「事業承継」をカル~イ感じで勉強してみた NO.8
会社制度と事業承継
事業承継というのは、会社の問題なのです。
簡単に言えば、会社の所有権を別の人に移転する ということです。
では、会社の所有権を移転するとはどういうことなのでしょう。 そしてこの機会に、会社の登記や定款についても勉強してみましょう。
有限会社安土桃山の定款と登記簿で4人がワイワイガヤガヤしてみました。少しのぞいていてみましょう。
今日のテーマ 「会社制度と事業承継」
株式会社は所有と経営が分離している
事業承継というのは、最終的には会社の所有権を別の人に譲ること なんだよ。
会社の所有権?それはどういうこと?
株式会社の特徴は、「所有」と「経営」が分離していることなんだ。
ショユウとケーエーのブンリ?
「所有」というのは文字どおりの意味で、会社の所有者のことです。
会社の所有者というのは、会社に出資をして、会社の「株式」を買った人のことをいいます。
この株式を所有する人を「株主」と呼びます。
つまり、株主が会社の所有権を持っている ということなんだね。
そのとおり。だから、株主は会社のことを自由に決めることができるのが原則なんだ。
ちなみに、お金を貸しただけの人は会社の債権者であって、株主とはいいません。
会社にお金を出すことは同じですが、債権者には返還請求権があるけど、株主には出資金の返還請求権はないのです。株式を買ったことになりますからね。
会社に出資する人は、出資する財力はあるけど、必ずしも、その会社の経営能力があるとは限らないよね?
そうだね。そこで、株主は経営能力のある人を取締役に選んで「経営」をしてもらうんだ。
つまり、株主は所有者として会社の「人事権」を持つことで、別の経営能力のある人に実際の経営を委任するシステムが株式会社 ということです。
そしてこれを、「所有」と「経営」が分離している といいます。
なるほど。僕たちの時代で言えば、お城の殿様が株主で、殿様の命令で戦に出陣する武将達が戦を任された経営者ということかな(笑)
う~ん、その理解でも良いかもしれないね(笑)
定款と登記簿の違い
それじゃあ、先に、事業承継の対象になる「会社」について少し話をするね。みんな自分の会社の定款と登記簿は持っているかい?
持ってるよ。
まず、定款というのは、会社の根本規則なんだよ。
日本国で言えば、憲法みたいなものかな。
そう。日本国民が自由に憲法の内容を決められるように、会社の定款も、所有者である株主が自由にルールを決めることができるんだ。
会社の重要な内部ルールのことですね。
だから、会社の行動指針は、まずは定款に書いてあるルールに従い、定款に書いてなければ法律に従うことになります。
つまり殿様が決めた法度が、定款だということだね。
サル富ちゃん、ますますわからなくなるからその辺でやめとこうか?(笑)
ゴメンチャイ!
なるほど、でも登記簿にも商号や目的のように、定款と同じことが書いてあるよね。定款と登記簿の関係はどうなっているの?
登記簿は、取引上で知っておきたい重要な事項を記載してあるんだ。
だから誰でも見られるように、法務局で公示をされているし、誰でも登記簿の写しを取得できるんだ。
そういう意味では、登記簿は外部ルールだと思っても良いです。
どちらも重要なので、定款と登記簿に重なり合いがあります。
誰でも見ることができるのはありがたいね。
だから、取引をする時には相手方が会社の時には必ず最新の登記簿を取得して、例えば誰が、代表者なのか等を確認しなくちゃいけないよ。
特例有限会社は株式会社だ
ところで、定款にも登記簿謄本にも僕の会社は「有限会社」と書いてあって、「株式会社」にはなっていないんだけど、同じで良いの?
