建築士が街を歩く②
建築士が街を歩く②
【コラム 1級建築士による建設アラカルト】【独学1級建築士 nandskさん】
前回に引き続き、建築・街づくりの専門家である建築士がどういった視点で街歩きをしているのか紹介していきたい。前回は海外のまち歩きで思うことを紹介したが、今回は少し専門的な視点での話をしよう。
これはもはや職業病と言えってもよいと思うが、建築士である自分は法的な視点で建物を見ることがある。
例えば、上層階が段々になっているマンション。
建築基準法では道路斜線や高度斜線など、斜線制限と言うものがあり、高さが規定されている。斜線と言う名の通り、斜めに線を引いて、そこに収まるように建物を建てないといけないため、法的に建てられるギリギリまで建物を建てようとすると段々になるのだ。
特にマンションなどでは一部屋でも多く部屋を作って売りたいため、上階に行くにつれて斜線を避けるために面積を小さくして段々になっているマンションが多いのだ。街中に建っている建物を見て、こういった法規制を逆読みして考えながら歩くことは建築士あるあるだろう。
法規制の話では違反建築物なども目ざとく見つけてしまう。
例えば、明らかに建蔽率をオーバーして増築しいているような建物。
多少DIYに知見がある人なら増築などは意外と簡単にできてしまうものではあるが、しっかりと確認申請を出してるかは別。
建築士でないと設計できない場合もあり、安全性の確認や煩雑な申請業務は素人では難しく違法増築などは結構多いのだ。
特にホームセンターなどで手軽に購入できる倉庫やカーポートなどを申請が必要と知らずに増築してしまう方は多く、注意が必要。
頭の中で瞬時に建蔽率や容積率を計算し、適法性を確認してしまうのはもはや職業病だろう。
法的な話だけでなく、損益分岐点から建物に着目することもある。
特にタワーマンションなども立地するエリアを歩いているとマンションやオフィスビルの高さは二極化していることに気付く。特別な許可制度を利用した高さ20階以上のタワマンと通常の法規制で建てられる範囲の12階程度の建物だ。
法規制を緩和する制度を利用する場合、それなりに費用がかかることから、階数を増やして販売戸数を増やさないと利益が出ないのだ。そのため15階や17階くらいの中途半端に高い建物は意外と少ない。こういった建物を見つけると建てられた経緯などを考えてしまう。
一般的なまち歩きの楽しさである歴史的背景や意匠の凝った建物を楽しむこともしているが、それとは違った専門的な見方でも建築士はまち歩きを楽しんでいるのだ。
今回のコラムは【独学1級建築士 nandskさん】
独学により1級建築士に合格。住宅やアパートの設計・工事監理、特殊建築物の維持管理、公共施設の工事設計・監督の経験あり。2級、1級建築士試験受験者へのアドバイスも行っている。『建築の楽しさを多くの人に知ってもらいたい』と話す