建築に自然環境を取り入れる|一級建築士による建設アラカルト
【Written by 独学一級建築士 nandskさん】
日本の建築は環境分野ではかなり遅れています。これは個人的主観によるところが大きいですが、実際にそのように言われることも多いので、事実でもあるのでしょう。
昨今の世界的な動きであるSDGsは、持続可能な社会を目指していきましょうという取り組みで、脱炭素化が多くの国や企業で進められています。
日本でも大企業や自治体を中心にこういった動きはありますが、実際に何かが変わっているのか、ヒューマンスケールでは感じられないのが、日本が環境分野で遅れていると感じる理由でしょう。
バイオフィリックな設計
では、まったく何も進んでいないのかというと、そんなことはなく、最近では「バイオフィリック」という考え方で設計することが多くなってきました。
バイオフィリックというのはバイオ(生命、自然)とフィリア(愛好、趣味)を掛け合わせた造語で、自然の風や木々、水の流れなどに接することで人間が幸せになる、という考えです。バイオフィリアとも言われます。
この考えを活かして設計を行うことが最近の主流ですが、以前から自然を取り入れることは重要視されていたので、その部分をさらに踏み込んで設計する感じです。
アマゾン社の「スフィア」内には絶滅危惧種や食虫植物も
有名なのは、アメリカの大企業アマゾンの本社でしょうか。アマゾンは、本社ビルの目の前に「スフィア」と言われる4階建てのドーム型建築物を建設しましたが、スフィアには世界中から集められた4万本の草木が生い茂り、小川が流れています。スフィア内は適度な気温と湿度に管理され、絶滅危惧種や食虫植物まであるとか。
そして、このスフィアは従業員に開放され、ノートPCを持ち込んで作業できる作業スペースやミーティングスペース、カフェがあります。アマゾンは第二本社にも自然をふんだんに取り入れています。こういった設計の根底にはバイオフィリックの考え方があるのです。
まとめ
自然と触れ合うことで幸福度の向上やストレス軽減はもちろん、生産性や創造性の向上にもつながるという研究結果が出ています。
日本でもバイオフィリックの考え方は増えてきており、ヤンマーの本社ビルでの導入実績は、アメリカのバイオフィリックデザイン賞を受賞しています。しかし、アマゾンに匹敵するような事例はなく、導入が進んでいるのも外資系企業が中心です。
環境分野で日本が遅れていると言われないためにも、ここからバイオフィリックの考え方が定着するといいと思います。
【独学一級建築士 nandskさん】
独学により一級建築士に合格。住宅やアパートの設計・工事監理、特殊建築物の維持管理、公共施設の工事設計・監督の経験あり。二級、一級建築士試験受験者へのアドバイスも行っている。『建築の楽しさを多くの人に知ってもらいたい』と話す。