良いところに気が付いたね。法律が改正されて、有限会社という組織はなくなったんだよ。
えっ!でも、僕の会社も昔から有限会社太閤堂と言っているし、名刺にも有限会社太閤堂と書いてあるんだけど。
昔からある有限会社の商号は、とりあえずそのままで良いんだ。
ただし、今では、新しく有限会社を設立することはできなくなったんだ。だから、新設会社には有限会社はないんだ。
それなら、有限会社とあれば、老舗と言うことになるかもね。
そして、昔からある有限会社は、実は、「商号」の部分に文字では書いていないけど、「株式会社」と書いてある事に読み直しましょうね、という了解事項になっているんだよ。
だから、コン田ちゃんとサル富ちゃんの会社は、株式会社なんだ。
「(株式会社)有限会社安土桃山」、「(株式会社)有限会社太閤堂」というように理解すればよいのかな。
声を出して読んだら舌を噛みそうだね(笑)
そういう有限会社を「特例有限会社」というんだよ。
へぇ~、株式会社とは書いてないのに、書いてあることになるのか。その読み直しのルールを知らないと、訳が分からなくなるね。でも、いつの間にか株式会社になっていたのは、なんか得した感じもするね(笑)
でも、株式会社と全く同一というわけではないのです。
例えば、任期の有無や決算公告義務等で少しずつ違いはあります。だから、お得かどうかはわからないですね。
むしろ、有限会社はもう作れないから、特例有限会社のままのほうが得になるかもしれないよ。
商号、本店、目的、役員の決め方
会社の名前のことを「商号」といいます。商号の決め方にはいろいろルールがあるので、少しだけ説明しましょう。
② 符号:「&」(アンバサンド)/「‘」(アポストロフィー)/「,」(コンマ)/「-」(ハイフン)/「.」(ピリオド)/「・」(中点)も使えます
③ 単語を区切るための空白(スペース)は原則として使えませんが、例外的にローマ字を用いて複数の単語を表記する場合に限り使えます
④ 会社の種類を示す、例えば「株式会社」を必ず前か後ろに付ける必要がありますが、「株式会社」を「K.K.」や「Company Incorporaited」に代えて登記することはできません
次に、「本店」が登記されているよね。
定款には本店所在地として最小行政区画(例えば、東京都中央区)までを記載しておけば足りるのだけど、登記簿には、〇丁目〇番〇号と、所在場所までキチンと書いてなくてはならないよ。
ただし、マンション名や部屋番号までは必ずしも登記する必要がないのです。
これを登記してしまうと、別の階の広い部屋に移った時に、本店移転登記が必要になってしまう上に、各種の届出書に変更手続を取る煩わしさが出てきますからね。
役所からお手紙が届くところだよね。
そうだね。ちなみに、役員改選登記を忘れて裁判所から過料の連絡が来る場所は、会社ではなくて代表取締役の個人住所だから気を付けてね。何も知らない社長の自宅に、裁判所から過料の手紙が届くとビックリしちゃうからね。総務担当者は怒られちゃうからね。
目的の欄もあるよね。
そのとおり、会社は法律上「人」として、権利や義務の主体になれるのだけど、人間と違って、この目的に記載されている事項に限って権利能力が与えれられるんだ。
目的に書いていないと、法律的にはできないんだよ。
へぇ~、会社も人なんだね。
後から、事業を拡大する時はどうするの?
新事業をはじめたければ、目的に追加変更をしなくてはならないんだ。
ちなみに、目的欄に記載されている事業は、最初から全部が行われていなくても良いのです。
予定の段階でも入れておけますからね。
そういえば、最近の株式会社は取締役が1人の会社もあるらしいね。
そうなんだ。有限会社をつくれなくなった代わりに、取締役会のない、監査役もなしで1人取締役の組織の株式会社ができるようになったんだ。
昔は、人手が足りないから、知り合いに頼んで取締役や監査役になってもらっていたよね。
今は、無理して取締役や監査役の名前を借りなくても良いのだよ。そもそも名前を借りるだけはマズイのだけどね(笑)
そうしたら、今からでも会社組織を変更して1人取締役の会社にしてしまう方が良い場合もあるわけだね。
そのとおり。100%株主の場合には、スムーズな決定をするためには、1人取締役の方が便利だから、今から変更することも検討しても良いよね。
株主が取締役を選ぶので、株式というのは、中小企業の場合には人事権として重要な権利になります。
株式に関する登記事項の話
さて、最初に、事業承継は会社の所有を別の人に譲ること とありました。
そして所有者は株主だから、株主が持っている株式を移転することになります。その株式のことが登記簿にも定款にも書いてあります。
登記簿でいえば、
「発行可能株式総数」
※ 会社が発行できる株式の上限。拡大変更も可能
「発行済株式の総数並びに種類及び数」
※ 会社の現時点で発行してある株式の数(これが重要)
株式には普通株式の他に種類株式があるので、種類類株式を発行している時にはその種類と数(種類株式ついては後ほど説明します)
「株券を発行する旨の定め」
※ 株券は必ずしも発行しなくてもよいですが、発行する場合には「発行する」と登記しなくてはなりません
「株式の譲渡制限に関する規定」
※ 会社に出資して、株式を取得します。
株主にはその出資金の回収方法(投下資本の回収)が準備されていれば、出資がしやすくなりますよね。出資が多くなれば会社は大きくなれるので、会社としては株主からたくさんの出資をして欲しいですね。
そこで、株式会社では、株式譲渡の自由を原則にして、株主の投下資本の回収手段を確保しています。
でも小さな会社では、会社が知らないうちに株主の変更があると困る事態になります。親族だけでやりたい気持ちもあるでしょう。
だから、譲渡には制限を設けて、例えば「取締役会の承認」とか「株主総会の承認」を条件とすることができます
株式の決まりはたくさんあるのだね。
登記簿には書かれていないけど、定款に記載される「属人的株式」もあるんだよ。
※ 株式の譲渡制限が付いている「非公開会社」だけですが、
剰余金の配当を受ける権利・残余財産の分配を受ける権利・株主総会における議決権 の3つの権利に関して株主ごとに異なる取扱いができる株式を発行することができます。
定款に記載されるだけで、種類株式のような登記簿には記載されません。 登記簿に記載されないことが良いか否かは、状況にもよりますね。
なるほど、事業承継は株式を移転するのだから、これからの話には、株式の操作が出てくるよ、という、タヌちゃんの予告だね。
ピンポ~ン!コン田ちゃんはやっぱり鋭いね。
恐れ入ります(笑)
ところで、最初に所有者の株主と経営者の取締役は別人だと言ったけど、コン田ちゃんも、サル富ちゃんも、イタチちゃんも株主であり、かつ代表取締役だから、所有者と経営者が同一人物だよね。
本当だ!僕らの会社は分離していないよ。大丈夫なの?
