていきたいですし、そう考えると今がその土台になる大事な時期だと思っています。今のメンバーでこの土台をしっかり築き、社長や先輩たちから夢や目標を私たちが引き継いで、1つひとつ叶えていきたいです。

また、経営理念や社風を重視する考え方は、たとえ人数が増えたとしても絶対に崩してはいけない、守っていきたい部分だと思っています。

安心して承継できる会社を目指して

最後に、有倉社長に今後の目標を伺いました。

有倉社長
「従業員が安心して継いでいける会社にすることが当面の目標です。そこには、いろんな要素があって、もちろん盤石な財務基盤をつくるというのもそうですし、新たな市場をつくりたいというビジョンもあります」

“新たな市場”とは、具体的には「ベトナム進出を目指している」と語る有倉社長。日本の経済規模が縮小傾向にある中、国内市場のみに依存するのではなく、海外にも拠点を持つことが会社の発展のために必要と考えています。

有倉社長
「今より会社の基盤を盤石にして、この新たな市場をつくり始めたところで、後継者に承継できたらいいなと思っています。会社の承継にはたくさんの選択肢がありますが、必ずいつかは待ったなしで、何かを選択しないといけません。次世代にどうつないでいくかを考えることは、経営者としてとても大きな責任です。

“みんなの幸せ”を実現できる最善の方法を選びたいですし、みんなで考えていきたい。これも結局、経営理念の追求の1つであって、それなしには考えられないですね」

経営理念を重視する自身の経営手法を有倉社長は「究極のトップダウン」という言葉で表現します。それは、「トップが自分の考えだけで会社を動かしている」という意味ではありません。

会社の存在意義を“従業員とお客様のため”と定め、理解と共有を徹底することで、従業員の主体性、ボトムアップを引き出す。そして、それがお客様からの信頼獲得につながる。

日本デジタル通信には、そんな好循環を生み出す“社風”が形成されているのです。

取材協力:株式会社日本デジタル通信

(建設データブログ編集部)

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