「事業承継」をカル~イ感じで勉強してみた NO.4
「遺言」の勉強をしてみた
認知症になる前に、事業承継の検討をする事に気が付きましたね。では、社長の権利の移転を考えましょう。
最初に考える事は、家庭人としての個人財産の移転です。
財産には不動産、現金、預貯金、有価証券、動産がありますね。
これらは、個人財産の面を持ちながら、会社にも大きく関係している事があります。
例えば、社長さんが持っている自社株を遺言によって移転する事が、まさに事業承継の問題になります。
社長さんの個人名義の土地建物を会社の本社として無料で貸していた場合の問題とか、会社に貸付している債権の問題も、事業承継の問題になります。
明日の事は誰にもわかりません。
でも、高齢になってきたら、少しだけ明日に不安がある事だけは分かります。
突然に亡くなったら、会社に関係する財産は、どうなるのでしょう?
相続人がバラバラに相続したら、話がまとまりません。
会社経営に興味のない人が相続したら、放置されるか処分されるかでしょう。会社は立ち行かなくなります。
そこで事前に、死後の問題として「遺言」を考える必要があるのです。
いよいよ、4匹が「遺言」について話します。4匹の会話を楽しんで下さいね。
遺言とは
それじゃあ、次に財産の承継として、「遺言」の話をするね。
「遺言」という漢字の読み方だけど、「ゆいごん」と読んだり、「いごん」と読んだりするよね。どう読んだらよいの?
一般的には「ゆいごん」だよね。
法律家の多くは「いごん」と呼んでいるみたいだけど、どちらでも良いよ。
どちらでも良いみたいだから、気にしない事にするね。
遺言は、子供を守りたい親からの最後の願いだと思ってください。
親のお金の承継方法について、親が子供達に伝える最後の指示なのです。
「遺書」(いしょ)ってよく聞くよね。それと同じなの?
遺言の方式
最後の言葉という点では同じなんだけど、遺言には法的な効力があるという点で違うんだ。
法律で方式(※1)が決められていて、方式が違うと遺言としての効力がなくなるんだ。
※1
法律で定められた遺言の方式には、
普通の方式(自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言)と
特別の方式(危急時遺言(死亡危急者遺言、船舶遭難者遺言)・隔絶地遺言(伝染病隔離者遺言、在船者遺言))があります。
それぞれに要件があり、要件を欠くと無効になります。
例えば自筆証書遺言要件は、遺言者が
①「全文」を自筆で書く事
②「日付」も自筆で書く事
③「氏名」も自筆で書く事
④印鑑を押すこと(実印でなくても大丈夫)
ただし、財産目録だけは自筆でなくても良いですが、目録の毎ページに署名と押印が必要です。裁判所の検認が必要です。
公正証書遺言は、公証人が作成し原本は公証役場に保管されるので、要件の不備はないし偽造される心配もありません。裁判所の検認は必要ありません。
遺言の怖いところは、無効になった時には既に作成者が亡くなっているので、やり直しができない点です。
ですから、専門家に相談しながら作成する事をお勧めします。なお、法務局での自筆証書遺言の保管制度もできました。
遺言は最後の意思だからこそ、遺言者は何度でも書き換える事ができるのです。
だから、違う内容の遺言が出てくることもあるのですが、
その時には作成日付の遅い方が最後の遺言として有効になります。
費用はかかるのかな?
自筆証書遺言は、自分で作るので費用はかかりません。(法務局の遺言保管制度を使うと、1件3900円の保管料がかかります)
公正証書遺言だと、公証役場に作成費用がかりますし、専門家に相談すれば相談料もかかります。(注:公正証書遺言の作成費用は、公正証書の費用と同じになります)
自筆証書遺言は、偽造される危険性・紛失(保管した場所が分からない)という危険がありますね。
これに対して公証証書遺言は、原本が公証役場に保管されているので偽造の危険性はなく、 作成してすぐに公開しても問題はないので(怒り出す相続人はいるかもしれませんが)紛失の危険性はないですね。
そういえば、コン田ちゃんは遺言してあったのかい?
それがしてなかったんだよ。だって、僕は天下取り目前だったからね。後回しにしたのは不覚だったよ。
最近は相続の話し合いが争い事になる場合を「争続」と書く人がいるらしいね(笑)。
ところで、仲の良い家族でも、遺言は必要なのかな?
