現場ノウハウ

建設業界におけるDX化(コンテック・i-Construction)の現状は?

【Written by 独学一級建築士 nandskさん】

近年よく耳にするようになったDXという言葉。DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、AIやIoTといった最先端のデジタル技術を活用して業務プロセスを改善したり、製品やサービスなどを変革したり、組織や風土を改革したりすることだそうです。

このDXの流れは多くの業界で推進され、現場作業が中心となる建設業界でもDX化が進んでいるんです。今回は、そんな「建設業のDX」について見ていきましょう。

建設業のDX化が進まない理由

「建設業界でもDX化が進んでいる」と言いましたが、実は他の業界に比べるとDX化の進みは非常に遅いです。なぜ、建設業界ではDX化が進まないのでしょうか?

現場作業になじまない

DXというと、どうしてもパソコンやタブレット端末を駆使して、色々な取り組みをやるイメージがあります。建設業は工事現場がメインとなる仕事であり、人が直接、建物や構造物をつくるため「DXとはあまりなじまない」と考える人が多いです。

実際、職人さんの熟練の技術でしかできないものも多く、たしかに現場作業には導入が難しい部分もあります。

現場作業員の高齢化

現場作業員の高齢化も建設業界でDX化が進まない理由の1つです。

業界全体として若者の就業率が低く、2016年度の調査では、すでに現場作業員の約34%が55歳以上と3割を占めています。逆に、29歳以下の若年層は約11%にとどまり、建設業は他産業に比べても高齢化が進んでいる業界です。

また、近年は外国人技能実習生が活躍している現場も多いですが、本来は人材確保を目的とした制度ではなく、技能実習生の雇用期間は限られています。

一般的に、若者に比べて年配の人のほうがITの活用などに抵抗がある場合が多いですよね。こうした建設業就業者の構造もDX化が進みにくい要因の1つと考えられます。

民間活力を生かす場が少ない

建設業における投資額の40%前後は政府投資(公共投資)です。これだけ公共事業が多いのは他の産業には見られない特徴で、建設業の特殊性といえるでしょう。

公共工事は国や自治体など行政が発注しますが、行政機関は最新技術の導入に対して消極的になりがちな面もあります。工事発注における仕様は国や都道府県が定める標準仕様がベースになりますし、予算は数年前に作成して議会の承認を得る必要があり、革新的・独創的なものを取り入れにくいといった事情も影響しているでしょう。

どの分野でも最先端技術は民間から普及していくのが常なので、公共事業に導入されるのはどうしても遅くなりがちです。

建設業のDX化を進めるために

他の産業に比べてDX化が進みにくい建設業ですが、なんとか進めようと業界全体で様々な取り組みが行われています。

建設業のDX化を表す標語

建設業のDX化を進めるために、色々な言葉が用いられてきました。

1つ目は『コンテック(Con-Tech)』。

あまり聞いたことがないかもしれませんが、「建設業界のIT化を」という意味合いです。金融(Financial)と技術(Technology)を組み合わせたフィンテックという造語がありますが、その建設業版で、つまり建設(Construction)と技術(Technology)を掛け合わせてつくられた言葉です。『建設テック』と呼ばれることもあります。

2つ目は『i-Construction(アイ・コンストラクション)』。

こちらのほうがコンテックよりは使われていると思うので、聞いたことがある人もいるのではないでしょうか。国土交通省が掲げる「ICT土工」「規格の標準化(コンクリート工)」「施工時期の平準化」の3つの施策を推進する標語で、これらの取り組みを行うことで建設産業システムの生産性向上を目指すというものです。

コンテックとi-Constructionの違い

コンテックもi-Constructionも、一般的にはどちらも「建設業界のDX化」という認識で問題ありませんが、詳しく書くとコンテックは「建設業×IT」で、ITの活用に特化しています。

これに対し、i-Constructionは国土交通省が掲げる3つの施策を推進する取り組みのことで、このうちIT技術の活用などは「ICT土工」の1施策のみになります。

建設業のDX化の事例

DX化の遅れが目立つといわれる建設業ですが、現在は大手ゼネコンを中心に、ICT技術などの導入がかなり進められています。

工事現場におけるICT技術の導入

工事現場の施工管理において、アプリで工程を管理する現場監督が増えています。工程ごとの職長への連絡が一括で行えたり、時間単位での工期のズレもアプリでリアルタイムに共有できたりするため、連絡ミスや発注ミスを減らすことにつながっています。

また、デジタルサイネージなどを使った視覚による情報共有も行われています。外国人労働者への動画による作業説明や、周辺住民に向けてリアルタイムに工程を示すことなどに活用され、現場の負担が大きく減っています。

職人の作業面でも、ICT建機と呼ばれる、AIによる自動制御が可能な重機が増えていて、経験の浅いオペレーターや女性でも施工がしやすくなっています。また、まだ一般普及はしていませんが、自動鉄筋結束ロボットなども開発されており、危険な現場作業や単純作業がDXにより効率化されていく日も近いでしょう。

最も注目されるドローン測量

建設業のDX化で最も注目されているのがドローン測量です。従来は1週間かかった測量が、ドローンを用いることでなんと15分で終わるという驚きの作業効率。また、測量写真をもとに3Dモデルの作成や図面への落とし込みも即座にできるため、導入するメリットは大きいでしょう。

ドローンは離島や高所での作業も可能で、まさに生産性向上につながっている分野といえます。

国も建設業のDX化を推進

国土交通省も「建設キャリアアップシステム(CCUS)」の取り組みを始めるなど、DX化を人材確保につなげようという動きを進めています。

建設キャリアアップシステム(CCUS)とは、技能者の資格や経験を客観的に評価し、キャリア形成や処遇改善につなげるシステムで、公共工事ではすでにほとんどの都道府県や政令指定都市では導入されています。

現場の経験が適正に評価されて給与アップにつながれば、技能者が安心して働ける業界になるでしょう。

DXで建設業界の改革を

かつては「3K(キツい、汚い、危険)」といわれた建設業界。DX化により危険作業の減少や労働効率の改善などを進めることで、政府は「新3K(給与、休暇、希望)」の定着を目指しています。事実、建設現場で働く女性技能者も年々増加傾向にあり、女性も働きやすくなりつつあるといえるでしょう。

働き方改革により週休2日の工期を設定する工事現場も増えてきました。まだまだ改善しなければならない点も多いかと思いますが、DX化により若者や女性が働きたいと思える業界になることを期待しています。

著者:独学一級建築士 nandsk

独学により一級建築士に合格。住宅やアパートの設計・工事監理、特殊建築物の維持管理、公共施設の工事設計・監督の経験あり。二級、一級建築士試験受験者へのアドバイスも行っている。『建築の楽しさを多くの人に知ってもらいたい』と話す。

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