グリーンインフラのこれからによせて
わたしたちの未来にどう繋がるの?
気候変動への対応、都市空間の形成、持続可能な社会づくり。
社会課題解決のため大いなる期待が寄せられるグリーンインフラの前途について、さまざまな立場からの声を取り上げました。
安全で豊かな暮らしのため、流域治水を推進
滋賀県立大学 環境科学部 湖沼流域管理研究センター 瀧健太郎 准教授
流域治水が本格的に始動した。
令和3年4月、特定都市河川浸水被害対策法等の一部を改正する法律案、いわゆる流域治水関連法案が成立した。堤防整備、ダム建設・再生などとともに、集水域や氾濫域での対策をあらゆる関係者で推進する。
集水域や氾濫域は、河川区域の外にあって、森林や農地、そして都市が広がり、それぞれの暮らしがある。そのため集水域・氾濫域のインフラや土地利用は、河川堤防や治水ダムのように治水機能に特化したものではなく、普段の暮らしや経済活動との両立が求められる。森林・農地では本来の収穫が得られ、都市機能も維持したまま、雨水や洪水を貯めたりしみ込ませたりする機能を付加(復元)していく。そして、森林・農地には生き物の賑わいが戻り、都市には緑のある空間が増していく。
グリーンインフラの定義はさまざまだが、グリーンインフラ研究会は「自然が持つ多様な機能を賢く利用することで、持続可能な社会と経済の発展に寄与するインフラや土地利用計画」としている。流域治水はそれぞれの地域の自然を活かした国土の多機能化であり、まさにグリーンインフラに通じる政策だ。
安全で豊かな暮らしのため、力をあわせ流域治水を進めたい。
グリーンインフラがもたらす社会的インパクトに期待
株式会社日本政策投資銀行 地域企画部 北栄階一 氏
(グリーンインフラ官民連携プラットフォーム・金融部会 部会長)グリーンインフラ官民連携プラットフォームに設置された金融部会では、グリーンインフラの整備・管理に必要な資金調達について議論されています。
グリーンボンド(資金使途が環境事業に限定される債券)といった大規模な資金調達から、クラウドファンディングによる市民主体の取り組みまで、幅広く議論していますが、共通して注目していることは、グリーンインフラがもたらす多様な効果(インパクト)をもとにしたファイナンス手法であるという点です。
世界では、持続可能な社会づくりを目指す「サステナブルファイナンス」が加速しており、日本でも都市部のみならず、地方都市でも活用が求められています。
グリーンインフラは、まさにこの潮流に適合したものです。
多様な効果をもたらすグリーンインフラは、単なるインフラに留まらず、地域づくりに繋がる重要な地域資源になり、この点からも注目を集めています。
今後部会では、モデル事業の支援や、自治体・企業の導入支援を推進していきたいと考えています。
レジリエントなグリーンインフラ防災へのシフトを
国際連合大学サステイナビリティ高等研究所 修士課程 岩本愛さん
趣味のサーフィンを通じて、変わっていく海を見て、そして体で感じたことをきっかけに、沿岸防災インフラの研究をしています。
日本は世界的にも豊かな生態系をもち、自然を支配したり、一方的に利用したりするのではない「共生」を実現してきたと思います。
また、災害ホットスポットでありながら脆弱性が低いともされる日本ですが、河川や海岸は世界で最もコンクリ化されていると言われ、それに慣れた私たちは疑問すら感じません。
一方で河川や沿岸のグレーインフラが原因で浸食が進んでいるとされる砂浜や、洪水の被害が甚大化したとされるケースが多々見られます。
こうした事例から学び、日本の高い技術力と、先人が大切にしていた自然と共にある暮らしの知恵を生かし、気候変動下で激甚化する気象リスクにも対応するレジリエントなグリーンインフラ防災へシフトし、また自然災害リスクの高いアジア、そして世界に貢献していけると信じています。
多様な分野で協働できる場となることを目指して
京都大学工学研究科 修士課程 古閑あすかさん
私がグリーンインフラ事業に期待するのは、あらゆる分野の学生にグリーンインフラの存在を周知することです。
グリーンインフラは学際的であり、工学や農学、経済学、社会学といった多様な分野が協働することで実現されます。
学生である私の周囲には、これから社会に出て其々の専門知識を活かそうと志す若者が沢山います。彼らにグリーンインフラを知ってもらい、将来、若者が協働できる場としてグリーンインフラが選択肢の一つになれば、環境保全が前進し、社会にとっても非常に有意義です。
そのため、近年グリーンインフラへの社会的な関心が高まり、その概念が普及しつつあることに大きな期待を寄せています。
私自身も学生という立場から、友人や他大学、他研究室の学生に話題を提供し、グリーンインフラを身近に感じてもらうなど、同世代に向けた普及活動に貢献していきたいと考えております。