後から遺産分割協議もできるけど、親の気持ちは反映されていないからね。
コン田ちゃんも経験したように、人生1秒先に何が待っているかわからないのだから、
仲が良くても、子供達のために遺言をする事で「争続」になる事だけは避けておいた方が良いよね。
遺言の事例
例えば、遺言が特効薬になる人って、どんな人なの?
そうだね。いろいろあるけど、例えば、子供のいない夫婦2人だけの場合は不可欠だね。
なぜなら、ご主人が遺言をしないで亡くなると、相続人が奥さんとご主人の兄弟になることがあるのです。
奥さんとしては、今まで一生懸命に守ってきた自宅や預貯金なのに、突然現れた兄弟に「相続分を下さい」と言われたらどうでしょう?
さすがに心中穏やかではないですよね。
でも今の法律では、子供がいない場合には、奥さんの他に兄弟にも相続権があるから仕方がないのです。
なるほど、それは穏やかではないね。
確かに相続分を要求されたら、奥さんが自宅を買取りたくてもお金がかかるし、買取れない場合に売らなくてはならないし、そうなると住む家がなくなっちゃうからね。
最近は、高齢者の場合には部屋を借りる事が難しい場合があるから、住む家がなくなるとは大問題だよね。
兄弟には、遺留分という法律上守られる最低限の割合がないので、
遺言で「奥さん1人に相続させる」と書いてあれば、兄弟には相続分がなくなります。 つまり、兄弟を排除できるのです。
なるほど、それなら遺言は不可欠だよね。
公正証書遺言にしておけば、作った時点で誰に公開しても大丈夫だから、奥さんに見せてあげれば喜ばれるし、今夜のお膳にビールが1本増えて出てくるかもしれないよ。
ビールが増える遺言は、確かに役に立つね(笑)
他にも、遺言が役に立つ場面があります。(※2)
※2
1.財産の行方を自分の希望通りにしたい人
① 孫や従弟のように、相続人ではない親族だけど仲が良いからあげたい時
② 親族でもない第三者だけどお世話になったから財産をあげたい時
③ 相続人が全くいないが、国庫に納めるのではなく、施設や医療研究団体等に寄付としてあげたい時
2.家族の今後の円満な生活を支援したい時
① 相続人がたくさんいて、話し合いがもめそうな時
② 相続人の一部が行方不明で分割協議ができそうもない時
③ 養子縁組をしていない連れ子や、婚外子、介護が必要な親族がいるとき
3.オーナー会社の社長の時
① オーナー会社の株や事業用資産を会社後継者に譲って地位を安泰にしたい時 (これは事業承継に関係してきます)
② 自分が所有している取引先の株を相続人に分散させたくない時
遺言執行者とは
遺言書の中で遺言執行者を定めておけば、遺言執行者(※3)が遺言書の通りに実現してくれるから安心だよ。
※3
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するため相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利と義務を持つ人です。
遺言執行者がする行為の例
・遺贈による目的物の引渡
・遺産を売却して金銭を交付す津場合には遺産の売却
・貸金庫の開扉
・預貯金の払戻や名義変更手続 など
内容は難しいですが、司法書士さんのような専門家がいるので相談すれば良いのです。
そうしたら、楽しく話をしているうちにヒントもくれるでしょうし、頼めば文案も考えてくれるから心配はないでしょう。
つまり、生前の自分の老後生活を守るためだったら後見制度で大丈夫だけど、後見制度で自分を守れても家族までは守れない。
しかも、財産の移転先は決められない。
そして死後は、相続が「争続」にならないように遺言をした方が良いけど、遺言では財産の移動だけしか決められないから、生前の事は守れないということだね。
それじゃあ、任意後見制度と遺言をセットで考える必要があるね。
それは正しい考え方ですね。
ところで、タヌ川ちゃんはどうやって財産を15代までつないだのでしょうか?
実は、ちょっと違う方法を使ったのさ。
それはね、僕の老後の生活を守ってもらいながら、江戸城の財産を息子の秀忠に譲って、次は孫の家光にと先の先までの承継者の指定をしたかったんだ。
先の先までの指定は遺言ではできないからね。
ある意味、任意後見制度と遺言をあわせ持った特別な飛び道具ともいうべき手段を使ったのさ。
へぇ~!それは気になる方法だね。教えて欲しい!
それはね、「家族信託」を使ったんだ。
カゾクシンタク?初めて聞くね。
それは楽しみな方法だね。早く教えてね。
タヌ川ちゃん、今日もありがとうね。またよろしくね。
小冊子「親と子供の未来を守る家族信託物語 認知症と「お金」の話」もぜひ読んでみてくださいね。