グリーンインフラとは?
最近よく聞くようになってきたグリーンインフラという言葉。
なんとなくわかるような気もするけど、結局どういう意味なの? という疑問を解消するため、身近な事例や最新の動向も踏まえてわかりやすく解説します。
グリーンインフラって何? 用語の解説
グリーンインフラとは、正確にはグリーンインフラストラクチャー(Green Infrastructure)の略。インフラは経済活動や生活をする上で欠かすことができない社会基盤のことですが、そこにグリーン(緑)、つまり自然の持つさまざまな機能を課題の解決手段として取り入れ活用していきましょう、という取り組みや考え方のことです。
例えば、洪水を防ぐ遊水地・津波の力を弱める海岸防災林・ヒートアイランド対策における屋上緑化・地域住民による緑地再生などはグリーンインフラのひとつです。
屋上緑化は建物自体の断熱・省エネ化、もちろん景観にもプラスに寄与します。雨庭は豪雨による急激な雨水の流出を抑制し、水害の防止に繋がります。海岸では砂丘の復活・保全をすることで侵食の進行や津波・高潮による浸水被害を抑える対策とするなど。
こうしてみるとグリーンインフラは、一石二鳥、三鳥、四鳥…の取り組み・考え方だということが分かります。
グリーンと聞くと緑=緑化! というイメージが強いかもしれませんが、グリーンインフラにおいては、樹木・草花だけでなくとりまく生態系や、これらを支える大気や土壌など、あの手この手でより広範な自然に備わる機能を取り入れていきます。
欧米では1990年代後半に取り組みが進んでいました。アメリカでは下水道管をはじめとする社会インフラの再整備、ヨーロッパでは生態系の維持・形成がきっかけとされています。
日本でも東日本大震災を機にその概念が注目され、2015年の国土形成計画において「グリーンインフラ」という言葉が初めて使われました。「国土の適切な管理」「安全・安心で持続可能な国土」「人口減少・高齢化等に対応した持続可能な地域社会の形成」といった課題の対策として、グリーンインフラの推進が盛り込まれました。
本格的な取り組みが始まったのはここ数年。主に「防災・減災」「地域復興」「環境保全」の3分野での効果が期待されています。
どんな取り組みがあるの? 身近な事例を紹介
透水性舗装
透水性舗装とは、読んで字のごとく「水を浸透させる機能を持つ舗装」のことです。
これまで主流だったアスファルトやコンクリートの舗装は、耐久性を保つために舗装の内部へ水が浸透しない構造です。密度・粒度が高く水をほとんど通さないので、雨水は排水設備に流され、路面に雨水が滞留し水たまりとして残ったりしていました。
そこにあえて隙間が空くような材質をアスファルトに混ぜることによって、水を通しやすい構造にしたものです。
土が露出している地面は雨が降っても地下へとゆっくりと浸透・吸収し、水分を一定程度保持して急激な流出を抑制します。また、濾過した後に湧水として川になったり、地中の微生物や周囲にある緑の成長を手助けしたりします。こうした土壌の持つ「浸透」「貯留」「流出抑制」「濾過」といった機能を舗装に取り入れたのが透水性舗装です。
通常の舗装に比べて耐久性が落ちるため、機能低下を防ぐ対策が別途必要というデメリットもありますが、非常に利点のある舗装です。
グリーンインフラの一環として、道路や駐車場など、身近なところで既に取り入れられているかもしれません。
雨庭
雨庭とは、雨水を一時的に貯め、時間を掛けて地中に浸透させるために作られた窪地状の緑地や庭のことです。
屋根や舗装された道路に降った雨は、排水施設に流されることが多いです。ちょっとした雨なら問題ないのですが、近年は豪雨による水害も多くなってきました。
大雨が降ったときに下水に流れ込んだ雨水は、下水道施設で処理しきれなくなると川に直接流れ出します。水質汚染はもとより、急激な水量の増加によって河川が氾濫する可能性も高まります。
そこで、雨庭に周囲の雨水を集めて自然にゆっくりと地中に浸透させることで河川に流出する瞬間的な水量増加を抑制します。土壌というフィルターを通過することによって、雨水に含まれた汚染物質が吸着・分解されて水質の浄化にも効果があります。
もちろん、雨庭に貯留することができる水量には限界があるので一定量を超えると排水施設に流されます。それでもアスファルトやコンクリートしかない場所より雨庭がある場所の方が流出抑制に繋がり、ひいては水害の防止となることは言うまでもありません。
Architectsea, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
屋上緑化
商業施設や高層ビル以外に民間の住宅でも最近よく目にするようになってきた屋上緑化。
屋根部分を草木で覆うことによって、紫外線・酸性雨といった建物へのダメージを防ぐことができます。真夏の日光を遮ったり、冬は内部の熱を逃さないので冷暖房効率もアップ=省エネに繋がります。
都市部でコンクリートやアスファルトが蓄熱して起こると言われているヒートアイランド現象の緩和にも効果的です。植栽が二酸化炭素を吸収し、酸素を排出するので地球温暖化対策の手法のひとつとして広まっています。
自然が持つ仕組みとして、「雨水が地下に浸透する」、「浸透した雨水が地表から蒸発する」、「草木が地中から吸い上げて蒸散する」、「蒸発・蒸散されることで周囲の温度上昇を抑制する」というものがあります。これらの機能を取り入れた施策のひとつが屋上緑化です。
最新の情報が知りたい! 国内の動向について
日本国内でもグリーンインフラのよりいっそうの普及を見据え、2020年3月に国土交通省がグリーンインフラ官民連携プラットホームを設立。同年12月、閣議決定された「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」でも「雨水の貯留浸透機能等の高いグリーンインフラの創出・保全等災害の低減に資する取り組みを支援する」としています。
2020年に第1回グリーンインフラ大賞として全国から取り組み事例を募り、2021年3月には2回目となるシンポジウムを開催するなど、グリーンインフラの意義を広く普及・啓発するための取り組みも盛んに行われています。
グリーンインフラ大賞について、より詳しく知りたい方はこちらもご覧ください
グリーンインフラに対して、コンクリートによる人工構造物(道路や堤防)など従来からある社会基盤を「グレーインフラ」と呼称することがあります。
ただし、グリーンインフラはそれを否定するための取り組みではありません。
グレーインフラではカバーしきれない課題をグリーンインフラで解決、
グリーンインフラではカバーしきれない課題をグレーインフラで解決。
グレーとグリーンの境界も実はあいまいです。
これらは対立構造ではなく、双方のいいとこ取りで社会全体をより良くしていくことが非常に重要です。
瀧健太郎|滋賀県立大学 環境科学部 湖沼流域管理研究センター准教授
川の日(7月7日)生まれ。大学院修了後、民間企業を経て滋賀県庁勤務(18年間)ののち現職。河川・流域政策の実務を長年にわたって担当した。数多くの川や人との様々な出会いを通じ、川の魅力に取りつかれている。また、どんな川であっても、地域に愛される川こそが“いい川”だと信じている。
現在は、流域の水循環と社会システムとの相互関係に着目し、持続可能な流域社会の実現に向けた政策や計画に関する研究を進めている。流域政策・計画に関する学問分野の体系化を目指している。