東京オリンピックのレガシーで変わる首都|一級建築士による建設アラカルト

コラム

【Written by 独学一級建築士 nandskさん】


2024年になり、東京オリンピック・パラリンピックの選手村跡地に建てられたマンション群「晴海フラッグ」の引き渡しが本格的に始まりました。新型コロナウイルスによる開催延期を経て、2021年夏に開催された東京オリンピック(東京2020オリンピック競技大会、以下「東京2020大会」)から、すでに3年が経過していますが、東京2020大会が与えた都市への影響について振り返ってみたいと思います。




東京オリンピックのレガシー

開催地である東京都は、多額の税金を使用し開催されるオリンピックに疑問を呈し、大会のために投資したものは、その後もレガシーとして残していくというコンセプトを掲げていました。わかりやすい例で言えば、大会のために整備した体育館などの施設をその後も活用していく、と言うと想像しやすいでしょうか。

東京2020レガシーについて、東京都政策企画局が資料をまとめています。




無電柱化される街

ヨーロッパの街並みと東京の街並みを比べて、大きく違うと言われているのが電柱の有無です。実は、ロンドンやパリなどの欧州主要都市は無電柱化率で100%です。これは、戦後に日本がいち早く復興するために景観よりも実利を取って電柱を道路に設置した結果であり、その分戦後の復興が早く進みました。

現在では、景観や災害時の安全性を考え、電線を地中に埋める無電柱化を進めており、この動きは東京2020大会へ向けて加速されました。

まだまだ東京の無電柱化率は低いですが、東京2020大会のレガシーの一つと言っていいでしょう。




最新国際水準の6スポーツ施設と新たな3施設

既存施設の有効利用が中心となった東京2020大会ですが、新規で6つのスポーツ施設を整備しました。すべて東京の臨海部に設けられた施設で、「カヌー・スラロームセンター」「夢の島公園アーチェリー場」「東京アクアティクスセンター」「有明アリーナ」「大井ホッケー競技場」「海の森水上競技場」の6つです。

また東京2020大会後、ボルダリングやスケートボードができる「有明アーバンスポーツパーク」(2024年開業予定)、パラスポーツのための施設である「東京都パラスポーツトレーニングセンター」(2023年開業)、氷上スポーツ向けの「東京辰巳アイスアリーナ」(2025年開業予定)の3つの整備を進めています。

これら合計9つの施設は、東京2020大会で高まったスポーツ熱を冷ますことなく、レガシーとして各種大会などに利用していく予定です。すでに2022年度は年間116回もの大会が開催され、90万人以上の人が利用したそうです。




ベイエリアの新たな交通手段

東京2020大会のメイン会場であり、新たな9施設が位置する東京臨海部のベイエリア。このエリアは従来から交通アクセスが悪く、改善が求められていました。

東京2020大会では、選手村と新橋エリアを結ぶBRT(バス・ラピッド・トランジット)を運行し、今後もルートを拡大しながら次世代型交通網として整備していくそうです。選手村跡地のマンション「晴海フラッグ」もこのBRTにより新橋や虎ノ門エリアへアクセスすることになります。通常の路線バスより速く、定刻通りに発着するBRTは通勤などでも使い勝手が良いため、今では近隣住民の足として利用されており、東京2020大会のレガシーの一つと言えるでしょう。

また、このBRTは将来的には富山市などで導入されているLRT(ライト・レール・トランジット)に置き換わると言われており、そうなればより速度性と定時制が高まり、環境にもクリーンで、近未来的な都市の交通として注目されそうです。

東京2020大会において、ベイエリアの交通でもう一つ注目されたのが舟運(しゅううん)です。

聞きなれない言葉ですが、読んで字の如く船を使った交通網です。東京はもともと海に面しており、川も多く、船による移動には向いている地域です。隅田川上流の浅草や東京スカイツリー付近、両国、墨田川の支流を遡上した日本橋、東京湾に面した三田、竹芝、そして今回の東京2020大会で整備された有明や東京ビッグサイトがあるベイエリアなどに船着き場を整備し、船を使った移動を進めています。

東京2020大会では主に観光用として用いられ、今も毎日多くの船便が運航しています。中には通勤に利用して鉄道の混雑解消につなげようという動きもあり、今後も東京2020大会のレガシーとしての活用が期待されるところです。主に舟運では小型ボートを使いますが、大型クルーズ船の受け入れ対応のために東京国際クルーズターミナルも整備され、これから東京が水の都として発展していくことにつながりそうです。

ベイエリアの交通網としては東京駅とビッグサイトをつなぐ地下鉄の計画もあり、交通網の整備とベイエリアの発展が両輪で進んでいくことになるでしょう。




まとめ

「レガシー」という単語が非常によく使われた東京2020大会でしたが、効果の大小はあれ、東京という都市がワンランクアップするための動きを加速させることにつながったのは間違いないでしょう。今年はパリオリンピックが開催されますが、改めて東京2020大会がもたらした影響について、調べてみると面白いかもしれません。




【独学一級建築士 nandskさん】

独学により一級建築士に合格。住宅やアパートの設計・工事監理、特殊建築物の維持管理、公共施設の工事設計・監督の経験あり。二級、一級建築士試験受験者へのアドバイスも行っている。『建築の楽しさを多くの人に知ってもらいたい』と話す。

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