大丈夫。これは、株主が取締役を自由に決めることができる人事権を持っていて、たまたま自分で自分を選んだからなんだよ。所有と経営の分離は、概念的に別というだけで、実際には同一人物でも問題ないんだよ。
そうかぁ~、良かった。
でも、逆にうっかりすると、自分が取締役であることが、あたかも自動更新されると勘違いしている人もいるかもしれないね。
え?社長が変わらないのだから、いつまでも同じで良くないのかい?
だめだめ!必ず、取締役の任期が来たら、その都度、株主総会で取締役に選任されなくちゃならないんだよ。
同じ人でも再任する必要があるんだよ。再任を忘れると裁判所から過料のお知らせが来るから気を付けてね。
あらま。僕も時々改選を忘れて、司法書士さんから連絡をもらうことがあるんだ(笑)。今は、取締役の任期は10年までに伸ばすこともできるんだってね。
ところでそうだとしたら、例えば、コン田ちゃんが株主のまま残っていて、社長の席だけを息子の信忠君に譲った場合には、事業承継とはいわないのかな?
社長の席の交代だけの場合も、広い意味での事業承継と言えるかもしれない。
事前に代表権を行使する人を若い人にかえておくことも事業承継の準備行為になるし、信忠くんのように、いずれ、有限会社安土桃山の株主となることが想定されていて、そのための教育期間を取っているとしたら、これも事業承継の準備作業の1つと考えても良いね。
準備段階だね。
そうですね。事業承継の場合には、譲渡行為それ自体と、準備行為を分けて考えると整理しやすくなるんじゃないかと思います。
ただし、準備行為にはいろんな準備行為が考えられるので、理解は大変ですが、方法の名前だけでも整理しておきましょう。
なるほど、事業譲渡を「譲渡行為」と「準備行為」に分けて考えるということだね。
事業承継と認知症 手遅れになる前に
ところで、さっき、認知症に関係があると言ったよね。それはどういうこと?
詳しいことは後で話をするけど、認知症になると判断能力がなくなるでしょ。そうすると、株主としての権利を行使することができなくなるんだ。
財産管理はできなくなるからね。
株主の権利には、人事権等を含む会社の重要事項を決議する「共益権」と、剰余金や残余財産の分配を受ける「自益権」があります。
認知症でこの議決権の行使ができなくなると、役員改選もできないですし、重要事項の決定もできなくなります。
取引先と交渉する事もできなくなるし、個人保証もできなくなるので、会社にとって血液とも言うべき融資金の調達ができなくなります。
会社も「人」だから、血液がかよわないと死んじゃうよね。
認知症を回避できれば一番良いのだけど、今はまだその薬は存在しないよね。
認知症の種類によっては進行を止める薬が出ているとは聞いているけどね。
認知症を避けられないのだとしたら、会社を守るためには、事前に、株主を交代しておかなくてはならないことになるんだ。
だから、認知症の会社バージョンの問題として、事業承継の必要性を捉えることができるんだ。
なるほど。確かに、健康寿命は、男性で72歳位、女性で75歳位だったよね。
その年齢ではまだ元気モリモリだから、社長業を続けたいと思うけど、健康寿命を考えると事業承継を考えなくてはならない年齢は72歳位だということなんだね。
まだ元気だから事業承継ができるということなんだね。
手遅れになる前に。ということだよ。
なるほど、会社のことが少しだけわかってきたよ。ありがとうタヌ川ちゃん。
小冊子「親と子供の未来を守る家族信託物語 認知症と「お金」の話」もぜひ読んでみてくださいね。